ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、新年明けて最初の魔導です。
そろそろ栗林(筋肉)のターンが終わります。
本編より長い外伝ってどうかと思ってましたが、それも次で終わりです。
でも長くなりそうなので次はちょっと無理……かも。
どうにか春までには4部の栗林(デレ)のターンに突入したいです。


第三十八話 鐡の王

自衛隊が特地で最初に使用することとなった小銃は、現用の89式5,.56mm小銃ではなく使い勝手が悪いと評判の旧式である64式6,72mm小銃であった。

口の悪い人には在庫一掃セールなどと言われたが、銃剣が帝国兵の鎖帷子に引っ掛からないことやオークのような肉厚な怪異を一撃で斃せるなど、ある意味では特地向け装備とも言える。

その64式小銃の弾丸を数発受けているだろうに、そのエルフは未だに攻撃魔法を放ってくる。

防御魔法で守りを強化しているのだろうが、特戦と火威からの弾幕を受けても斃れない辺り、特地特有の絶対生物か神の一種なのだろうという予想は付く。

「火威! 無駄撃ちするな! こいつは普通の生物ではない!」

南雲は部下の名を張り上げて注意するが、弾幕を張ることは無意味ではなかった。

敵のエルフ女はロゼナクランツに降った帝国兵を庇うようにして立ち回り、中々自衛官達への攻撃に集中できないのだ。

今、火威と特戦が相手しているエルフの女はサリメルが「メンポ」と呼ぶ仮面を通して見た敵方の魔導士だ。

今戦っているのがリーリエから聞いた彼女の始祖なのだろう。職務質問したいが斃さなければ味方が死ぬ。

アウラという女が亜神ないしそれに類するものなら、解体して幽閉しなければ進めない。

「アマンダっ、頭下げて!」

火威は特戦が救出した亜人に叫ぶ。白毛で猫系か犬系か判断できない彼女がリドラとリッテラの母親だ。ダーという怪異の変異体である彼女を保護するのも、普通では考えられないことだが、銃器と魔法との戦闘の中ではダーという怪異も実力は発揮できない。

「支援! 頼みます!」

自分自身に掛けた防御魔法は未だ有効のはずだ。魔法が使えないこの状況で火威は風の精霊を使役すべく秘かに詠唱しはじめた。

自然災害の多い日本に産まれ育ったのだ。風の威力、それも暴力の塊となった風の威力はイメージを思い起こし、精霊を使役して再現する力が火威にはある。

「いけェ!」

火威が拳を振るうと強大な旋風と雷撃がアウラとミュドラに向かって行く。ミュドラは捕らえて正統政府に突き出す予定だったが、ここまで苦戦しては生かして捕らえるのは難しい。

だがアウラは火威と同じような竜巻を使役し、火威が生み出した旋風と雷雲をかき消してしまう。

火威や特選群の男達の敵はエルフだ。ならば経験の勝るエルフが火威を上回っても不思議ではない。

しかし、攻撃を止められたかに見えたが続けて放たれた鉄火の弾が彼女を貫いた。

「やれるぞ!」

だが特戦群の一斉射撃がアウラを襲う。空きなく張られる防御魔法で威力は減退したが、全ての弾丸が彼女に突き刺さり、的井が撃ったM2カービン銃の弾丸が頭部を吹き飛ばす。

「やった?」

アマンダが独りごちるが、頭部を失ったアウラの身体はミュドラと共に姿を消した。

「火威、今のは……?」

南雲は魔法使いとしての見知を火威に求める。

「今のは穿門法でしょうか……サリメルが使うのと比べて実に素早いですが」

そして亜神やそれに類する存在であることも付け加える。そでなければ、不死で尚且つ魔導が使える通りが説明できない。それでも何故禁忌加担するのかが不明だ。

もっとも、火威の眷主のような性格にならば色々な条件付きで禁忌に加担してしまう動機は幾らでも考え付くのだが……。

 

火威が特戦群に合流したのは、今では敵であることが確定したエルフと特戦の戦闘中のことだった。火威やサリメルが見た黒髪エルフという情報は特戦の他、攻撃隊の全員が知るところである。

最初の一撃は長距離からの狙撃のはずだったのだが、敵の精霊魔法は距離を延ばす幻影を敷いていたのだ。返される爆轟魔法は剣崎に掛けられていた防御魔法を一撃で引き剥がした。

戦闘中に火威が掛け直すこともできたのだが、法理や霊格に反応したストーンゴーレムが乱入してきたら事であるし、それを警戒して南雲から止められていた。

「まぁ、どうにか撃退することは出来ましたね」

「近くにいる可能性が高いがな」

火威の言葉に南雲がほぼ当然であろう内容のを返す。ロゼナクランツ最後の拠点は彼等がいる場所なのだ。

「二佐、見て下さい」

槍田が何かを発見したらしい。彼は自身の足元を見ている。いや、彼の足元や火威、南雲や剣崎の他、特戦群の男やアマンダの足元など、広い範囲に幾何学的な模様が走っているのを見つけた。

「アルヌスの防御陣形じゃないか? なんでこんな所に」

「魔法陣じゃないですかね。 蟲獣を呼ぶ為の」

閉門間も無い頃、火威は多数の蟲獣の出所を複数の同僚と上官、そして日本へのゲートを開けるレレイから、自衛隊がアルヌスに築いた防御陣形がこれ以上ない程に正確な魔法陣となったことを聞いた。

半壊したゲートが日本がある世界とは違う世界に繋がり、多くの蟲獣を呼びこんだと聞いている。

「なら早く消さんとな」

「爆薬使うことはないですよ。精霊に本気出して貰えれば結構な威力ですんで」

 

*  *                            *  *

 

リッテラとリドラの母親である獣人・アマンダは、二人の子供に似て美しい純白の毛並みを持つ雌の獣人である。

ダーであることも知らず、旦那や子供が居ると知らなくて火威の私生活が報われなかった場合、カトリや倉田ほどケモナーではないにせよ片鱗を持つ彼はアマンダに言い寄り、お茶くらいには誘ったかも知れない。

だが、真実はダーが擬態している姿だ。夫が農業に従事する傍ら、ダーの変異種である彼女は氷雪山脈では狩りを生業としていたといっても切欠さえあれば擬態を解いてダーという怪異に変貌する。

私生活が恵まれなかった火威やカトリなんかは、早々に獣欲を発露させて(かじ)られていたかも知れない。

そんな危うい可能性があるから、閉門騒動時にダーによる流血の惨事を見たアルヌスにアマンダ独りを避難させることは憚れた。

リッテラやリドラは攻撃隊に追従している。それを知った彼女は攻撃隊との合流を急かす。だからではないが、南雲がプレストークスイッチを押して攻撃隊を率いている津金に通信をいれた。

 

*  *                            *  *

 

穿門法によって風雪吹き込まない屋内に移動したアウラとミュドラであったが、今まで彼等がいた中庭に風陣が立ち上っているのを確認したアウラは悔やむ。

トーデインは明らかに相手の力量を見誤っていたのだ。

ミュドラの他、ロゼナクランツに降った帝国兵が何度も異世界からきた魔導士を警告したのにも関わらず世界への復讐を始めた。

「魔法陣が破壊されている」

アウラが呟くように言った出来事にミュドラは愕然とし、同時に恐怖した。

この事実をトーデインに報告すれば激怒するであろうことは分かっている。ゾルザルも大変な気性の持ち主だったが部下の提言には「一応ながら」耳を貸す程度のことはした。

トーデインは異世界から来た軍のことは知ってはいたのだが、その実力を信じようとしない。そしてその中の魔導士の話は一度聞かせたが、まるで信じようとしなかった。

だがファルマートで戦争を起こすならジエイタイという敵も相手しなければならない可能性が高い。それなのにトーデインは嘗ての帝国がそうであったように、敵の力を信じようとしなかった。

その理由はミュドラにも覚えがある。

ゾルザルの帝国がそうであったように、魔導を極めたロゼナクランツに仕えた者の曲がった自尊心が現実を見ようとさせなかったのだ。

だから今の状況はトーデインが招いたことになる。

しかし、この人物の理不尽さは自身の責任を認めないところだ。そしてその怒りは多くの場合で責任のない他者に向かう。

「トーデインには常に自分しかいない。逃げろ」

亜神であった故に人間なら即死の傷を受けても、短時間で治ったアウラが帝国のヒト種に言う。帝国に滅ぼされたロゼナクランツに生きたトーデインは、戯れに帝国のヒト種を殺す。

今では帝国のヒト種だろうが他の種族だろうが、使役出来る者は己の駒としか考えていない。使えなければ今のミュドラのように死という処分が待っている。

「し、しかし……逃げろと言っても私にはもう……」

帝国の内戦で敗者となったゾルザル派の三将軍であるヘルムとカラスタの二人は、既に皇族に刃を向けた罪人として縛り首となっている。ミュドラもジエイタイと同道する正統派帝国軍に投降すれば、帝国に護送された後に縛り首となるだろう。

もはやミュドラが向かう未来には、どの道にも死しかないのだ。

「お前、そんなに生きたいか?」

ことりと、アウラはミュドラに問う。強い魂であれば死後の冥福というのも望めるのだ。ミュドラはトーデインに呼ばれ、寒風吹きすさむ氷雪山脈を越えてきた。

それなのに、トーデインは帝国の人間というだけで虐待するし戯れに殺す。その命を羽毛よりも軽く扱われる彼等に対してアウラも同情しないでもない。

それでいて氷雪山脈周辺の人家から住民を拉致するのも彼等の仕事だった。

「生きたいです! 生きて生き直したいです!」

ミュドラという男は色々な複数の意味で凡人だ。俗人と言い換えても良い。だが俗人であるが故に自身の生に縋るのも、長年生きたエルフとしてお亜神として生きた経験もあるアウラには理解できる。

アウラは一つの掛けに出た。

「では、ロゼナクランツから離れることが出来たら、静かに生きると誓うか?」

 

*  *                            *  *

 

ロゥリィやサリメルら神々と合流を果たした火威ら特戦群は、攻撃隊との合流を目指す。

先程の戦闘で火威の精霊魔法が相殺されたのは、以前にテュカが言ってたように鎧に重量のある武装を付けているせいなのだろうが、そのどちらもが火威にとっては大事な命綱だし任務を遂行するのに必要な機材でもあるので投棄することは出来ない。

一方のロゥリィ達は城内を巡り、山脈の村から拉致された複数人の人々を救出することにも成功している。

その中には、山脈内唯一の公認賢者であり、アマンダの番いでリドラやリッテラの父である雄のキャットピープルもいた。

「アウラというヤツは妾の昔の知り合いなんじゃが……」

「世間って狭いっすね」

アリメルがサリメルの娘であることに関しても、非常に狭い世界の出来事で火威や出蔵の心、そして世界が翻弄されていることに火威やロゥリィは二の句が次げない。

「こんな悪いことする()じゃなかったのに……何があったんじゃろう?」

近所のおばさんのようなことを言う。昔は近所のおばさんと近くの子という関係だったのかも知れない。

「それとぉ、小型のゴーレムも壊せるだけ壊したわよぉ」

ロゥリィのハルバードなら石人形を破壊できるのも納得できるが、それ以外の神の得物だと苦労しそうである。ジゼルの鎌で石を破壊できるとも思えない。

「猊下やグランハムは怪異対策じゃ」

「人の心読むのやめてくださいよ」

「ハンゾウは顔に出やすいんじゃよ」

サリメルに言われたことは、極秘任務に当たるのには不向きということを特戦隊員の前で明らかにされたことだ。

「全部破壊出来てれば魔導も使い放題なんじゃがな」

「待て」

攻撃隊との合流を急ぐ火威達を止めたのは南雲だ。

「サガルマタの特科から伝達があった。山が動いているとのことだ」

「えっ、ソレどういう……」

さっぱり意味の解らないことを言う南雲に戸惑う一同。それは雪崩ということなのか、山体崩壊ということなのか。実に解釈に困ることだ。

「ナグモ、言ってる意味が全然解らないんじゃよ」

「俺のもさっぱり解らん」

通信で聞いた南雲もサリメルも解らないのであればお手上げだ。

「とにかく速攻でトーデインぶっ潰して確認しまっ……!」

火威が言いかけた時、彼等の進行方向から一陣の風の如く明確な声が彼等に投げかけられた。

「その必要はない」

見れば、アウラという名のエルフの女だ。その右手に提げているのは人の首で、彼女の脇には人間大のゴーレムが随いている。

「トーデインは討った」

放られた首を見れば、確かに火威やサリメルが見た女の首であることが解る。

「なっ…! なんで散々っぱら邪魔くらかしてくれたお前が!」

「ヒオドシ・ハンゾー……お前には世界を救ってもらうぞ」

火威の問いに答えようとはせず、アウラは人間大ゴーレムの肩に手を乗せた。その瞬間、ゴーレムの目に光が宿る。

「ここで敵かよッ!」

急ぎ防御魔法を敷いた火威が隊の先頭に立ち塞がると、突進してくるゴーレムと激突した。

 




次は少し時系列が戻ります。
さておき、さを先生が描かれるケモ娘。実に肉感的でそそられます。
流石にさを先生は無理でしょうが、今作で出てきたアマンダも肉感的溢れるケモ人妻という設定です。
なので誰か描いて下さいっ!

はい、ゆうた感あること言いました……。
あとクリちゃんの幸せなエロ絵とかm(ry


で、次は飢狼書きます。

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