ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
どうにか生き残った上に土曜に間に有ったので、続きを投稿です。
しかし、まさか今更箸休め回で二部構成になるとは思ってもなかったんですよ。
でも箸休め回らしく、キーワードとかは入ってないです。

で、DVDの五巻、残念ながら湯煙解除とは行きませんでしたな。
アニメの方は来週早々決戦て……。
ジゼル出るの早過ぎない!?


第二十五話 都心追撃戦Ⅲ (前)

銀座の裏路地に追い込まれた火威。こうなれば、今後の事を考えても今の内に言ってやる他ない。

追ってきたオークが地面と足の裏を擦る音を立たせ、遂に火威を追い詰めた。もう、逃げ場は無い。

火威は意を決して口を開いた。

「よく聞け、オーク。俺はお前と結婚する気も付き合う気も無いんだよ。追われても正直迷惑なだけなんだよ。どっか行ってくれ!」

言ってやった、遂に言ってやったぞ……そんな静かな興奮を胸に感じながら、オークの前に佇む火威は恐ろしい物を見た。

「な"ん"だどごの"ハゲェ……!も"う"一遍言っでみろォ!」

怪異の形相で振り下ろされた永遠力暴撃死拳(えたーなるふぉーすですなっくる)はこの日、日本列島すら消滅させる威力で粉塵を天に撒き上げ、日光が注さなくなった地球を壊死させていったのである。

 

 

 

 

 

 

「と、いう夢を見たんだが……」

アキバに行こうという日の朝に見たトンデモナイ悪夢を出蔵に話すと、これから彼女を連れて日本に行くらしい後輩は乾いた笑いを返してきた。

特殊作戦群の(誤った)真実を知った(と思ってる)火威は、その日の内に、各戦闘団から特地語に堪能な人員を寄せ集めて出来た戦力調査隊が解散し、各々が元の部隊に戻ってる事を知った。

チヌークの機内には、まだよく見てない顔もあったが、武器・弾薬の返納、そして腹も減っていたので早々食堂に向かうべく遁走してしまった。

そして自室には、特地の工芸品として買った犬笛っぽい笛と、相沢がイタリカに向かう道すがらに廃棄にしてもらうつもりだった邪神像が戻ってきてる事を知り、恐れおののいたりした。

それから数日は課される任務は、クロエをイタリカに送る以外は無く、魔導の訓練や普通の訓練、あるいは自主訓練や、対騎剣をグラインダーで削ったり削り過ぎて廃棄する嵌めになったりしたが、特に変わった事は無い。

ただ幾つかの事実が判明し、収穫もあった。

その内の一つは、栗林がオタク嫌いだということ。この第一報は丸山からだが、若い曹官が食堂で薄い同人誌を読んでたら、思いっ切り栗林に怒られている場面に遭遇して確信を得た。

その怒りようは、先日チヌークの中で伊丹と話したような内容を栗林の前で話すのは、ハゲ以上にアウトであることを理解させられる程だ。

火威も自室に妖怪関連の本を何冊か持っているが、こちらは学術の本と言い張るつもりでいる。

大学時代は民俗学の研究をしたから、民俗学に縁の近い妖怪は間違いなく学術の分野と言える……と、主張するつもりなのだ。

これは、火威が態々、(わざわざ)四年制の三流大学を五年掛けて通った事に大きく関連する。

火威の大学受験は自己推薦で、近くの大学に楽々入学したのだが、実は入学する先を火威の勘違いで選んでいたのだ。

入学したのは人文学という聞きなれない学問を習う学部だったのだが、火威はこの聞きなれない学問を民俗学の領域か、それに類する学問だと思い込んでいた。

それは自己推薦ながらも一応は面接もあるので、面接の中で判明した。面接官の教授方は苦笑していたが、民俗学の領域である文化人類学を指導する教授も面接官に居たせいか、火威は受かってしまった。

受かってしまった火威は、仕方ないので大学で文化人類学を選択する。しかし一年でその講義を終わり、他に民俗学系の講義も無いから、自身で勝手に興味のあった東北に伝わる蛇神や、日本各地の妖怪、或は外国の妖怪の勉強や研究を始め、大学の勉強は二の次の次の遊びと飯の後になってしまったのである。

そして、もう一つは米国を強請(ゆす)って入手した対物ライフルM95の照準は特に狂っているという事はなく、1000mほど離れた目標を狙っても、着弾範囲が30cm以内という極めて正常な範囲内だったのだ。

恐らく、火威の「お願い」はディレル政権をかなり追い詰めたと見え、米軍の武器を管理する者あたりが、大きな努力をしたと思われる。

先日の亜龍討伐の際に狙いが大きくズレたのは、高速で移動中の車両からの狙撃という事もあるし、火威も狙撃出来るような体勢が取れなかったと言うのもある。

だが狙撃するためのスコープは欲しいし、本音を言うとターゲット・サーチャーという装備も欲しいと考えていた。このターゲット・サーチャーは、生命体の体温を赤外線で感知し、隠れている獲物を探す狩猟用の装置だが、山岳救助の際にも使われている。

以前にゲリラ化したゾルザル軍との戦闘で、被害に遭った住民の生存者を捜索するために使われたが、熱源が多過ぎて大して役に立たなかったという話を聞いている。

だが闇夜に潜んだ襲撃者を逸早く発見するのに役に立つので是非とも欲しい一品なのだが、官給品には無いので自衛官が自費で買わねばならない。

予算に乏しい自衛隊とは言え、遭難者の捜索に大いに役立つ物なのだから、国民の血税で買ったとしても文句を言われるものではないと思う。が、火威なんかは真っ先に「狩猟用」に使うつもりでいる。

しかしこのターゲット・サーチャーは、ググったところで検索不可能なので、諦めざるを得なかった。

最後に、火威は物質浮遊の魔法を訓練したものの、物事を難しく考え過ぎるせいか中々使えずに居る。レレイやカトーに師事するのが早いのだが、レレイはアポクリフの対応で忙しいし、カトーは新難民の子供の相手で忙しい。結果として火威は独りで訓練しなければならないのだが、難しく考え過ぎたせいか、石礫を当てる的にしていた木の棒が粉々になって吹き飛んでしまった。

空気の玉どころか壁をぶつける魔法を応用しようとしたところ、波動砲を実現させてしまったらしい。

 

 

*  *                            *  *

 

 

「ヤベー、ヤベー……」

時折、思い出したように呟く火威は、アルヌスの食堂に来ていた。少し早い昼食を食べようと言うのだ。

久々の休暇とあって、今日の午後にでも日本に帰って秋葉原でM95のスコープを探すつもりでいる。

アルヌスの食堂に行く途中、火威は早々帰ってきた出蔵とアリメルに出会った。

アリメルは4つのアルコールランプを買い物袋に入れ、出蔵はエルフ語の単語練習用に買ったらしいICレコーダーと、自転車のスポークの他、アリメルと共に大量のザラメ糖を持っている。

エルフ語練習は、アリメルの両親に挨拶するためだろうか、とも推測される。

「で、出蔵……! まさか、おま…っ!?」

「あ、判ります? 今から駐屯地祭の用意ですよ」

どうやら特地に残留するらしい後輩だが、「幾らなんでも気が早過ぎだろオイ」とは言わないまでも伝わった事だろう。だが悪くならない物なら、今から準備するのもアリかも知れない……と、後輩の事を言えないどころか真似を検討する火威だった。

 

食堂に着くと、アルコールに余り強くない火威は、正月でもないのに昼前からミードという訳にもいかないので柑橘類の果汁とラザニアを頼んだ。たぶん、日本で腹が減る量だと思うが、その時は牛丼屋かラーメン屋にでも寄れば良いと思っている。

食堂が混む時間でもないので、注文した物は直ぐに来た。それを運んできたのは新人ウェイトレスと思しき亜人なのだが、その種族と服装を見て火威は驚く。

彼女は竜人で、白エプロンin白ゴスロリという出で立ちである。火威がフォルマル邸で仕入れた記憶が正しければ、白ゴスロリに似た神官服はハーディという特地の神の神官で、それを着る竜人の女性と言えばハーディの使徒のジゼル猊下しか思い当たらない。

それが、どういうワケだかアルヌスの食堂で働いている。ファルマート大陸の流行の発信地になっているアルヌスなら、コスプレという事も考えられるが、敢えて竜人の美女とも言える女性に白ゴスロリとエプロンを着せて、本物の不興を買っちゃったり、信徒の反感を得たらどうするのだろうか、とも考えてしまうのは、火威が生まれ育った世界の宗教の狭量さ故だろう。

特地の神々は、こういった事に関しては実に大らかなもので、この程度の事で目くじら立てたりする宗教者は居ないのだが。

 

ともあれ、アルヌスに居たハーディの信徒と言えば、先頃、炎龍に襲われて自衛隊に売り込んできたダークエルフの部族が思い当たるが、その多くが改宗したり、アルヌスを去ったりしている。

今現在アルヌスに居るダークエルフのとして、真っ先に思い当たる三人の内、ヤオはロゥリィ聖下の信徒になっているし、アリメルやティトの姉弟は元から別の神の信徒だ。

だから、今すぐに信徒からの反感を買ったりしないたろうが、それも時間の問題と火威は考える。

そこで食堂の料理長のガストンに聞いたら、火威はまた驚いた。コスプレ美女では無く、本物だと言う。

ジゼル猊下はクナップヌイで伊丹二尉にレーション(カレー)を御馳走された事もあって、すっかりアルヌスで饗応を受けられるものだと思ったらしい。だからか、アルヌスで大いに飯を食い、酒を飲んで借金を拵えたのだと言う。

この手の支払いは本来は神殿がするものなのだが、アルヌスにはハーディの神殿が無い。立て替えてくれる信徒も、先に言った通り居ない。

偶に支払い請求すらされない事があるが、それだって信徒の多い街で宣伝効果があるから成立することである。

喰い逃げもやって出来ない事は無さそうだが、間違い無くロゥリィ聖下辺りからベルナーゴ神殿に苦情が届く。するとベルナーゴ神殿やハーディ、そしてジゼル自身の権威とかが酷い事になってしまうので、この道も断たれた。

「…………まぁ、大変っすね」

料理長にジゼルがどれだけ借金したのか聞くと、神様とは言え女性の身でよく食べるな、という程の額だった。賽銭しようかと考えた火威ではあるが、何時も賽銭箱に入れてる5円玉では焼け石に水どころか、大規模火災に水風船である。

火威は狙撃用のスコープを買うつもりなのだから、後に預金を下ろす必要がある。財布の中を見ると、自分の食事代を除けば千円札が一枚ある。

特地の神様の御利益は、この時には既に方々で見知った身なので、殉職する気がこれっぽっちも無い火威は、死後の安寧を確かな物にすべく、ジゼルに千円札の賽銭をする事を決めた。

 

 

*  *                             *  *

 

 

ジゼルに賽銭を渡した時には「あ、ありがと…有り難きことにごぜぇます」などと妙な敬語っぽいものを使うものだから、「何この可愛い亜神」とも思った火威である。

だが今では、そのジゼルに頭を悩ましている。

門の向うの日本が面白そうだからと、付いてくると言うのだ。

何処のコスプレ会場から抜け出してきた、と言わんばかりの姿も「何処かのコスプレ会場から抜け出してきた」という事で狭間陸将から許可が降りてしまっている。

実際には門を開いたハーディの使徒ということで、彼女の心証を良くしたい日本政府辺りの手回しだろうが。

(アポクリフ、どうすんだ……)

とは少し思ったが、伊丹と同行して資源調査に向かった三人娘(+ヤオ)の内の誰かが、ハーディから異界の門を開ける術を伝授されたとも聞くので、殊更心配に思うような事でもないのかも知れない。

 




お気に入り指定が140越えとる!?
でも栗林が全然ヒロインしないッ!

皆様、数多くのお気に入り指定を本当に有難う御座います……ッ。
栗林がいよいよヒロインらしく振舞うのは、たぶん鬼人になった後だと思います。
あ、でもヒロイン中は鬼人状態じゃないんでご安心を。
書いてる途中、この庵パンに何か起こったり逃げたりしなければ、その辺りまでは書く予定です。

では、ご意見、ご感想など御座いましたら、どうぞご気軽にお寄せ下さい。

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