ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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久々の更新です。
今回のサブタイも電波的なもので思い付いたものです。
天狗のことでも魔神英雄伝ワタルでもありません。

で、明日発売のスパロボXでまさかのワタル参戦なのですが、
色々と執筆が遅れるかも知れません。


第三十九話 空神

 

三角が率い、大型化したミノタウロスを殴り殺した栗林を擁する自衛隊・帝国軍連合の攻撃隊が目指す先。

そこには大理石によってされた王座と玉座があった。

王座には現・ロゼナクランツが持つ兵器の中で最高性能を誇る人型の器物が座り、反対側の玉座にはファルマートの亜神達と異世界から来た敵の恐怖に震えるトーデインがいる。

そのトーデインの前にアウラが姿を現した。

「遅いぞ!」

心から信じられる味方の居ないトーデインにとって、アウラが唯一の有能な駒である。トーデインの生存に欠かす事のできぬ駒だが、それがトーデインとは違う別の人格によって行動しているという当然のことが彼には我慢できなかった。

「申し訳ありません。蟲獣を呼び込む魔法陣は……」

「早く! 早く触媒を寄越せ!」

「先程お渡しした触媒は?」

「異世界の武器を防ぐのにあれで足りるか!? 1枚や2枚、容易に貫いて来るぞ!」

それはアウラにも納得できることだ。先程、異世界の男達との戦闘で受けた傷は通常の人間であれば何十回も死んでいるだろうし、一撃で頭部を吹き飛ばした武装にも目を見張るものがある。

ミュドラが居ないことには一辺の疑問も感じないのか、アウラから神秘的に輝く漆黒の毛髪を引ったくると詠唱を始めた。

触媒を消耗し、練り上げた魔法は防御魔法だ。会話の流れやトーデインの臆病な性格から薄々感づいてはいたが、この期に及んで自分を護る魔法である。

アウラは近付いて来る複数の魂に気付いている。自分が味わった複数の弾幕なら幾重と厚い防御魔法も破れるだろうから、トーデインが恐怖するのが解らないでもない。

だが、山脈各地から種族に構わず拉致して隷属させ、力で脅して時に生きたまま魂を奪い、生ける屍を作ってまで作り上げた氷雪山脈のロゼナクランツの城より、この男は自身の命を優先させている。

この時を境に、アウラはこの男を見限った。トーデインの魂魄に抑えられている巨龍を放たぬ為に従っていたが、今ではそれを屠れるかも知れない男がいるのだ。

そしてアウラが気になるのは、近付いて来る魂の中には自分の末孫がいることだ。

他種族の中で何世代も代替わりを重ね、血縁は薄く、遠くなっているだろうが間違い無く自身の孫娘の魂だ。

 

突然、王座から見える扉が勢い良く開く。

アウラは末孫の魂の訪れを感じ、トーデインの前に姿を見せる危険性を理解しながらも、彼女の姿が見えるのを待ち望んでいた。

トーデインは驚き、恐怖に身を竦めるばかりだ。

「アウラ! やれ! 殺せ!」

帝の広間に雪崩れ込んでくる、ヒトを中心としたトーデインを討伐せしめんとする者達が包囲の輪を広げつつも、反撃の魔法を警戒しているのか中々近付こうとしない。

アウラは、そんな者達の中に末孫である娘の魂と、それを包む美しき肉の身を見た。

トーデインにおびき出され、重傷を受けて死の淵を彷徨っているという話を聞いたが、彼女は壮健である。アウラには、その姿を見ただけで充分だった。

「殺せ! 何をしているアウラ! ロゼナクランツの再興を忘れたのかッ!」

トーデインが喚き散らすが、もはやアウラには従っている理由はなかった。

「顧問賢者の分際でロゼナクランツの意向を語るな!」

そう言い、アウラは初めて今は上役であるはずのトーデインに肉体の力を行使する。その頸を掴み、力任せに脛骨を握り潰さんとしていた。

「ア、アウラ……貴っ…様…………!!」

見た目では判らないが、この男の肉体は老い、朽ち果てる寸前である。他人の肉体を奪い、それで生きる禁忌を犯しても氷雪山脈の最奥に隠れ住み続けていれば他の人間など来ない。

アウラの指は皺だらけの頸にめり込み、その骨を掴む。

「お前が死んでも、世界は喰わせない。手段なら見つけた」

それだけ言うと、頚部全体を掴んで鶏を〆るように脛骨を砕き、その首を引き千切る。

「なっ!?」

三角も栗林も、勿論自衛官だけではなく攻撃隊の全ての者が光景を見紛った。最終目標である敵の首魁が、その部下の手に掛かるとは思わなかったのだ。

一時は人望の無さに内乱でも起きるかと考えたこともあったが、魔導士というのは想像以上に隙がない。だから苦労して、犠牲を払いながらここまで進んできたのが無駄だったとしか思えないのだ。

首を失った女の身体が、意志を失い高所から床に転落する。

「命が惜しければ貴様らも直ぐに山を降りよ。間もなく城も形あるもの全てが正気に覆われるぞ」

アウラはそれだけを言うと、トーデインが座っていたであろう玉座と対になっている王座に腰かけてる、人間の形をした器物を魔法で立たせる。

そして、ハーディから貰った魔法で、器物と共に姿を消したのであった。

 

 

*  *                            *  *

 

数週間前に、アルヌスで開かれた大祭典の後夜祭に火威と倉田が幹事で開いた合コンは結果として失敗と言えた。

合コンの相手である薔薇騎士団の女性達が気高い貴族の子弟であることは認識していたが、男性側参加者で薔薇騎士団の女性達と面識がある火威が、合コンの最中に何処かに行ってしまったからである。

企画し、参加者と開催日を彼女達と擦り合わせてきた火威が居なくなったのは小さいことではなかった。彼女達が興味を持つ話を聞けなかったからである。

航空自衛隊の神子田が突撃隊長宜しく、会話の尖端を切り開くべく語りかけたが、彼は特地語を解さない。倉田が補助のように付き合い、ようやく言葉が通じる程度だ。

しかし、薔薇騎士団の女性達の大半は日本語研修と称してアルヌスで日本語を学んだ女性達が多い。その彼女達に聞けば、彼女達が興味を持つ物は「ゲイ術」なるものであった。

それは、自衛官達が考える美術品とは違うらしく、とても独特のモノであった。

サガルマタに派遣された第一戦闘団の特科中隊に所属する岩城《いわき》数馬《かずま》三等陸曹も、彼女達の趣味には衝撃を受け、暫し閉口した

結果的にその日の合コンは、最近アルヌスの住民になったジぜラの神殿に務める女性に的を絞った三角の一人勝ちである。

坂の上の黄薔薇屋敷に住む富田二曹は、あの趣味を承知してボーゼス・コ・パレスティと結ばれ、そして一子を儲けたのだろう。レンジャー持ちだというから、その精神力の強さには舌を巻く。

岩城は特地残留を希望しているから、今は門の再建で忙しくしていて無理でも日本との連絡再開通後、特地語を習得すればワンチャンあるかも知れない。

今度は騎士団のお嬢様方ではなく、食堂や商店で働く亜人女性が良いかも知れない。倉田のように獣娘を好む性癖ではないが、亜人女性は動物的可愛らしさと女性的美しさを兼ね備えている。

岩城の好みはウサギさんである。

 

そんな岩城が鐘塔近くに配置された155mm榴弾砲の傍らでで立哨していると、彼が見る遠くの雪山で何かが動いた気がした。

ここは敵地だ。何かあれば味方にも報告しなければならない。僚友の陸曹に何かが動いた山の方角を伝え、暫く見ていると彼等は気付いた。

山を転がっている石や雪玉が動いたのではない。山そのものが動いているのだ。

が山の異変を察知して評決帝城前の加茂に伝え、その知らせは即座に三角ら攻撃隊に伝えられる。

 

 

*  *                            *  *

 

 

ファルマート大陸の大魔導士と呼ばれる者は、すべからくその年代の平均的男女より筋肉量が多い。

この世界で年齢別筋肉量を計る術がないから知られていないが、レレイ・ラ・レレーナもその師匠も、広く名が知られた魔導士はその素性や生い立ち、レレイの場合は伊丹や他の仲間達と旅をしたことで、同年齢の女性より多いインナーマッスルを手に入れていたのである。

元々魔導士としての素養が高かったレレイ精神は、筋肉の鎧という絶対的安心を手に入れたことで揺らがなくなった。

筋肉とは、魔導士にとっての精神安定剤だったのだ。

嘗て、日本の(ことわざ)にも「健全な精神は健全な肉体に宿る」とあるように、人間が住む現理の世界において身体を護る為に筋肉を付けることは、様々なイレギュラーから自分を護ることに繋がる。

それが、精神を安定させる理由だ。従ってマッチョの魔導士がいたら、只者ではないと考えるべきだろう。

特地に来て、炎竜の存在を知ってから鍛え始め、今では鋼のような筋肉の鎧の上に竜甲の鎧を着ける火威の場合、霊各の高さより筋肉の安心感の方が遥かに高い。

アウラ・パル・ローゼンから人間大ゴーレムを嗾けられ、激突された火威は帝城の壁を突き破って山脈の空にまで押し続けられた。

兜跋を纏わず、防御魔法も使ってなかったら鍛えていても即死だったろう。

激突されて味方を巻き込むことはなかったが、機先を取られたのは心情的には痛い。

火威はこの人間大ゴーレムが今までの石でできた物と違い、金属で出来てることを理解した。咄嗟の反撃で殴った時の感触で解るのだ。

「遂にラスボスかよ!」

これで中ボスだったら困る。

高速で移動するから空の風景が濁流で流れる水の如く過ぎ去っていく。

そんな中でも火威は敵を倒すべく64色小銃を零距離で幾度となく発砲。穴を穿つことを期待するが、敵の表面には凹みは出来ても穴は空けられなかった。

材質はこの世界の神銀と言う奴か……。

ロゥリィのハルバードやモーターから賜った大剣と同じ材質なのだろう。

それが解っても火威には負けるつもりは無かった。ここでこの敵を倒さないと自衛隊にもファルマートに住み生ける者達にも勝利はない。ロゼナクランツの為政者が勝つと、火威に期待を寄せた者達に未来は無いのだ。

敵の剣撃を往なし、攻撃を掻い潜り火威は尽きた攻撃手段に縋る。

「どっせやァッ!!」

既に爆轟を封じた杭の尽きたパイルバンカーで敵の胸郭に当たる部分を貫く。

爆轟を封じた杭は尽きたが、兜跋の肘の部分に封じた爆轟を爆破させ、加速度を得たパイルで貫いたのだ。

山脈の空に火威の血飛沫が舞うが、彼の腕はまだ切断されてはいない。肉が吹き飛び骨が砕けただろうが、使徒の眷属故にすぐさま傷の再生が始まる。

すぐさま大剣で首を撲るように叩き付けると、ゴーレムの首が砕けるように頭が捥げた。しかし、敵の活動はまだ停止しない。それどころか頭部という人体で最も重い部分が取れたことでゴーレムの動きは俊敏を極める。

火威は守りに徹し、急ぎ戦術を練る。

火威がリーリエやサリメルと共にマリエス防衛用のゴーレムを作った時、ゴーレム各所に呪刻をした。

このゴーレムは表面からは見えない内部に呪刻が施されているのだろう。

そのことが推察できた時、火威は手っ取り早い一つの討伐手段を見つけた。

赤く長かった外套は破れ落ち、胴巻きと右の籠手も剥がれたが左籠手に付けているウインチギミックは健在である。車両の牽引用と高所からの降下ように作らせた装備だが、数々の魔法のお陰で使用する機会がなかった。

手刀による刺突を躱し、その腕にウインチギミックの鋼鉄製ワイヤーを絡めて敵の行動範囲を奪う。続けざまに回転する特殊剣を叩き付けたが、4振繋げた内の2振はヒトが鍛えたものだ。しかも、それを繋げたのは火威という溶接の素人である。バラバラに分解された特殊剣の中の1振で、モーターが鍛えた大剣を中で握るとそのまま叩き付けた。

「……!!」

必死に、反撃を最小限の動きで被るダメージを抑えながら大剣を振るが、今の火威にはそれで十分だった。

「くぉおらっ!」

ワイヤーを搾る窪みさえ出来てくれれば十分なのだ。頭部を捥いだことで絡ませ難くなってしまったが、これで金属のゴーレムから自由を奪うことが出来るのだ。

「ッ最後は!!」

敵の胴体に大剣の切っ先を突きつけ、爆轟で加速度を増して突き込む。鍔の部分が釘の頭の役目を果たし、ロゼナクランツのゴーレムは山脈の山肌に縫い留められた。

だが、起動そのものは停止していない。

火威は風の精霊を使役して、ゴーレムの直上に大きな雷球を召喚する。

気が付けば、火威が着用していた兜跋の脛当てからと甲靴以外の全てを破損し、喪失していた。

 




どうも、筋肉小説です。
…………………
今回、5000字無かったわけですが、もしかしたら後2話くらい必要かも知れません。

…………
……………………

あ、ハイ。スパロボしてないでちゃんと書きます。
ただ飢狼とエロンダムもあるので、優先順位は当方が勝手に決めちゃいます。

あぁ、それとトーデインが云々のところで解り難い表記がありますが、これまでを読んで頂ければご理解頂けると思います。

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