ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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本日二本目です。
今日で翡翠宮が終わって一段落しましたので、クオリティ維持の為に暫く休みますかも…?
まぁそんな事言っておきながら、来週も土曜に投稿する可能性は多いにありますが。

それはさて置き、公式サイトの人気投票では聖下が強いッ!?
ブレスクなんてアプリも出るんですね。
当方はスマホ持ってないんで、グーグルのアプリ使ってPCからやる予定です。

ちなみに今回、健軍や隊員が言っている事の殆どは原作準拠です。


第十四話 帝都脱出

火威は戦々恐々としていた。

健軍一佐が翡翠宮に到着した時、年配の兵士と若い女性が怪我してる奥で火威は簡易ベッドに寝てグースカいびきすらをかいていたのだ。

あれは、明らかに怠けているポーズ。自覚する火威は後悔もする。従卒の少女の厚意に甘えず、床に座って待機していれば……。

ヴィフィータが健軍一佐に弁明してくれているが、彼女は日本語を喋れないし、健軍は特地語を知らないので余り意味は無い。他の兵士や女性騎士も懸命に弁護しようとしてくれていて、アルヌスで日本語研修を受けていたボーゼスが釈明してくれて、ようやく火威の無実が明らかになった。

だが、健軍は翡翠宮の表に散らばっている撲殺されたと思しき複数のオプリーチニキの死体が見た。誰の手によるものかと言えば、そうする事が出来る武装を持っているのは目の前に居る火威しか居ないので、説明は不要であるのだが。

だが問題もある。64式小銃を始めとする武装を、ヒューイの中に忘れてきた事だ。

「火威三尉はアルヌスに帰還後、駐屯地30周」

えっ、そんなに!? と、思ったが、今の火威には無理なく出来ることなので、拒否は出来ない。

空挺一個中隊の隊員は、負傷した薔薇騎士団の女性達を抱きかかえ、というよりお姫様抱っこして大型輸送ヘリCH-47チヌークまで運んでいく。自力で歩ける者さえ「疲れてるでしょ」と言って運ばれる始末だ。火威の活躍で走れるくらい元気な者も居るので、火威としてもしてやったりと、我ながら性格が悪いと思いつつ若干満足気である。

その脇で中年以上の兵は担架で運ばれるから、明らかな待遇格差だ。既婚者の相沢は妻に義理立てしているのか、中年以上の兵に肩を貸していた。

火威も今まで散々、可愛い・綺麗な女性騎士達と1つ屋根の下に居たので、自重や自戒の意味で重傷の中年兵を城壁外のチヌークへ抱えていく。

このことで、想像力豊かな薔薇騎士団の少女達によって相沢×火威のカップリングが出来ることになるとは夢にも思わない。

チヌークに向かう途中、相沢は空挺一個中隊がバスーン監獄に囚われている講和派議員を、第二・第三・第四偵察隊と特戦群と自衛隊に協力する悪所の住人との共同で解放した事を火威に話していた。その中には悪所の娼婦でハーピィのテュワルの後輩、ハヅキを買いながらも、誘い出していた高級宿の行けなかった貴族の青年も居たという。

自衛隊が少なくない部隊を動かすに至った原因は翡翠宮での戦闘に端を発する。翡翠宮で最初に戦闘が始まってから白百合副大臣は日本政府に連絡し、事の詳細を伝えたのだという。

自衛隊の最高指揮官である弱腰森田総理は、特地での混乱による支持率低下を恐れる筈だから、嘉納外務大臣や夏目防衛大臣の意向が強いと考えられる。

翡翠宮で戦闘が開始されたのは、オプリーチニキが敷地内に足を踏み入れ、翡翠宮を警護する薔薇騎士団のヴィフィータがこれを斬り捨てたことに始まる。つまり、火威は責任を問われない代わりに、これという手柄も無い。

「闘争こそ我が褒美ッ」

強気でついつい言っちゃったが、アルヌスで語学研修していた薔薇騎士団員などは「やっぱり」こういう輩か……と思ったとか思わなかったとか。

 

健軍一佐が言うには重傷者は空路で、そして軽傷の者は陸路でアルヌスまで向かい、治療を受けさせると言う。

ヴィフィータやボーゼスは軽傷者の筈だから車でアルヌスまで向かうのだろう。その道すがら富田の事を聞けないか、とも思う。

しかし外野の火威が興味半分で、本来なら禁令の「特地女性と肉体関係を持つ」富田の事を、その妻になるであろうボーゼスに聞くのは意地が悪いし、少なからずお嬢様騎士団だと思っていた薔薇騎士団の団員は予想より遥かに我慢強い。

軍の一翼を担えるであろう彼女らは、見た目では判らないが思いのほか重傷者が多いのかも知れない。ボーゼスも見た目では判らないが、騎士団の指揮を執っていた彼女自身も重傷の可能性はある。

そこんトコどうなのかな、と思いつつ、重傷の中年兵をチヌークまで運ぶと、ボーゼスもヴィフィータの姿も無かった。

「あれ、健軍一佐。ボーゼスさんとヴィフィータは?」

「……待っててくれと」

この人、特地語知ってたかなぁ……と思う火威だが、直属の上官である健軍の男気を信じて待つ事にした。

 

 

 

城壁の外で待機している最後の一機のチヌークの前で待機してて、最初に見えたのは一騎の騎馬。しかしその直ぐ後から数千にも上る大量の騎馬兵が現れた。こうなってしまえば、もうボーゼス達の帰還を待っていることも出来ない。

エンジンを起動させ、すぐにでも退避しなければならない。しかし……

「先頭の一騎、追われているんじゃないか!?」

誰かが叫ぶ。双眼鏡で確認した健軍は

「クソっ、最悪だ!」

吐き捨てるように言う。

火威もピニャ殿下を皇城まで救出しに向かったボーゼスと、それを追いかけていったヴィフィータが騎馬に跨っていった事を先程知った。

その二人が乗っている騎馬を、数千の帝国騎馬が追っているのだ。火威は64式小銃の安全装置を「レ」に回して、他の隊員と共に騎士団の二人に追いすがる帝国兵の騎馬の足を狙って掃討し始めた。

騎馬の弱点である脚部を狙うことは特地でも正解のようで、倒れた騎馬に後続の騎馬が衝突して連続で倒れていく。だが如何せん、敵の数が多過ぎる。

「撃ち続けろ! ゆっくり後退するぞ!」

健軍の命令で火威含む30名の隊員が敵騎馬隊の先頭集団に銃撃を浴びせかける。連射していると、400発を超える弾薬とて意外に尽きるのが早い。弾が尽きると見るやバンジースリングで64式小銃を背後にぶら下げ、右手を掲げる。展開した魔法式が15を超えるやいなや、爆轟で騎馬ごと帝国兵を吹き飛ばす。だが帝国兵の第二波が仲間の骸を踏み越えてチヌークへ迫ってきた。

その間にもヴィフィータの馬が健軍達の下にたどり付く。そしてドっと倒れ伏した。見れば、あちこちに矢を受けている。

投げ出されるように落ちてきたヴィフィータの身体を健軍が受け止め、ボーゼスは数人の隊員の背中をクッション代わりにして落ちていた。

「よし! 搭乗開始! 負傷者を残すな! 落ち着いて下がれ!」

健軍はヴィフィータを土嚢のように担ぐと、大声で隊員達に指揮する。

「周りをよく見て味方を残すなよ! 隣とタイミングを合わせて下がれ!」

手早く64式小銃の弾倉を交換した火威らが、輪を縮めるようにして後退する。しかし槍を構えた軽騎兵の第三波が突進してきた。

「よくもまぁ……」

余りのしつこさに嫌気も注す。手近で斃れてる帝国兵の剣を奪い、突っ込んできた敵の勢いを利用してこの首を刎ねる。その光景を見て、勢いが削がれた軽騎兵らを小銃で薙ぎ払うように発砲する。

そして訪れる一時の静けさ。

「急げ! 急げ! 誰も残すな!」

隊員達は傷付いた仲間を抱えると、互いに庇い合うようにしてチヌークに乗り込む。ここで帝国の騎馬隊が四方八方から迫ってくる事に気付いたチヌークのパイロットが、僅かばかりに機体を離陸させた。

機体を滑らせるようにして方向転換し、僅かに開かれた後部ハッチが向けられた隊員からチヌークへ飛び込む。最後に敵を牽制するように周囲を水平射撃してから、火威もチヌークに飛び乗った。

諦め切れない帝国兵が閉じ掛かったチヌークのハッチに飛びつく。それを相沢が目にも止まらぬ速さで大腿のホルスターから抜いた9mm拳銃で撃ち抜いた。

その素早さに見入ってしまったのが油断だったのか、続け様に飛びつこうとした帝国兵の剣が、火威の右額から頬までを斬り裂いた。

「ぐがっ!」

相沢や健軍が9mm拳銃で敵兵を撃ち抜こうとしたが、銃を向けた先には敵はいない。物理的な手段か魔法でも使ったのか、その手から剣を吹き飛ばされた帝国兵はチヌークの天井に叩きつけられていた。

「この俺に刃を当てるとは……手柄だな雑兵! 褒美をくれてやる!!」

瞬く間に顔面から原型を推察できる要素のなくなった帝国兵は、既に高度を取っていたチヌークからエムロイかハーディの御許へ送られた。

 

ちなみに、帝国兵への褒美に見せてやろうと思った地獄は、特地に於いてもハーディーの管理する冥界の一つに存在するのだという。




はい、今回から主人公がヤクザ顔です。
次回はもっと辛い目に遭ってもうらうんじゃよ。(ゲス顔)

今回もご意見、ご感想や誤字・脱字、その他諸々ありましたら、何卒ご一報下さい。

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