金次が一時的でも強襲科へ戻ると決めた翌日の昼。同じく自由履修で強襲科の訓練施設へ向っていると、後ろから声をかけられた。
「先輩~!」
「おお、間宮か」
声のほうを向き直って視線を下へと落とすと、アリア並みの幼児体型で茶髪をツインテール結わえた間宮あかりがいた。いつもながら明るくて元気なヤツだな。
「今日も強襲科なんですか?」
「まあな」
間宮の問いにうなずいて片手で頭をなでる。……アリアといい、こいつといい、理子といい、ほんと丁度いい高さに頭があるよな。まぁ、それはそうと相変わらずこのアホ毛は治らない。
「こ、こんにちは。レオン先輩」
「よお、ライカ」
間宮の後ろから挨拶してきた『火野 ライカ』に挨拶を返す。
ライカは間宮と同じ強襲科の武偵で、武偵ランクはBの生徒だ。女の子にしては高めの身長に、スタイルのいい体と……幼児体型のアリアや間宮からしたら何とも羨ましいだろう体つきをしている。髪型はクセのある金髪を強引にポニーテールで、瞳の色は澄んだエメラルド色。
「いつ見ても綺麗で羨ましい金髪だな、ライカ」
「――っ。そ、そんなこと……ないですよ」
顔を赤らめ、金色ポニーテールの尻尾を手で弄ぶライカ。俺もライカと同じハーフだというのに、俺の髪の毛の色は金色に黒をぶちまけて混ぜた、まるでプリンのような色をしている。顔を覚える前に死んだ両親からそれぞれ受け継いだ遺伝子がでたからといっても、髪色に関してはどちらか一方の遺伝子で統一して欲しかった。
「俺もライカみたいな金髪だったらよかったのになぁ」
「あ、あたしは先輩の色……す、すすす……」
「あたしはプリンみたいで好きですよ!」
にぱーっと笑顔で言ってくれる間宮。
「ありがと、間宮。でも涎を垂らしながら俺の頭を見るのはやめてくれ」
「じゅるる……す、すみません」
「ちっ……あかりのヤツめ」
「どうしたんだ、ライカ」
「別に……なんでもないです」
ツーンとライカはそっぽを向いてスタスタを先に歩いていってしまう。俺、何かしたか?
◆
強襲科の訓練施設で決められたノルマをこなしたあと。筋力トレーニングをしに2階のトレーニングルームへ向っていると、通路で間宮とライカにばったり出くわした。どうやらこいつらも筋力トレーニングをするらしい。
ライカは腕立て伏せをするための器具へ向い、間宮は自転車のような器具に跨る。俺も奥にある棚から30kgダンベルを2つ持って、下から上へと上げて上腕などを鍛え始める。あー……昔はすっごく重かったのに、少し力を入れるまったく重さを感じない。
がしゃがしゃと音を鳴らしながら何度も繰り返していると、ライカの腕立て伏せの回数が100を迎えたようだ。
ライカはそこで一旦休憩するらしく、そのまま寝転がるように、床に仰向けになった。
「プハーッ」
大きく息を吐いて、自転車のペダルを回し続ける間宮を見る。
「まあ、志乃が戦姉妹試験でいない間。あかりはあたしが独占出来るけどな……。――ウヘヘヘェー」
「……?」
ライカの奇妙な笑い声に後ろを振り返る間宮。間宮が首をかしげているのに対してライカはカメラマンがよく行なう、両手の親指と人差し指をくっつけて四角の枠を作って間宮のお尻へ狙いをつけ、
「うわー、
「!?」
「白木綿……」
「先輩!?」
「ああ、ごめん」
ギラッと睨まれ、すぐさま目を逸らす。つぶやいたのがマズかったけど、俺は見てませんよ。ライカの声に反応しただけ。俺は立ってるからスカートの中身なんて見えないから。
「はははは! こりゃ『パンツ』というより、『ぱんちゅ』だぜ」
「~~!」
真っ赤になってスカートを抑える間宮。トレーニング器具から飛び降りて、両手を上へつきだし、「コラー!」と逃げるライカを追いかける。
ライカも間宮をからかうのが楽しいのか。
「はんちゅ~~丸見え~~。キィーン」
と、アラレちゃんのような走りで間宮から逃げる。
間宮……。追いかけながら『バカライカ』とか『ローアングラー』って叫ぶのはいいけど、『金払え』はないだろ。
元気よく戯れる2人に、ため息を吐きながらダンベルを棚に戻していると、
「おい聞いたか?」
「金次が強襲科に帰ってくるって!?」
「マジかよ! 金次って、遠山金次だよな?」
「強襲科の首席候補って言われてたアイツか!」
という話し声が聞えてきた。どうやら金次のヤツが強襲科へ一時的にでも戻るという情報を掴んだらしい。
ライカも金次について知っていたのか、走るのを止めて立ち止まった。……急に立ち止まるものだから追いかけてた間宮が背中に顔をぶつけたことは、スルーするようだ。
「……ライカ?」
「遠山金次……。あの人が帰ってくるのか」
独り言のようにつぶやいたライカに間宮が訊く。
「金次……? 誰それ?」
「2年の先輩。任務でいつもいなかったし、あかりがインターンで入ってきた頃、探偵科に転科しちゃったけど……」
ライカは言う。言葉に畏れを含ませながら。
「去年は強襲科でSランク武偵だった。入試で教官を倒したらしい。伝説の男だよ」
……伝説の男ね。
「い……1年でSランク!?」
声をあげて驚く間宮に、ライカは言う。
「……プロ武偵に勝てる中坊なんて、バケモノだろ」
「……。バケモノ……」
ライカの言葉を聞いて小さくなって怖がる間宮。
俺はそんな2人に近づき、
「あのー……俺もね、よく忘れられてるみたいだけど、Sランク武偵だからな」
「あっ……そういえば」
「……間宮。本当に忘れてたのか……」
「あ、いえ、その……す、すみません! えっと、レオン先輩って強襲科に着てもいつも他の人の訓練に付き合うか筋力トレーニングしてるかだから……わ、忘れちゃうというか、そのですね……」
焦りながら何とか弁解しようとする間宮。間宮の言葉を聞いて、まあ、納得する。確かに模擬戦とかほとんどアリアぐらいとしかやらないし、それも最近じゃあまりやってないからな。そう思われても仕方がないか。
これじゃライカにも忘れられて……、
「ばっ、バカかおまえ! レオン先輩はなぁ、アメリカ……いや! 世界でも上から数えたほうが早いほどの強襲科武偵なんだぞ! それを忘れるとか……まったく、お前ってヤツは……」
「ご、ごめん……」
……どうやら忘れていなかったようだ。というか、聊か過大評価されているような……。
怒りの表情で詰め寄るライカに、涙目になってしまう間宮。俺は間宮から視線で助けを求められたので、話題を金次へと戻すことにした。
「間宮は金次の顔、知らないよな?」
「はい! 知らないです! あの、誰がその遠山先輩なんですか?」
「あっ、あかり」
ライカを無視して2階の通路の手すりへと身を乗り出した間宮に、俺は1階の人だかりを指差す。
「……ほら、あれだ。あの今死ね死ね言われてるヤツだよ」
間宮は手すりに体を乗り出して指差した方向を見る。
それにしてもすごい人気だな。探偵科に転科したというのに、いまだに多くの強襲科の生徒から歓迎受けてやがる。
「なんか想像と違う……」
そんな金次を見て間宮が小さくつぶやく。……おまえはいったい何を想像してたんだ?
「そう見えるんだよな。上勝ちすると大手柄だから狙っている1年もいるけど……。なんか勝ちなさそうな気がするんだよなあ」
「まぁ、そりゃあそうだろうよ。俺も入学試験のとき、あいつだけは仕留めきれなかったからな」
「ええ!?」
「先輩が倒せなかったんですか!?」
俺の言葉に大声をあげて驚く2人。俺はそんな2人のリアクションが面白く、笑顔でうなずいた。
「ああ。普段は精々CランクからよくてAランクぐらいに見えるが、一度本気になればSランクでも上のほうの実力者になるからな。上勝ち狙うのは止めたほうがいいぞ」
「そんなに……」
「はい、あたしは勝てないケンカはしない主義ですから!」
言葉を失ってしまう間宮に、ハハッと笑ってうなずくライカ。
それにしても、あいつ……挨拶を交わすだけで授業時間が終わってしまうんじゃなかろうか?
金次死ね死ねコールがなかなか収まる様子ない。
◆
強襲科での訓練を終えたあと。俺は学生寮近くの公園で理子と会っていた。なんでもこの前受けたクエストで、犯人たちを捕らえるための段取りが決まったそうだ。
前もって近くのコンビニで買ったアイスを食べながら、理子から渡された極秘と書かれたファイルを開く。
ファイルには捕らえる予定にある構成員の顔写真や簡単な経歴、行動パターンが詳しく記載されていた。
「よく短時間でここまで調べたな、理子。正直、月末近くまでかかると思ってたぞ」
「ふふーん、この理子りんさまを舐めてもらちゃ困るよ、レオポン。この理子りんにかかればこの程度の暴力団の情報集めなんてヌルゲーレベルなのさぁー」
理子は得意げに言って、アイスの実というアメ玉タイプのアイス(俺のおごり)をころんと口に含む。
「だけどまぁ……とっておきの作戦があるって言ってたが、何とも大胆な作戦だな」
「そうでしょそうでしょ! 理子りん、寝る間も惜しんですっごく頑張って考えたんだからぁ、レオポンは褒めていいんだよぉー」
「ああ、はいはい。よしよし」
「うー……ん、心が全然篭ってなーい!」
「これでも篭めてるよ、十分な」
そう言ってポンポンと頭を軽く叩く。実際、心を篭めて褒めてるんだけどな。態度には見せてやらないが。
俺は理子の頭からファイルへと手を戻し、さらにページを捲って読み込んで行く。
「1,2,3と3つの施設に立て続けに強襲を仕掛けていく電撃戦。作戦行動におけるリーダーは理子で、現場のリーダーは俺。ん? おまえは現場には出ないのか?」
「うん。今回は作戦が作戦だからねぇー。理子は襲撃かける建物が見える高層マンションから目視とハッキングした監視カメラを使って、常に構成員たちの監視して指示飛ばすことにしたよ。そっちのほうが効率もよさそうだし」
「まあ、それもそうか」
現場で行動するメンバーも実力、人数共にゆとりもあるし。作戦の特殊さからいっても統括役は完全に後衛に置くほうが安全だな。
「だけど、それにしても女子のメンバーが多くないか?」
男性メンバーが俺と不知火ぐらいしかいないじゃないか。
「ハーレムだね! うれしいでしょ、レオポン」
「強襲かけるメンバーじゃなかったら嬉しかっただろうよ。――ま、俺も麗とその取り巻き姉妹を参加させたから言えたことじゃないか」
もう一度俺は資料へ視線を落とし、ファイルされた情報を頭に叩き込んでいく。
「って、おい」
「んー? なにかなレオポン」
「腕……組んでくるなよ」
「えーっ、いいじゃんべつにぃー」
そう言ってニヤッと微笑み、顔を見上げてくる理子。
「おまえな……。そんなことやってると周りから誤解されるぞ。つーか、胸が盛大に当たってるからな」
「もぅ、レオポンはすぐそういうこと言う。ほんとにえっちぃなぁ、レオポンは」
「自分から胸に腕を挟んでおいて誰がエッチだ。むしろエッチはおまえだろ」
「ひどーい、理子はエッチなんかじゃないよぉ」
理子はそう言いつつも、さらに胸を押し付けてくる。……かなり機嫌いいみたいだな、今日の理子は。
「……はぁ、まあいいか」
胸を押し付けられても、俺は別に迷惑だとは思わないし。むしろ、この感触が味わえることをご褒美だと思うことにして資料を読みすすめて行ことにした。
「うふふ~、ふふ~、んん~……」
「…………」
「ふふ~、んふふふ~……」
「…………」
「ぁんっ……もぅ、急に腕動かさないでよ、レオポン。ブラと擦れて痛いでしょ」
「……ワザとらしく耳元で囁くな、理子」
気になって資料がまったく頭に入らねえじゃねえか。
「えへへっ」
「笑って誤魔化すな……」
「だってレオポンの反応がおかしくて……あれれ?」
「ん? いきなりどうしたんだよ」
理子は目を凝らして広場の中央に植えられている木を見ていた。俺も気になってそちらへ視線を向けて見ると、
「あれは……キンジか? 木の上にいる、くのいちの格好したあいつは……確かキンジの戦妹で1年の風魔だったな。って、なんで間宮がいて、キンジと銃を向けてんだ?」
三すくみ……というか、金次&風魔 対 間宮で睨み合っていた。
「むー……これは止めたほうがいいか?」
「ダメだよ、レオポン! せっかくおもしろそうなのに!」
「いや、そう言われてもな……」
仮にも間宮はよく訓練つけてやってる後輩だし……。
「キーくんは甘々だから戦闘にはならないって! ……たぶんだけど。それよりせっかくおもしろそうなことが目の前で起きてるんだから盗聴しよーよ!」
……ん、んー……まっ、それもそうか。
「OK。じゃあ、このまま静かに様子をうかがうとするか」
「うん!」
一応ファイルを立てて顔を隠して3人の様子を覗くことにした。
◆
武偵高の寮の近くにある公園で、金次が銃を向けながら、間宮に声をかける。
「お前、出身どこ中だ」
……え? 訊くことそれ?
金次とその戦妹の風魔、そして間宮の3人から少し離れた位置で覗いていた俺と理子は、金次の言葉に首をかしげる。
「キンジのヤツ、間宮をナンパするつもりか?」
「んー……? いくらキーくんでも銃を向けられながらそれはないんじゃないかなぁー? キーくんって女嫌いで有名なんだし。それに、レオポンは間宮って子の面倒よく見てるんだし、わかるんじゃないの?」
「面倒見てるっていっても、プライベートでの関わりなんてほとんどないからわからねーよ。普段は人に銃向けたりするヤツじゃないんだけどなぁ。キンジのヤツがラッキースケベでもやらかして、間宮にセクハラしたとかじゃないか?」
「あー……それはありえそうだねぇー」
俺たちがすぐ近くでそんな会話をしているなんて夢にも思ってないだろう3人は会話を進めていく。
「い、一般出身です。中3の2学期に武偵高付属中に転入してきました」
「
間宮の返答に、金次はなぜか安心したように銃をしまう。
「風魔いい。コイツは大丈夫だ」
「御意」
金次の指示に従って、木の上に登っていた風魔がクナイをしまう。相変わらず時代錯誤というか、くのいちっぽいヤツだな。制服もくのいちっぽく改造してるし、武器もクナイや煙玉だし。
間宮はその対応に自分が舐められていると思ったんだろう。銃を持ったまま立ち上がり、
「ぱ……
顔を真っ赤にして金次に怒鳴った。
――が、それと同時に間宮の背後から突然強風が吹きあげ、間宮のスカートを盛大に捲りあげた。
それは、木を挟んでベンチに座っている俺たちからも見えて――、
「……白、
「――ブハッ!? ぱ、
「ああ、すまんすまん」
――と、さらに金次と間宮がやりとりは続いているようで、
スカートが捲れている事に気づいた間宮が真っ赤になりながらもスカートを抑え、もう一度……。
「ぱ……ぱんちゅーが!」
――くっ! だ、ダメ……笑っちゃッ! わ、笑うな、俺ッ!
「プ……ププッ……」
隣に座ってる理子は、間宮の言葉にますます笑いのツボを刺激されたようで、悶絶している。俺の腕に顔を埋めて体をビクビクと揺らして笑い声を漏らしていた。
……くっ、隣で笑われると俺まで声出して笑いそうに……。
「――なっ、なんなんだお前は!」
……え? 金次?
間宮のパンツ……もといぱんちゅを見た金次はなぜか両手で両目を隠し、目が潰れたムスカさんのごとく「うわああああ」と叫んでいた。
「し、師匠!?」
「うおおおおお……」
「お気を確かに! 傷は浅うござる!」
目を覆い隠しながら逃げていく金次。それを風魔が心配して追いかけながら、間宮から遠ざかっていった。
公園にひとり取り残された間宮。何とか再起動すると、怒った様子でどこかへ歩いていってしまった。
「……理子」
「あー、おかしかったぁ……。――っと、なにかな、レオポン」
「キンジは……もしかしたら、ロリコンかもしれない」
「ふえっ!?」
驚く理子。まあ、驚くのもわかる。――だが、しかしだな。
「俺は見たんだ。キンジが間宮のぱんちゅに顔を真っ赤にしてたところを。まさかとは思うが、あいつが白雪さんや同世代の女を遠ざけている理由は……キンジのヤツが幼児体型専門のロリコンだからなんじゃないか?」
「…………」
俺の推理を聞いて真剣な表情になって黙ってしまう理子。
理子はロリ巨乳に分類される美少女だからな。何か心当たりがあるのかもしれない。
「はぁ……」
ケツを掘られる心配は少なくなりそうだが、同居人がロリコンだったとは……。
とりあえず、連投はここまで。