ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
前回の投稿から一週間以上掛かってしまいました。
しかもそれほど長くないです。
この後、ゲートの騒動を書くか否かで進むスピードも変わるとおもうのですが、
まぁ書かないと不自然かつ情報不足になってしまうので、必要な分だけ書こうかと思います。

……まぁ、これまでも原作読まないと情報不足なんですが。 (´_ `)


第三十話 ファルマート空中戦

健軍 俊也一佐率いる自衛隊第四戦闘団と正統派帝国軍、そしてエルベ藩国の将兵の任務は、ゾルザル派帝国軍の城塞群を制圧し、敵方が首都としているテルタに攻め入ってゾルザル・エル・カエサルを捕縛、又は殺害することだ。

レッキに向かうヒューイの中、第四戦闘団に所属する相沢健一二等陸尉は思う。マレ攻略の終盤では、トーチカに似た防衛設備内のゾルザル派帝国兵を無力化する為に、複数の正統派帝国兵が犠牲になった。帝国の兵とは言え、現在は味方になった仲間に少なくない犠牲が出ているのだから、かつてのバディが居たら矢除けの加護を唱えた上で吶喊し、血の海にしたかもしれない。いや、絶対に防錆施設内で頭部の無い帝国兵の複数の死体を拵えてくれただろう。

だが今のバディである薬師寺(やくしじ)一等陸曹が銃眼に似た穴に閃光音響筒を投げ込んで、内部の敵兵を昏倒させてしまったのである。

以前のバディと違って、かなり冷静な薬師寺一曹である。

彼は自衛官としての技量も確かだし、犠牲も極力最小限に留める。その上で隙も無いし、前のバディと違って魔法を試そうと思う事もないが、迂闊さの微塵も無い。それだけに面白みもなかった。

僚友に面白みを求めるというのも間違っているのだが、火威という男は見ていてかなり面白かった。

この世界には存在するからと、魔法を特訓して精霊魔法まで使い始めるし、好きな女が「自分より強い男にしか興味ない」事を知ると、石の仮面でも使ったんじゃないかというレベルになるまで強くなったりする。

かと言って陽の下に出てもHIにならないから、吸血鬼などになったワケでは無いらしい。もしかしてヤサイ人か……と思ったところで、自分が習志野に居た時の同僚にだいぶ毒されている事に気付いた。

タンスカから帰還するチヌークの中で、その同僚と火威は会ったらしいから、さぞかし会話が弾んだのではないかと思う。

「あ……」

「どうしました?」

ある事を思い出して思わず声にしてしまった相沢は「いえ、何も」と、薬師寺に返す。

相沢は思い出したのだ。

亜龍やダーの標本採集とその報告、そしてイタリカで正統政府への報告とその他色々の雑多な作業に忙しく、火威三尉に廃棄を依頼された邪神像を道端に廃棄せず、自室に持って帰ってしまった事を。

まぁ火威が要らないなら、日本に帰る時にでも持って帰ってしまおう、そう思った時に、搭乗するチヌークの操縦士が叫んだ。帝国の竜騎兵が投げた投網が空中に広がるのを見たのだ。

「回避!!」

自衛隊のヘリ群は、編隊を崩して回避行動をとった。翼竜で部隊を組んだ抗戦派帝国兵の奇襲に遭ったのだ。

揺れ動くヘリの中から外を見ると、帝国の竜騎兵が駆る翼竜が目に入る。相沢も直ちにドアガンで迎え撃とうとするが、ヘリが空中で独楽のように激しく回り始めた。

「軟着陸するぞ! つかまれ!」

操縦士が怒号を轟かせながら操縦桿を必死で支える。

 

 

*  *                             *  *

 

 

ベッサを飛び立って数時間、フゥエの城塞もウェス、マレの要塞も越えて陽は既に高くなっていた。

魔導グライダーで空を飛んでる間の作業といえば、方位磁石で方角を確認するだけなので、任務中にもかかわらず暇と感じてしまう。暇と感じるが余りに、前々から気になる事も考えてしまう。

新難民の自立や、よくよく思い出してみれば結構な巨乳のジゼル猊下の事、そして栗林の事などだ。

ワシントン条約も無いので、新難民の自立支援になるからと恐獣の角をチヌークに積んでもらった。それも工芸品の材料になると思ったからなのだが、この世界で恐獣の角など値段の付く物なのだろうかと思ったりもする。

また、フォルマル邸では「蟲獣」なる者の甲皮で作ったという調度品を見たが、火威がこの世界に来て以来、蟲獣という存在は見た事が無い。名前から察するに虫なのだろうが、その甲皮が決して小さいとは言えない調度品の材料になるのだから、中々に大きい虫である事が予想される。

長くて脚が一杯ある某虫など、見たら直ちに殴り殺したくなるくらいに嫌いだという火威にとっては、出来るだけ会いたくない存在だ。だが調度品などの材料になるなら、会敵一番、殴り殺さなくてはならない。

結論から言うと見たら即殺。見なくても何時か撲殺なのである。

それはさておき、ジゼル猊下は日本に行って以降、何かと良くしてくれて、近頃では、ぎこちないながらもスキンシップまで求めてくる。その様子が非常に可愛らしくて、出会いがもう半年ばかり早ければ恐らく男女の仲になっていたかも知れない。だが亜神は子供を産めないのだと、方々から得た情報や聖下も言っていたこともあり、この辺りは「ごめんなさい」しなくてはならなかった。

最後に栗林の事だ。そろそろ門を閉じるなどという話は、近頃はアルヌスの至る所で噂されている。一応は幹部自衛官である火威は、更に詳しい話を知る事ができるのだが、一度閉門する事は確かな事らしい。

その際に、栗林がどうするか気になるのだ。もし日本に帰還しないのなら今の状態を継続するが、もし帰還するのであればゾルザルをブチ殺して戦争が終った直後にでも交際を申し込まなくてはならない。もし、それで削げなくフラれたら特地に残留するつもりでいる。

特地に残留してジゼル猊下の寵愛を頂くというのは、如何にも都合が良過ぎるから、この辺りはキッパリ諦めて、悪所で見かけたミノタウロス系の常時トップレスのお姉さんと好い仲になる道がある。だが、お突き合いに持ち込めたらまだ可能性は残っている。交際し、結婚するなら、予想外にすぐ近くに居たホルスタウルス系の栗林が良いのだ。

誰かに紹介されたという複数の特戦群の隊員を以てしても、お突き合いで未だに負けた事がない栗林だが、それでも可能性はゼロでは無いハズである。

栗林と結婚を前提に交際できるのであれば、如何に恐ろしいオークが待ち受ける日本とて、足を踏み入れることに一切の迷いは無い。だが亜神のジゼル猊下が戦う前に負けを認めた相手だ。エイリアンとプレデターと、宇宙の地上げ屋を営んでいる全体的に白くて所々紫色の冷凍庫を同時に相手しても、小指一つで倒せるようになるまで強くならなくてはいけない。

かなり険しく遠い道だ。しかし座右の銘は不撓不屈。火威に、その覚悟は有る。

そこまで考えたところで、遠くの空に自衛隊のヘリコプター群と翼竜の群れが見えた。ヘリは上昇と下降を繰り返し、そのタイミングを見定めるようにして複数の翼竜が襲い掛かっている。

よく見れば、翼竜の背には長い竜槍を携えた竜騎兵が跨っている。野生の翼竜の襲撃も予想の範疇に入れたが、ここまで来ると明らかにゾルザル派帝国軍の襲撃だ。

火威は対物ライフルで撃ち抜くべく、思案する。今の状態では狙撃するのに非常に体勢が宜しくない。加えて、撃つ方向も良くなかった。今の状況で撃てば、下手をすれば味方に当たってしまう。

ならば、今よりも近付きつつ、若干迂回して味方と同じ進行方向を向いた方が良い。

今の火威は風の精霊を召喚する精霊魔法を使っている。同じ精霊を使う魔法なら二つ以上の魔法を併用出来るようになった火威であるが、光の精霊や風の精霊といった違う精霊魔法の同時使用は出来ない。

今のまま味方に接近して支援すれば、確実に敵に見つかってしまうだろう。それでも今は、とても狙撃できるような状況ではないので、敵を撃つ場合では出来るだけ近付かなくてはならない。

だが、接近する合間にもヘリ群に、竜騎兵達が持っていた重い鎖製の投網が投げられる。

高速で移動するヘリに向かって投網を掛けるのは、容易なことではない。殆どが外れて地面に覆い被さったが、十や二十も投げれば運の悪い一機か二機が掛かる。

火威の見る前で、メインローターやテールローターにこれを巻き込んだヒューイが安定が奪われ、着陸を余儀なくされている。

荒く着陸したヘリのメインローターは地面に打ち付けられ、バラバラに壊れて破片が辺りに飛び散る。そして、すぐに地に落ちたヘリの中からエルベ藩国の将兵や隊員などの乗務員が脱出するのが見れた。

やがて、墜落した機体は爆発炎上。その様子は空から一部始終、見て取れた。立ち上る紅蓮の炎と黒煙は、帝国兵に久しい勝利を実感させたのか、火威からも諸手を上げて喜ぶ竜騎兵の姿が見える。

「野郎共ッ! ブッ殺してやる!」

最早、構わず魔導グライダーを空戦区域に接近させる。

すると案の定、空を滑空する一騎の竜騎兵が火威に気付いたようだ。翼竜を御してこちらに向かって来る。火威も用意しておいたバレットM95を構える。

都合が良い事に、向かってくる翼竜の向うには味方のヘリは居ない。しかも的はどんどん大きくなっていくのだから、弾を外す要素は低くなっていく。

引き金を引いた途端、翼竜の顔が抉られて地に落ちていく。

「ハッ。ざまァ!」

時速200㎞を超える速度の味方に追い付こうと、風の精霊に更に頑張ってもらう。すると、仲間が戻らない事に気付いたのか、三騎の竜騎兵が向かってくるのが見える。

竜騎兵を撃っても残った翼竜に襲われるので、翼竜をバレットで撃ち抜く必要があった。

「よし! 死ねよやァ!」

続け様に三発、顔面や片翼を吹き飛ばされた翼竜が地に落ちていく。対物ライフルの残段数は1つとなった。

竜騎兵の中の指揮官らしき禿げ頭の男が何かを叫ぶと、二頭の翼竜が一機のヒューイに襲い掛かった。

ヒューイは上下左右への細かな軌道を取って翼竜の襲撃を回避しようとしている。

恐らく、操縦士が操縦桿をめちゃくちゃに動かしてるのだろうが、その影響でバランスを失ったヘリのローターが竜騎兵の胴を強かに打ち付け、翼竜の鞍から吹き飛ばした。

しかし主を失っても翼竜はヒューイに爪を衝き立て、しがみ付いている。それを振り払おうと機体後部ではエルベ藩国の兵士らが剣を振って叩き落とそうとしている。だが小型の竜とは言え、剣で斃せるものではないし、バランスを失ったヘリが向かう先にあるのは高い岩山だ。

やべっ……そう口走りつつ、火威が対物ライフルで狙いを定める。ヘリに密着している翼竜だが、撃ち抜いて殺さないと味方に多大な被害が出てしまう。

上昇し、可能な限り近付いてから撃った弾丸は、思惑通りに翼竜の延髄を砕いてこれを殺すに至った。

すぐさまエルベ藩国の兵が剣先で翼竜の死骸を突き離し、ヒューイは上昇する。ギリギリの状況で一仕事終えた気になっていた火威は、油断しきっていた。

味方を援護する為に接近し、上昇していた火威の落下傘は自然風をもろに受けてしまったのである。

「ゲェ!? ちょっ、ちょと待て!」

待てと言ったところで自然の風が待ってくれるわけも無く、今更下降しようにも既に手遅れだった。

こうして火威は、テルタに向かう第四戦闘団に追従することも出来ず、西へと吹き飛ばされるのだった。




城や防御設備にある銃眼に似た穴は「狭間」って言うんですな。
原作でも同じような表現でしたが、狭間陸将が居るので、こちらでも「銃眼に似た」と表現しました。

で、お気に入り指定が190個も後半で200近くに!
UAも二万を越えて有り難い限りです!

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