ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

24 / 120
ドーモ、庵パンです。
もう少し早く投稿出来れば良かったのですが、投稿直前まで書いてたので遅くなってしまいました。

そして、相変わらずヒロインが登場しません。
本編では一度くらい登場させたいものですが、今の案だと本当に最後の最後での登場で終わりそうです。

まぁ、二期が終えても書こうかと思いますが……。
でも本編は二期中に終わらせたいモノです。

で、今回、破軍してるのは最初の方だけです。

※1月28日
ルビの振り方を漸く習得。


第二十四話 破軍

広場からの追撃は皆無に等しかったが、消魂(けたたま)しいラッパの音が鳴るとゾルザル軍の伏兵や怪異、或は亜人など、はした金で雇われた傭兵が現れる。

「こいつら……。そっちを選んだかぃ! 死んでも文句聞かねェぞ!」

特地戦力調査隊で携行する事になった89式小銃を構え、足を止めて敵前列を撫でるようにして水平発射し、敵集団を撃ち抜く。

それでも止まらない肉厚の怪異は、爆轟で吹き飛ばした。

怪異の中には素早い者も居て、足を停めて迎え討とうとすると直ぐに火威を取り囲む。

迫ってきたのは銀座の牛丼屋で真っ二つにしたブタ顔の怪異だ。それが地面から少し上の空中で回転し始めると、そのまま飛んで一気に距離を詰めてくる。

「面白いことしやがって……!」

火威の目前で軽く浮いたブタの怪異は、頭上から思い切り剣を振り下ろす。だが余裕をもって避けると大剣を振り上げブタの胴体を両断した。

他のブタ顔怪異も回転しながら突っ込んでくる。フォルマル邸で読んだ本の中には、この怪異は日本でもサブカルチャーでお馴染みの雑魚でやられ役の名前を持っている。束になると厄介だが、頭の良くない雑魚怪異は同じ技一辺倒で火威を斬りに来る。

態々(わざわざ)、ブタの技を待つ気の無い火威は、回転中のブタ怪異まで瞬時に間合いを詰め、次々と大剣で叩き潰して大雑把な小間切れ肉を量産した。

「『ミティ』!急げ!」

セイバーが火威に叫ぶが、背後に敵意を感じた火威が、大剣を背に担ぐようにして防備を固める。その直感は正しく、大剣の腹をゾルザル軍兵の刃が強かに叩く。

振り返るようにしながら大剣の刃を敵兵の首当てに付けると、そのまま引き降ろした。この時、既に対騎剣の刃は潰れて斬れなくなっていたが、剣の重さで鎖骨を押し潰して引き倒す。

すぐにセイバーの方向に向かうと、迎えに来たチヌークが見えた。よく見れば、桑原陸曹長と富田二曹や勝本三等陸曹が地上の敵兵に向け……いや、既に地上に下りて戦闘しているロゥリィ聖下を援護すべく、聖下に纏わり付こうとする敵に向けて銃撃を食らわせている。

聖下の周辺の敵が全て倒れたと思うと、今度は銃撃が火威の後方に向けられた。

チヌークに向けて急ぎつつ、後ろを振り返ると装甲を纏ったジャイアントオーガ―……眼鏡犬が居る。見れば、お馴染みとなっている神殿の柱に似た太い棍棒ではなく、生えている大きな樹木を根こそぎ引き千切ってチヌークに投げようとしている。

今し方投げようとしていた樹木はチヌークから発砲する隊員と特戦群によって撃ち砕かれた。だが離陸時の攻撃は限られるので、今の内に眼鏡犬を排除する必要がある。

チヌークに居ると思われるレレイのファンネr……もとい漏斗は、飛来する矢を空中で落とすのに忙しい。特戦群が携行していた擲弾も撃たれない事から、後退中に使い果たしたと思われる。

ならば、排除の方法は一つ。

火威は、爆轟の魔法式を刃に這わせた対騎剣を担いで走りだしていた。その火威と別の方向から、ロゥリィ聖下も眼鏡犬に走り込んで来ている。極大の棍棒で聖下や火威を叩き潰そうとする眼鏡犬だが、如何せん動きが遅い。そして聖下のハルバードが眼鏡犬の分厚い鉄板を抉り、火威が力任せに振り抜いた大剣がジャイアントオーガーの露出した顎を砕き、斬り付けた箇所が爆発する。

ジャイアントオーガーを倒し、顔を上げると遠くから敵の第二陣が迫ってくるのが見えた。 だが、それらまで相手していられる程の余裕は無い。

「よし、引き上げるぞ。皆、乗り込めっ!」

チヌークの開口部から大声で呼んでいるのは伊丹二尉だ。見れば、特戦群の隊員は一人残らずヘリに搭乗している。

ロゥリィ聖下と火威が、各々得物を抱えてヘリに乗り込むと桑原陸曹長が全員の搭乗をパイロットに叫ぶ。

桑原が告げるやいなや、チヌークは地面を離れた。

対空兵器として警戒するのは投石器くらいだが、高速で飛ぶチヌークに当たる物でも無いし、ボルホスとかいう百人隊長が如何に優れた指揮をすると言っても、チヌークが領域を離脱する前に投石器を出す事は出来なかった。

 

 

 *  *                            *  *

 

 

「伊丹二尉、お久しぶりです」

南雲を除けばこの中で一番階級が高いと思われる伊丹に敬礼する火威だが

「えっ、誰だっけ?」

兜と赤マフラーという覆面で顔を隠している火威には、サッパリ気付かない伊丹だ。兜とマフラーを取って顔を晒せば良いのだが、魔導自衛官は日本でも秘匿事項だ。テレビカメラがある場所で素顔を晒すのは避けたい……

……というのは建前で、実際の所はテレビカメラとテレビで見た巨乳リポーターの前に落ち武者のような禿げ頭を晒すのを避けたい思いがあった。もう開き直って剃り落とすのが楽な道なのだが、日本、ないし地球には無い物事が存在する特地なので、もしかしたら劇的な毛生え薬があるかも知れない、と、思ってしまって残してるのである。

「……え、えーと、悪所の時にご一緒した者ですよ」

特戦群を何度もチラ見して、伊丹が察してくれるよう祈った甲斐あって、ようやく伊丹も合点が行ったように頷き、

「あぁ、ゴンゾーリ家の若頭?」

などと宣う。

「イヤそれ誰すかッ」

漫才のボケとも思われる言葉に、まともに反応してしまった火威はチヌークに乗って直ぐの事を思い出す。

その時、南雲は過去に特戦群だったらしい伊丹の名前を呼び、伊丹も南雲を名前で呼んだ。つまり、今はカメラの前で名を出してOKらしい。そう判れば、今し方のボケは乗り突っ込みでもするべきだったかも知れない。だが過ぎ去ったボケに今更反応してはいけない。それは素人でも許されない。

ともかく、普通に名前を告げると伊丹は質問してきた。

「戦力調査隊は離れた地点で行動してなかった?」

「あぁ、俺だけ空飛んで来ましたんで」

「その話、詳しく」

今度質問してきたのはレレイだ。

「精霊魔法で風を呼んで落下傘使いましたんでー……」

レレイが自衛隊の車やヘリに、並々ならぬ興味を持っていることを知っている火威は、彼女が空を飛ぶ方法を探しているのだと直感した。だが精霊魔法を使えるヒト種は限られている。

きっとレレイは残念がるだろうと思ったが、そこにテュカが口を出した。曰く、風の精霊を長い間に渡って使役し、その風で移動するのは危険だという。

「風は自由気ままに吹くわ。今の季節は氷雪山脈から吹き降ろす風が強まる頃よ」

イタリカや帝都の上空なら、かなり自然風に流されたらしい。風の精霊を使役する魔法と言えど、自然の風までは制御できるものではないそうだ。

レレイ先生も自衛隊の道具を使って空を飛ぶのではなく、純粋に人が使える魔法によって空を飛ぶ方法を探していたようだ。特に残念がる様子も無く、別の方法を探すらしい。相変わらずクールな少女である。

 

チヌークの機内にはアポクリフが調査した帰りとあって自衛官以外の顔が目立つ。

火威が救出したキャットピープルのクロエは言うまでもなく、タンスカを離脱する際に、特戦群から日本人拉致被害者を乗せた布担架を引き受けた剛毅な学者先生の三人もそうだ。彼らの御蔭でセイバーとアサシンは逸早く戦闘に転じる事が出来た。

火威が先日、相沢やグレイから聞いた通り、ピニャ・コ・ラーダ殿下とその秘書官のハミルトン・ウノ・ローも居る。ここで皇太女になることを説得するのを考えた火威だが、他の者も散々説得したのだろうから、言葉下手な自身が説得しても無意味だと考え、挨拶するに留めた。

または日本のテレビや翡翠宮から戻った時に見た巨乳リポーターや、テレビクルーである。この巨乳リポーターは可愛らしい顔立ちだが、何処かで会ったような気がした。テレビで見たとか、それ以外の話で。

伊丹二尉が居るのでロゥリィとレレイとテュカは言うまでもないが、ダークエルフのヤオも今ではすっかり伊丹に付いている。

先程、特殊作戦群の亜人かと思われる隊員がヴォーリアバニーのデリラだという事を知った。かなりの重傷だったのにもかかわらず、退院一ヵ月程度で特戦群の隊員に就いて任務をこなし、あまつさえ精霊魔法で姿を隠匿した火威に気付くとは、医者を驚かすどころの話ではない。

他に見てない顔が居るか機内を見回そうとしたが、その前に伊丹二尉に声を掛けられた。

「そういえばその鎧……ってか装甲?…は青い巨星?」

出蔵以外で火威の琴線に触れる言葉を投げかけたのは、特地に来て以来だと今の伊丹の言葉が初めてだった。それが火威の心の奥底に封じていたオタク心を呼び覚ましてしまう。

「判りますか!? 装備に制約がある特地版の先進個人装備ですよ」

「特地版の自衛隊機動戦士ってことか!」

防衛省技術研究本部が提案した先進個人装備システム……ACIES(エーシス)は、公開当初、マスコミから「自衛隊機動戦士」や、それに類する的外れなネーミングをされた事がある。

それは、軽量化されて暗視装置や通信機器を備えたヘルメットや通気性を考えた防弾チョッキ、それに加え、バイタルセンサーまでもが組み込まれて負傷者の優先度選別を可能にした、未来の普通科の装備だ。

しかし、火威が着てる兜跋(とばつ)は軽量で頑強な装甲しか実現出来てないので、かなりの部分で先進個人装備とは言い難い。

「そうかぁ~。火威三尉は機動鎧の青い巨星を着てゾルザル公園に立ち向かうのか」

「なッ!?」

かつて、機動戦士がテレビで放送された当初、新聞の番組紹介の誤植を、事も無げに織り交ぜてきた伊丹二尉に対し火威は

(この男……出来るッ!)

戦慄すら覚える程であった。

そんな二人の会話を生暖かい目で見守る富田や勝本の姿があったが、それに構わず火威に声を掛けて来たのは南雲三佐だ。

「火威三尉は今、第四戦闘団の健軍一佐の下に所属しているのか?」

「えぇ、まぁ。戦力調査隊の任務が解かれれば第四戦闘団の 隷下(れいか)に戻ると思いますが……何分、便利屋扱いされている身ですので、決定的な事はまだ何とも……」

「そうか。俺の一存だけでは決められない事だが……」

南雲は特戦群の他の隊員にも目配せした後、言った。

「やってみる気はないか?」

「…………ファ!?」

それは南雲にしてみれば、「特殊作戦群の隊員をやってみる気はないか」という意味であったが、伊丹との会話ですっかりオタク脳に戻っている火威には

「や ら な い か」

と聞こえてしまった。

特殊作戦群に入るため、選考方法を調べた挙句に伊丹二尉の欺瞞情報をも掴まされた火威は、折角のスカウトを自身のオタク脳の為に「アベさん的な集団」と勘違いして先送りしてしまった瞬間だった。

解答に困る火威は、しばし言葉が淀み滞る。

「俺、ノン気なんで」などという言葉は薔薇騎士団に要らん語彙を与えてしまうのだが、特戦群に多少の反感は与えようが、誤解が明らかになるので言うべき言葉だったかも知れない。

火威の誤解は後に伊丹に相談することで明らかになるのだが、肝心の伊丹耀司二尉は故あって日本の病院に隔離されてしまうので、誤解が解けるのは相当後の話になるのだった。




本当はチヌークに乗ってるのは富田ではなく倉田ですが、
16話に倉田を出してしまったので富田に出張ってもらいました。
タンスカはこれで終わりです。一つクッションを敷いて、いよいよ終盤です。
ちなみに23話から特戦群の隊員の名がコードネームで書かれていますが、それぞれ

セイバー……剣崎三尉

アーチャー…的井三尉

アサシン……押野。階級不明

あと、やはりタンスカでは南雲は三佐なので階級を変えておきます。

次の投稿は、少し先になるかも知れません。
と、取り敢えず、特殊作戦群に消されない限りアニメの17話が放送する頃までには……!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。