筆が進んだので、先週、何だかんだ言っておきながら今回も2連投です。
そして文庫の外伝4を読んだので、ヒロインが(暫定で)決定しました。
予定ではアニメのキャスト陣の皆さんにも人気があるというあの人です。原作キャラです。本作でも以前にちょくちょく出てた人です。
まぁ、これからも余り出ないんですが……。
翡翠宮の風景は一変していた。
いや、帝権擁護委員部の攻撃があった時点で血が小川のように流れ、流れ矢が茨の棘のように、あちらこちらに突き立てられている……と言ったように一変してあったのであるが、それが今では焼け野原になっている。
火威によるものであった。
彼はバリケードの外に食物油を撒き散らし、ここに帝権擁護委員部や帝国兵が集結したのを確認して魔法式を15展開した爆轟を撃ち込んだのである。
撒かれた油が少ないので発生した炎は大したことなかったが、ほぼ一方的に魔法を撃ち込まれる帝権擁護委員部や帝国兵はパニックを起こしていた。勿論、魔法の射程は長くはないから矢を射返す事は出来る。だが纏っている竜甲に弾かれ、奪われた剣で切り払われ、酷い時には射かけた矢を掴まれ自分の物とされ、風の精霊の力を得た矢を投げ返される。
戦場を跳梁しながら高笑いし、あまつさえ言われた科白がこれだ。
「敵さん、沢山の矢をありがとう(人''▽`)☆」
投げ返された矢を受けた帝権擁護委員部員は霞んでいく視線に、ただでさえ士気の無い(“低い”ではない)帝国兵の士気が、霧散するのが見えたと言う。
火威としては、矢除けの加護で有らぬ方角に向いた矢を掴み、精霊魔法を上乗せして威力を高めた矢を投げつけ、それが面白いようにオプリーチニキに当たる。上手く行き過ぎて怖いくらいなのだが、その恐怖を振り払う為に敢えて大声で笑ったに過ぎない。
この時の火威にとっての恐怖は、東京のオーク、ただそれだけであった。理性的に考えて特地の翡翠宮で、東京のオークに怯えるのは理解出来ない話だ。
だが火威は戦端が拓けてから即、数人のオプリーチニキを血祭りに上げている。その後も無数のオプリーチニキを屠っている。それこそ帝都の人口ピラミッドの歪みが心配になる程に。
戦端は、オプリーチニキが翡翠宮の敷地に入った時点で拓かれたと言ってくれたヴィフィータであるが、その時の事を顧みても微妙過ぎるタイミングだったのだ。
計算高い故に心配性でもある火威は、この事が日本で表沙汰になると、マスコミ主導で銀座に続く自衛官による大量殺人と揶揄されるに決まってると予想した。
そうなれば特地から僻地に転任。悪くすればオークが待ち受ける東京へと返される可能性がある。
だが必罰感情が強く、根に持つ性格のタイプの彼は、今現在は味方の薔薇騎士団の女性騎士や、中年以上のベテラン兵達に少なくない犠牲が出た事を悔やみ、そしてその原因を作った掃除夫共の魂魄に、恐怖を刻み込もうとしている真っ只中でもである。
高笑いを上げながら敵を屠るのは、何処ぞの森に棲みし巨大妖怪が出没する家屋に引っ越した小学生と幼女の姉妹が、恐怖を吹き飛ばす為に、古い風呂窯で父親と大声で笑ったかの如く、恐怖を紛らわす為だけではない。
その様子を見ていたヴィフィータは「もうアイツ一人で良いんじゃないか」という気にもさせられる。だが翡翠宮の警護は皇帝陛下からピニャ殿下の薔薇騎士団に賜った任務であるので、そういう訳にもいかない。それにヒオドシという男も使徒ではないので疲れるようだ。最初のように動きにキレがない。
そして思うのは「コイツとは友人になれても親友とかは無理だな」
戦では、いざと言う時には別人のようになるのは理解できる。しかしこの男と自分は違うベクトルに住んでいると直感させられる。このヒオドシとかいう男から感じるのは生粋の戦好きそのもの。いや、戦闘狂そのものなのだ。
「ちょ、ちょっとアンタ、今からそんなんじゃ保たねぇぞ」
ヴィフィータから声を掛けられた火威だが、若い女騎士に戦場を譲る気はなかった。譲れば更に犠牲が出る、そう思ったからだ。
だが遠くからヘリのローター音が聞こえてきた。しかも一機や二機の数ではない。そしてこの世界でヘリを飛ばせる存在は決まっている。
「そう……だな。じゃあ俺はちょっと休ませてもらう。味方が来るのが近いからさ、もうひと踏ん張りだ」
手をかざして掌をヒラヒラさせてから、翡翠宮に戻る。その火威は直に床に座って休もうとしたが、従卒の少女が火威が持ってきた荷物が入っていた段ボールで簡易ベッドを作り、此れで休むように薦めてくれた。
他の女性騎士や兵士は床で休んでいるが、格別活躍した火威への慰労でもあるのだろう。火威も少女の厚意に甘え、この簡単ながら実に有り難いベッドを使わせてもらうことにした。
だが、少し休むだけだ。少し休むだけと思ってベッドに腰掛け、意外に頑丈な段ボールに体重を預けていると、ついつい寝てしまった。
そしてその少し後、翡翠宮を守護する騎士団三百人と、翡翠宮解放の為に赴いた空挺一個中隊の協力で帝権擁護委員部率いる帝国軍は撃破され、火威は少々不味い目を見る事になる。
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