ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
前回、時間が掛かるとか言ってて今回も定期的に土曜日の投稿になってしまいました。
いや、書き溜めてあるので、ある程度までは定期的に……ね?(;''


第十一話 帝都侵入

夜間降下は訓練で何度も経験済みであったが、妄想力逞しい火威は心配であった。

降下中は荷物の軽量化に集中しているので、もし、帝国兵に見つかって矢を射かけられたら……。もし、降下中に突風が吹いて城壁の外まで飛ばされたら……。イレギュラーな事態を思い付く度に、篭手で弾くとか、増量覚悟で風の矢を射返すとか、対処方法を用意しておく。

それでもダークエルフが風の精霊を召喚して、自衛隊の拠点となっている建物の前に降ろしてくれた。

正直、大変だったのはそれからで、拠点の扉を叩いても拉致被害者から習得した日本語を使ってる帝国兵の斥候かと疑われたり、斑の戦闘服と階級証や名札を見せる為に、隙間無く装備された胸当てを取るのに苦労した。

「全く二科にちゃんと連絡取っといてもらうんだったよ」

再度、腕当てから付け直して後悔宣う。

「どうしたんです? その鎧」

「コダ村の避難民が俺に作ってくれたんだよ。以前に日本のお菓子ご馳走したからね」

「うっわ、買収だ」

「ギブアンドテイクと言ってもらいたい」

そんな事を倉田と言い合ってる。どうも自分と似たものを火威に感じるようで、この三曹は以前から気軽に話し掛けてくる。

火威も高校の頃から学年や位の上下を余り気にしない性格だったので特にその事について注意する事もない。

だが自衛隊に入ってからは、この事で苦労した。

ちなみに火威自身もヴォーリアバニーのグリーネやデリラ、または悪所の亜人娼婦に魅力を見出だしているので、ケモナーの片鱗が一応あるのかも知れないが、単に守備範囲が広いのだと自らを推測してる。

「あ、新田原三佐。ご無沙汰してます」

拠点に入った火威は親戚の家に上がり込んだ甥っ子の如く、気さくに古参の中年自衛官に敬礼しつつ声を掛けた。

その新田原は軽い調子の三尉に少し苦笑しつつも

「補給任務ご苦労」

と夜間降下の任を労う。

「150人分の食料、確かに運搬しました。しかしゾルザルがやってる事はクーデターですよねぇ、コレ。翡翠宮は外交特使ですけど大丈夫なんでしょうかね」

「いや……」

 

 

  *  *                       *  *

 

 

闇の中、外交特使が逗留する翡翠宮に向かう。

「特使に最低限しか回さんとか、全く良い根性だよゾル公がッ」

お陰で長身で艶のある黒髪の黒川にも会えず栗林の巨乳も拝めなかった、と、八つ当たりと言うかほぼ私怨の殺意を壁の向こうの皇城、ウラ・ビアンカに向ける。

火威は翡翠宮に逗留する外交特使に多めの食料を運ぶ為、悪所街をさまよっていた。

悪所街から翡翠宮までは多少ではあるが距離がある。それでも荷物を担いで――それこそ魔法で重荷を軽荷にした火威が行けない距離のはずがない。

そうして暫く皇城の方角に進むと、やがて悪所を抜けて帝都の住宅街に入った。

壁を乗り越える時に気付いたが、金属が少しでも身体から離れていれば魔法は使用可能だという事が判明する。

進むべき道を物陰から窺うと人影が見れる。篝火に映るその影は、怖ろし気な犬顔の兜を被った帝国兵のようだ。

「あれが帝権擁護委員(オプリーチニキ)か……」

まぁ戒厳令下か……と、自分にしか聞こえぬよう呟く。

帝権擁護委員達を避けた道を選んで慎重に翡翠宮まで歩みを進めるが、辻には確実に帝権擁護委員が居る。迂回出来る場所ならば良いが、そうでないなら考えなければならない。

思いっ切り風の精霊に頑張ってもらって犬似の兜を吹き飛ばし、拾いに行ってる内に辻を越えるとか、魔導を使って遠くで物音を立て、調べに行ってる内に越える、等の方法である。

「そんなワケで食料100人分、お届けに参りましたよ」

陽が昇っても薄暗い翡翠宮の中、漸く神経を緩ます事が許可された火威が海上自衛隊の駐在武官と外務省の菅原 浩治(すがわら こうじ)の目前に「ハンコは不要」と軽口を付け足しながら背負った荷物を降ろした。

翡翠宮は豪奢な外見とは裏腹に、内部は酷く閑散としている。その上、そこらかしこに外交特使が逗留する翡翠宮を警護する、ピニャ・コ・ラーダ配下の薔薇騎士団の女性騎士や老年の兵士が腰を下ろしている。

火威が翡翠宮に到着した時も、対応したのは年端も行かぬ女性騎士だった。聞けば、戦争中とあって青年から壮年の貴族の男子は帝国に兵力として取り上げられているのだと言う。

「確かに食料、受領しました。火威さんですか。ご苦労様です」

この時、火威は初めて特地問題対策副大臣の白百合 玲子(しらゆり れいこ)を始め特使の世話をしてくれるメイドや下男(フットマン)に渡す為に多めの食料を持って来させられた事を知る。

否、実際には新田原からも聞かされてるのだが、帝都を隠れ進んでいる内にすっかり頭から抜けているのだ。自衛官としては資質にかなり問題がある。

「しかし……」

言い含んで火威は口を噤んだ。弱腰内閣の森田は何時まで手ェ拱いてんだチクショウメー、と言おうとしたのだが、その森田が選任した白百合の部下の菅原が目の前に居る。

それから火威嚇は新田原三佐から承けていた「緊急時は悪所拠点に帰還を見送るべし」という指令を実行させた。

本人曰く「空腹で動けなかったんだもん」である。

 

 

 *  *                         *  *

 

 

「うぅむ、戻らない理由(言い訳)は……」

火威が翡翠宮に来てから既に四日が過ぎていた。

二日目と三日目に悪所の拠点に帰還しようとも考えたが、近頃は昼間でもオプリーチニキが道の至る所で目を光らせているのだ。

要らぬ誰何をされて騒動を起こす事を恐れた火威は翡翠宮に引き返し、今もこうして逗留している。無理に帰って恐ろしい巨乳や毒針で貫かれるよりも、巨乳ではないが可愛い・綺麗な女性騎士と一緒に居たいと思ってしまうのも、男故である。

昨日の夕方から未明に掛け、翡翠宮の庭園内を動哨していた火威しはほんの少しサプライズを得た。

第三偵察隊の富田・章二等陸曹が、薔薇騎士団のボーゼス・コ・パレスティーとの間に子供を作ったと言うのだ。

実際に産まれるのは七~八ヶ月先のことなのだが、このことで指揮所天幕内でちょっとした騒ぎが起こる。

自衛隊では特地の異性と肉体関係を持つ事は禁令とされているが、特地の異性と交際している隊員は火威の知る限り多く居る。

だから肉体関係を持ち、子を成したという事実は「遂に起きたか」という感想しかない。とは言え其の第一号が、第三偵察隊でも真面目な富田二曹というのは些か意外に思えた。

「まぁ良いんじゃね? そういうの。個人の自由だろ」

そう言ったらヴィフィータ・エ・カティに非常に怒られた。鉄火肌な物言いで、アルヌスで研修していたボーゼスやニコラシカ・レ・モンから聞いた話から察するに、身分の上下を気にしないタイプだと思い込んでいた。

だがボーゼスの「もし父上の不興を買おうというのなら、わたくし、家をも捨てる覚悟です」とい言葉でこの件は決着を得た。

成程、と火威は思う。これ程まで佳い女なら、富田が禁令を破ってまで付き合おうと言うのも理解できる。

日本の日野市にある火威家も、父が両祖父母から決められていた許嫁との縁談を蹴って今の母と結婚した……というように聞いている。その証拠に、火威半蔵が中学に入るまで日野の火威家は父の実家である新潟の火威家とは絶縁状態で、それこそ火の車状態だった。火威半蔵の兄が高校を卒業する前に父の転職が成功し、兄弟全員が大学を卒業できるまでなったが、火威半蔵の幼少期は、それは貧しいものだったのである。

先頃、ヴィフィータにその話をしたら「許嫁を蹴るとか凄ぇー親父さんだな」と感想を貰った。特地語を再度勉強し直さなくてはならない。

以上のような反動からか、火威は結婚相手に妥協したくないし、貧乏もしたくない。結婚するなら相手は巨乳一択で、射撃徽章を取得したのも何か手当てが付くと勘違いしたからであって、欠格となった今では再度取ろうとも思わない。

しかし特殊作戦作戦群では手当てが付くので、所持していると有利な技能や選定過程等を調べたりもした。その過程で伊丹耀司二等陸尉の欺瞞情報を手に入れてしまったのである。

そんな火威が、特地派遣隊の隊員には特別手当てが付く事に気付かないのは、お粗末としか言いようがない。

ともかく、朝早くに起きてしまったのは、何故か遠くで誰かが銅鑼や太鼓を鳴らしていたからだ。恐らくこれが戒厳令下の帝都では普通のことなのだろうが、まったく寝れやしない、とゾルザルの治世に何百回目かの文句を言ったところで、階下が騒がしい事に気付く。

そして翡翠宮の外から菅原を呼ぶ少女の声にも。




本作のヒロインですが、本編中での登場は難しいかも知れません。
なにせ主人公が此処までモテないキャラを演じてしまうと、急にモテだすのも却って不自然に……。

それはさて置き、お気に入り指定が28もっ!
これからも閲覧して頂けると幸いです!(次の回からちょっと主人公が無双し始めますが.....(;’’)
ご意見、ご感想ありましたら、遠慮なく申し付けて下さると幸いです!

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