ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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すいません!次です!魔法が出るのは次の四話です。四話になったらちょっぴり魔法が出ます。
四話の箸休め回で魔法が初登場です。



第三話 女神たちの嘲笑

空中を征くヘリの中、火威含む隊員は用賀二佐からの通信でイタリカについての情報を聴いていた。各自、事前に情報を予習している筈だから念のための復習だ。

作戦行動でやる事は既に決まっていて、何か特別にやることがあれば随時、通信が入ってくる。

イタリカはテッサリア街道とアッピア街道が交差する地点にあるフォルマル伯爵家の領地だ。

ふと、火威は気になった。街道の名前に聞いた憶えがあるような錯覚を感じたからだ。そもそもイタリカという地名からしてそうだが、きっと気のせいであって日本がある世界の紀元前にルシタニア人にそなえる拠点として建設された古代ローマの都市の名称や、ローマの第三軍団ではない。絶対に。絶対にだ。

ともあれ第三偵察隊が避難民と相応の価値になるという竜の鱗を大量に売りに行ったのだから、交易や商業がアルヌス周辺の村々より盛んであろう事は推測できる。それに大規模な盗賊団の襲撃を受けても、暫くは持ち堪える事が出来る都市であることもだ。

しかし、このままでは陥落してしまう。第三偵察隊らの自衛官は盗賊団とは装備も違うし、過酷な戦闘訓練も乗り切った者達だから盗賊も迂闊には近付けないだろうが、他のイタリカに住む者は当然違う。市井の者でもいざとなったら武器を取って戦う事も出来るが、相手は先日まで正規の軍人だった者達だ。

「ったく、掠奪とか何時の軍隊だよ」

思わず呟いて、その迂闊さに苦笑する。火威が想像した軍隊が、今正に特地の文明レベルの連中だからだ。

「城門まであと二分!」

用賀が告げる。そして流れ来るワーグナーのBGM。こいつぁ具合が良い、と火威はヘリの外に足を投げ出して調子を取った。そして落ちてしまわないように重心を背後に掛けながら64式少銃を直ぐに使用出来るよう携える。

向かえのUH-1では相沢がM134ガドリングを稼動状態にしていた。

やがて見えてくるイタリカの城門。そしてコブラのスタブウイングに付けられたTOW対戦車ミサイル群が放たれる。城門で巻き起こる爆炎。

「ヒュー! 圧倒的破壊力!」

火威が言おうと思った矢先、似たような事を考える者は他にも居るようで、隣に居座る二曹に先に言われた。

「城門の中には味方が居る。外のみを殲滅せよ」

インカムから流れる指令を聞き、火威は64式少銃を撃つ。この特地で使われる事になったこの少銃は、咄嗟の遭遇戦で使う事など全く考えられていないかのように使い勝手が悪い。だが10mmの鉄板を撃ち抜ける威力を持っていて、オークのような肉厚の相手でも一撃で倒せる。

だから撃たれる方がただの人間ならロクなことにはならない。武器を持って右往左往する賊の頭を狙って引き金を引くと、賊の頭が水瓜のように砕ける。

特に火威などは次々と砕けた水瓜を作っていった。見れば賊の中には女や子供も居る。自身や仲間の身が危うい場合は別だが、こういう一方的に生死与奪できる立場の場合は大概甘い火威は撃たずに見て見ぬフリだ。

賊の中には気丈にも弓矢でヘリを射抜かんとする者もいるが、ヒューイに搭載された74式車載7.62mm機関銃の良い的になっていた。そのヒューイの向うでは城門にバリスタが設置されている。

「城壁に対空兵器」

すぐさまコブラが向かい、対戦車ミサイルで対空兵器を稼働させようとしていた賊ごと吹き飛ばす。盗賊団は既に撤退しようとしていた。

「この火威 半蔵、断じて容赦せん!」

馬に騎乗してイタリカから離れる賊を撃ち抜く。それどころかロケット弾ポッドが多数の賊を騎乗している馬ごと吹き飛ばした。そのコブラが城壁内に向かう。

火威が乗るヒューイは高度を取っていたから城門内が一望できるが、見れば城内の一部で、白兵で盗賊を圧倒している者達が居る。一人は避難民の中に居たゴスロリ少女だ。重厚なハルバードを振り回して賊を圧倒しているところを見ると、案の定、人間とは違うらしい。もう一人の方は背の低い自衛官だ。遠目から見ても判る。「ヒュー! 鋼みてぇな身体だ!」

その自衛官がWAC(女性自衛官)だと知るのは、もうしばらく後の事だ。

火威は、まさか見ている対象がWACだとは思わない。それ程に強いのだ。そしてその自衛官が人間とは違うであろうゴスロリ少女と良いコンビネーションを取っている。さては自衛官の方も人間とは違うのか? アルヌスに派遣されたのは曹官以上だが、これ程の猛者が居たとは。

その奥では二人の背後を敵に取らせまいと、二人の自衛官が64式小銃で援護している。そうした中、盗賊は一塊に追いやられる事となる。その密集状態の盗賊団の前にコブラが下降する。

無双していたゴスロリ少女も背の低い自衛官も、後方に居た二人の自衛官に抱えられて退避した。そしてコブラの機首に装備されたM197ガドリングの三身が賊共に向く。

放たれ、賊を貫いていく20mm弾。

「う、うわぁ……」

ミンチより酷ェや。火威はどれだけ言おうと思ったか。毎分750発の速度で発射される大口径の銃弾は瞬く間に賊を掃滅する。剣や盾は言うまでも無く、肉を貫き骨を砕き、その場はちょっとした血の池地獄が出来上がる。ミンチを通り越してペースト状になった盗賊だったモノを見て、流石に火威もちょっと引いた。

 

 

    *  *                      *  *

 

 

火威はファストロープで降下してから、簡単ながら負傷者の救援・手当てとTow対戦車ミサイルで吹き飛んだ瓦礫の片付けをしていた。意識が無い者は上肢、または下肢が無くなっていて明らかに死んでいる者を除いては少ないものの、居れば蘇生作業も行う。今までの訓練で憶えた事は大いに役立った。だが中には蘇生作業の甲斐なく臨終となる者も当然居る。火威が対した相手は全て盗賊側の人間のみだったから良かったが、イタリカの人間だったと思うと遺族に何と声を掛けて良いか判らない。

そんな時に、第三偵察隊の陸曹長に声を掛けられた。どうやら健軍一佐がフォルマル邸で火威を呼んでいたようだ。慌ててそれまでの作業を近くの二等陸曹に任せ、フォルマル邸に向かう。

向かう途中、イタリカの街並みを見る。フォルマル邸に行くまで階段が多く、家々には商店が多い。ヘリから見たイタリカ周辺の景色も、ここが穀倉地である事を雄弁に示していた。それだから、健軍のだいぶ後ろから見たイタリカの今の代表を見ても場違いとしか思えない。

彼女、ピニャ・コ・ラーダは騎士厳然の装備をしていたのだ。但し、その装備類は日本のアニメや漫画にあるような華奢な物だし、本人も心ここに在らずといった様子ではある。従者の二人の騎士の内、一人は女性で頭部を負傷しているようだが、それでもこちらの方がしっかりしている。ちなみにもう一人は壮年の男で、禿げ頭とガッシリした体躯のベテラン騎士といった風体だ。

その彼らの見ている前で、彼らが苦戦していた盗賊団を瞬く間に掃滅し、ミンチに変えたのだからピニャ・コ・ラーダの反応も当然かも知れない。

特地は亜人が居てドラゴンや怪異が出る以外は、ありとあらゆる物が中世相応だ。イタリカを救った自衛隊がそのまま居座り、拠点とすると思ってるかも知れない。

勿論、日本政府の意向を承けて来ている自衛隊が、勝手にそんなこと出来る訳が無い。このイタリカに来たのも、もとは避難民の自活の為に竜の鱗を売りに来た第三偵察隊からの救援要請有っての事だ。

その第三偵察隊の隊長、伊丹耀司二尉には、このフォルマル邸内で会った。特地において深部情報偵察隊の長は二等陸尉か三等陸尉と決まっている。そしてこの男の肩の階級章は二等陸尉のそれだ。この二尉は右目に痣を作っていた。恐らく盗賊との戦いの最中に出来たのだろう。他の理由で痣が出来る事があるものか。

結局伊丹二尉は何も喋らなかった。その隣では盗賊相手に大暴れしていたゴスロリ少女が不機嫌な顔をしていたが、まぁ関係無いだろう。

 

 

   * * *                         * * *

 

 

「で、イタリカにはケモっ娘が何人も居てさ、それがまた綺麗だったり可愛い娘ばかりだったりすんのよ」

アルヌスの帰った火威が、イタリカで見てきた様子を出蔵と出蔵の同僚の三等陸曹に伝え……もとい自慢する。自慢している火威自身も改めて思うのだが、特地には美女や美少女が多く見られる。アルヌスの避難民に居る中年以下の女性…中でも第三偵察隊が保護した三人娘が目立った美少女だ。とはいえ金髪エルフは、エルフという種族がサブカルチャー通りなら、美形なのは当然だろうし年齢は日本人女性の平均寿命より遥かに上かも知れない。

「俺は褐色エルフとか居ると良いっスかねぇ~」

「あ、ソレ良いスね。褐色巨乳で銀髪エルフとか、実に良いかと!」

それが妄想とは言い切れない辺り、まったく特地は最高だぜェ!と、火威は思う。敢えて言うなれば

「ホルスタウロス。ホルスタウロスはまだかねェ……」

 

 

 

第四戦闘団の飛行部隊はその日の午後から自由時間だ。急な状態変化が考えられる特地では、隊員の休息にも重きが置かれる。

火威はアルヌス南方の森の近くに建てられた避難民の仮設住宅がある難民キャンプの集会場のようになっている一番大きい小屋に、日本から持ってきた某ウォークマンを作った会社の準最新据え置き型家庭用ゲーム機を準備していた。プレイするのは、これもシリーズ化している準新作の某3Dロボットシミュレーションである。

「武器属性とか防御属性とか、小難しい事しないでいてくれた方が助かるのに」と、シリーズ通してのファンである火威は思う。

とは言え今まではオフラインだったが、先日から日本とネット回線が繋がるようになって僚機を雇う事が出来るから、難易度はかなり下がった筈だ。

ここにあるゲームは、避難民達の娯楽の無さを考え、親切心から火威自身が持ち込んだ物だ。今では他の自衛官が持ち込んだものもあり、ソフトは充実している。

最初の内は異世界から持ち込まれた代物を物珍しく見て、設置当初は実際に操作する者も居た。しかしこれが遊具だと説明されてからは、まるで生産性の感じられないこの物体に興味を持つ者は激減した。だから火威としては某3Dロボットシミュレーター弁護の為に「コレは狩猟本能を養う使い道もある」と、本来の使用目的より歪んだ斜め上の説明をする事となった。

「難易度の結構高い作だから出来るかなぁ」と、興味を無くしているであろうにも拘らず、避難民がプレイした時の心配を、シリーズ通してのファンである火威は思う。

オンラインの共同プレイにも拘らず、接近戦用の武器一つのみの迷惑縛りプレイを暫くやっていると思うのは「こんなACみたいなのがあったら炎龍を張り倒すのも楽だろうなぁ」ということだ。

そうしている内に集会場に人が来ていた。コダ村の避難民の中の九歳くらいの男の子だ。

「ヒオドシのオジサン、またゲームやってるの~?」

「いやいや、こうやって気力や闘志を高めているんだよ。今朝の出動で両方とも使っちゃったから」

それにレレイ先生も今は出かけてるし。と付け加える。

火威は特地語の勉強に加え、先日からは魔法の勉強もしていた。カトー老師を先生に魔法や特地語の勉強をしても良いのだが、驚異的な吸収力で日本語を憶えたレレイの方が都合良いのである。

「あぁ、それで今朝は走ってるの見なかったんだ」

この世界の住人は大概早起きだ。陽が沈んだら寝るし、昇ったら起きる。無論、仕事などで前後することはあるが基本的に太陽に従った生活リズムと言える。

「まぁねぇ……ってかいうか、ここから走ってるところ見れたの!?」

「普通に見えるよ」

何を当然の事を聞くのかと、とでも言わんばかりに少年は返事する。

サバンナに住む者の視力が7.0程あると聞いた事があるが、特地の住人もかなり視力が良いらしい。

「まぁなんつーか、中々良い夢見てスッキリ起きられたというのもあるけど」

「良い夢って言うとニホンの食べ物とか?」

この歳の少年に嫁が出来た夢の話をしても仕方ないので肯定しておく。

「ニホンの食べ物って美味しいけど味が濃いよね」

彼らは避難したての頃に自衛隊のレーションを振る舞われた。いや、現実には今日収入を得たばかりなので、もう少しの間だけレーション暮らしだろう。

「まぁねぇ……」

そういえば、と思う。第三偵察隊、妙に遅いな。竜の鱗の商談に手間取っているのか、ついで仕事に復興の手伝いでもしているのか、または盗賊を撃滅して厚い歓迎でも承けてるのか……。そう勘繰る火威ではあったから、まさか隊長の伊丹耀司二尉が帰路の途中で帝国の騎士団の捕虜になっている事など露程も思わない。

「今度日本帰る事があったら、日本で食べてるお菓子をご馳走してやるよ。俺が作れる種類は少ないけど」

これを聞き少年は驚いて言う。

「えっ! ヒオドシのオジサンもイタマエなの!?」

「ちょ、何それ、なんでそんな日本語知ってんの。っていうか板前はお菓子作らないよ。まぁ趣味で作る人も居るだろうけど」

「レレイねーちゃんがイタミのおじさんの所のフルタっていう人がイタマエって言ってた」

「あぁ、古田陸士長ね」

その人物の名と顔は火威も知っていた。どうも第三偵察隊の隊員は個性派揃いに思える。

「俺は板前じゃないけど菓子作りはプロ並だよ」

「ぷろ?」

「本業のこと」

しかし、ここで火威は新たな問題に直面した。

(プロが作ったホットケーキって食ったこと無ぇな……)

 

 

  *  *  *                  * * *

 

 

後日、顔の傷を増やした伊丹二尉率いる第三偵察隊は帰還していた。

火威がイタリカで見たピニャ・コ・ラーダも来た事には驚いたが、更には初めて見る金髪縦ロールの女性も一緒だった。

あの人達は何故に? そして伊丹二尉の顔の傷は何故増えてるの? 当然、火威もそんな事を思う。だがそれも、協定締結後に手違いがあり謝罪しに来た、と聞けば伊丹二尉の傷が増えているのも、金髪縦ロールの女性が来た理由も大体察しが付いた。

「まぁそんな事もあるよねぇ」と、思ってしまうのは他人事であり、特地故に伝達が遅い事に起因しているからと推測が成り立つからだ。それに伊丹二尉が手酷く暴行されたものの幸い大事は無く、今回の一件では死者は出ていない。

その伊丹二尉が明日、国会から参考人招致で呼ばれるという話は士官の間でも話題になっていた。

「大丈夫なんですかねぇ。伊丹二尉が国会とか」

まるで誰かに聞かせるように零れた相沢の呟きを、火威は不思議な事でも聞いたような顔を見せる。

「え、なんで……? 伊丹二尉は格闘・射撃・空挺・潜水・心理戦・爆発物とかのエキスパートって聞いてんですけど……」

「…………三尉は伊丹二尉とは面識無いんですねぇ。三尉はどうやってその情報を?」

「特戦群に入る方法を調べてる時にたまたま……ッハ!?」

「えぇ、黙っておきましょうね。私も何も聞かなかった」

特殊作戦群の構成員の名は秘匿条項とされている。だから火威から見れば伊丹耀司二尉が様々な分野のエキスパートで、なおかつ元・特殊作戦群の構成員だという事を知った瞬間だった。しかし相沢からしてみれば、欺瞞情報を掴まされ、担がれた僚友が、何故か特戦群構成員の個人名を知っていたので口止めをしたに過ぎない。

「あぁ、そだ。俺も明後日、日本に戻りますね。ちょいとコダ村の少年と約束あるんで」

 

 




本当は三話だけだったんですが、妙に短いので四話分も繋げました。
ご意見やご感想等有れば、是非ともお願いします!

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