ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
あからさまなサブタイですみません。
久々の週二投稿です。
でも前回よりだいぶ短いです。

というか、前回うっかりしてそのまま進めてしまったのですが、
 SERIO様! 誤字報告有難う御座います!
最近のは誤字に注意してるんですが、昔のは未だ一杯ありますねぇ……。


第二十九話 潜入

光の精霊魔法と物体浮遊の魔法の併用で敵地上空を飛ぶ火威の任務は、アルヌスから持って来たポラロイドカメラで凍結帝国全域を高高度から撮影する事と、都市があったとすればその中に潜入し、防衛施設各所を撮影することだ。

撮影時に光るフラッシュは、精霊魔法を駆使すれば抑えることも出来るとサリメルは言うのだが、流石に火威はそこまで精霊魔法の練達者ではない。

凍結帝国の幾つかの場所で、足跡を残してしまうかも知れないのを前提に任務を進めなければならないのだ。

更に、今回の任務では周辺の村落から拉致された現地住民を発見しても、救出することは出来ない。

その場所と拉致被害者の数、そして敵の守りがあれば、それだけの場所と数を記録し、可能であればカメラで撮影する必要がある。

また、仮に任務中に拉致被害者を発見しても助けることは出来ない。

サリメルが精霊と歓交して氷雪山脈で起きていることを知ることが出来るのだ。ロゼナ・クランツも自身の胸前で起きていることを、逐一知ることが出来る可能性もある。

 

ロゼナ・クランツの本拠地に向かう前、アルヌスにいる間に火威は栗林とサリメルに残念な知らせをしなければならなかった。

「古代龍の肉、全部龍に喰われてました」

そう火威が報告すると

「くっ、それは残念無念。じゃが古代龍はまだおるかも知れぬ」

とサリメル。

「いやぁ、そこまで頑張って生やそとしなくても、今の火威三尉の顔は如何にも強そうで好きですよ」

と栗林。

栗林が好きだと言ってくれるなら、このままでも良いかも知れない。ジゼルも結構好きそうだし。

何より、ダメージをサリメルが肩代わりしてくれるとはいえ、古代龍の肉なんて食べたら精神的ダメージをも受けてしまいそうだ。

胃が溶けたとか、舌が穴だらけになった程度のダメージならまだしも、股間のドラゴン殺しが寸鉄サイズになったなんていう悲劇が起きたら大惨事である。

諸行無常、漢の毛髪はいずれ抜けて消えるものと考え、火威はその最終局面に早々到達したと考えれば良い。

カトー老士は未だ毛髪豊かだが、彼は男の老魔導士であって火威は漢の労魔導士なのである。

さておき、先述の特性を利用しての通信手段を、火威は偵察に向かう前に聞くことになったのである。

「なんスか? サリさん、特別な通信手段ってのは」

サリメルは昨夜から、リーリエや栗林、そして薔薇騎士団の女性達を隠すように本隊から離れるようになったのだが、その理由はまた後述する。

「ほら、ヌシは妾の眷属じゃろ。ヌシが受けた傷は妾に来るるワケじゃが――――」

サリメルが説明する方法というのは、至極簡単だ。

サリメルの眷属である火威の負傷は、ある程度までならサリメルに肩代わりして貰えるようになっている。この能力を利用し、離れた場所にいても火威が自身の身体を傷付け文字を刻み込めば、意思の疎通が可能だというのだ。

また、サリメルが自身の身体に文字を刻み込んでも火威の身体に浮かび上がってくるのだ。

ちなみに、眷主がバラバラに解体されても眷属には影響が無いのだから、神様製ヒューズは良く出来ている。

「んじゃテスト」

ということで、離れた場所から本隊に移動した火威が、借りたナイフで自身の腕に「×」を刻み込み、それを栗林ら自衛官が憶える。

それからサリメルが自身の腕に「セクロス」と刻み込むと、血相を変えて火威は飛び込んできた。

「あんた! 他人(ひと)の身体に何書いてんの!」

自衛官らは眷属の苦労を、よく理解したという。

 

 

*  *                            *  *

 

 

凍結帝国への抜け道を抜けて最初に見えてきたのは広大な氷河と、その上に作れらた氷上迷彩とでも言うべき柄の要塞だ。

要塞といっても、お椀を逆さにしたようなトーチカと言った方が良い。氷河の上にあるから居住性が無さそうだが、ロゼナ・クランツの魔導士のことだ。何らかの特別な方法で戦闘員が氷雪の上にも活動できるようにしている可能性はある……。

と、思いきや、その要塞にいるのはヒト種の生ける屍だった。物理的に考えて、死体がこのような寒い場所で活動(という時点で常識的ですらないが)するのは、枷に繋いだまま働けというようなものだろう。

通常の死体に比べたら死後硬直が弱い生ける屍でも、寒さの中に置かれて筋肉がしっかり働く筈がない。

敵地に侵入したと思われる火威は、それから三つの要塞を見てきた。

そのどれもが雪で出来ているから、仮に放棄してもコスト的な痛みは少ないだろうし、火威ら人間側の勢力が侵入した際には、この世界の一般的建造物の材質である石材と違って軟弱な雪で出来てるから吹き飛ばすことも容易だ。

そんな場所に、敵側戦力の兵として見ることができるのは、六肢族のように腕が四本以上ある蟲人とでも言うべき連中だった。

たまに腕が三対ある者もいる。これはさし当たって八肢族とでも言うのか。

これらの連中が六肢族と決定的に違うのは、その頭部の構造と言えよう。

自衛官(というか火威)が悪所で六肢族の娼婦に女性的魅力を感じることが出来たのは、頭部が人間的、或は動物的であったことだ。

それに対し、この蟲人兵士の頭部は如何にも虫っぽい。戦力評価したいところだが、今の任務は完全に秘匿されるべきものだ。喧嘩を売る訳には行かない。

だが、何かの拍子で仲間同士の喧嘩が起きると、一方がバラバラに解体されるまで喧嘩が続く。

火威らが住んできた世界の虫も、脳という高級な器官は無いに等しく、頭や脚部が反射で動くような生き物だったが、コイツらも同じようだ。

三つの要塞は、上空から見ればそれぞれがアルヌス駐屯地の防御陣形に似ているように見える。向かって来る敵を、広い範囲から迎撃できる陣形だ。

その両脇に、二つの要塞……否、正に塔と言うべき建造物がある。三つの要塞の向うには、光輝いて見える氷の都市……凍結帝国の、言うなれば帝都が存在した。

上空から見れば、綺麗ななシンメトリーになっているだろう。光の精霊で遠くを見て見ると、両方の塔の向うに二頭ずつ龍がいるのが見えた。

まさか7本の塔の内の2本が、そのままの意味の塔だとは思わなかったが、これで敵の全ての賽の目を明らかに出来た。

残りは直に凍結帝国の都に潜入し、脅威となるであろう物をその目で見なければならない。

 

 

*  *                            *  *

 

 

「なぁ、クリバヤシ。最近はずっとヒオドシのヤツがサリメルに掛かりきりでつまんねぇだろ」

ジゼルは火威が偵察に向かう中で、栗林にそう声をかけた。

本当なら自分の意志を明らかにして、妻公認で火威の愛人になりたいのだが、それには先ず妻と仲良くなるという方向を択んだのだ。

「いえ、そんなことありませんよ」

その答えに、ジゼルの目論みというか考えていた話の内容の筋は脆くも崩れ去る。

同意されたら「そうだよなあ。独りだけで楽しまないでオレたちにも分けてくれると良いんだよ。次からオレたちも交ぜてもらわねえか?」と言って、アルヌスへの帰還後もさり気なく夜伽に参加する予定だったのだ。

流石に栗林もそこまで迂闊ではないのだが、伊丹なんかが栗林を「脳筋爆乳娘」と呼称することが有ったので甘く見ていたと言ってよい。

「作戦の重要事項が続きますからね。先日、アルヌスで同棲する話も切り出されましたし、今は我慢ですよ」

その同棲、オレも交ぜてもらえないだろうか……喉元まで出て声には出せないジゼルである。

その時、議論上に挙がっていたサリメルの声が響く。

「ハンゾウから連絡じゃぞ。ナグモ、見てたもれ」

すると、サリメルの腕に血の筋が刻まれていく。それは日本語の文字として次のようなものになった。

ヨウジ ハッケン ダー ノ オソレ

アルヌスの三人娘がいれば伊丹のことかと疑問にも出ただろうが、ここに居てカタガナが読める全ての者は、それを「幼児」と解釈できた。

カタガナで示すのは、火威自身が自らの身体に傷を刻み込むのに画数が少ないからだ。否応なしに漢字を使うこともあったが、昭和の電報のような形で連絡を入れることが多い。

サリメルはレレイほどではないにせよ、日本語が解るのでカタガナも読める。

「ダーか。それは確かに有り得るな」

「だ、ダーって、どんな姿のヤツなんだろうニャ」

会話に入って来たのはリッテラだ。サガルマタの生き残りとあって、その動向には注意が払われている。ノスリではないが、敵のスパイという可能性を疑っているからだ。

「ん、見てみる?」

「ふァッ?」

「えっ?」

「なにっ?」

サリメルが何気なく言った台詞は、その場を凍らせる。

「いや、火威には手出し無用と。それだけを伝えてくれ」

二年以上前に、異世界の日本との遭遇で戦争の概念がひっくり返った特地だが、このエロフの台詞には、地球での戦争の方法すら変えてしまう可能性がある。

「あ、そうか」

何かに気付いたように声を挙げるサリメル。このあと、南雲はアルヌスへの門を越えて狭間と話すことになったのである。

 

 

*  *                             *  *

 

 

凍結帝国の中には、戦力らしい戦力は存在しなかった。

たまに見かけるヒト種の兵士はゾルザル派帝国軍だったらしいが、「化け物共に嫌々従っている」らしいことが彼等の会話を聞いていると解る。

それでも異世界の軍……とは本来違うのだが自衛隊、そして亜人と組んだ正統派帝国政府の傘下に収まることを良しとしないようだ。

ならば、僻地まで逃げ延びたところ可哀想だが命の保証は無い。運が悪ければ死んでもらうことになる。

 

それにしても……だ。

氷雪山脈に点在した集落から、民間人を拉致したという話は今までに何度も聞いたのに、一人として彼等らしき姿は見ていない。

凍結帝国内で見る建造物は、その多くが魔法を駆使して建設可能と言える。

それどこか氷の城などは魔法でなければ建設不可能だ。強制労働が必要になる場所は無いのである。

「どうなってんだ、コレ」

とは心の内でのみ思えど、最悪の状況を考えずにはいられなかったのである。




サリメルが栗林ら女性陣を隠したのは、次に説明します。

んで、そろそろ三部も終わらせます。
でも栗林のターンなので、絶対に一回か二回は栗林回を捻じ込みます。
四部もある意味では栗林のターンではありますが、
まぁ四部はヒロイン全員か火威のターン……なのかな?

質問や意見、感想、或は疑問などありましたら、忌憚なく申し付け下さいませ。

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