ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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昨日に続いて投稿です。


第二話 ロゼナクランツ戦後処理(下)

洞窟の外側には何の動物もいなかったのだが、深部には「精霊蟲」という蟲獣の一種が生息していた。

蜘蛛に蠍の上半身をくっ付けたような、見た目グロテスクな生き物のことはサリメルが知っていた。

変わった生態を持っており、人間との共生が可能なのだという。元々東方に生息していた生物で、サリメルとロゼナクランツに加担していたアウラがファルマートに連れて来たらしい。

「サリさん、あんた気軽に自分の住んでる大陸の生態系を変えるね」

「そうか? 精霊蟲は見た目はあんなのじゃが、気性の穏やかな蟲で花や果実しか喰わんぞ」

精霊蟲が生息する上で作られる生産物は人間にとって非常に有益な物で、マリエスの新たな特産になるだろう……そんなことをサリメルは言っている。

あんな明らかに悪魔属性といったかんじの蟲が何を作るのかと思うのだが、サリメルが言うことだからエロい話じァないのかと穿ってしまう火威である。

その後、リーリエとサリメルは穿門法で繋がっていた帝都に移動する。彼女達は暫く帝都を見分していくという。

もう陽も暮れてきたので、火威はアルヌスに帰ることにした。

 

*  *                             *  *

 

火威がアルヌスに帰還すると、課業の時間は既に終了していた。

休暇の筈なのに、まるで休めてない。もっとも、休みを貰っても体力のお化けである火威は暇をもて余すだけなのだが。

しかし見れば課業が終わったというのに未だ働いてる者もいる。

「俺も何かやった方がいいのか……」

そんな風に思った時、姫路という女性自衛官の一尉が火威の元に来た。

「火威三尉、後日帝都に滞在している外務省の菅原さんへ、過日の作戦の報告をお願いします」

「昨日までのヤツですか?」

最近火威が参加した作戦は、大祭典を除けばロゼナクランツ戦しかない。

アルヌスにファックスがあるにはあるが、電気が貴重なこととイタリカにファックスがないことから直接届けに行くしかない。

休暇中なのだが……火威は思うことがあるが、イタリカならすぐなので近所を散歩する感覚で行ける。火威限定の感覚だが。

明日にでも行こうと、火威は今の任務を了承した。

 

火威は愛妻である栗林を誘うと、二人してアルヌスの食堂で一番安いメニューを食ってから、二人はやることもないので大人しく家に帰った。

ちなみに一番安いメニューは日本で言う粟や(ひえ)にあたる植物で、それらを煮炊きしたものだ。

実のところ、粟と稗などの雑穀は優れた栄養素を持ち、天然のプロテインとも言える穀物である。これらを食べていた昔の日本人の身長は低いものの、欧米人に劣らない非常に強靭な肉体を持っていた。

昔、貧乏だった火威家では粟と稗が主食だった。白米など暮れや正月にしか食べれなかったのである。

それを、まさか特地で目にするとは思わなかった火威だ。マヌガ肉を添えたりするが、懐かしく馴染み深い味は中々切り替えることができない。栗林もアルヌスでドワーフが作り始めた酒類を買うということで、同じメニューだ。

食後は街の中にいてもやる事が無いので、火威と栗林は素直に忍者屋敷に帰宅。

水の精霊と火の精霊を使役して湯船を沸かせ、栗林とは別々に風呂に入ったのだが、やはり同棲初日というのは変な気分だ。

氷雪山脈で戦ってる時はあれ程恋い焦がれ、彼女との未来の為を含む様々な理由で戦ったのに、その彼女がいざ隣りに居て手を伸ばせば触れれる近さにいるのに、気恥ずかしさがあるのか手が出ない。

このまま居ても様々な理由で寝れそうもない。体力が余り過ぎるというのもあるが、敢えて言うならば性欲を持て余すのである。

「志乃さん。ちょっと、出掛けてきます」

既に歯も磨き、今は夜半と言える時間帯だ。後は寝るだけなのだが火威は再びアルヌスの街に出て行ったのである。

 

*  *                             *  *

 

アルヌスは特地の中では賑やかな街だが、流石にこの時間ともなると灯りが点いている店は限られる。

火威はその灯りの中に、伊丹の両脇にロゥリィとテュカが座っているテーブルを見つけた。

屋台とも違うが、3人はここで並ぶようにして飲んでいるようだ。

美少女2人(実年齢はかなり年上だが)を両脇に座らせるのは男なら誰しも憧れ妬むシュチュエーションだろう。だが伊丹がそれだけの実績を築いてきたのを知っているし、状況だけなら火威自身も似たようなことがあって困ったことがあったので羨ましがることはない。

何時もならレレイも居る筈の状況なのだが、彼女は連日の疲れが溜まっている可能性が高い。なので、火威はロゥリィに山脈で助勢してもらった礼をするのも兼ねて向かうことにした。

「どうも、今晩は」

火威を最初に見つけた伊丹は「よっ」と何時もの調子で挨拶を返す。

「栗林はどうだ?」

以前は自分の隊に居た部下が気になるのか、伊丹は火威にそんな質問をする。

「中々しおらしくて可愛いですよ。付き合って、実際に結婚してみると良い女ですね」

「そ、そうか」

言葉が微妙に詰まったところから察するに、どうも結婚後の栗林は伊丹の知っている栗林像と違うらしい。大祭典直前の暴走から考えれば火威の想像とも違うのだが、似たような趣味があるから気が合うのかも知れないと考える。

火威が近付く前の彼等の会話は、エロフの地獄耳を持たない火威は風の精霊を使役して集音するこも出来たのだが、任務以外でやると単純な盗み聞きなので素直にどんな話しをしていたのか質問した。

するとテュカが「今はレレイの“たーん”って話をしてたのよ」と教えてくれる。

「あぁ、前はテュカのターンだったね。バーレントに行ったんだっけ?」

すると1ターン目の大祭典は聖下のターンか……。いや、その前にピニャ殿下のターンがあったか……そんな思考を巡らす。

ちなみにダークエルフのヤオのターンは資源調査中に来ているので、気になる人は原作の外伝+を買って読んで頂きたい。図書館で借りるのは本屋と原作者様に利益が出ないので、控えて頂きたく思う。

「でも収穫したのを食べるのがレレイっていうのもねぇ」

ロゥリィはやはり不満らしい。二尉は野菜か何かっすか、と突っ込み入れたい衝動を抑え、火威は言う。

「それじゃ皆さんで味わっては?」

勿論、伊丹をである。サリメルなら絶対にエロい意味と捉えるのだが、ここに居るちゃんとしたエルフと女神はそうでなかった。伊丹は焦るが。

「ちょっ、ちょっと待て! 重婚しろとか言うのかっ!」

「流石二尉。その通りです」

「ニホンでは重婚が認められるの!?」

「いや内地は一夫一妻だけど、アルヌスは州だし」

だから州法という物になるのではないかと火威は想像する。

実際、地権や刑事・民事の法は日本の法律ではなく、元から土地に存在したものを尊重して使っている。

そして婚姻に関する法律はまだアルヌスでは明確に制定されていないのだ。

ならば、法律が決まってない内に既成事実化してしまえば良いのではないか?

火威はそのように考えたのだ。

「ヒ、ヒオドシィ……あなた結構強引なのねぇ」

愛の神に退かれてしまったが、3人娘(場合によってはあと2人)の想いを成就させて丸く収めるにはこの方法しかない。

「あ、門が再開通したら元の奥様も呼び寄せてはどうです?」

伊丹が結婚してたことは栗林から聞いている火威は、善意ではあるが伊丹に容赦なかった。

「待てっ! 待て待て!」

伊丹はこの提案に狼狽える。日本人の口から一夫多妻を推奨するような言葉が出るとは思わなかったからだ。

「良いじゃないっすか。こっちの人間で実際に複数人と同棲してる人、居るじゃないですか」

こっちの人……というのが、テュカには何を意味するのか分からない。そもそも伊丹と火威はファルマートの言葉と日本語を織り交ぜて会話するので、何を言ってるのか分からないことすらあるのだ。

「いや、あれは剛毅過ぎるだろ。というか火威もジゼルとも結婚するのか!?」

思わぬ反撃に、火威はたじろいだ。

「そうねぇ…。サリメルも火威な熱い視線送ってたわよねぇ」

ロゥリィからの支援射撃を喰らって、火威はあっさり白旗を上げた。

「待ってくださいっ。俺は志乃と新婚ですよ。栗林ですよ……。他に女作ったら俺がどんな目に遭うかッ!」

法的にOKでも、火威がいくら彼女を愛そうと、栗林の根っこは予想以上に女である。

異常に筋肉質でも、ゴリラより強くてもこれ以上無い程に性根は少女のように真っ直ぐな女の娘なのだ。

自分以外の女も愛そうという男に対してどんな制裁を加えるか、大祭典直前の彼女の所行を見た者なら分かる。

「あいつ、山脈の戦闘でミノタウロス殴り殺してましたよ!!」

「マジか!?」

既に報告書は隊に提出されてると思うが、戦闘の最中の出来事なので記されてるかは怪しい。

いや、巨大怪異を一撃で沈めるという人間離れしたインパクトのあることだから、書かれるかも知れない。グレイやヴィフィータ、そして薔薇騎士団の女性方や多くの攻撃隊自衛官が見ていたのだ。

栗林はその前後にも敵の怪異を鹵獲した武装で纏めて屠る狂戦士的戦いを見せている。

「だから、ちょっと俺は無理です!」

栗林のマジ殴りを食らったら、ほぼ確実に即死する。首が吹っ飛ぶ。

だから無理なのである。

ロゥリィはニヤニヤしてたが、まぁ火威が選んだ道だから仕方ない。お気の毒様と思いはすれど、掛ける言葉もないのでこの話は沈静化していった。

 

*  *                             *  *

 

下手なことを言ってイレギュラーを経験した火威は、自宅に戻って四階の天守閣を目指す。

そこは以前から寝室として使っていたが、今日から栗林と夫婦の寝室として使うことになる。

「ただいま~。志乃さん寝ちゃったー?」

栗林に対して未だ敬語なのは「親しき仲にも礼儀あり」を地で行ってるからだ。

更には夫婦関とは究極の他人同士であるから、良好な夫婦仲を保つ為には幾ら仲の良い夫婦でも一定の遠慮を持って接することだと考えている。

火威が見た栗林は、まだ起きていた。

そして少し顔が赤い。

照れてるのかな? と、思ったら、彼女の傍には酒瓶が転がってる。

閉門前から保持していた瓶だろうが、そこにドワーフがこの世界で琥珀酒と呼ばれるウィスキーを(蒸留してないから透明なまま)を目指して造ってるものを買って注れてもらったのだろう。

それを彼女は早速開けて呑んでいたのである。

瓶にどの程度入れたのかは不明だが、ボトル一本空にしてるから酒豪と言える。

いや、酒が大好きな彼女だが、酔いが回るのは結構早いような気がする。彼女と付き合ってるうちに酒が呑めるようになった火威の方が、実はザルと言えるくらいの酒豪疑惑が出ている。

「はんぞうさぁ~ん、お帰り~」

彼女の足元が心配なので火威が慌てて抱き止めたが、酒臭い。

聞くところによると男より女の方がアルコール中毒になり易いとも言うから、こういう呑み方は辞めてもらいたいところである。

「あなたぁ~」

栗林が甘ったるい声で甘えてくるが、次の一言が威力を隠していた。

「抱いてぇ」

「いや、待って。何言ってんの!?」

「赤ちゃん作りましょうよぉ……」

或は、これを言う勇気を得る為に呑んだのか?

そして酔って酒臭いとは言え、上目遣いの可愛い妻の要求を躱せようか?

いや、栗林は正気を失ってるから、ここで抱いたら明日の朝が酷いことになる。

「志乃さん、俺……特戦どころか第一空挺団にも入ってないからちょっとそれは……」

「はんぞうさんなら確定ですよぉ」

実際、魔法なんて超特殊技能で山をいくつか生身で吹っ飛ばす隊員というのは、過去に例がある訳ない。そんな人間が居てたまるかと言うくらいレアだ。

敵地潜入から脱出まで完全に個人の力のみで完遂できる隊員など、機密中の機密だろう。

「えぇっと、それじゃ志乃さん。明日、酔いが冷めても大丈夫なように念書書いてくれる? 判子は拇印で」

「ボイン? 良いですよぉ!」

言うと栗林は着ているTシャツを脱ぎ、その大きな中身を火威の前に弾け出させた。

「スイカぁ!?」

一瞬思ったが、迷彩柄のブラだ。ただのブラジャーである。勢いよく張り出した爆乳が、冬という季節が来たファルマート大陸にある筈もない瓜科の食用果実に見えたのである。

「ぁぁ……ボインはボインなんだがね、取り敢えず志乃さんが自分の発言を忘れても良いように一筆書いてもらおうと……」

彼ら新婚夫婦の夜は、これからが長かった。

 

 

*  *                             *  *

 

夜間警戒の兵士以外の多くが寝静まった帝都の少し高級な宿。

そこで苦痛に呻く女の声が聞こえる。

「ぐっ…! ぐぅ!! た、助けてくれェ~!」

「サリメル様!?

同行者の異常に気付いたのは、金糸の髪を持つリーリエだ。

「一体何がっ?」

「解らぬっ! だが、締め付けられるような苦痛がッ!」

サリメルは自身の股間を抑え、脂汗を流していた。見れば、彼女の股間は血塗れになっている。

「これは…!」

「どうやら…リーリエ以外の眷属に何かが……!」

余程の激痛なのか、千年を越える時を生きたサリメルの言葉が続かない。

やがて股間から痛みが消えたサリメルの顔から、血の気が引いた。

「と…取れ……!?」

自分のローブの内側に手を入れ、その手を引っこ抜くと小さな肉片のようなものが摘まれている。

「取れたァー!?」

真夜中に実に喧しいことだが、男のナニに当たるサリメルのナニが捥げてしまったのである。

急ぎ、穿門法でマリエスまで門を開くとアロンは御苦労なことに仄かの灯りで手紙を書いていた。交易相手である都市の責任者に対する、今回の動乱で輸送できなかった雪肝の謝罪文と、今後の予定を相談する手紙を書いていたのだ。

「サリメル様!? こんな真夜中に一体なにが?」

「いや、無事なら良いんじゃけどな」

サリメルのローブの股間付近が血塗れなのを知りたいアロンである。

しかし門は直ぐに閉じられた。

「アロンは平穏無事ッ……となれば異常はアルヌスで起きたのかっ」

ちょっと帝都で物見遊山する気満々だったが、計画が早まってしまった。

「リーリエ、明日になったらアルヌスに出発するぞ」

「サリメル様、明日とは今日ですか?」

サリメルの野心は、先日から静かに蠢き始めている。

 

*  *                             *  *

 

早朝のアルヌス。

東からのご来光のを望む忍者屋敷の地上階で、火威は煎豆茶を淹れていた。

煎豆茶とは最近アルヌスで飲まれるようになった、アルヌスより東の地域から入るお茶だ。

火威はこれを眠気覚ましのコーヒーのような嗜好品として飲んでいる。

昨夜の栗林との初めての夜伽は、それこそ眠気が冷めるような強烈さがあった。

上の方は実に揉み応えのある極上の乳と言ってよい爆乳なのだが、前戯を済ませて子作りとなると話が違った。

まぁ話なんてしてないから違うの何もないのだが、火威を待ってたのは純然たる暴力だった。

いや、栗林にはその気が無いから“純然たる”は取り消そう。

だが、栗林はある意味で名器だった。

拷問器具という意味で名器である。

妻は、正に全身凶器だった。それを知ってた筈なのに「そんな所まで!?」と、気付くのが遅すぎた。

小柄な体格なのに火威のビッグサーベルを根元まで咥え込んだかと思うと、プレス器のような圧力を発揮してくる。

潰されるかと思った。

捥げるかと思った。

白いのではなく、赤いのが出てたんじゃないかと思う。

神の眷属でなければ根元から棒が無くなっていた。まさか巨大剣にこんな弱点があるとは……。

ナニをしなくても今の日本は人口受精というものがあるから、栗林が妊娠することは出来るだろう。

しかし、あそこは子供が産まれる時に通って来る道である。

出産の時に、大事な子供が砕かれてしまうんじゃァないだろうか? 栗林には隊の訓練以外で下半身を鍛えるのを止めて貰わなければならない。

煎豆茶に口を付ける彼の表情は暗かった。

朝焼けの中、火威が飲むアルヌスの煎豆茶は苦い。

 




すいません。昨日の後書きで精霊蟲がまだ出てないのに精霊蟲の話してしまいました。
飢狼の方に出てくる予定なのですが、蟲の活躍は暫しお待ち下さい。

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