ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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前回の投稿から5ヵ月近く経ってしまいました。
春中には3部終わらせると言ったのに、もう夏真っただ中ですよ!?
しかもまだ終わりませんよ!

でもあと1話で終了です。


第四十話 超常

ロゼナクランツの氷の城からアウラに諭され、敵であるジエイタイが開いた同一世界を繋ぐゲートをくぐったミュドラは、多くの種族の男女が忙しなく働き回るアルヌスの丘に逃れていた。

ミュドラが知ってるアルヌスの丘は、聖地と呼ばれてはいるがただの丘だ。それが、今は巨大な街が出来ている。

見回せば町を案内するための立て札がある。見れば、この街には複数の神殿が建立され、その数だけ亜神もいるようだ。

先の戦争中、ロゥリィ・マーキュリーがジエイタイと行動を共にしていたことは知っていたが、今やアルヌスにはロゥリィの他にハーディーに仕えるジゼルや匠精マブチスとして知られるモーター・マブチス。それに樹神ワレハルンが居るのである。

アウラの話では、氷雪山脈にはフレアの使徒であるグランハム・ホーテックも来ているらしい。

トーデインが世界の神々に挑戦しているのは判っていたが、現在地上に降臨している亜神の過半がジエイタイと行動を共にするとは予想外だった。

そのアウラによれば、ファルマート全体で降臨したことが知られてない神まで相手に協力しているのだという。

アルヌスを見れば解るが、ゾルザルもトーデインも数年しない内に巨大な街を創る相手に勝とうという目算が無かったのだと、ミュドラは理解するしかなかった。

本来は炎龍から逃れた難民のうちの、身寄りのない子供や老人(+その他)の作った難民キャンプが始まりで、その後にアルヌスに来た多種多様な種族の者達がそれだけの活力で造っていったのだが、アルヌスの街の成立は物語の最初の方で説明しているので、ここでは割愛させて頂く。

ミュドラはこれから己が生きていく道を考えなければならない。

帝都やテルタに戻るのは拙い。そんな所に行けば、いつミュドラの顔を知っている人間に遭ってしまうかも知れないのだ。

そもそも行くのに路銀が足らない。

ならば、行くのは前の戦争で正統政府の臨時首都となり、ニホンから輸入された品々を大陸の各都市に運び入れる際に関税を取って潤ったイタリカか。

流石に、ついさっきまで敵として戦っていたジエイタイがいるアルヌスで生活していこうとはミュドラは思わなかったが、イタリカに行くにしてもそれまでの食料をどうにかしなければならない。

アウラの精霊魔法によって暫しの不可視化し、既にジエイタイによって制圧されている氷の帝都の前に開かれたゲートをくぐったミュドラだが、今はもう姿は見えている。

アルヌスは巨大な街だから、探せば宿もあるだろうし働き口もあるかも知れない。ミュドラはイタリカに向かう前に、心許ない身銭を稼ぎたかった。

ゾルザル派帝国軍の将だった頃は、兵站幕僚としての才覚を遺憾なく発揮した。

兵站とは後方の軍の諸活動・機関や諸施設を総称したものであるが、部隊の移動と支援を計画し実施し活動を指す用語である。

また、兵員の展開や衛生、施設の構築と維持など多岐にわたる。

その才覚を商売に応用すれば将来への展望は拓けるのではないだろうか? もちろん、目立ってはいけないから稼ぎも程々にしなくてはならない。

「なんだあれは……」

ミュドラが見たのは、長大な長槍を2槍携えた2頭の鉄の怪物がミュドラが通って来たゲートに向かって行く姿だ。

 

 

*  *                             *  *

 

ロゼナクランツの本陣とも言える氷の城の上空を埋め尽くす翼竜の大群に、曳光弾の閃光が吸い込まれる。

74式戦車の車載武器であるM2重機関銃からの攻撃だ。

龍種の中で一番小型の翼竜と言えど、12.7mm弾でなければ傷付けることもできない、当たり処が良く無ければ斃すことが出来ないのだ。

攻撃隊にほとんどの人員を就かせたのは失敗だった――――。

氷雪山脈に派遣された第二戦闘団の長、加茂・直樹は痛恨の思いを噛み締める。

先程、攻撃隊からの通信では今回の事件の首謀者あるトーデインという人物が死亡を確認したことが知らされた。異常が起きたのはそれからだ。

サガルマタに展開する第一戦闘団の特科中隊からも、山の異常を知らせる連絡がきたのも自身の眼前で起きた異常と同じ頃だ。

特地に来てから2年以上経過し、この世界の常識に慣れてきたと思った加茂だが「魔法」というものの神髄を理解するには程遠いことを思い知らされた。

そもそも魔法というイレギュラーなものを簡単に理解しようというのが甘かったのだ。或は、伊丹の奴なら…………。

そんなことを考えた時、加茂の判断は決まった。

いや、決まったというよりも、当初の予定を確たるものとしたのだ。

攻撃隊の全ての人員が帰還するまでゲートを守り抜く。その為にアルヌスに少数の人員を向かわせ、救援要請したのだ。今少し敵性生物を抑えれば、必ず状況は変わる。

「一佐、来ました」

副官である柘植の声に、闇の中に光明を見たかのような錯覚さえ覚えた。

拡大された門の向こうから、2両の87式自走高射機関砲が走ってくる。

日本に通じる門の再建作業中だというのに、レレイ・ラ・レレーナの手を煩わせてしまったようだ。その手数は無駄には出来ない。

対空迎撃能力の高い2両は、計4門の機関砲で次々と小型ドラゴン――翼竜を墜としていく。

翼竜との距離は自衛隊が特地に大部隊で初めて来て、その直後に起きた戦闘時に帝国や連合諸王国軍を相手にした際よりも、遥かに近い。

近付かれる前に倒しきれるか? それが山脈に派遣された第一戦闘団の隊員すべてが懸念していることだ。

また一体の翼竜を撃ち落とした時、南西の空で加茂の目が眩む程の光の玉が花開く。現場の指令である加茂はその異常を留意しつつも、目の前の敵の掃討を急いだ。

2両の高射機関砲とM2重機関銃の弾丸が上空で群れる翼竜に突き刺さり、その身を貫く。

その群れの一部が、不意に降下した。

「機関砲待て。降下したヤツは狙うな!」

機関砲で撃ち抜くことも出来るが、下手すれば味方が侵入している城を崩してしまう。敢えて、近くまで接近させてから撃ち抜くしかない。

今し方南西の空を走った閃光は気になるが、これ以上の敵を相手するのは難しい。

降下した翼竜の頭が加茂ら隊員に向いた時、氷の城前から放たれた曳光弾が竜の翼を貫くのが見えた。攻撃隊の自衛官達だ。

「ナサギ、前には撃つなよ。同士討ちになる!」

三角一曹の叫びを聞きながら、ケネジュの戦闘で傷付いた後に戦闘型エティに生まれ変わったナサギがM197機関砲を上空に向けて撃ちまくる。

2頭、3頭……次々と翼竜を撃ち落とすナサギや残ったLAMを発射する特選群の男達。それとは別にサリメルやリーリエが爆轟を放つが、依然数は多いままだ。

そして、遂にナサギが撃つ機関砲の弾丸が尽きた。

攻撃隊にとって攻撃と牽制を担ってた手段が尽きたことは大きい。

そこに突っ込んでくる翼竜を経口の大きい拳銃で向かえ、地上近くまで来た時にロゥリィがハルバードで叩き潰す。

しかし、それは一頭だけではない。ロゥリィは2頭目を撲るようにして突進を受け止め、隙を見て頸を撥ね飛ばすが3頭、4頭目と続くと対応が遅れる。

3頭目はジゼルが受け止め、支えているが4頭目を諸刃の斧で両断したのは栗林だった。

「でやぁぁあ!」

信じ難いことに空中で両断した翼竜を足場にして、続いて襲来する5頭目の腹を裂く。6頭目の頭蓋を粉砕する斧の重さは如何ばかりか。彼女の腕力を物語る。

正にそれはヒトが神に近付きつつある光景だ。

「なんて女だ!?」

鹿系亜人もユエルも味方の所業に目を剥いた。

ロゥリィが7体目の翼竜を空中から叩き落とし、栗林が8体目の首を足を掛けて絞めてから頭部を潰す。高度はあるが、骸となった竜を蹴って離れると身体を張って落下の衝撃に備える。

「落ちるぞ!」

鹿系亜人は栗林が落下するであろう地点に急ぎ、彼女を受け止めようとした。

栗林という女の戦いぶりを間近で見ていた攻撃隊の他の者達ならば、手助けするまでもなく受け身を取るであろうと感付くのだが、鹿系亜人の男には、「これを切っ掛けにお付き合い」等という下心が多分にあった。

意識しての行動ではないのだが、普段からしてる(そして失敗)行為をしてしまったのである。

過去にサリメルという過去唯一の成功があったから、無駄ではないかも知れないという思いがあった。

だが突然来た火威が鹿男を弾き飛ばして栗林を受け止める。

「すまんな。嫁入り前の妻を他の男に触らせる訳にはいかん」

火威が来た後、轟音が追いついた。魔法と鎧で空を飛べるようになった火威は、遂に音を置き去りにしてしまったらしい。

尾を引くように発生した衝撃波が翼竜の群を引き裂き地に落とす。

「くっそ! おい貴様! 何をする!」

吹っ飛ばされた鹿男は柔らかい雪の中に突っ込んだが、衝撃は吸収しきれなかったようだ。或は地面に叩きつけられたせいか、血だるまになっている。

だが怒りをぶつける元気があるから大丈夫だろう。そう火威は判断する。そして栗林を自分で立たせた。

「火威三尉、やっぱり無事だったんですね」

「ハンゾウ!どうやってあのゴーレムを倒したんじゃ?」

複数のことを一度に多方向から言われた火威の鎧は、脛当てと竜甲で守られた靴以外が全て破損している。

「後で説明する。それより今はこいつらをどうにかしないと」

目の前の翼竜達がジゼルの連れてきた奴らではないことは、彼女が空中で大鎌を振るい竜を狩ってることからも解る。

トーデインは自分の死と同時に飼ってた翼竜が解き放たれるのを連動させていたのであろうことは想像できる。

「ほら! 今の内に」

4つの光輪を列べて空に爆轟を放った火威が近くの陸曹の背を押す。

「南雲二佐、お願いします!」

南雲は火威が言うまでもなく、了解すると加茂達本隊との合流を急いだ。

「サリさんも南雲さんと行って。サガルマタの部隊をアルヌスに退かせて」

「リョーカイじゃ」

サリメルに指示を出してから、火威は大剣を担いで減りつつある翼竜の大群に向かう。

「貴様!どういうつもりだ!?」

鹿男が五月蝿いが、構ってる暇はない。

「後で! 話なら後で聞くから!」

目の前の敵集団を排除するのが先である。衝撃したのは火威が悪いのだが、自分の新妻を触ろうするのは容認できないというのが彼の意見だ。

飛来する翼竜を大剣で叩き斬ろうとするが、刃は既に潰れて生物であれ物が斬れる状態ではない。

64式小銃で竜の顔面を撃って牽制すると、距離を取ってから大剣で殴り撲殺。

ただの鈍器と化した大剣で撲殺し続けていると、効率は良くないが確実に竜は減っていった。

見れば、アウラとかいう黒髪のエルフまでもが空に向けて攻撃魔法を放っている。

トーデインの首を持ち、奴を呼び捨てにしてたから叛意があったのは明白だが、ファルマートの神々の中ではどのような扱いになるのか、自身の主神であるロゥリィの判断を待つしかない。

「これでラストォ!!」

最後の一頭である翼竜の頚骨をへし折ると、それに向けて光が降り注ぐ。

味方で魔導の心得のある者達が過飽和とも言える攻撃魔法を放ったのだ。

火威は危うく爆発に巻き込まれるところだったが、寸でのところで爆風の範囲外だった。

 

*  *                             *  *

 

差し迫った脅威であった翼竜の大群を殺し尽くした火威達攻撃隊は加茂達との合流を果たす。

そこで彼らに聞いた話は、サガルマタに展開している部隊が山が動くのを目撃したという、俄には信じ難いものだった。

しかし、攻撃隊の者達もそれを事実とした上で次の行動を考えなければならない。

ファルマートの魔導士は、これまでも日本人達の常識を越えてきた。山を動かすことくらいはしてくるかも知れない。

「やはりここは」

加茂が誰となし口を開く。

「行ってくれるか。火威」

「や、あの、ここは死なない神様が行った方が……」

何が起きるか。どんな仕掛けがあるか分からないので火威としては遠慮したい。

この後、結婚という人生の一大イベントが控えているのだ。サリメル辺りなら気楽に偵察してきてくれるんじゃないかという気がする。

「妾飛べないから。やはりハンゾーしかおらんじゃろ」

サリメルを指名した訳でもないのに、サガルマタの部隊をアルヌスに撤退させてから来た彼女は火威が適職だと加茂に奨める。

「俺も今は余り飛べないっすよ。鎧が壊れてるから」

物体浮遊の魔法を生体に向けて使うのほ危険なのだ。

「さっき飛んで来たじゃろ」

「味方が敵襲を受けてましたから必死でした。竜甲の靴に掛けましたけど、もう一度やれと言っても出来ません」

危険なことなので、特別手当が出てもやる気は無い。

そう火威が答えた時、リーリエの古い先祖らしい黒髪のエルフ・アウラが言う。

「お前らが山だと思ってるのは東方から持ち込まれたこの世の災厄だ。龍の類いではないが……ハンゾーとか言ったな? お前がどうにかしなければヤツは世界を呑み込むぞ」

サリメルが口にした火威の下の名前しか知らないエルフの女は、そう言って火威に脅しを掛けた。

未だ日本と開通してないのだから、世界を呑み込むということは火威の大事な将来の妻である栗林も危ない。危ないというか、火威本人共々確実に命はないだろう。

「火威、可能なのはお前だけだ」

「そうじゃ、早よ行ってみれ」

加茂の言葉をサリメルが押した時、彼等が居る地点から遠くの地形が動くのが見えた。

サガルマタの特科高射部隊は山が動いているという報告を出していたが、正にその通りだ。遠くの山が雪とは違うグレー一色に覆われている。

光の精霊魔法で拡大して見ると、灰色の大地のように見えるものは絶えず蠢き、胞子のようなものを飛ばしながら拡大しているようだ。

「腐海かよ……!」

これを見て、火威は即座に加茂に次のように伝えた。

「サガルマタから撤収した部隊員を直ぐに診療所に向かわせて下さい。胞子を吸ってないか検査しなくてはなりません」

実際に粘菌かどうかも判らないので「胞子のようなもの」が正しいかも知れないが、診療所で身体検査をしなくてはならないのは確かだろう。

「あと、彼らと接触した者も全員です」

これを聞き、加茂は脅威がどのような存在か理解した。病原体の可能性を疑ったのだ。

「了解した」

「それと、全員アルヌスに撤収して下さい。あとは俺が何とかします」

「おい貴様! オレの話を……!!」

「お前も死にたくないならアルヌスに行っとけ! 後で相手してやる!」

喧しい鹿男には約定を付けて押し返す。あとは空手形にならないように努力するだけだ。

「火威三尉」

見れば将来の妻の栗林だ。手に何か持っている。

「これを……」

そう言って栗林が差し出したのは、先程屠殺した翼竜の甲皮だ。どう見ても転がっている死体から今し方、剥ぎ取ってきたものである。

しかし、身体を覆う物が増えるということは火威が使う魔法には有難いことだ。

そうして氷雪山脈に派遣された自衛隊と薔薇騎士団を始めとする帝国の部隊は、火威を残してアルヌスに撤退したのである




次で3部最終話ですが、短いと思います。
出来るだけすぐに投稿したいのですが、最近ピクシブでゲート小説を書き始めたので少し遅くなるかも知れません。

向うは18禁で、しかも本作ヒロインのクリボーとちょい役の黒川茉莉がヒロインです。
エルフショタ(?)チンポでビッチ(?)堕ちする話です。クリボーの小説はあったのですが、リョナしかないのでWINWINなの書いてます。

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