ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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二話目にして行き成りイタリカです。三話目も最初はイタリカです。
そしてこの小説では火威の夢の中でほんのちょっと色気が出て来ました。
でもまた当分出て来なくなります。


第二話 イタリカ防衛戦

陽射しの強い空の下、手の空いている自衛官達はアルヌスの中腹に居た。その人員は第一、第二戦闘団と第三戦闘団、そして火威含む第四戦闘団、早い話が戦闘済みの第五戦闘団を除き、一定以上の戦闘技能を有する自衛官の一部だ。

その理由は避難民が自活するために、自衛隊との戦闘で死んだ翼竜の鱗を集める際の護衛である。先日の圧倒的戦力差で自衛隊の圧勝に終わった戦場では、敵の兵や馬の遺体を野生の肉食動物や猛禽類が漁っていたが、それらを埋葬した後でも肉食性の動物が屯していたのだ。

その為に翼竜の鱗を集める避難民の護衛に自衛官が駆り出されたのである。

だがここは日本人の通常の感覚は通らない特地。先日も高温の炎を吐く大型の龍に第三偵察隊が遭遇したばかりだ。それにより、自活する難民を護衛するため、多数の隊員が駆り出されたのである。

全ての自衛官ではないのは、当然だが特地に派遣されたのが戦闘訓練を受けた自衛官ばかりではない事だ。そして一番の理由は全ての手の空いた自衛官を引っ張り出すと、支払わねばならない臨時給与がばかにならない。しかし中には奇矯な者も居て、呼ばれてもしないのに無給で働く者も居る。火威や第四戦闘団の同僚で相部屋の、相沢 航一(アイザワ コウイチ)二等陸尉もその「テ」の者だ。しかし動機は「暇だから」とか「体が鈍ってるから」と、決して善意が全てではない。

 

「聞きましたよ。火威三尉。銀座では凄かったみたいですね」

火威の近くで害獣を警戒しながら相沢が話し掛けてくる。相沢としては何の他意も無く褒め称えようしているのだが、当の火威はこの話をするのに辟易していた。

「何でもないッスよ。自衛官なら当然です。他にもそういうの居ましたし」

辟易する余りか、口調が心無しおざなりになった。だが相部屋の相手だ。佐官以上は個人の居室を与えられるが、火威程度の尉官では相部屋の相手の機嫌も推し量らねばならない。アルヌスに広めの土地を確保できた自衛隊であるが、何せ特地に派遣された自衛官は二万人以上いる。全員に一人部屋を与える事は出来ないのだ。

その相部屋相手の相沢の私物には写真立てに入った家族写真があった。7~8歳の男の子一人、女の子一人と、肩までの黒髪の相沢の妻と見られる女性だ。相沢の歳は火威と余り変わらないか、多少上くらいなので学生結婚なのかも知れない。

「綺麗でしょ? 大学4年の時に結婚したんですよぉ」

盛大に惚気てくれやがる、と、その時は思ったが確かに清楚な美人だ。

「娘も去年二年生になりましてね。息子も去年小学校に入ったばかりなんですよ」

他人の家の家庭自慢には相槌だけは打つ、というのが世の中を上手く渡り歩くコツだが「ちゃ、ちゃんと男子が……。良いなぁ」と本気で羨望の眼差しというか、声を挙げてしまったので、この後しばらくこの手の話は続く事になった。

 

 

 

    *  *  *                  *  *  *

 

 

「兄と姉のところに二人ずつ子供が居るんですけどね、全員姪なんですよ」

「あ~……それじゃ火威さんが頑張らないと」

「そうなんですけどね、どうも中々」

護衛と雑談を続けながらも歩哨する。そんな火威の気は少し抜けてきていた。ほぼ確実に雑談し続ける相沢の影響だ。任務ではなく善意からしている仕事ではあるが、何も知らない者が見たら明らかに不味い。

「まぁ銀座で多大な“戦果”を挙げてらっしゃるんですから。格闘か何かの徽章をお持ちで?」

「いあ、格闘徽章は無いです。あるのは体力とかレンジャーとか……。そんなもんですね」

「え゛?!」

「格闘は一応出来ますよ。自衛官ですから。でも雑ですね。銃剣とか苦手ですし」

「えー……あ、でも三尉は射撃徽章も――」

「あー、すいません。それは去年欠格になってしまいました」

射撃徽章も持っていて頼もしい――そう付け足して相手を持ち上げようした相沢の言葉は否定で遮られた。“器用貧乏”そんな言葉が彼の脳裏に思い浮かんだことだろう。

どこで聞いたのか……疑問には思ったものの、恐らく出蔵のようにテレビで少し見た程度なのだろう。どうせなら火威としては第四戦闘団で飛行部隊の同僚にも、確りと自分の戦闘技能に自信を持って欲しかったし、そもそも自分自身でアテにしてない能力を頼られても困ってしまう。

「まぁ両方とももっと凄い技量のヤツが一杯いますよ。って、今は仕事中ですから」

火威は一方的に話を切り上げ、周囲の警戒を一層気を払う。話してきた相沢という二尉は仕事中にも話しかけてくる。同じ空挺レンジャーだが存外不真面目な、良く言えばフランク過ぎる事を意外に感じる。

自身が朝食の時に仮定した「自衛隊にオタクが多い説」は意外と当たっているかも知れない……と、思ったところで密かに自省した。今のは完全なオタクへの偏見である。そもそもこれじゃ俺自身への偏見……いや待て俺はオタクじゃない。オタクって言えるほど傾倒してない。

 

そんな独り相撲を取りながら周囲を見ると避難民の中に居た賢者のカトー先生の弟子のレレイという魔法少女と金髪エルフとゴスロリ少女を見つけた。レレイとゴスロリ少女は一見すると火威と同じ人間……ヒト種に思える。だがゴスロリ少女が持っているハルバードは重厚で如何にも重そうだ。それを細腕の少女が軽々持っているところを見ると、この少女は人間じゃないのかも知れない。また、笹穂耳のエルフを見ると、火威なんかは「横向きで寝れるのかなぁ」と思ってしまう。もしかしたら見た目よりも軟らかいのかも知れない。実に気になるが、言葉が通じない以上は聞く事も出来ない。

「こっちの言葉。憶えないとな」

火威としては正直、魔法も使ってみたかった。特地では魔法という物が一般的に存在する事が、本来ならば驚くことであるのに、多くの自衛官はさほど気にしてないように見える。

確かにエルフでないと使えない魔法や、戦闘魔法の大家と言われるカトーやその弟子のリンドン派の魔法も、集団戦闘では詠唱時間の問題で使う事は難しいだろう。

それでもだ。それでも不正規戦や生活のお役立ち能力として重宝するのではないだろうか。

そんなことを考えながら彼らを見守っていると、突如銃声三発立て続けに鳴った。音の鳴った方向を見ると相沢が居る。そこから少し離れた場所には大型の犬……いや、虎と言って差し障りのない大きさの動物が血を流しながら地に臥している。その近くには避難民が倒れている。腐敗臭除けの為にガスマスクを被っていて性別が判らない。

それでも相沢と火威は慌てて駆け寄ると、老女が狼から逃げようとしたところ足が縺れて転んだけだったようで、大事は無かった。

「お見事です。相沢さん」

流石、空挺レンジャーだけあって相沢の技量も侮ることはできない。そして避難民の危機を逸早く知った彼の危機管理能力に脱帽した。しかし相沢は

「いえ、たまたまですよ」

謙遜という態度で返すのであった。

 

 

 

   *  *  *                     * * *

 

 

 

炎龍の吐いた炎が掠めて火威の頭髪はしめやかに爆発飛散。その素肌はツルツルであった。

ナムアミダブツ! 火威が構えるLAMから逃れるように身を捩る炎龍。その首に別方向からLAMの砲弾がぶつかった。見ると火威の嫁だ。彼女は豊満であった。

すると炎龍が腹を押さえて脂汗を流し始めた。時間である。火威は嫁の手を取って走り始めた。一刻も早く炎龍から離れたところへ。

二人が洞窟の外へ出たところで炎龍は内部から爆発飛散。粉々となったのである。

 

 

「と、いう夢を見たんだよ」

未明に第四戦闘団は招集された。火威も相沢も同じだ。炎龍を殺す方法を考え倦ねてそのまま寝てしまった火威を相沢が起こしてから来たのだ。今は二人とも他の隊員と同様にヘリボーンの装備と言うか、様相を呈していた。但し、落下傘の類の装備は少な目になる。

「炎龍にC4爆弾食わすのは中々良いね。やってみる?」

「うーん、動物の胃袋の中に入ってちゃんと起爆するか……。中毒症状を起こしても仕方ないし」

そこに健軍一佐が現れる。火威の対炎竜戦法は夢で見た戦法そのままなのだが、更に発展させるため、計略に寄った策を温める事にした。

ただ、温め過ぎて腐っていくことになるのだが。

 

隊員が揃った前で健軍一佐が口を開き指示を飛ばす。

第三偵察隊がいるイタリカの代表、ピニャ・コ・ラーダ氏より支援要請が入った! 我が第四戦闘団四〇一中隊はこれを受け、治安回復のため全力をもって出動する!

目標は「盗賊団」およそ六百!

過日陣地を攻撃した「敵武装勢力」の指揮系統を外れた集団と思われる!

現在 市は大規模な攻撃を受けつつある。すでに被害は甚大。我々が征かねばイタリカ市は陥落するだろう!

第四戦闘団の初陣だ!気合い入れて行け!

 

(敗残兵か……)

火威は思うものがあった。嘗て火威の祖父が在りし日の時、日本に「軍」というものがあって戦争していた頃の話である。海軍の軍医だった祖父は車両に乗っていたが、何を思ったのか陸軍の兵に向かって「敗残兵!」と罵倒したことがあったらしい。結果は当然と言うか何と言うか、陸軍の兵は鬼の形相で追いかけてきたと言う。

(まぁそうなるな)

隊員は次々とヘリに乗り込む。火威はUH-1Jヒューイに乗り込み、相沢も隣のヒューイのドアガン脇に陣取った。

斯くして第四戦闘団は出撃した。火威が思う事はただ一つ。

(あの巨乳嫁、顔を見てなかったな)


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