ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

1 / 120
前に一度投稿しましたが、出来栄えが恥ずかしいので消して加筆した上で再投稿です。
主人公が幾分弱体化修正されてます。ついでにバランス修正してます。
そして再び言いますが、この小説に当分忍者も魔法も出ません。魔法が出るとすれば4話くらいからです。

感想、ご意見等御座いましたら、お気軽に申し付け下さい。



第一話 火威 異世界へ

am 10:30

火威 半蔵(ひおどし はんぞう)が日野の実家を出たのはその頃だった。

秋田駐屯地に帰るのは明日の予定なので、今日は新潟の親戚の家に泊まって明日の昼迄に秋田に帰るつもりでいる。

中央線に乗れば新潟行の新幹線が出る東京駅まで一本で行ける。

「ふむ……」

火威は薄く……もとい武骨な自衛官を絵に描いたように刈り上げた短髪の後ろ頭を掻いて思案した。

「俺の記憶が正しければ今日は夏の祭典の日」

これから同人誌即売会に行こうと言うのだ。そしてその考えは、滅多に都心に行かない…東京に住んでいる時でも就職活動以外では都心に出ることのなかった火威の行動を決定付けた。

もし、彼が見た目通りの武骨者でサブカルチャーに一片の興味も無く、東京駅経由で新潟に行っていれば、彼の人生はほんの少し違っていたかも知れない。

 

 

am 11:30

 

神田から山手線に乗り換え、三駅ほどで新橋に着いた。

余り熱心なオタクとは言えない火威は(ちなみに火威自身はオタクと言う周囲の評価を断固として否定しているが)少し早い昼飯を食べようと、近くにあるチェーン店の牛丼屋に立ち寄った。

今日に限って混んでいる。休日という事もあるし、近くで同人誌即売会をやっていれば無理もない事だろう。それでも15分ほどで席が空き、火威は店員に食券を渡すことが出来た。

漸く席に腰を下ろし、出された牛丼定食(大盛)に箸を付ける。自衛隊に入隊して以来、食べる量が多くなったし食べる速さも増したものだ。瞬く間に大盛どんぶりに盛られた牛丼を半分にしてしまった。味噌汁が入ったお椀に口を付ける。

その時、突然始まったような喧噪と共に店にドアが押し倒されるように破られる。咄嗟にその方向を振り向く火威が見たのは、身幅の厚い剣を持った豚頭の化け物だった。

 

 *  *  *              *  *  *

 

多くの民間人を犠牲にした『銀座事件』。 この『銀座事件』の後、日本政府は自衛隊の派遣をゲートの向うの異世界…特地に派遣する事を決定した。

銀座からゲートを越えた丘に設営された自衛隊の駐屯地。以前から異世界を偵察していた部隊によると、この丘はアルヌスの丘というらしい。

自衛隊・特地派遣部隊の主力がゲートを越えてアルヌスの丘に来た後、戦闘は直ぐに開始された。それも三度が三度、圧倒的な戦力差で自衛隊の圧勝に終わった。

「銀座と併せて概算12万か。ヒドいなコレ」

子供にしか見えない兵士の骸を見ながら火威は呟く。

「銀座で敵兵殺しまくった火威三尉のお言葉とは思えませんね」

丘の中腹から麓とも言える地点を覆う人馬の骸を見ながら、火威の言葉に茶茶を入れたのは、同伴を求められた内田二等陸曹だ。火威と共に片手に円匙(えんぴ)と呼ばれるシャベルを持っている。この円匙は土を掘ったり掬う事が出来るし、フライパン代わり使用できる他、戦闘でも敵をぶん殴ったり斬り付けたり刺突できたりする優れものだ。

狭く入り組んだ塹壕内では唐突な遭遇戦が多発したが、銃剣を着剣した小銃では長すぎるため、第二次世界大戦前後にサブマシンガンが普及するまでは、白兵戦で最も頼りになる武器とされていた代物である。

「俺ぁ避難誘導する時に邪魔するヤツだけ排除したんだよ」

曰く、降りかかる火の粉を全力で払っただけらしい。とは言え、牛丼屋に押し入った豚頭の化け物は奪われた剣で脳天から顎まで真っ二つにされ、彼の背を矢を射た敵兵は半殺しの憂き目を見た。否、一度は呼吸が止まってるから四分ノ三殺しくらいだろう。

「しかしこっちの責任者に賠償させるったって、どうすんのかねぇ。言葉も通じないだろ」

「今は深部偵察隊が特地の内情を探ってるそうです。まぁ急いで事を急いても野党に付け入る隙を与えるだけですからね」

「ふむ……」

火威は考えるようにして周囲を見回す。すると銀座でも見たドラゴンの死骸があった。

「お前はこっちに来て直ぐにヒャッハー出来て良いよな」

秋田から付き合いのある内田 仁(ウチダ ヒトシ)は第五戦闘団に配属された。この情景を作りだしたのも彼の第五戦闘団だ。ゲートを越えてから直ぐに戦闘だったので、第五戦闘団の多くは、そのままウヤムヤのうちに編成されている。ちなみに火威は空中機動が可能な第四戦闘団だ。

その火威が言った「ヒャッハー」とは「北斗の拳」に登場する雑魚キャラのモヒカン野盗宜しく、無慈悲な蹂躙のことだろう。

「暇そうですね」

戦闘狂かトリガーハッピーの「ケ」がある上官をジト目で見ながら言う。アルヌスの宿営地から離れているとは言え、多くの骸が腐敗して衛生的にも見た目的にも良ろしくない状況を生み出されるのを避ける為、火威や内田を始めとする多数の隊員が敵兵の骸の埋葬作業をしているから、今現在は暇ではないのだが。

敵兵の骸が纏っている装備や麻の貨幣袋を見れば、その持ち主の素性や身分は幾分か想像出来る。それらをガメるのは倫理的にマズいので当人と一緒に埋葬するのだが、これが特地の経済にちょっとした打撃を与えるとは火威達は思ってもみない。

ちゃんと人の話を聞いている自衛官なら知ってる事だが、一定の成果の後に埋葬仕直すという話も聞いている。なので今回の埋葬は死体が腐敗しても宿営地に害を及ぼさない程度に離れた距離と野生動物に食い荒らされない程度の浅さに埋葬するようだ。

何を以って「一定の進展」なのかが下士官の火威には分からない。恐らく上も、それこそ日本政府も「これ」と決まった事は言えないのだろう。だが以前までは推測だけだったが、先行した偵察隊の情報では銀座に現れた集団は国のような組織らしい。自衛隊がゲートを抜けてから交戦……寧ろ一方的に屠った集団は、最後の二回で両方夜戦を仕掛けてきた。この二回が同一の組織だとすると余りにも学習が無い事から、別々の組織の可能性が高い。

周囲を見回すとドラゴンの骸もある。報告ではそれらの鱗は12.7mm弾でやっと貫通という事だから、特地での脅威として真っ先に挙げられるのはドラゴン、ないしドラゴンの騎乗手になることは予想出来た。

周囲をうろつく肉食性の野生動物もこの鱗に辟易したのか、兵士や軍馬の死体は食い荒らしてもドラゴンに手を付けた形跡は見られない。

そしてこのドラゴン達は埋葬するのに苦労するであろう巨体である。自衛官なら数人掛かりで埋葬するのは出来なくも無さそうだが、今回はその命令は出ていない。

最後の一人を埋葬した時には既に太陽が西に落ちていた。(世界が違うので、もしかしたら東かも知れない。南や北という事も考えられる)

火威と内田達自衛官は踵を返し、アルヌスの駐屯地まで帰っていった。

 

   *  *                     *  *

 

アルヌス駐屯地の早朝。

火威はパンツァーファウスト3に見せかけた1つ13kgの土嚢を背中に三つ、そして控え銃で両手に同重量の土嚢を持ってアルヌス宿営地の外側をランニングしていた。

52kgの重さに耐えて宿営地を二周するのは火威自身、無茶をやると自覚していた。だが昨日帰還した第三深部偵察隊の報告を聞けば反骨精神の塊とも言える火威としては何もやらない訳にはいかない。最終的には今の状態で10マイル(16km)を走り抜くつもりだ。

案の定、火威の予想した通りこの地での脅威はドラゴンだった。昨日の内に聞いた報告では、コダ村の住人の避難を支援していた第三偵察隊が遭遇したドラゴンは自衛隊がアルヌスに来た時に撃ち落としたドラゴンよりも巨大でその鱗は堅く、しかも高熱の炎を吐くのだと言う。

「ここは特地。よくある事」とはゲートを潜った矢先に怪異を多数含む敵集団を視認した第五戦闘団の誰かが言った言葉らしいが、第三偵察隊が交戦した「炎龍」は特地でも中々無い災害と同一視されているらしい。

第三偵察隊に被害は無かったが、コダ村の避難民には多数の犠牲者が出たらしい。

炎龍の襲撃から生存し、第三偵察隊に保護された怪我人含む老人や子供の他、コダ村の近くの森に住んでいたエルフの集落の生き残りの少女や、コダ村の隅に住んでいた賢者の師弟、そして炎龍と遭遇する前に偵察隊と行動を共にするようになったゴスロリ服の少女の25人が駐屯地近くに住む事になった。現在は彼らの仮設住宅を建設している。

「へぇ疲れた。毎日やってたら背ぇ縮みそうだな」

そんな事を口走りながら、土嚢を背負っていた肩を鳴らす。朝食を取ろうと食堂に入るが、まだ朝食には早い時間とあってか人影はまばらだ。

食堂は既に稼働しているのでトレーと茶碗と箸を取る。食事は一部がバイキング方式である。一部と言うのは米、つまりご飯だ。副食は限りがあって一人一回のみだが米は幾らでも食べ放題なのだ。ただし、火威のような尉官以上の幹部自衛官はこの限りに無い。

火威は米を先に食べて副食を後にしようかとも考えたが、余計な疑惑を掛けられてもツマラナイと思い、素直に最初から副食込みの朝食を取る事にした。

「ちょ、火威先輩!?」

多少荒げられた声の方向を見ると、陽に焼けたのであろうか。浅黒くなった肌の隊員が居る。誰だったかな……。そんな火威の表情を察してか、浅黒い肌の隊員が言う。

「出蔵ですよ。出蔵 尚(でくら なお)です」

「あぁー」

火威はその名には勿論憶えがあった。自身の高校の部活の一年後輩だ。共通の趣味を持っているという事もあって、仲が良かった。

「以前に八高の文化祭に遊びに行った時に出蔵が自衛隊に進んだって聞いたけど、特地に居たのかぁ」

「いや特地に来たのは同時ですけどっ!」

高校の頃からボケに専念するのは火威の役割だ。と言うより、火威にツッコミ役をやらせると、ほぼ間違い無くボケ殺しをやらかす。

「って言うより先輩は高校出てからどうしてたんですか? 銀座事件では賞詞頂いてましたけど、東京の近くに?」

「あぁ、高二の時は理系だったんだけど三年で文転しちゃっただろ? だから理系の大学にも行けなくてさぁ……」

勉強するのも嫌なので、推薦で行ける近場の三流大学に進んだのだという。しかも二年の時に一次留年して五年掛けて大学を卒業。その後もやりたい事も無いので、給料が貰える防衛大学に進んだのだと言う。

「でも防衛大の入試って中々に難しいじゃん。過去問買ったりして人生で一番勉強したよ」

だったら高校出た後にも二流以上の大学にも行けたんじゃ……などと思う出蔵を他所に火威は続ける。

「折角だからパイロットやろうとも思ったけど、防衛大から空自に行っても地上勤務になる確率高いじゃん」

なので、わざわざ面倒ながら語学を幾つか勉強して、英語は発音の問題で喋れないけどリスニングは、ほぼ完璧……なのだという。

「に比べて特地語は楽で良いな。発音も文法も余り気にしなくて良いし」

「そうなんスか?」

そだよ、と、至極簡潔に返す火威を相手に話を混ぜ返す。多少礼を失する態度で話せるのも高校で仲の良かった先輩という事もあったし、何より肩の階級章は同じ物だ。

「そういや先輩は何処に着任してたンすか?」

「あぁ、すまん。秋田に居たわ。んで見合いで日野に来てて、秋田に帰る前に祭典に寄ったワケ」

「って、お見合いしたんですか! コッチ来て良かったんですか?」

「あぁ、なんか写真見せてもらったんだけどさ……」

曰く、オークっぽかったから特地派遣を志願して逃げてきたと言う。

「全くあんなんどこから探してきたんだか」

出蔵の脳裏に“人三化七”という言葉が思い浮かぶ。自衛官ならばその身を世の中の為に働かせるのに特段の異議は無いが、その人生全てを擲ってのボランティアともなれば話は違ってくる。

「でも何で秋田に」

「そりゃお前ェ……」

火威は急に声を潜めて言う。

「ある下着メーカーの調査ではな、秋田には巨乳が多いんだよ」

この懺悔とも言うべき事実に驚愕する。自身の先輩は世の為どころかその半生を自身の欲望に使おうとしようとしていた。

「やー、なんだお前ェー。そんな目するくらいならオークと結婚してみろよもぅ」

どうやら出蔵の視線は自分でも知らない内に火威を非難する目になっていたようだ。火威が口を尖らせて大盛にご飯を盛っていく。そんな先輩だが本気で怒っているワケではないようだ。怒ってみせるその様子は、高校を卒業した17歳当時の気配を感じさせる。

「い、いやでも銀座事件で活躍した先輩ですから、世の女性の方が放っておかないでしょう。あんな活躍したんだし昇進とかも……」

「昇進はしてない。ご褒美に五百円を貰ったけどな。それと事件からは忙し過ぎて合コンする暇も無かった」

火威が言うには、火威自身が敵を大量に手に掛けた事が原因だと言う。事情聴取は週を跨いで二週間に渡り、実況見分は二ヶ月半にもなったと言う。そんな火威がマスコミの槍玉に挙げられなかったのは、彼が民間人の避難に多大に貢献したからだろう。政府としても彼を掻い摘まんで表彰なり昇進なりさせても良かったが、余り火威を目立たせさせるのは政府にも火威本人にも良くない。なにせ民間人避難の為とは言え、彼がやったのは明らかに人間じゃない連中含む大量殺人である。だから彼の直属の上官が不憫に思い、せめてもの報奨という思いで五百円をくれたのだと言う。

「で、一応オークみたいな見合い相手に会ってから特地に逃げてきた」

「あ、会ったんすね」

「三ヶ月もあったからな」

銀座で火威がしてのけた事は知らないハズの相手ではあるが、一応殺気を出して好かれないようにしたという。

「まぁ、そんなことしないでも向こうにもその気は無かったようだけどな」

相手も親等に言われて渋々だったようだ。だが人の心変わりは何時どのように起きるか分からない。念には念を入れて特地に避難することにした。いっそ、もうこのまま特地の女性と結婚するか、特地でWAC(女性自衛官)と知り合うのも良い。

「でも銀座事件での俺の行動に詳しいな。新聞でも避難民を退避させた……っていう程度にしか書いてないのに」

実際には銀座事件の民間人避難には多数の自衛官の功績が残っている。これ程に自衛官が多いのは、国民全体に於ける自衛官の割合が予想外に多いのか、当日開催された同人誌即売会を目当てに集まった自衛官が多いかのどちらかだろう。

その同人誌即売会に惹かれて現場に居合わせた火威は後者だと予想する。日本各地で開かれる駐屯地祭のBGMに、やけにアニソンが多いのが理由だ。とすると、もしや事件で特段の活躍を見せた二重橋の英雄たる伊丹耀司二尉も…と、普段はオタクである事を否定しているにも拘らず、妙な親近感を得る火威だ。

「あぁ、テレビでやってたんですよ」

「なに!?」

「色んな局でやってましたよ。日野市におられる先輩のご両親も出てましたし、こっちに来る前にも銀座事件の特集番組やってました」

なんてことを…なんて事をしてくれたんだー!と、酒杯でも持っていたら日野の両親に投げ付けたい気分にさせられる。

(これはヤバい。絶対にヤバい!)

日本に帰ったらかなりの確率でオークが待ち受けている可能性がある。

火威はこの時を以って特地に骨を埋める決意をしたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。