ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。

アニメでゾルザル半殺し回、放送されましたね。
存外、あっさりとした感じだったような……。まぁ15分半殺しとか、有り得ませんけど。
そしてブレスクの配信は18日からだったんですね。最近気付きました。(;・・

そして今回は長め……と予告してましたが…

一日ずらしてるにも関わらず、何時もと同じかちょっと短いくらいかも知れません。


第二十一話 回天

ワーウルフの集落は小高い台地の上にある。丘陵地の麓の周辺はロー川が流れ、時折氾濫した河川によって犠牲者が出た事もある。だから水捌けが悪く、農耕に適さないこの大地に住むようになったワーウルフは、傭兵という生き方を選んだ。

過日の地震によって各所で地形崩壊を起こしてから、かなりの時間が経つというのに通れる道は限られてしまっている。これは普段からこの地方を行き来する人間の少なさを物語っていた。

無理をすれば殆どの道は通れるのだが、もしここが日本ならば未だに多くの道が通行禁止となっている箇所が多いだろう。

特に荷馬車を始め、車の類は限られた道しか通れないでいる。

その中でも通れる数少ない一本道を、LAV(軽装甲機動車)を先頭に、特地戦力調査隊の車列が丘陵地を進んでいた。

LAVのハッチから顔を出して、対空警戒しているのは丸山だ。HMV(高機動車)に乗る隊長の相沢の本音は、先頭車で目の良いティトに対空警戒して貰いたかったが、火威が居なくなった事で不意の事態への防御力が低下したので、現地協力者に危険が迫った際の事を恐れ、配置を変えたのである。

だがティトもHMVの天蓋の前方を剥し、空と周囲の警戒に当たっている。これはティト自身の強い希望であった。

これに相沢は随分と悩んだが、出蔵からの意見具申で「エルフの感覚の鋭さは自衛官以上」という声で説得されたのだ。

ティトが見る先は崩れ落ちた土砂と倒れた木々ばかりだ。偶に小動物が飛び出してきて車列を慌てさせる事があったが、速度も出てない上に周辺を警戒する者もティトを含めて二人以上居る。何事も無くイタリカまで到着するかに思われた。

だがワーウルフの集落を出発して間もなく、LAVが停車して、倣うようにして全車停車した。かなり離れた場所を、一糸纏わない獣人の仔が一人歩いてるのをティトが見たからだ。種族の血が濃いのか毛深くて性別は判らないが、負傷しているのか、体中にべったりと血が付いている。

今より暫し近付き、宇多と丸山が車両から降りて保護しようとする。だがティトが獣人の仔に何かを感じ取った。

「マルヤマさん! 笛!」

その声に、火威に言われた事を思い出した丸山は向かおうとする僚友を制して笛を吹く。すると獣人の仔が苦しむように呻き出した。のみならず、七転八倒して唸りだす。

「どうしたの!」

慌てて駆け寄ろうとする宇多。だが丸山がそれを抑える。そして二人と後方の隊員達が見たのは、獣人の仔が骨を軋ませ、巨大な怪異に変わっていく姿だ。その両手には、べったりと赤黒い血が付いてる爪が生えている。近くに犠牲者が居るのか、その血は乾ききっていない。

(あ、三尉みてェ……)

74式小型トラックの中から見てた内田は、特地に来て骨格から変わってしまったような火威の姿の早送りを見ているような気がした。

「戦闘準備! 各自、発砲を許可する!」

宇田と丸山が帰還したことを確認した相沢が全隊に指示を飛ばす。

巨大怪異・ダーは、獲物の声がした方向、則ち車列に向かって咆哮を上げた。

それから程なく、ダーはボロ雑巾のように地べたに伸びていた。その体は言うまでもなく、穴だらけである。如何に火威の影響で戦力を減らされているとは言え、離れた場所から弾幕を集中させれば巨大な怪異も脅威とは言えない。

HMVに搭乗するグレイや、小型トラック内のニコラシカが唖然としてるところを見ると、やりすぎた感を否めない相沢ではあるが、相手は自衛隊でも害獣として認知された存在だし、自衛隊へのゲリラ戦法に使われる存在なので、味方に被害が出る前に安全な死体にする事が出来たので慊焉たる思いもあった。

そして、そうする事が出来た所以を作ってくれた丸山に感謝もする。

その丸山は、心ならずもハゲマフラー三尉と間接キスしてしまった事を心の底から悔やむのだった。

 

 

 *  *                         *  *

 

 

イタリカに戻るまでには破壊された荷馬車や、大破した荷車、そしてダーに喰われたと思しき死体を発見した。

最初は死亡事故現場に遭遇したのかと思ったが、荷車を引く馬やゾルザル派の兵、それにディータの喰われかけの死体を見て、それが先程討伐したダーの仕業と推測も出来れば納得出来る話だ。

現場は血の海であったが、その血が乾き掛けなので、時間的には何時間も経っていることが判る。そして、その「何時間も前」には火威が笛を吹いているのだ。丸山や相沢は、火威という男はゾルザル軍にとっては炎龍並みの災害に思えた。

 

「うぅ……出来るならティト君や内田が良かったのに…」

フォルマル邸の一角で丸山は悔やむ。

25歳という御年頃の彼女は、そろそろ本気で交際相手を探さないと不味いという気を持っていた。

にもかかわらず、自身に興味を持つのは主に同性で、異性に関して言えば、良くても友人以上の関係にならないのだ。自身から異性に交際を申し込めば良いのだが、同性とばかり交際していた彼女は実は異性には極めて奥手で、自分から申し込もうと異性の前に出ると喋る事も出来ないのである。

このまま行くと一生独身……そんな恐怖に似た感情を持ちながらも、敢えて自分から結婚へのハードルを上げていく栗林を心配して、栗林に気がある火威を鼓舞したのだ。

ちなみに、栗林が爆乳という事は見て判ったが、ハゲを気にしないというのは何一つ根拠が無い。

 

屋敷の議場では相沢がレクスの砦から戻った警務隊から報告を受けている。この警務隊は元は薔薇騎士団の一部の兵力で、レクス付近の村から来た早馬の報告を受け、要塞を捜索したのである。

それによると、レクスのゾルザル派兵力は半殺しにされていたものの、死者は居なかったと言う。

勿論、報告書を持たせてイタリカに早馬を飛ばしたのは火威である。帝国の法に詳しくない彼は、ゾルザル派兵を牢屋に入れて、その処理を薔薇騎士団に丸投げしたのである。

何故半殺し状態だったのかは判らないが、救出したキャットピープルの母親の話からすると、周辺の村々で無法を働いた兵達が村人に報復を受けたのだろう。死者が居なかったのは、火威が加減してやるように言った可能性もある。

「……うん、まぁ牢屋に入れて保護してたならセーフ……かな」

だが問題になりそうな話ではある。その火威は魔法を使って拉致被害者の救出支援に向かっている。ともすれば、超法規的措置で‘無かったことに’なるかも知れない。

 

 

 *  *                          *  *

 

 

火威が潜入したタンスカには、予想以上のゾルザル派兵が配備されていた。しかも中州の倉庫を調べるには、扉を開けなければならない。

魔法で姿を消しているので敵に見られる事は無いが、人も居ないのに勝手に扉が開くのは如何にも怪しい。

2~3度くらいなら開けて調べる事も出来るが、何度も扉が開くと新手の怪異か、自衛隊の新兵器とも疑われる。なので、専ら倉庫に入るゾルザル派兵の背後について一緒に入っていくというコントのような真似をしなければならなかった。

日本人拉致被害者が入れられた木の檻は、自衛隊を誘き寄せる罠として使われるから、至極簡単に見付かったが、キャットピープルの娘のクロエの所在が未だに判らない。

だが、このタンスカに犬顔兜を抱えた三人の帝権擁護委員と、ゴダセンという元老院議員、そしてゾルザル派軍の一個軍団が居る事を知った。というか、二人が話してる直ぐ脇で聞いていたのだ。

すると、調べて居ない地下に日本人拉致被害者を戻そうとする動きが見て取れる。ゴダセンの指示であった。

すぐさま火威は近付き、地下へ伸びる扉に行こうとする。だがダーレスという帝権擁護委員の意見で、拉致被害者の檻は直ぐに地上の広場に戻された。

まるで火威の行く道を開いてくれたことに皮肉めいた感謝をしつつ、地下に降りていく。そこは倉庫になっており、兵の装備や施設の備品などが置いてあった。

そして一目して判る場所に、キャットピープルの女性が入れられた木製の檻があった。




どう頑張ってもフラグが立たないオリ主の火威であります。
今回もサッパリです。

そして当小説では、銃器の類は余り活躍しません。
筆者が銃に関してサッパリという事でなく、折角のファンタジーだから剣と魔法メインなのです。
なので、不明瞭な銃知識を避けているワケではないのです。決して地雷原を避けて歩いているワケではないのです。
いや、サッパリ判らないのは本当だけどっ!

で、お気に入り指定が70に迫る68個も!?
皆さん、本当に有難う御座います!
今回も細かい疑問や感想、その他意見等ございましたら、遠慮なく申し付け下さい。

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