緋弾のアリア K・O・H リメイク   作:上平 英

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 信じられるか、年末から今日まで風邪引いて苦しんでたんだぜ……。しかも、喉を直撃して今もよくしゃべれず、タンが詰まるんだ。


第6話

 秋葉原に存在するデパートの屋上で、ライカが徒手格闘するために長い髪をリボンで縛る。ライカの視線の先には、武偵高の制服に身を包んだ金髪の少女――島 麒麟(きりん)が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

 数メートルほどの距離を開けた2人のほぼ中央に審判、進行役を勤めることになった間宮あかりが確認するように口を開いた。

 

「じゃあ――時間無制限、武偵柔術ルールで投極打、全部あり。銃、ナイフ以外の道具使用はあり。ギブアップするか、背中が地面についたほうが負けだよ」

 

 間宮がルールを読み上げると同時に、2人が本格的に戦闘態勢へ移行する。

 

「アタシが勝ったら二度と近づくな」

 

「あの男とお姉さまが2人で居たことは予定外でしたけど、今日戦う事は予定済みでしたのよ」

 

 手を鳴らしながら凄むライカに対し、麒麟は独特の構えをとった。

 

 体を半身にして左腕と左足を相手に向ける構え、

 

「――中国拳法(クンフー)か」

 

「前の戦姉から教わりましたの」

 

 ライカの予想を肯定する麒麟。構えは立派だが、いかんせんライカと麒麟では体格差がありすぎる。

 

 おまけに麒麟は武偵でも専門はCVR――ハニートラップ専門であり、見るからに非力。年齢もライカより下で、本来なら後方支援や参謀役がメインの、直接戦闘を苦手とする武偵だ。しかも今ライカに見せている中国拳法も所詮は1年ほどしか鍛錬していない付け焼刃で、たいした戦闘経験もない。戦闘能力はほとんど皆無に等しい、根っからの後衛タイプの武偵である。

 

 そして、そんな麒麟と相対するライカといえば、武偵高でも荒事を専門とする強襲科のBランク武偵。持ち前の高い身体能力に加え、近接格闘術にも優れていて、あの蘭豹が一押しする将来有望な女性武偵だ。

 

 子供でも命中させる技術があれば大人にもダメージが与えることのできる拳銃やナイフの使用が認めらないこのルールなら、もはや麒麟の勝ち目は皆無。仮に俺の予想よりも中国拳法の錬度を高めていようとも、ウエイトやリーチの関係でまともにダメージも与えられずにやられてしまう可能性が高い。……まあ、俺のような不思議肉体をもっていれば別だが。麒麟の場合は見た目通りの華奢で非力だ。筋力や体力ではライカに遠く及ばない。

 

 ライカも俺と同じように自分の有利と勝利を確信している様子で余裕の笑みを浮かべ、

 

「いいんだぜ、銃とナイフ以外なら何使ってもよォ!」

 

 真っ向から麒麟へと向って駆け出し、様子見とばかりに蹴りを放った。

 

 麒麟はそれに回避ではなく、膝を上げて蹴りを受け止める。

 

 ……む? 麒麟なら今のは避けれただろ。なんで避けなかったんだ? 体格を含めて近接系は総合的に劣ってるんだから下手に足を止めるとここぞとばかりに追撃が――

 

「~~っ!?」

 

 ――こなかった。

 

 それどころかライカの蹴りを受け止めるために上げた膝と、膝を上げたことでふんだんにフリルがあしらわれた改造ゴスロリ防弾制服のミニスカートが捲れ――中身が見えそうになり、その光景を前にしたライカが追撃することも忘れて立ち止まってしまったのだ。

 

 蹴りを受け止めても膝を大きく上げたままの姿勢を保つ麒麟。その姿に顔を赤くして戸惑うライカ。そんなライカの様子を麒麟は満足そうに眺めて、ここぞとばかりに口を開いた。

 

「これ、私なりに備えをしてきましたの」

 

 ミニスカートを両手で摘まみ、

 

「お好きなんでしょう? こういうの」

 

 ちっこい外見にそぐわない妖艶な微笑みをライカに向ける。

 

 言われたライカはというと、

 

「~~~~っ!?」

 

 ――湯気が幻視できるほど顔全体を真っ赤にしていた。

 

 …………。

 

 ……さらに、言われてない間宮まで赤くなってた。

 

 間宮ってやっぱり百合……だよな? 前にアリアのポスターを諜報科から購入してたし、最近はアリアの戦妹になって一緒に風呂に入ったとか強襲科の訓練場で永延と嬉しそうに語ってたからなぁ。……間宮の親友といい、百合かもしれない。

 

 そして、麒麟に頬を染めてるライカも百合――なのか? む~……ライカは正直判断に困るな。今日明らかになった少女趣味といい、別に女が好きってわけでもなさそうじゃないし。純粋にかわいいものが好きなヤツだと思う。いや、そう思いたい。間違ってもすでに手遅れっぽいヤンデレてる間宮の親友、ガチ百合の佐々木のようになって欲しくはない。だから、俺はお前を信じてるぞ、ライカ。

 

 ――あと、ちなみに。

 

 俺は年下の幼児体型にいまいち性欲が湧かないので、麒麟がスカートを捲り上げようとまったく気にならない。精々はしたないなぁと思うぐらいだ。スカートの奥に白い布切れが覗けていようとノーリアクション。

 

 まあ、それに加えて去年麒麟は理子の戦妹だったから、その性格や趣向。男=汚物や害虫などと考えているガチ百合の腹黒幼女だということを俺は嫌というほど知ったり、被害に会ったりしているのでさらに性欲は湧かなかったりしているのだが。

 

 だがしかし、それを全く知らないライカは麒麟の術中に見事に嵌り、激しく動揺。動きが見るから悪くなっていて、攻めることすら忘れて混乱していた。

 

「す、すきっ、すきっ……」

 

「――なんですか? お姉さま?」

 

 動揺している隙に距離を詰め、挑発するように顔を近づけて微笑む麒麟。微笑みを向けられたライカはさらに動揺して、

 

「……~~隙だらけだ、お前は――!」」

 

 無理矢理、力任せに麒麟の腕をとって1本背負いを仕掛けた。

 

 あーあ、重心も崩していないし、力任せで色々甘い。いくらなんでも動揺しすぎだ。せっかく持ってる技術がまるで発揮されてない。

 

 なので、屋上の床に叩き付けるほうが明らかにダメージを与えられた上で、勝負にも勝利する方法があるというのに、ライカはそれを忘れて考えなしに投げ飛ばそうとし――麒麟は投げ飛ばされる途中の、拘束が緩み始めた瞬間を狙い、試合前から肌身離さず片手で持っていたキリンのぬいぐるみを地面に向って投げる。

 

「いきなさい! ジョナサン3号!」

 

 そんな声と共に投げられたキリンのぬいぐるみは、錘が入っていたのか、ゴトンと大きな音で地面に着地する。

 

「――っ」

 

 その確かに普通のぬいぐるみとはちがう着地音に、ライカが表情を引き締め、ただのぬいぐるみではないと警戒した瞬間――。

 

 その隙を狙い、麒麟が背負い投げから完全に脱出。

 

 そのままひらりっと宙を舞い、キリンのぬいぐるみの頭へと片足で着地した。

 

 そして、その上でくるりと1回点してライカを見ると、

 

「麒麟は、背高のっぽですの、お姉さま」

 

 微笑んで、ライカの唇の端にキスをしながら足を掛け、ライカをそのまま押し倒した。

 

 バタンと、抵抗もしないで倒れてしまうライカ。

 

 それを見た間宮は遅れながら呆れながらも勝者の名前を呼んだ。

 

「……えと、1本。島麒麟の勝ち」

 

「…………。――えっ!?」

 

 いや、そう何度も見なくても背中が地面に付いてるから。ていうか、これが決着なのか……。そもそもどうしてこんなことになってるんだ? ライカと人形店でデートしてたはずなのに……。

 

 

 

 

 

 

 ライカと麒麟の突然のガチバトル。そのすべての始まりは、人形店でのことだった。

 

 人形についてすごい知識量を有するライカに案内されながら2人で人形店を見て周っていると、間宮と麒麟がエレベーターから出てきたのだ。

 

 ――間宮と麒麟と秋葉原の人形店で遭遇。

 

 これだけならただの偶然だと済ませられるかもしれないが、エレベーターから出た2人は急いで物陰に隠れ、俺たちの様子を遠目から観察するように見つめてきたのだ。しかも、片方はレースのハンカチを口に咥え、歯軋りしながら。……いわなくても麒麟である。

 

 この時点で片方――ガチ百合の姉系好きの麒麟がライカを性的に狙ってストーカーしていることに気づいた俺が、人形が並べられた棚の後ろに隠れていた間宮と麒麟に話しかけ、それから……それから……。

 

 見つけられた麒麟が「少女趣味……ぷぷっ」、「尾行(ストーカー)に気づかないほうが悪いんですわ」とライカを挑発して、挑発されたライカはそれに面白いぐらいに乗っかり、戦妹試験に移行。

 

 戦闘モードに移行したライカと策を巡らせているだろう麒麟を尻目に、麒麟に付き合わされて一緒に尾行していた間宮に詳しい事情を聞くところ。ライカは数日前から戦妹にしてくれと麒麟に付きまとわれていたらしい。ちなみに戦姉妹契約を持ちかけられたライカはというと、高校1年の未熟者が、しかもCVRの戦妹を持つ意味や理由が分からず戦姉妹契約を拒否していたそうだ。

 

 間宮は「戦姉妹契約ぐらいしてあげればいいのに」と、あまり深く考えることなく麒麟に味方しているようだが、この場合、ライカの判断のほうが正しいだろう。

 

 そもそも高校1年になったばかりのヒヨっ子、しかもBランク武偵がまったくジャンルが違う科目の生徒と戦姉妹契約を結ぶ必要も利点もあまりない。戦姉妹契約を結んで戦妹を育てる暇があるなら自分のランクを上げたほうが有意義である。

 

 そして、何よりもライカは生まれて初めての戦姉妹契約。初めての戦姉妹契約の相手がCVRの武偵なんて、教える側にとっても学ぶ側にとってもハードルが高すぎる。最悪、どちらかの専門科目に引きずられ、これまで築いてきた戦闘スタイルに歪みが出来かねない。

 

 なので俺は正式に記録として残ってしまう戦姉妹契約よりも、普通の友達だったり、パーティメンバーでいるほうを押したいところだが――時はすでに遅し。

 

「戦姉っ、戦姉っ」

 

 デパートの屋上で行なわれた戦姉妹試験に見事(?)勝利し、麒麟は正式に戦姉妹契約を結んで戦妹になってしまっている。

 

 これを覆すことは、実質俺には不可能だった。

 

 晴れて正式にライカの戦妹となった麒麟はデパートの屋上からメイド喫茶へと場所を移してもライカの腕に抱きつき、ニコニコ笑顔を浮べていた。俺が向かい側の席――正確には正面ではなく、斜め左の席――に座っているというのに笑顔を崩すことなく、まるで視界にさえ入ってないようにライカの腕に体をすり寄せる。

 

 思わず見ているほうが苦笑いを浮べてしまう麒麟の擦り寄りっぷりに、当のライカは疲れ様子でされるがままになっている。どこにも視線を合わることなく、時折疲れた様子で息を吐く。

 

 ちなみに現在座っている席は、俺と間宮が並んで座り、その向かい側の席にライカと麒麟。俺の正面には当然、ライカが座っている。ガチ百合で、男=害虫と思っている麒麟が男の正面に座ったり、隣に座るなんてあり得ないからだ。

 

 俺の隣に座っている間宮が、苺のショートケーキにフォークを付きたてながらライカに言う。

 

「初めて見ちゃったよ。ライカが徒手格闘で負けるの」

 

「…………」

 

 間宮を無視して、視線を逸らしたままジュースを飲むライカ。そんなあからさまな対応に、間宮は意地悪な笑みを浮かべてある指摘をする。

 

「でも、倒された時、ちょっとヘンだったぞー?」

 

「――ッ!」

 

 ギクッとライカがジュースを噴く。

 

 濡れた口元を袖で拭きながら、

 

「…………。~~るっせーな!」

 

 と、さらに間宮から視線を逸らすライカ。相変わらず分かりやすいライカのリアクションに、間宮は確信を得て笑みを深めた。

 

「へへへっ、やっぱりね」

 

「え!? ど、どういうことですの?」

 

 意味深な間宮の笑みに、何かを感じた麒麟が訊ねた。間宮は苺を刺したフォークを揺らしながら得意げに、本来のライカなら最後の麒麟の足技をかわして投げに入っていたと説明する。

 

 間宮の話を聞いて、目に見えて落ち込む麒麟。

 

 そんな見るからに落ち込んでいる麒麟を見かねて、ライカが大声で言う。

 

「い……『いい』って思ったんだよ! あのときは!」

 

「……?」

 

「お前を戦妹いしてやってもいいかっ……て」

 

「だからしょぼくれんな」

 

「キャッ!」

 

 強引に麒麟の頭を撫でるライカ。

 

 そんな姿を微笑ましく思ったのか、それとも落ち込ませる原因を作った罪悪感からか、間宮が麒麟を励ますように呟いた。

 

「ライカにそう思わせたのは麒麟ちゃんだよ」

 

「えっ」

 

「すごく頑張り屋さんだし、かわいいし」

 

「間宮さま……!」

 

「麒麟ちゃん。ライカをよろしくね」

 

「はいですの!」

 

「――バ! バカ! 余計な事言うなよ!」

 

 間宮と麒麟のやり取りに真っ赤になるライカだが……2人とも、何か忘れてないか? 麒麟はCVRの生徒なんだぜ。最初からライカに勝てないことは織り込み済みだっただろうし、さっきの戦姉妹試験でも最初から実力で勝とうとはしていなかった。つまりは全部麒麟の作戦なんだよ。

 

 ライカの性格や趣向を読み取り、弱点を調べてあげて。あえて相手の土俵で勝負するように見せかけ、余裕と油断を大きくさせる。体力でも格闘技術でも劣ることは分かりきっていたから最初からライカには何もさせるつもりなんてなく、短期決戦のつもりで動揺したところをここぞとばかりに攻め立て、混乱させて選択肢を減らし、あえて無防備に近づくことで行動パターンを単調にさせ、ワザと投げられた。鉛入りの人形にライカが警戒することも当然織り込み済みで、最後の言葉とキス、どさくさに紛れて足をかけて倒したことも、すべて麒麟の計算通り。

 

 当然、ライカの得意なコンビネーションや足技の豊富さも調べ上げていて、それをさせないための策略なんだから、

 

 今こうしてライカに慰められていることも、麒麟の計算だったりするんだよなぁ……。 

 

「あっ、そういえばレオン先輩はなんでライカと一緒にいたんですか?」

 

「ここでそれを訊くのか、間宮……」

 

「うっ……」

 

 どうやら本人も聞くタイミングが悪いことはわかっているらしい。散々放置していきなり話題振ったんだからな。

 

「まぁいいけどな。――今日はライカと2人でデートしてたんだよ」

 

「ちょっ!? 先輩ッ!?」

 

「なんですってっ!? お姉さま、嘘ですわよね!? こんな優柔不断の鬼畜なんかとデートしていたなんて、嘘なんですわよね!? ねえ、お姉さま!」

 

「あ、う……そ、それは……」

 

 間髪入れない麒麟からの問いかけに、ライカが顔を真っ赤にして言い淀む。間宮はそんなライカを見て、からかうような笑みを浮べて呟いた。……2人とも俺に対する麒麟の扱いにはスルーのようだ。

 

「へぇー、やっぱりそうだったんだね、ライカ」

 

「あっ、あかりまで……。ていうか、やっぱりってなんだよッ!?」

 

「だってライカとレオン先輩、駅で会ってからずっと一緒でデートの定番っぽいところ見て周ってたし」

 

「そ、それは……レオン先輩が……。っていうか、駅からずっとつけてたのかよ!?」

 

「それはまあ……今はいいでしょ。それよりもほら、途中色々あったみたいだけど、結局ライカも楽しんでたじゃん? それにさ、男の子と女の子が2人っきりで買い物すること事態がデートでしょ」

 

「あ……うぅ……」

 

 すごい、あの間宮が怒涛の責めを見せてライカがなす統べなく追い詰められてる……。

 

「そうですわ、お姉さまッ! 途中立ち寄った喫茶店でこの鬼畜男に泣かされてましたわよね!? あれはいった……」

 

「わーっ! わぁあああー! 何言ってやがんだ、お前ぇええええ!?」

 

「――むぐっ!?」

 

 ボフンと顔を真っ赤にして急いで、無理やり手で麒麟の口を閉じさせるライカ。麒麟はライカの手を両手で剥がそうとしながら、口が塞がれた状態で無理矢理呟く。

 

「ふぇふぇえふぇふぁ、ふぇふふぇいふぇてくふぁふぁいふぁふぇ!(お姉さま、説明してくださいませ!)」

 

 麒麟から真っ直ぐ向けられる視線にライカは顔を赤らめ、こちらへ助けを求めるよう、アイコンタクトをしてくるが、

 

 ここで俺が加わったらさらにこじれるだろ、と注文したコーヒーに口を付ける。

 

「先輩ぃ……」

 

 情けない声を出すな、ライカ。まがりなりにも後輩を指導する戦姉になったんだろう。あ、麒麟が強引にライカの手を振りほどいた。

 

「とにかく、男はもとより、こんな鬼畜男が恋人なんてこの麒麟が認めませんからねっ! 泣いてるところを慰められてデレるのは私だけにしてくださいまし!」

 

「泣いてねえし誰もデレてねーよっ! つか、あたしはツンデレでもねえ! そもそもあたしが誰と付き合おうがおまえにはかんけーねえだろうがっ!」

 

「麒麟はお姉さまの戦妹です!」

 

「うっ……。って、それが何か関係あるのかよ!?」

 

「当然ありますわ! 戦妹には戦姉が間違いを犯そうとしたとき、止める権利がありますわ!」

 

「間違いってそれとこれは別の話だろうが!」

 

「いいえ、一緒ですわ!」

 

 うおー、ヒートアップしてる。ていうか、麒麟。鬼畜男って。先輩だからもう少し、なぁ? 確かに理子にライカと、お前が狙ってる『お姉さま』の側にいるから敵視するのも分からないでもないがよぉ……。俺は仮にも1年先輩だぞ?

 

 しかし、ここで俺が麒麟を注意して直るわけがないので、黙ってコーヒーを飲む。

 

「あの、レオン先輩」

 

 ヒートアップして言い争いを繰り広げているライカと麒麟に気づかれないよう、間宮が小声で話しかけてきた。

 

「ん。どうかしたか、間宮」

 

「本当のところはどうだったんですか? ほんとはライカと付き合ってたり……?」

 

「いや、別に付き合ったりとかしてないぞ。あくまで俺とライカの関係は強襲科の先輩後輩だ」

 

「でも、今日はデートしてたんですよね?」

 

「まあな。偶然駅で会って、デートしたよ」

 

「…………」

 

「……どうかしたか?」

 

 間宮のヤツが急に黙り込んで、俺を睨み始めたんだが。何か悪いことでも言ったか?

 

 戸惑う俺に、ゆっくりと間宮が口を開く。

 

「付き合ってないのにデートしたんですか?」

 

「? それが何か悪いのか?」

 

「悪……くはないですけど、デートってのは付き合ってる人たちがするものであって付き合ってない人たちがするのはデートとは言わないんじゃないかなと私は思ってですねライカは日ごろからレオン先輩を尊敬してて、そもそもレオン先輩には2年の……」

 

「――待った。その辺りでストップ」

 

 これ以上は長くなりそうだ。つーか、ブツブツ呟く姿が地味にホラーで怖い。

 

 俺は不満げに頬を膨らませる間宮に視線を向けて、弁解するために口を開く。

 

「別にお互い誰かと付き合ってるわけでもないんだ。デートぐらいしてもいいだろ」

 

「へ? 誰とも付き合ってないって……レオン先輩って2年の峰先輩と付き合ってたんじゃなかったんですか?」

 

 意外そうに目を大きくさせて驚く間宮。

 

「……またそれかよ。なんで皆、俺が理子と付き合ってるって思ってんだ? あいつと俺はよくコンビを組む相棒であって、おまえらが想像してるような男女の関係なんてないぞ」

 

「で、でも。峰先輩とよくほ……ホテルとか行って、あ、朝帰りしたとか……」

 

「それは一緒に受けてるクエストの作戦を確認したり、現場の下見だったりで、そのまま徹夜でゲームしたりってのが理由だよ」

 

「じゃあ、よく腕組んで帰ったり、き……キスしたりってのは?」

 

「あいつからしたら全部スキンシップの範疇。ちなみにキスはしてないぞ」

 

 ……たまに、頬っぺたにはあるが。それは普通だろ。……いや、理子のキスは故郷のアメリカでもないのか。軽くじゃないもんな。

 

「じゃあ、本当に付き合ったりとかはしてないんですね?」

 

「まあな」

 

 頷いてコーヒーを飲み干す。

 

 ……ん? どうしたよ、ライカ。顔に生クリームつけてる間宮と違って俺の顔には何も付いてないだろ。

 

 こちらを窺うように見つめてくるライカに俺は理由を訊ねようとするが、

 

「お姉さま! ダメですわ!」

 

 ライカの隣に座っている麒麟が、絶妙なタイミングで大声を上げて邪魔をする。

 

「こんな朴念仁でフラグメーカーな鬼畜男なんか、お姉さまには相応しくありませんわ! そもそも、お姉さまにはこの麒麟という戦妹がすでにいるじゃありませんか! 恋愛したいのなら私が……」

 

「う、うるさいっ!」

 

 胸を張る麒麟が全て言い終わる前にライカがアイアンクローが顔面を捉える。

 

「ひぎゃんっ!? いたたたた……痛いですわ、おねえさまぁぁ……」

 

 ギリギリと小さな麒麟の顔にライカの指が食い込み、麒麟が悲鳴を上げる。それを見た間宮は「あわわわわわわ……ライカ、さすがにやりすぎだよぉ~」と口元に両手を当てて怯えているが、こいつは麒麟を舐めすぎだ。あの麒麟だぞ。打たれ弱く見せておいて実は打たれ強く、極めて狡猾。こいつのおかげで俺が何度痴漢やセクハラ容疑で逮捕されかけたことか……。

 

「ああぁんっ、痛いですわぁぁ……。んっ、んんっ、ああぁ……お姉さまぁ……」

 

「――っ」

 

 案の定、麒麟の声音が艶かしいものに変わり始め、それを聞かされたライカの顔が真っ赤に染まり――その様子を麒麟は顔を捉えている指の隙間から覗き、愉しみ、

 

「ああんっ、痛い、いたぁーいですわぁぁ……」

 

 ライカの腕を掴もうとするように見せかけ、ライカの胸に触れた。

 

「――っ! どこ触ってやがる!?」

 

「ひぎゅっ!? いた、いたたたた……っ! ど、どことは……? どこを触ってるとおっしゃってるんですの? ……あらら? これは……」

 

 むにむに、もみもみ……。

 

 胸に当てていた手。その手の指を動かして感触を楽しむように揉む。

 

「~~~~っ!」

 

 胸を揉まれたライカは麒麟の顔面から手を離し、麒麟に拳骨を食らわせる。

 

「ひぎゃんっ!? うわ……うわぁああん、痛いですわぁぁ!」

 

 殴られた麒麟は両手で目元を押さえて泣き真似を開始、それを騙されやすい間宮が本当に泣いてると思い、「酷いよ、ライカ。やりすぎだよ。麒麟ちゃんに悪気はなかったのに」なんて麒麟を非難する。ライカは間宮に非難され、泣き続ける麒麟を見ることで罪悪感を感じ、麒麟に優しい言葉をかけたり謝罪して、

 

「お姉さまぁあああ!」

 

「こ、コラ、麒麟! くっつくな!」

 

 この最終的に仲直りするというパターンで麒麟は毎回ライカの胸に顔を埋め、欲望を満たして、さらに距離を縮めようとしているみたいだ。

 

 ……はぁ……。

 

 俺だけ先に帰っていいかな?

 

 目の前で百合百合されるのはものすごい疎外感を感じるんだが。しかも、男1人に対して女3人。しかも全員に百合疑惑があるメンバーだし。

 

「あのー、レオン先輩。これ、注文していいですか?」

 

「ん? ああ、いいぞ。ライカにも結構奢ったし。あと、妹さんの分も持ち帰りで頼んでいいから」

 

「え、本当ですか!? ありがとうございます、レオン先輩!」

 

 そうお礼を言った間宮はニパァーという効果音が似合いそうな笑顔を浮かべ、店員に向って手を上げる。……これで1こ下なんて信じられないな。小学生でも通用しようだ。

 

「えへへへ、パフェ頼んじゃった。本当にありがとうございます、レオン先輩」

 

「どういたしまして」

 

 嬉しそうに笑う間宮の頭に手を置いて撫でる。普通の1つ下の女の子にするには軽率な行動だが、

 

「えへへへへ」

 

 間宮の場合は女の子は女の子でも異性を意識し始める前とあまり大差がないので、心配がない。間宮も嫌がることなく、嬉しそうに目を細めていた。

 

「ほら、ご覧くださいお姉さま。あれがあの男の本性ですわ。朴念仁でフラグメーカーで優柔不断な鬼畜。しかもロリコンなんですわよ。お姉さまが恋慕を抱くに値しない低俗な男ですのよ」

 

「バッ……レオン先輩がロリコンなわけないだろうが! 先輩はあたしみたいな……」

 

「あたしみたいな? なんですか、それは?」

 

「え……あ……それは……なんでもねえよっ。とにかく、先輩はロリコンなんかじゃねえ!」

 

「ですが間宮さまの頭を撫でて笑顔を浮べてましたわ!」

 

「それは……間宮は……ほら、ああ見えてもあたしと同い年だろ? だから、ロリコンじゃなえんだよ」

 

「でしたら、幼児体型好きの変態ですわね!」

 

「なんでそうなるんだよ!?」

 

 再び言い争いを始めるライカと麒麟。そろそろ店の店員から周りの迷惑追い出されそうなんだが……。いや、それより、

 

「あたしの頭を先輩が撫でただけでロリコン疑惑が出て、今度は幼児体型好きの変態なんて……。あたしは麒麟ちゃんよりも年上で、ライカと同い年なのに……」

 

 間宮が影を背負って今にも泣き出しそうになっているんだが、それはいいのか? 2人とも。

 

「間宮……」

 

「……レオン先輩」

 

「強く……生きろ。いつかはきっと、おまえにも成長期がやってくるはずだ」

 

「――っ! ……う、うう……。レオンせんぱぁあああい!」

 

 涙腺決壊。腕にしがみついて泣き出し始める間宮。

 

 しかし、ライカと麒麟の言い争いは止まることはない。むしろさらに加速する。

 

「先輩はロリコンじゃねえし、朴念仁のフラグメーカーでも……ゆ、優柔不断でも……くっ……。き、鬼畜男じゃねえ!」

 

「あらあら。朴念仁とフラグメーカー、優柔不断は認めたようですわね、お姉さま。この調子でロリコンと鬼畜も認めてもらえませんか?」

 

「くうぅっ……」

 

「それでは、霧島レオンに対するロリコン疑惑と鬼畜疑惑を確定させるためにディベートを始めましょうか、お姉さま。もちろん、ロリコン鬼畜男を信じているお姉さまは逃げませんわよね?」

 

「――っ。上等だ! 受けてやるよ、その勝負!」

 

 ライカと麒麟との間で突然開催されたディベート。

 

 皮肉にも先日俺が金次にかけたロリコン疑惑が主題に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 そして、ライカと麒麟の間で繰り広げられたディベートの結末は、麒麟がロリコン疑惑を強めるために用意した材料、「お姉さまは同い年だからロリコンではないと主張してますが、間宮さまは正真正銘の幼児体型! 胸もほとんどないAAカップで、スリーサイズも同い年であるお姉さまと比べると悲惨の一言」と、言ったところで間宮が号泣して、今度こそ店から追い出されたため、強制終了。勝負は無効となったが、間宮の心には傷が刻まれたようだった。

 

 ちなみに、関係に亀裂が入るかもしれないと危惧された間宮と麒麟だが、麒麟のフォロー――理子も使用しているらしい、バストアップの健康器具(7980円)と間宮の妹へのお土産用お菓子をプレゼントしたことで何とかなったようだ。……相変わらず安いな、間宮。そして騙されてるぞ、間宮。理子の巨胸は天然だ。あいつの部屋にあんな健康器具はなかったし、育ちすぎてバランスが取りにくいと愚痴ってたぐらいだ。

 

 しかし、まぁ、何とか円満にまとまってよかったよ。疲れたけど。

 

 休日なのに疲れが増した俺が、麒麟と間宮と別れ、ライカを武偵高の女子寮まで送ってひとりで帰っていると、突然ケータイの着信音が鳴った。着信を知らせる画面には理子の名前が表示されている。

 

 受話器を上げるボタンを押して耳にあてると、 

 

『理子がデートのお誘い断わったからって後輩ちゃんたち3人とデートなんて最低だよ、レオポン。理子りんはお休み返上して働いてたのにぃ……』

 

 第一声でいきなりこんなことを呟かれた。

 

「それは……って、なんでおまえがそれを知ってるんだよ? どこかで見てたのか?」

 

『クエストの下見してるときに偶々見えたの。もぅ、楽しそうにしちゃって。プンプンがおーなんだぞ』

 

「用事ってクエストの下見だったのか。それはすまなかったな。けど、それなら俺も付き合ったのに」

 

 というか、下見するときはいつも理子から誘うのに、なんで今回は誘わなかったんだ?

 

『だったら、これから理子りんの部屋で――って、あううぅ……。そういえば夜にも予定があったんだ。むぅ~~……じゃあ、今度! 今度デートしよ! もちろんレオポンのおごりでね』

 

「はぁ……わかったよ。じゃあ今度な」

 

『うん! なら、許してあ、げ、る♪ ――愛してるよ、レオポン』

 

「はいはい、俺も愛してるー」

 

『むぅ、心が籠もってないぞぉー?』

 

「これでも十分心込めてるつもりなんだが、伝わらなかったか」

 

『つもりじゃだめなんだよ! 「理子ぉおおお、好きだぁあああ! 愛してるぅううううう!」って叫ぶぐらいしないと全然伝わらないね』

 

「……それを実際に俺がやった場合、お前絶対引くだろ」

 

 つーか、そんなキャラでもないだろ……。

 

『理子はぜぇーたい、引かないよ。むしろレオポンにメロメロになって一気にフラグ起っちゃったりするよ! ほらほらぁ、試しに言ってみよ? ねぇ、ちょっとだけ。先っぽだけでいいから、ね? いいでしょ?』

 

「いきなりそのネタをぶっ込むなよ……。はぁ……じゃあ、先っぽ? だけな」

 

『うんうん、さすがレオポン。ノリがいいねぇー』

 

 う、る、さ、い。前言撤回するぞ。

 

 俺は受話器から耳を離してマイクを正面に持ってきて、呟く。なるべく心を込めて。

 

「――理子、好きだ」

 

 …………。

 

 ……ああ、ノリで言うには結構……いや、かなり恥ずかしいな、これ。

 

 名前呼んで、好きだって言うだけで、顔が熱くなる。

 

 遊びでも、その場のノリでも恥ずかしくて顔を覆いたくなる。

 

 改めてアニメや漫画の主人公の凄さが窺えるな。レントン、君ほんとすごいよ。そりゃあエフレカも惚れるわ。

 

『…………』

 

 ……理子さん、そろそろ何か反応は返してくれないかな?

 

『…………』

 

 ほら、笑ってもいいんだよ? いや、いっそのこともう大笑してくれ! ノリに乗ったからってよくよく考えれば、あれはない。何雰囲気出して『好きだ』なんて言ってるんだよ!? うわああああああぁあああ……物心付き始めた頃から15歳の始めまでアメリカだけでなく、世界中でも刻んだ黒歴史にまた新たな黒歴史を刻んだ気分だ。穴があったら入りたい。海があったら飛び込みたい。……もうこのままケータイの電源落としてなかった事にするか。

 

 そう思ってケータイの電源を切ろうとしていると、突然スピーカーから理子の声が聞えてきた。

 

『――私も、レオポンが大好き』

 

 スピーカーから聞えてきた理子の言葉。

 

 その言葉にはいつもの陽気でどこかふざけている感じはなく、心が込められた、嘘が感じられない真剣なもののようで、

 

「――っ」

 

 思わず俺は少女漫画のヒロインのようにトキめいてしまった。

 

 なんだこれ、ドキドキするぞ……。いつもの遊び……なんだよな?

 

「り……」

 

『えへへっ、じゃあまたね。約束、忘れちゃプンプンがおーなんだからね』

 

「ん……あ、ああ。わかってるよ。約束な」

 

『じゃあね、レオポン』

 

 そう言って、受話器が下ろされる。

 

 通話が終了した電話を片手に、俺はしばらくその場から動けなかった。

 

 なんだったんだ、今のは……。






 以下↓ おそらく書く時間がないのに何となく組んだ『ダン間違』のプロローグ。



 瓦礫の山がいくつも出来上がり、炎と、黒々とした煙が立ち昇る迷宮都市オラリオ。

 少年は崩壊した街並みも、迫り来る炎にも目はくれず、空を、黒龍を見上げ続ける。

 だんだん見えなくなってゆく黒龍を真っ直ぐ見つめ続ける少年の脳裏には、今まで見たことも聞いたこともないはずの情景が映し出されていた。

 それはどんな怪人や怪物だろうと、絶対的な存在だろうとワンパンチでやっつけてしまう、最強のヒーローの姿――英雄譚だった。

 奴隷として生を受け、流されるままに生きていた少年の心に、ある思い()が宿る。

 情景のなかのヒーローのように、どんな怪人だろうと怪物だろうと、あまたの冒険者さえも寄せ付けない強さを見せた黒龍さえもワンパンチでやっつけることのできるヒーローなりたいと。

 憧れのような思いを抱いた少年は強くなるためのトレーニングを始めて数年後――。

 情景のなかのヒーローとは違い、禿げることなく成長を遂げ、青年となった少年には、もう敵と呼べる者は存在しなかった。

 しかし、それでも青年はダンジョンの奥へと潜り続ける。

 更なる成長と、自分の敵となりえるモンスターを捜すために。

 今日もひとり、ダンジョンの深層で叫び続ける。

「またワンパンチで終わっちまったじゃねえかぁああああああっ!」

 ――と。


 ちなみに、アイズとは幼なじみ設定。ヘスティア・ファミリアルートで、ベルの数年先輩設定。

 そして、テンプレなアイズがヒロインもの。

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