ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
前々から思ってたんですけど、原作を読まないと置いてけぼりになる文を書いてますな。
と言うことで、ご興味のある人は是非とも原作の「自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」を読んで下さい。
出来れば買って読んで下さい。

で、今回は前回の続きでまたしてもヒロインの説明回です。でもヒロインは出て来ません。
基本は原作準拠ですので、本編中は余り出ないんじゃないかなぁ……と。
あと、今回も短いです。
21話はちょっと時間を掛けて書きますかねェ。


第二十話 廉貞

昨夜の丸山の話は様々な意味で衝撃を受けるものだった。

火威が帰ってきた時にはディータ・エル・ケルフの荷馬車は既に居なかったのだが、丸山は火威が発見した犬笛を買っていたのである。

いや、買ったというよりは、直接の恩人である丸山に、礼として何か一つ商品を譲ってくれるという事で、火威が見た笛を譲ってもらったという。

その時のディータは火威が離れていったところ店を畳もうとしてたので、ディータに一種の疑惑を感じた丸山が、敢えてこの笛を選んだのだという。

しかも丸山に譲る際には「ベルナーゴ神殿で賜れた霊笛」と、火威とは全く違った説明をしている。その笛を受け取ると、火威は早速吹いてみせた。

「あ、夜にそれ吹くと霊魂が集まってくると聞いてるんで夜にはー……」

「そりゃ無いだろ。俺は犬笛だって聞いてるし」

構わず吹くが、周りのワーウルフも反応する様子はない。当然、犬とワーウルフは違うのではあるが。

かと言って霊魂が集まってきた様子も無い。丸山は日本とは違う世界で、この霊魂の方を心配したのであるが杞憂に終わった。

「まぁ、貰っただけでは申し訳ないんでー……」

言いながら丸山が出した物は、随分とゴツい木彫りの人形だ。ディータが「ロゥリィの立像」と、ほざく一品である。

しかも、二つとも亜龍を倒し、手柄を立てさせてくれた火威に譲るという。

「そっ、その邪神像はヤメレ! 裏の山にでも棄ててきちゃいなさい!」

この女はロゥリィ聖下の戦闘力を知らないのだろう。そう思いながら、火威は、明日にでもイタリカに向かう相沢に、その道すがら木像の廃棄を依頼する事を決めた。

そして思うのは、丸山の日本語の語尾が先程から間延びしていることである。

「まぁ三尉は処女を拗らせまくってる志乃に勝利して処女奪って下さいよー」

「マジで!?」

この女絶対酔ってやがる、と確信させると共に「まさか!?」と思わざるを得ない一言だった。

一体、何時から今の頑なのスタンスに落ち着いたのか。生来の物となると、それだけに栗林の攻略は難しそうだ。

考えながら、丸山の顔を見る。案の定、酒精を含んだ何かを食べたか呑んだように紅い。

「丸山、いつ酒なんて呑んだよ?」

「……? 呑んでませんよ。三尉こそ、さっきから顔が紅いっスよー」

「え、まさか」

「いやいや、私が上級生の女子から告られたっていう話辺りからー」

「まぁ丸山は男前だからなー。でも百合?」

実際、丸山は美人と言うよりはイケメンとでも言うべき女性だ。薔薇騎士団に居ても違和感無い人物と言える。その丸山の膝を枕にして寝ているのは薔薇騎士団のニコラシカだ。

「違いますよ。私は小さい男の子が好きですねー」

「ショタコンかよ」

丸山の言ったことは言葉の綾だが、火威は若干本気にした。

そこに一人のワーウルフの女性が走ってくる。

「す、すみません!」

行き成り謝ってきたので、何かと思ったが、何かの手違いで火威と丸山の酒杯にはお茶ではなく酒が入っていたのだという。

「あぁ、それでヤケに旨いお茶だったのね」

言う丸山は顔に紅みが注した。だが呂律もハッキリしていて、傍から見ると酔っているとは気付かない。

「後から酔いが廻ってくる種類の酒ですので……」

「あぁ、大丈夫ですよ。まだ酔い始めでしたのでー……。三尉も…」

「………………スヤァ」

丸山とワーウルフの女性は、一気に酔いが回ってグッスリと眠る火威を見たそうな。

 

 

 *  *                           *  *

 

 

ワーウルフの集落からタンスカまでは距離にして65リーグ、日本の単位にして97Kmほど離れている。

グレイが言うには、このタンスカは一応『城塞』らしい。タンスカというのは、本来はセス湖に流れ込む大河の、主に河口付近の名称だという。

河口付近には四つの中洲があって、それぞれをエメラ、ミューゼ、テウィン、ネッキと呼ばれ、その中のミューゼの倉庫には地下がある。

スロープ式の出入り口があり、恐らく拉致被害者の身柄は、その地下倉庫に隠されていると考えられる。

火威の任務は、特殊作戦群より先行してタンスカに侵入。日本人拉致被害者とキャットピープルの娘…クロエの所在地を確認し、救出後は特戦群を支援して脱出せよというものだ。

「しかしまぁ……」

昨夜は何であんな話をしちゃったのだろうか。兜跋を装備しつつも、そう思いながら、火威は昨晩の事を反芻する。

妙に頭が熱く、鼓動が激しかったのは、リアルの百合を見ていただけでは無く、茶に酒でも混じっていたのではなかろうかとすら思ってしまう。

それに想い人である栗林が処女だからと言って、その事に反応するほど自身は子供ではないし、処女厨とかいう存在でもない。第一、その情報自体が栗林ではない人物の口から出てるのだから、怪しいものである。

しかも、その記憶すら途中からプツリと切れているのだから、夢なんじゃないかとすら思ってしまう。そして栗林はあの顔立ちとスタイルだ。今はどうあれ、過去に男性経験の一度や二度あっても不思議ではない。

その栗林は同じ隊の富田に気があるという話も聞いたが、先日の栗林はその事で冷静ではいられなかったのかも知れない。

男性隊員が栗林にサシで勝ったという話は聞かないから、栗林から富田に惚れたと判断して良い。

そのくらい、栗林の武勇は隊内に知れ渡っていた。

漢である以上、火威は栗林の意向を静かに応援するのが望ましい態度なのかも知れないが、肝心の富田は既にボーゼス・コ・パレスティーと婚約中である。

実に、盛大に死亡フラグを御ッ立ててくれたものだと思う。こうなれば富田がフラグブレイカーになる筋道を全力で探索・支援してフラグを圧し折ってくれた方が、自身としても気持ち良く栗林にアタック出来る。

「火威さん、用意できましたか?」

HMVに搭載されたJVRC-F11でイタリカとの通信を終えた相沢が、出撃準備を終えた火威の前に姿を現した。

「完了です。 ……それと、どうでした? ディータのオッサンは」

「えぇ、やっぱりクロでしょうね。ゾルザル派に物資を流して、叙勲すらされてるんじゃないかって話です」

「亜龍に喰わせておきゃ良かったッスねぇ……」

火威と相沢が話し合ってる間にも、携帯してきたガソリンで給油し終え、調査隊の車列も帰還の用意を終えた。

「あ、そうだ丸山」

「はい?」

3歩ほど丸山に歩みを進めた火威は、帯嚢に入れておいた笛を取り出す。

「念の為に預けとくな。ダーの特性は知ってるよな?」

「はい、子供に擬態して得物を待つんですよね」

そう答える丸山に頷く火威。

「これは擬態を解く笛かも知れん。一応、持っておけ」

だとしたら、とんでもない笛を譲ってもらったものだと思う。いや、譲ってもらったと言うよりは、亜龍討伐を恩に着せて合法的に奪い取ったとも言える。

「んでは、これよりタンスカの日本・特地拉致被害者の捜索と救出、特戦群への支援へ向かいます」

妙に訛ったが、敬礼を取りながら相沢らに自らの出動を伝える。

「さ、三尉、そのままタンスカに行っちゃったら見つかっちゃうんじゃないですか?」

若干慌てた様子で意見普請する日下部だが

「あぁ、そうか。相沢さんと出蔵以外は見た事なかったな。ちょい見とけ」

そう言って、火威は長く赤いマフラーで顔を隠すと、何事か詠唱しながら顔を下から掌で撫でるように隠していく。そうすると火威の身体は透けるようにして見えなくなってしまった。

「す、すげぇ。攻殻みてェ……」

「これなら潜入任務は楽ですね」

日下部は驚嘆し、相沢は改めて火威の特殊技能の有用さに呻いた。

「いやー、魔法中年だわ」

実年齢がどうあれ、見た目が立派な幹部レベルの火威を揶揄した丸山だが

「喧しいわ! それと、ウォルフと日下部と丸山、フォルマル邸で髪が蛇の娘に言い寄ったりするなよ。愛くるしいけど怒らせると怖いぞ。死ぬぞ」

髪の先が蛇になっているメデュサのアウレアの存在を知るのは、この中では火威と相沢しか居ない。そのアウレアに精気を吸われ、記憶を覗き込まれてミイラになっていく人物を見たのも二人だけだ。

「なんで私まで……」

そう零す丸山を他所に、未だ百合気質やショタコン気質有りと思っている火威は風の精霊を呼び出し、上昇気流で天高く舞い上がっていった。




漫画では「実戦証明済み」って本人が言ってますけど、どうなんでしょうね。
色々な推察が成り立ちそうですが……。

と言うか、何時の間にかお気に入り指定が55もっ!?
趣味で書いてるものにこの評価! 誠に有難う御座います!
これからも精進して参ります!

そして、今回もご意見、ご感想、ありましたら是非とも申し付け下さい。

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