ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
今日は珍しく火曜更新です。

と、言うのも
昨夜、原作を読み直してたら「レッキ」というゾルザル派の砦が明記されてました。
なので、オリジナルかと思っていた「魔導自衛官」のレッキの砦も別の名称に書き直さなくてはならなかったのです。

……たぶん、原作の当該部分を流し読みしてからオリジナル砦を考える必要が出た時に、
なんかソレっぽい名前にしちゃったんですね……。
そのついでに23話も投稿……ということで。

ちなみに当小説に出てくるワーウルフの集落は、フォルマル伯領の西の方を想定してます。
なのでレッキ(だった)砦より、タンスカの方が近い位置にあるという想定です。

24話も出来れば明日にでも投稿予定です。


第二十三話 武曲

ゴダセンを南雲ら特戦群に引き渡した火威は、ダークという投げナイフと帝国ではポピュラーな剣であるバスタードソードを渡したクロエと共に、潜んだ藪の中から事態の推移を見守る。

この時、火威は二回、特戦群と接触していた。二回目は先程、ゴダセンを吹っ飛ばして身柄を引き渡した時。そして最初に接触したのは、河でマフラーを濡らして繊維を締めらせようと、倉庫地下から出た時である。

火威は光の魔法で姿を消していたが、鏃の付いていない矢で突かれたのだ。姿の見えない火威に、鏃の付いてない矢を当てる事が出来るヒトはこの世界に居ないと思われる。出来るとすれば、嗅覚の鋭い獣か、直感が研ぎ澄まされた亜人だけだ。

慌てて振り返ると、森の中に複数人の特戦群の隊員が居る。中には男とは思えないしなやかな身体つきの隊員が居る。その手には弓を持っているから、この隊員が知らせてくれたのだろう。

その際に、『カラミティ』、略す時は『ミティ』というコードネームを貰った。火威としては『ニンジャ』というコードネームを希望したが、どうやら他の隊員と微妙に被るらしいので却下されている。

そして火威は一つの策を提示された。その策が上手く行けば、火威は余り働く必要は無い。そしてそれは、かなりの奇策と言えた。

 

 

 *  *                         *  *

 

 

火威はかなりの睡眠家と言えた。睡眠家という言葉があるのかどうか知らないが、かなり「寝るのが好き」という部類だ。

それに至るには、レンジャー課程で睡眠の重要さを思い知った反動もある。同じような理由で、「寒いのが嫌い」という弱点もある。高校の後輩である出蔵には秋田駐屯地に居たと言っていたが、その前には北海道の倶知安駐屯地に居たのだ。その際にニセコの山中で特定のレンジャー資格を会得したが、ニセコどころか北海道の市街地の寒さにも辟易していた火威は、そそくさと秋田への転属願いを出して南下したのである。

北海道への配属願いも希望したのも、「北国の女性はたぶん巨乳」という推測からであって、下着メーカーの調査に裏打ちされた結果を知ったからには極寒の地に居る意味は無い、と火威は判断したのである。

それはさて置き、

ボルホスという百人隊長が南雲三佐と交渉していた。というか、ボルホスが南雲三佐に、ゴダセンの身柄を質に脅迫を受けていた。

南雲二佐は伊丹二尉が、特戦群の演習で使った策に手直ししたものを用いるようだが、火威が思わず笑ってしまった策である。しかし奇策どころか卑怯の域に達する。有効な策だが、やはり伊丹という男は情け容赦無い…と、火威は思う。

火威が聞いた話では、かつての伊丹が演習で用いた策は、火威の武骨者には意味を成さないかも知れない。いや、武骨とか言いつつも、三十路になったばかりなのに五歳年上の兄を凌駕する勢いで薄くなっている頭髪を、結構気にしてるかも知れない。それを裏付けるかの如く、火威の頭髪は落ち武者の如くかなり見っともない事になっている。見ている者は、常に鉄帽か兜付けてろよオマエ、と言いたくなる程だ。

話が盛大に脱線したが、見ているとボルホスという百人隊長は相当、頭に血を登らせて熱くなっているようだ。そして冗談を冗談と思わぬほど、真面目な性格であることも、火威は潜入中に堂々と拝見している。

こういった真面目な人間ほど、相手がヘラヘラした態度で交渉を続けると余計に頭に血を上らせて無駄に力む。演習時の伊丹二尉を真似て、ふやけた態度で交渉を続ける南雲三佐にペースを握られていく。

かつて、特殊作戦群で行われた演習で、五十名もの特戦群隊員に守られた人質を奪還しろというものがあった。

出雲らは、様々な工夫を凝らして人質の救出に挑んだが、訓練という中では何時どのように救出に来るか判ってしまう。そういった演習の最中、唯一課題をクリアしたのが伊丹だったのだ。

視察に来た特殊作戦群長に銃を突き付け、人質の交換を要求した。

陸上自衛隊は、ことのほか安全管理に厳しく、あくまでも訓練という枠組みの中なので、群長を傷付けられる筈がない。

特殊作戦群も陸上自衛隊員だから、同じように考えていた。

だが伊丹は、この意識を逆手に取り、群長の乏しくなった毛髪を一本ずつ抜くという凶行に出た。この群長が自らの毛髪を気にしない人間だったら、伊丹の策は破綻してしまうが、あろうことか火威同様に禿げあがる毛髪を気にして、高価な育毛剤を購入していたのである。そのことは、特戦群隊員の全てが知る事であった。そこを、敢えて伊丹は奇襲したのである。

時間と共に薄くなっていく群長の髪を守る為、対抗部隊の隊長は屈するしかなかった。そして統裁官の下した判定は「有効」。これにより、特殊作戦群は指揮官は元より、隊員達も徹底的な意識改革を求められたのである。

(うぅむ、やはり伊丹二尉は恐ろしい人だな)

火威は、自身が同じ状況になったら光の精霊魔法で姿を消せるから有利ではある。しかし、それ以外の方法だと伊丹二尉の方法以外には殲滅戦しか無いような気がした。だがそれでは人質の安全も確保出来ない。そうすると、執れる方法は一つに限られてしまうのではないかと思ってしまう。

暫く見ていると、出雲ら特殊作戦群の隊員が広場の中央にある檻に近付いていく。

脅迫……というか交渉が纏まったようだ。特戦群に引き渡した際に気が付いていたゴダセンは、再び気絶しているようだが、先程は絶叫してしまうような目に遭っていた。伊丹のように毛を引っこ抜いたところでタカが知れている。ゴダセンの指でも切ったのかも知れないが、離れた場所から全体を落ち着いている見てる火威には、ゴダセンの指が減ってるようには見えない。

指を切ったように見せる方法は存在するので、出雲はその手段を使ってボルホスを担いだのだろう。遠目にも、ボルホスはグッショリと汗をかいているのが見て取れる。そうしてる間にもゴダセンと、彼を羽交い絞めにする特戦群の一団は、日本人拉致被害者が入れられた檻に辿り着いて鍵を破壊した。

牢ではなく檻である。明確な違いは知った事じゃないが、檻は獣が入れられるイメージを持っている火威としては、その中に拉致した日本人を入れておくゾルザル派の者達に「生かしちゃおかねぇぞこの野郎」という憤りを感じていた。

そうしたところで、犬顔兜を被ったダーレスが出てきた。この偏執的で厄介な連中は味方の兵にも嫌われているのか信用されてないのか、それともボルホスへの信頼が上回っているのか、声を張り上げて特戦群を捕らえるように言ってるにもかかわらず、ボルホスの兵は動こうとしない。

考えてみればゴダセンを人質に取られているから当然なので、ボルホスと帝権擁護委員のダーレスは何事か言い合っている。そうしている間にも特戦群のセイバーとアサシンが拉致被害者を担いで檻から出てしまった。

ボルホスは制止させようと叫んだが、そこで何かの取り決めを新たにしたようで、城門までの兵達が道を開けた。

やはりこの指揮官は有能だった。戦では、武器の運営次第で戦力の差は覆すことが出来る。号令一つで自在に兵を指揮するボルホスという男とは、戦火を交えずに済んだ事は幸いであった。

火威も出雲と同じように考えたところで、二本の矢がゴダセンに向かって飛んだ。一本は亜人らしい特戦群の隊員が剣で振り払ったが、残りの一本がゴダセンの肩口に突き刺さる。その激痛に意識を取り戻したのか、ゴダセンの苦悶が広場に響いた。

矢を放ったのは、ダーレスに付随してるかのように付き従っている男だ。一本の矢がゴダセンに刺さったのを皮切りに、戦闘が開始される。南雲ら特戦群の隊員は、ゴダセンが射掛けられた時から間髪容れずに反撃していた。放たれる擲弾が敵兵の隊列の中で爆発して人垣が崩れ、四方に投げられた発煙筒から出た白い煙幕は、瞬く間に広場を白い幕で包んでいく。

「ったく連中め! 場を引っ掻き回しやがる!」

犬顔兜に文句を吐き捨てながら、二つ以上の魔法を同時使用できない火威は、既に姿を現し、特戦群を矢除けの加護で支援しようと急ぐ。

アルヌスの警務官でセイレーンの女性、ミューティに聞いた話では、矢除けの加護を範囲的に使うには、詠唱し続ける必要があるという。それは紛れもない事実で、以前にゾルザル軍ゲリラの討伐に向かった時には、弓矢による攻撃で味方に被害を出す事も無く敵集団を一人残らず捕縛、或は殺害している。

火威は腰脇に構えた対騎剣を振って敵集団に斬り掛かった。大剣の一振りは広い範囲の六人程の敵兵を薙ぎ倒す。

ダーレスを討ち取ろうと、少し考えた火威だが、ボルホスと逆の命令を下して兵達を混乱させている状況なので捨て置いて、特戦群と合流する道を開こうと敵集団を貫き、抉っていく。

火威の直ぐ後に付いてきているクロエは、手にした剣で飛来する矢を切り払うなり叩き落としている。

元々キャットピープルという種族が戦闘が得意なのかも知れないし、ゾルザル軍兵が狙うクロエの後ろには味方であるゾルザル軍兵がいるので弓の引きも甘くなるのであろうが、先程まで狭い場所に囚われていたというのに、その闘いぶりは一級の戦士にも比類する。

これだけ出来るのだから、礼儀作法さえ覚えればフォルマル邸の戦闘メイドにもなれるだろう。

クロエに対して火威がそう評価しながら戦う間にも、特戦群はゴダセンを盾にしていた亜人と思われる隊員とランサーを先頭に、敵兵を斃して火威から離れていってしまう。

既に特戦群14名の内の多くが矢を受けて、数人が仲間の肩を借りてる状況だ。その中で救いとなるのは、ただでさえ混乱を来たしているゾルザル軍兵が、特戦群の突撃で更に混乱に拍車が掛かっていることだろう。

離れた安全な場所でダーレスという帝権擁護委員は「戦え! 退くな!」と怒鳴り続けているが、混乱は何時までも続かない。退却を命じるボルホスを、激高したダーレスが刺そうとした時、ダーレスの頭が粉微塵に吹き飛んだ。離れた地点に居るアーチャーの対物狙撃銃、バレットM90による狙撃だった。

首を失った男がドサリと倒れる。そして返り血を顔に浴びたボルホスは、しばし自失状態だった。顔を拭った掌が血で真っ赤である事を知り、起こった事を理解する。

「チっ……!」

敵は一瞬狼狽えるだろうが、指揮がボルホスという男に集約された以上は混乱が収まるのも短時間だろう。

火威はクロエの腕を掴むと、自身より特戦群に近い位置に押しやって走っていった。




特殊作戦群の隊員の階級はウィキペディアを参考にしてますが、
南雲辺りの階級は三佐辺りだったような気がしなくもなし……。


って言うか、遂にお気に入り指定が100を越えて120を突破!?
こ、これ一体どうしちゃったのか……(((;゚Д゚)))

ともかく、伏して御礼申し上げます!!
乱文、脱字、間違いが多い当小説ですが、
これからも何卒、御読み下さると幸いです!

では、今回も
当小説へのご意見、ご感想。或は誤字脱字への指摘など御座いましたら
何卒、申し付け下さい。

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