翡翠宮での戦いは本作で一番長いんじゃないか、っていう部分だから連続投稿ですまん。
何だかんだ言って早く戦争を終わらしたいんですけど、この後はまだ三話も出来てないんです。
だからいよいよ投稿が遅めになるかも知れません。
遅くとも来年の二期スタート辺りからは…… (;''
ヴィフィータの命令に従って翡翠宮の敷地を守る兵は、帝権擁護委員の肩に担ぎ上げられてるシェリーをひょいと奪い取ると敷地内に居るニホンの外交官のスガワラに投げた。
「ほらっ、落とすなよ! 色男っ!」
取り返そうと手を伸ばす帝権擁護委員の掃除夫達。だが、その爪先が敷地内の芝生を踏んだ瞬間、ヴィフィータに斬り捨てられた。そして次の命令を下す。
「戦列を敷けっ!」
その命令を待っていたとばかりに、騎士団兵達は帝権擁護委員の前に立ち塞がった。その速さは平時の訓練の成果だけではなく、帝権擁護委員の横暴に憤り故のものも感じさせる。
「き、き、貴様ら、反逆するつもりか?」
ヴィフィータは鼻で笑う。
「俺たちの行動は外交協定に基づく警備行動で完全に合法なんだぜ。何者であろうともこの境界を越えるにはニホン国政府の了承が必要となる旨、皇帝陛下の勅令をもって定められてるんだからな。てめえらはニホン政府より立ち入り許可を得てるか?」
「罪人を捕らえるのにそんなものが必要か!?」
強引に敷地に入ろうとする帝権擁護委員は手にする箒を剣に持ち替えた。そして叫ぶ。
「蹴散らせ!」
その掃除夫の掛け声に反応するかのように、耳を劈く雷撃が帝権擁護委員の集団に衝き立てられた。
* * * * * *
「おぉおぉ、やるんか?」
一触即発だなと呟きながら、火威は翡翠宮の上階から外の様子を眺める。
いっそのこと騒ぎが大きくなってくれれば、悪所まで帰る理由を考えなくて済む。
だがそれで騎士団の花盛りの女騎士に犠牲や怪我人が出るのも忍びないので、戦闘の場合は自身も参加しなくてはならない。いや、参加させて下さい……と言うのが、このところ戦闘にご無沙汰な火威の希望であった。
とはいえ、自衛官である自身が戦端を切ってしまっては拙いので自重しておく。
先程までは翡翠宮に来た少女が菅原の名を呼んでいるだけに過ぎなかったが、今は菅原が少女(どうやらシェリーという名前らしい)を俺の嫁宣言したところだ。ロリに対しての趣味は無い火威であるが、今の内から嫁が決まるのは実に羨ましいと思う。
そのシェリーを荷でも担ぐように肩に担いだオプリーチニキから、これまたシェリーを敷地内に入れまいと、とうせんぼしていた兵士が奪うと菅原に投げた。
少女はそんな乱暴に扱って良いもんじゃぁないんじゃ……思う火威が見たのは、シェリーを取り返さんと敷地内に足を踏み入れたオプリーチニキが女騎士に斬り捨てられるところだった。
「お……」
出番か、と思ったがまだだ。女騎士と他のオプリーチニキが舌戦しているように見える。
実際にはそれほど密度の無い内容なのだが、火威の見ている場所からでは聞こえない。
まったく何時までも待たせやがって……沸々とした気持ちが、沸騰したお湯を湛える鍋の如く暴発しそうになる。
そのうち、オプリーチニキの中の偉そうな一人が「蹴散らせ!」などと叫ぶものだから
「ヒャァ! もう我慢出来ねェ! ゼロだ!」
分厚いガラスを叩き割るようにぶち割って外に飛び出す。のみならず、雷撃で敵兵一人を貫いて、落下する勢いそのままに二人のオプリーチニキを殴り飛ばした。
竜甲で作られた篭手で、しかも勢いを着けて殴られて失神で済むなら良い。だが現実は頭部が変形したオプリーチニキが無言で雄弁に物語っている。
稲妻と共に現れ、瞬く間に三人のオプリーチニキを倒した群青の鎧の男に薔薇騎士団もオプリーチニキも目を張った。その瞬間、時が止まった。
「URYYYYYY!!」
続けて手近な掃除夫に殴り掛かる群青鎧の男。一拍してその様子を見て唖然としてたヴィフィータも我を取り戻して励声を飛ばす。
「野郎共! 花嫁を守れっ! 抜刀!」
両軍が激突して戦闘が始まった。その間にも群青色の戦士は剣も持たず、目に付いた掃除夫を片っ端から殴り飛ばす。剣も矢も通さない竜甲の鎧を纏った彼が向かう場所には、洩れなく帝権擁護委員による血溜まりが出来ていった。
「トウシロ共が! 死に晒せやァ!」
悪鬼のような形相で、掃除夫共を次々と殴り殺す男。
「ば、化け物……」
掃除夫ならずとも、騎士団の兵とて同じことを思う。そして、これまで無抵抗の者ばかり相手してきた掃除夫達は軽装で、そこに予想もしてない乱入者が入ってきたのだ。どう考えても分が悪い。
逃げようとすれば仲間達に処断される。かと言って、向かって行けば確実に殴り殺される。
掃除夫達は、帝権擁護委員などに志願しなければ良かったと後悔した。
あとは奇跡が起こる事を信じて吶喊するか、常識的な装備の敵に斬られて、大した事も無いのに死んだふりするしかない。
だからか、戦闘が終わるのは至極早かった。
「ふぅ、スッキリしたぜ」
満足したかのように、一息吐く群青鎧の火威。
「あ、あんた……食料届けに来た人だろ?」
恐る恐るヴィフィータが問いかけると、火威は初めてヴィフィータに気付いたように振り向き、こう言った。
「……ただの良い人です」
* * * * * *
自衛官である事を隠して名前も言わなかったのは、戦端を開いたのが「もしかして、俺?」かも知れないと思ったからだ。
誰が見ても微妙なタイミングだった。しかしヴィフィータは、掃除夫が敷地に入った時点で戦端は開かれていたと言ってくれたので、改めて自己紹介出来る。
翡翠宮に食料を届けて、尚且つ菅原などの外交官や海上自衛官とも日本語で話しているので、誤魔化しても無駄だったのではあるが。第一、下半身は自衛隊の戦闘服そのままである。
「なんにせよ礼を言うぜ。あんた凄ぇ強いな」
ヴィフィータにそう声を掛けられ、「自衛隊には使徒みたいに強い女が居るよ」と返そうと思ったが、辞めといた。比較対象が間違ってる。使徒と連携を取れる自信は自分にはとても無い。
代わりに「日本国民を守ってくれるのだから、助力は当然」と答えた。
型通りの答えだと思ったが、火威の敵意はオプリーチニキにしか無い事が明確になったので、他の女騎士や騎士団の老年の兵達も警戒心を解いてくれた。
「あぁ、そうだ。死体片付けるなら先に武器だけ片付けるか、トドメ刺してからにしといた方が良い。死んだフリのヤツとか居るからさ」
何処までもオプリーチニキに厳しい火威であった。
しかし帝権擁護委員部は薔薇騎士団も火威も休ませてはくれない。翡翠宮の周りにバリケードを敷く時間はあったが、幾度の交戦を繰り返し、翡翠宮を守る兵力の中にも少なくない死傷者が出ている。オプリーチニキに多大な出血を強いた火威にも、若干疲れの色が見えてきた。
その死線の中、オプリーチニキが明らかに装備の違う兵を連れてきた事に気付く。一般の帝国兵だ。
「おい、待て!」
火威が声を張り上げて、その兵達を止める。
「自分らが剣を向けてる相手が誰だか判ってるのか? 皇女殿下の騎士団だぞ!」
「我々は反逆者を捕らえに来ただけだ!」
殺意満々で捕らえに来た、と言われてもツッコミ所しかない。
「だが不敬罪だよな。事の次第によってはお前らの首は無くなるが、良いの?」
帝国の法律などアルヌスやイタリカで軽く予習した程度の火威だが、皇族が存在するからには、こういった法律もあるだろう…そう予想しただけであったが、思いのほか効果が有ったようで帝国兵は物怖じするように引き下がった。
「何をしている慮外者! 軍は帝権擁護委員部に特別法に……!」
喚き散らしていたオプリーチニキの頭が吹き飛んだ。軍は帝権擁護委員部に協力しなければならないと特別法に記されている。そう言われる前に火威がアルヌスに居る時の少しの時間でレレイに学んだ爆轟で吹き飛ばしたのだ。
後ろから見ていた帝国兵には、不敬罪を犯したオプリーチニキの頭が爆発したように見えた。
「不敬罪に裁判は要らねぇよなぁ」
再び魔法式を展開する。その数は瞬く間に5つを超え、7つ、9つと増えていく。10を超えたところで、帝国兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
元々、モルトが倒れた後にゾルザルに追従する抗戦派元老委員によって作られた特別法で、帝権擁護委員部に無理矢理連れて来られた兵士だ。
見張る者が消え、数の優位性をもアテに出来ない今では本来味方である筈の薔薇騎士団に剣を向ける理由が無い。
火威も魔法式を解いた。展開するだけでも相応に疲れるのだ。それに今現在は15までしか展開できない。ちなみにレレイは30の魔法式を展開出来るという。
次の攻撃までには時間がある。ボーゼスやヴィフィータの指揮の下、バリケードを敷き直すことが出来る。
「もうちょっと効果的な防壁は出来ねぇものか」
「この辺りには資材になるモンもねぇからな。難しいかな」
火威の呟きにヴィフィータが答える。
「お、そういや油とかなかった? 俺が持ってきた食料とかの中にも」
「あぁ、それなら少し蓄えてるし、アンタが持ってきた荷物の中にもあった筈だけど……何に使うんだ?」
「うん、まぁ設置式の罠をな……」
ここに来て主人公が無双化です。
元々強めに調整してたから、不自然無い……ですよね?(;''
ちなみに今回とヴィフィータと11話のボーゼスと掃除夫の台詞は原作準拠です。
今回もご意見ご感想等御座いましたら、遠慮なく言って下さい!