ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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前回投稿から3ヶ月以上放置してしまいました、庵パンです。
遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。
そろそろ本編の話数を越えてしまうので、あと少しで三部を終わらせます。
できれば後2話くらいで……。
できるかなー?


第三十七話 鬼神クリバヤシ

「そいや!」

振り下ろされる鉄の塊が、甲冑を模した石の兵を砕き、破片を派手に散らばらせた。

サリメルが使う鉄鎚の出所がロゥリィやジゼル、それにグランハムは気になる。火威が攻撃隊の支援に向かうまではアメジストの彫刻があるナイフしか持ってなかったはずだ。

何故、あんな武器があるのか知れない。

ロゥリィもジゼルも特別図書館に行ったことがあり、伊丹所有以外の日本で著名な漫画である某未来猫型の絡繰り物を火威から見せてもらったがあったことがある。

「貴女ぁ、禁忌を破ってないでしょうねぇ?」

時間を巻き戻ったり4次元的な空間に所有物を入れておくことが禁忌にあたるかが、今一度神々の中で議論する必要があるのだが、火威はサリメルをサリえもんと呼ぶことがある。

「へふっ!?」

この動揺ぶりは明らかに怪しい。まぁサリメルとしては若干苦手意識を持っているロゥリィに聞かれて驚いただけかも知れないが。

「いやいや、MASYAKA。ロマの宿舎を作る時に少しニホンの宿を参考にしただけじゃよ? あとハンゾーの意見聞いたり、聖下に怒られたりしないようにして……」

先に自己弁護を述べている点からして非常に怪しい。サリメルからすれば「だって聖下めっちゃ怖いんだもん!」なのであるが。

しかしロゥリィはサリメルに対する疑念を拭いきることができない。それとなくではあるが、サリメルという女神はハーディに似ている気がするのだ。違う点は他者からの注意に耳を貸す辺りか……。

最も違う点としては「男女の区別なく自身の好みなら抱きたがる」ことが挙げられるが、余り重要な部分ではない。

 

 

*  *  *                      *  *  *

 

 

「サリさん上手くやってっかなぁ」

亜神達から離れた火威は首謀者を討つための攻撃隊への合流を急いでいた。

サリメルの他の神と付き合いは、火威が知る限りニャミニアを斃した後でロマの森を訪れたユエルと行動を共にしていたグランハムが挙げられる。

数百年前になるとジゼルとも知り合いらしいが、現在の火威の主神であるロゥリィとはあまり反りが合わないような気がする。

ニンジャオンセン郷で卓球……もといファル球をした時にサリメルはロゥリィを酷く恐れていた。サリメルは自身の楽しみとか、目的の為に平気で禁忌を破ってそうな亜神である。

だから幽閉されるのを恐れたのかも知れない。

「今、幽閉されるのはちょっと困るな」

何だかんだ言って眷主である女だ。色々世話になっているし、友人としては面白い人物である。サリメルから離れる時はロゥリィに「変態エロフ亜神が不興買うかも知れませんけど、堪忍して下さいね」とは言っている。

言ってはいるのだが、ロゥリィは怒ると怖いらしい。いつ堪忍袋の緒が切れてしまうだろうか。

まぁサリメルはちゃんと我慢できるし……と、火威さ先を急ぐ。

急いでいるとは言え、魔法の使用は厳禁だから移動は徒歩に限られた。氷の回廊を砕き割って近道することも考え、実行したが氷は強化ガラスのように堅い。

爆薬や魔法を使えば破れるかもしれないが、火威は必要な爆薬を持っていないし魔法を使う訳にもいかない。

細心の注意を払いつつ、曲がった先に牛頭の怪異…ミノタウルスを見た。攻撃隊から離れているがコイツがこの後どういった行動するか分からないし、何より相手からも火威を確認して接近してくるので戦闘は避けられない。

隊が入手した情報では、ジャイアントオーガーよりは小さい筈だが、この場の脅威となっている敵性生物はタンスカで排除した個体より大きい。

「喰らえや!」

それに向かって駆け出す火威。今の彼には匠精モーターから賜った本物のドラゴン殺しがあるのだ。

繰り出される巨大な拳を難なく避け、がら空きになっあ喉元から大剣を突き上げる。

返る血飛沫と共に確かに感じたのは、研がれた神鉄の切っ先が骨を砕く手応え。

「ヌぇい!」と気迫と共に脛骨と肉を貫き、そのまま剣を振るとミノタウルスの頚がごとりと音を立てて地に落ちた。

巨大な身体は火威にのしかかることになるが、それを往なして地に叩き伏せる。怪異の死亡を確認した火威は、首と頸を落した牛の怪異の身体を一瞥すると攻撃隊の進行ポイントまで走っていく。

自衛隊に入隊した時は、まさか異世界で大剣を振るってミノタウロスやデカイ蛇と戦う日が来るとは思わない。

攻撃隊の自衛官の皆だってそうだろう。まさか異世界で巨大な蟲からゾンビやら相手にする日が来るとは考えもしなかったに違いない。思えば遠くへ来たものである。

ここで火威は思い直す。

今、自分が戦闘服の上に装着しているのは龍種で最も弱いとされているとはいえ、拳銃程度の銃撃では効果がない翼竜の鱗を使った鎧だ。

その篭手による打撃の威力は、翡翠宮の防衛戦で証明されている。

自衛隊での訓練は、肉体を鍛える以上に困難に耐えうる根性を鍛える。

そしてその困難が正に今この時だ。仲間の為、敵が造った道を進むより壁を崩して近道した方が断然早い。

「俺が進むぞ! その道開けェ!」

サリメルの話では、敵の魔導士は離れた場所から見ている可能性があるのだ。

火威は敢えて宣言すると、味方の攻撃隊が進んでいると思われる方角の氷壁を力一杯、全力で殴った。

一発で割れないと見ると二発三発。硬い龍甲に包まれた拳骨が、もし相手が生物であれば骨格を粉砕し血溜まりに沈め、形も残らぬであろうほどの拳撃を繰り出す。

すると拳撃による摩擦熱でも起きたのか、壁の一部が軟らかくなり溶けだした。それを見た火威はその一点にパンチのラッシュを浴びせかける。

すると、ひと欠片ふた欠片……と、氷の壁が剥がれた。その部分に大剣を突き刺した火威は、梃子の原理で更なる崩壊を狙う。

表面が剥がれ、現れたのは柔らかい雪の層だ。こうなったら後にやることは決まっている。いつぞや巨大無肢龍を追った時のように、大剣を円匙(えんぴ)代わりにして掘り進む。

内戦中の帝国軍が相手なら、絶対的な力の差がある味方を安心して信じることができる。

だが今は、魔法並びに精霊魔法という地球世界には無い方法を戦争に用いる魔導士が相手だ。敵の本拠地を攻めているとは言え、寸分も安心できない。

なにより、攻撃隊の中には火威が努力に努力を重ね、ようやく交際に至り結婚を申し込んだ栗林がいるのだ。可能な限り早く攻撃隊に合流しなければならない。

これまでより一層固い氷を突き崩した時、火威は暗い雲が浮く空の風景を見た。どうやら外まで出てしまったらしい。

地上までは15メートル以上の高さがあるが、一面が真っ白な雪に覆われている。高さはあるが、火威が入隊を希望する特殊作戦群は習志野の第一空挺団に所属する。

火威が知るところでは、かつて第一空挺団員が2000円貸してほしさに3階の建物から飛び降りて無傷だったという話を聞いたことがある。

また、高度340mを飛行するヘリコプターから降下する訓練の際、パラシュートが十分に開かないまま降下したものの、隊員に怪我はなく訓練をそのまま続行したという話も聞いている。

ガ○○ム程度の高さもないのに臆してはいられないのだ。

火威は着地時に十分な姿勢がとれるように雪の壁に空けた穴を大きくしてから、氷雪山脈の空に身を投げ出した。

 

 

*  *  *                      *  *  *

 

 

津金がアルヌスに退いた後、三角ら攻撃隊は引き続きM197ガドリングを積んだ高機動車の到着を待って進撃することになった。

時間が掛かってしまうが、先ほどのような被害を途中で受ける訳にはいかない。圧倒的物量に圧されて全滅なんてことになったらである。

お陰で全く苦戦せずに敵を排除できるのだが、無痛ガンことM197ガドリングの弾が何時までもつか心配すなところではある。

アルヌスから補給できるとはいえ、そのアルヌス駐屯地に残されている弾薬の量が心許ないのだ。

この装備は先の帝国の内戦中、ゾルザル派帝国軍が使役した恐獣や眼鏡犬(スコープドッグ)などの巨大怪異の撃滅に相当使われてきた。そして内戦終結とほぼ同時に日本との連絡が絶たれ、以降、アルヌス駐屯地に保管される弾薬は減る事があっても増えることはない。

だがアルヌスにある弾薬を全て持って来る訳にはいかない。アルヌスはホームベースだし、日本への再開通を果たす最重要ポイントである。大型怪異の襲撃など、イレギュラーな事態が起これば此れを打ち斃しアルヌスを守り切らなくてはならないのだ。

「高機寄越せ。ガドリング用意!」

前方の離れた地点から、蟲人が沸き出すように続々と出現する。もう少し隊が進んでいたら分断されていただろうが、連中は人型になっても条件反射で動く蟲の頭脳らしい。

それに対し、バックドアを前にして隊の先頭に突き出た高機が、ハンドルを切り返すようにしながら広範囲にガドリングの弾丸をバラ撒く。

出現するのが早過ぎた蟲人は手足や胴体を弾けさせて斃れていく。斃れていくのだが、多くの仲間が斃されながらも確実に攻撃隊へと近付いていった。

蛋弾の飛距離には届かないとはいえ、歩兵に当たる普通科の隊員も無論黙って見ている訳がない。三角や栗林らも64式小銃を短連射で数の多い蟲人を遠距離から一方的に屠る。

オークなどの肉厚な怪異と同じで、蟲人も89式小銃より破壊力がある64式小銃で銃撃すれば、ほぼ確実に一撃て斃せる。反射で動く蟲とは言え、頭部を一撃で吹き飛ばせるのは戦術として大きな意味を持つのだ。

接敵した一集団を装備と戦術の差で一方的に殺戮・殲滅した後、高機を先頭に進むと敵は足元から出てきた。

生態が未だ知れぬ蟲人の集団が、床となっている氷を割って地面から湧き出るように這い出てきたのだ。現場指揮官である三角の手落ちだった。

今し方の蟲人が何処から出現したか不明だったにも関わらず、日没までに制圧することを急いてしまったのである。

基本、特地での戦闘は敵が亜人にせよ帝国兵にせよ白兵では相手に分があるので制圧射撃である。にも関わらず今は戦列の味方側に敵が現れたことに隊員は恐慌に陥った。

この時、既に白兵の準備はしていて銃剣による刺突、斬撃で戦闘が始まっているが、仕留めるのに手間が掛かる。

その際に反される蛋弾に、攻撃隊は小さくない被害を被る。

防刃製のあるボディアーマーに受ければダメージはないのだが、皮膚を露出する顔や手足などアーマーの範囲でない箇所に攻撃を受けた隊員は行動不能に陥った。

情報によれば弾丸として撃ち込まれた蛋が孵り、幼虫が犠牲者の肉を食い破る。一刻も早くアルヌスの診療所に移送して除去手術しなければならない。

だが攻撃隊は自衛官だけで構成されているわけではない。半精霊の亜人や白兵を主眼に腕を鍛えてきた薔薇騎士団を始めとする正統政府の帝国軍もいるのだ。

更には白兵においてその身を鍛え上げてきた太陽神フレアの使徒 グランハムの眷属であるユエル・バーバレンや火威が結婚を前提に交際している栗林 志乃がいるのだ。

リーリエが火の精霊で一体の蟲人を炎に包むと、その胴体を突き破りバラバラにしながら栗林が次に見つけた敵の首を銃剣で刎ねる。

ヴィフィータが二体の敵の胴を流し斬るように断ち、ジオが相対した敵に飛び付くように跳ねて頭蓋を叩き崩し、ユエルの斬撃が次々と蟲人を斬り捨てた。

「次で十!」という言葉を含みながら、栗林が銃剣を振るう。その銃底には蟲人の体液が着いていた。

それは彼女が持つありとあらゆる物体が凶器になるということを意味している。

次の犠牲者である一体の蟲人が蛋弾を発射。着弾したのは振り上げられた銃底で、その勢いのままに蟲人の頭部を叩き上げ頚を引き千切る。

嘘か誠か定かではないが、プロボクサーの動体視力は発砲された銃弾を捉えることが出来るという話がある。

実際、自衛隊が特地の戦乱に関わっていた際もゾルザル派の帝国軍が商人などの非戦闘員に扮していた時、非戦闘員か否か判明するまで狙いを付けていたのは頭部ではなく下腹部だ。

帝国兵はプロボクサー程の動体視力を持っていて、実際に弾丸を見て避けているのではないのだが、タイミングや直観に近い能力を以て首の動作だけで躱すのである。

栗林の身体能力はそれら帝国兵を凌駕する。だからこそ彼女は【亜神】を冠する二つ名で呼ばれているのである。

「でやぁぁぁァ!!」

銃剣を翻すのも面倒臭いといわんばかりに彼女の鉄拳が13体目の犠牲者の胴体にめり込み、飛ばされた人型の蟲が別の2体を巻き込んだ。

そこのすかさず別の隊員が手榴弾を投げ込んで纏めて爆殺する間にも、栗林は目に付いた1体の頸を銃剣の錆にするべく間合いを測る。

懐に飛び込んだ時に繰り出された関節部の角を躱してそのまま銃剣で刺傷。発砲しながら引き抜き、銃底で頭部を潰す。

すると、進むべき回廊の奥からミノタウロスが出現した。

隊内で交戦経験があり、記録として残されているのは伊丹耀司だけだ。クレティの遺跡で交戦した情報はアルヌスの自衛隊内に記録され、特地に派遣されている上・下級将校のほぼ全ての隊員が知るところである。

栗林は白兵の距離にまで地を蹴りミノタウロスに肉迫する。一般的なWACではなく、格闘で巨大怪異のダーを斃した戦士がそこにいた。

ミノタウルスが自身の目前にまで飛び込んできた小さな異種族に気付かないはずがない。

彼等は人間を喰い女を犯すと言われている。今の場合も自分の目の前に出てきたのが他種族の雌であることを匂いで解っていた。

だが、それ以上に自身に害意を持つ敵であることは野生動物としての本能で理解する。

有機体のエンジンの様な咆哮と共に剛腕を上げる牛頭の怪異。小さな見た目に騙されず、目の前の他種族の雌が脅威と判断した雄牛は一気に叩き潰すべき上体を反らせ両腕を掴む。

「栗林! 逃げろ!」

三角の警告も聞かず、栗林は巨大な敵が取るであろう動きを瞬時に予測して、その懐に飛び込む。振り下ろされる岩のような拳が栗林を押し潰す。そんな悪夢を予想してしまったリーリエを余所に、巨大怪異の剛腕が床に叩き付けられ氷の破片が飛び散り、氷の礫が巻き上げられる。

栗林の姿を暫し見失うが、次第に晴れ、その場に見えたのは、片方の角が捥げ落ちて息絶えたミノタウルス。そしてその側頭部に拳を突き刺した栗林も現れた。

ハンマーブロウの軌道を見切った栗林が、相手の攻撃を躱して偶蹄目の急所である角の後ろに全力の正拳突きを叩き込んだのである。

攻撃隊の本隊も交戦状態にあった蟲人を掃討し終えたようだ。三角が指示する前から負傷した隊員や帝国兵をアルヌスの診療所へ護送するため、氷の城の前に開いたゲートへと護送している。

そんな中、徒素の栗林に屠られたミノタウロスの死体を見た誰かが言う。

「あ、亜神だ」

ワーウルフ、キャットピープル、ヴォ―リアバニーや六肢族の他ケンタウロスなどファルマートには元々ヒトより武に秀でた種族が多くいる。だが、生身で……しかも己の拳でミノタウロスのような大型怪異を殺した者はこれまでに居たという話はない。

「まさに亜神・クリバヤシだ……」

悪所など、帝都に広まった亜神クリバヤシの伝説は一種の都市伝説として尾ひれ葉ヒレが付いたものである。しかし、多くの帝国兵の目の前で亜神は現実の者となったのだ。

怪異の頭蓋を潰す手応えをその手に感じて「やりきった感」を感じているであろう栗林を見て、三角は独りごちる。

「あぁいうのは“鬼神”って言うんだよ」

三角の言ったことは誰の耳にも入らない。そして栗林が成した偉業に対し、ユエルが確実に対抗心を燃やしていた。




唐突ですが

前々回の漫画版ではノッラフルボッコに参加していた龍人ウィッチ導師がセクシーでしたね。
今後の再登場を期待してしまいますが、以降でロンデルの描写は無いから難しいですかねぇ……。
まぁ、こっちの外伝的なヤツで登場させれば簡単なんですが……。
しかしコミックの外伝4コマという希望がまだある訳ですよ。
飢狼もロンデルには行きませんし、魔導はアルヌスで門を開いてワチャワチャするだけですし、4コマに期待するのが正解なのですよ。

活動報告にメモった内容を使えばやれそうですが、始まるのが来年末より先になりそうです。

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