ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
たまに読み直すんですが、自分で読んでも珍紛漢紛なところを多数発見……。
ホントに日本生まれの日本人が書いているのかと思うくらいです。
それはそうと土曜投稿です。

去年にやまとまやさんの御感想への返信で、「主人公には当分リア充成分を加味ない」
と断言しておきながら、ジゼル猊下の存在が実にリア充成分なことに最近気付きつつあります。
これは……もう終盤だから良いですかねぇ。
まぁこの後にも主人公への悲劇は用意してあるんですが。


第三十二話 嵐の前触れ

陽が傾いたファルマートの空の中、火威は最終決戦に臨めなかった事を悔やむ。そして連日に渡ってサボる羽目となった我が身が、これから隊内で『サボり魔ハンゾウ』や、それに類する不名誉なアダ名で呼ばれる事を予感して恐れたりした。

しかし火威も、風に流されるだけの情けない姿を晒しているだけではない。自然風に少しでも逆らおうと、自然風の隙を見れば東の方向に風の精霊を使役しようとする。

ゆっさゆっさと身体を揺らしたり、操縦索を操作しても、向かってしまうのは専ら西である。

ほんの少しのチャンスを見つけ、少し東に寄ればその十倍は西に流されるという仕打ちだ。

「うぉい、俺がお前らにナンカしたかワレゴラァ!?」

風に対して当たってしまうのも、火威故である。長いこと冷たい空の中に居た火威だが、竜甲の鎧を纏っているので身体が冷えるという事は無い。だが帝国の翼竜部隊と交戦して熱くなっていた頭を冷ます役に立ってくれたようだ。

今の状況をどうにも出来ない彼は、ゾルザル派帝国軍の動きを考える。

軍の細かい動きを決めているのはゾルザル配下の冴えた連中だろうが、軍全体の動きを決めるのは火威かそれ以下の頭脳レベルのゾルザルだ。ならば、連中はどう動くか。その事を考えてみる。

正面から当たっても自衛隊に力で勝つ事は出来ない。ならばどうするか。

イタリカから自衛隊勢力が出払っている今こそ、電撃戦でイタリカを攻める以外に勝算は無いのではないか、と。

空自の偵察が敵の動きを見ているとは言え、特地に持ち込まれたファントムは全部で四機しかないし、航空機から観察しただけでは判らないような深い森もある。

また、グローバルホークや偵察衛星など持ち込んでいない特地では、敵の動きを監視するにも限りがあるのだ。

そう考えれば、このままイタリカまで流されるのも悪くはない。戻って何事も無ければ、そのまま警備すれば良いし、何かあれば遠慮なくゾルザル派帝国軍を焼き尽くせば良い。

が、周りを見てみると高度がかなり下がっている。高度を測る機器も無いが、感覚としてはウラ・ビアンカと東京タワーの展望台の間くらいの高さだ。

今は森の上空に居る。このまま着陸となると、落下傘が破損してしまう可能性が高い。風の精霊を使役して上昇しようにも、風の精霊は絶賛、西に向かってゆっくりと進行中で言う事を聞いてくれない。

「クッソ! もう好い加減にしろやァ!」

空気の玉を作って膨らんでいる落下傘に向けて投げる。これで上昇する筈だ。その目論見通りに空気の玉はグライダーの一点を突き動かした。

一点を突いて……

そのまま突き抜けて行った。

 

起きてしまった事は理解しつつも、特に感想も後悔も無い。

言える事はただ一つ。

「アヒィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?」

情けない声をあげながら、凄まじい勢いで落下していく火威は、森を抜けて地面に叩きつけられる前に、足が地に着くと、そのまま身体を丸めて前転するように転がる。

落下傘の一点が破れた時は焦ったが、立ち上がって損害を確かめても特に痛めたところは無い。作戦の継続は十二分に可能だ。

三点着陸しなければ即死だった……そんなふざけたことを抜かしながら、木々に引っ掛かった落下傘に向けて空気の玉を投げつけ、傘が拓けた場所に落ちてきたところを回収する。

そしてその時、森の向こうを飛ぶ矢とどよめきに気が付いた。

 

 

*  *                            *  *

 

 

馬車のように屋根がある荷車を牽く馬を止めたのは、鎧姿の武装した一団だった。

二人の兵士が交差した槍で障害を作り驚いた馬が竿立ちになる。その荷車に近付いたのは、コボルドを象った兜を被った二人の男だ。

荷車の主、シロフ・ホ・マガイヤは大きく呻く。

自分の情欲にも何と無しに応えてくれた羽振りの良い他種族の女の、野次馬根性に付き合わなければ、今のように殺気立った連中にも止められずに済んだのだ。

今し方、視界に入ったのは飛来してくる矢。それが空中で弾かれるように在らぬ方向に行ったのは、荷車に乗る同行者が魔法か何かを使ったのだろう。

同行者の彼女は何があっても平気だと言っていたが、どう考えても無事では居られなさそうな状況が出来上がっている。

「だ、駄目だ! サリメルの姐さんっ!」

馬車の中に座っている筈の同行者に、言い放ちながら振り向いたが……

「いっ、いな……!」

同行者の影も形も消え去っていた事を知ったシロフが、指揮官らしきコボルド頭の兜を被った男に、御者台から引き摺り降ろされた。

その男が喚き立てる。

「全員降りてこい! 全員だ!」

ゾルザル派帝国軍一万の兵は、フォルマル伯爵領の正統派帝国政府が存在するイタリカを強襲するために、道で会う者を全て悉く殺害するという鉄壁の防諜体制を敷いている。

対騎剣と、それを扱うことの出来るオークの一団を保有する第Ⅸ軍団は、イタリカを強襲する各軍団との集結を急いでいた。そこにイタリカに向かう荷車と遭遇したのだ。

「本隊には先に行かせろ。俺は軍を止めたバカヤロウの首を刎ねてやる!」

帝権擁護委員のマサイアスの言葉が無くとも、彼等の隊は行軍を続けている。マサイアスは脇に立つもう一人の帝権擁護委員のブッホに宣言するように言うが、言われた彼は彼で意見があるらしい。

「グランスティードを運んでるんだ。使える怪異も限られるならどうやっても遅くなる。急ぐなら投棄するか?」

「馬鹿言うなっ。イタリカの国賊の中にはピニャ殿下の薔薇騎士団が居るんだ!」

重量の有る対騎剣……その正式名称はグランスティードと言う。鍛冶神ダンカンの使徒、モーター・マブチス鎚下が嘗て神鉄を用いて鍛えたと言われる大剣に似せ、名称もそのままに大量生産された武器だ。

対騎剣とは、モーター鎚下が打った元となった大剣に似せて作られた量産型が帝国で使い始められた当初に、その用途から名付けられた俗称である。

ブッホは、そんな重い大剣を恐獣も使わず、荷車と中型以下の怪異で運んでるんだから無理を言うなと言いたいのだ。

言われるまでも無いと言わんばかりにブッホを一瞥すると、マサイアスは荷台に乗る引き摺り降ろした御者の男を睨みつけてから、屋根付きの荷車の扉を蝶番が壊れる程乱暴に開く。

だが人間が乗っていると思い込んでいた荷車の中には誰もいない。

荷車が商人の物なのか、それ以外の人間の物なのかは判らない。だがゾルザル派の兵達は、一刻も早く今の仕事を終えて本体と集合しなければならない。

誰も乗っていない事を確認したマサイアスは、引きずり下ろした御者を再び睨み付けた。

「恨むならイタリカの国賊共とジエイタイを恨め!」

そう言って、剣を持っていた腕を引いて御者を刺し殺そうとした。

その時、小気味良い破裂音と同時にコボルトを象った兜の絨毛に穴が開き、マサイアスが複数の肉塊になって吹き飛んだ。

テルタから伝達された指令通りに、イタリカに向かう道すがらに遭ってしまった民草を始末するだけだと思っていただけに、兵は一様に浮き足立った。

「あからさまな被り物してくれて有難よ」

森の奥から、64式小銃を構えた火威が歩いてくる。

「き、貴様っ……! 何者だ!?」

「俺だ!」

俺だ! 俺だ! 俺だ! そんな事を言いながら、一発無駄にしちゃったよ、と思う前に9ミリ拳銃でオプリーチニキの後ろに居る二人の兵の下腹部と頭部に銃弾を撃ち込んで確実に仕留める。

残った犬耳兜が剣を抜くが、即座に間合いを詰めた火威が殴り飛ばし、呆気なく昏倒させてしまった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

一人のオプリーチニキを亀甲縛りに拘束した後、先行しているゾルザル派の軍列を強襲。魔法を駆使して自身に被害は出さず、向かってくる者は射殺して逃げる怪異も射殺するという凶悪な戦いぶりで荷車と複数の対騎剣こと、グランスティードを奪ってしまった。

ちなみに逃げるヒト種には、硬度すらあるのではないかという圧力のある空気の玉をぶつけて昏倒させた上で、人質として捕らえている。

火威は知る由もないが、彼が強襲、殲滅したゾルザル派帝国軍の第Ⅸ軍団の総員の半分である怪異を併せても900人程居た。

食料など嵩張(かさば)る物の運搬は怪異に任せられるので、ヒト種の多くは戦闘に従事出来る戦闘員なのだ。

その内の150人を4~5人ずつ纏めて縛り上げている。

その人質達も、先程捕らえて亀甲縛りにしたオプリーチニキも、馬車に乗っていたらしい亜人の女性が用いた眠りの精霊によって、みんな仲良く寝ている。

ニカブという眼以外を隠す服を着ているが、笹穂耳が出ているのを見るとエルフ系の種族なのかと想像が付く。その碧眼は、何処かテュカを思わせる。

とはいえ、火威が悪所に居た時には笹穂耳の別の種族なんかを見ているのだから、耳だけで判断する事はできない。

だが、精霊魔法を使っているのだから、ほぼ間違いなくエルフだろう。

火威が彼等の荷車を止めたゾルザル派帝国兵の一団を掃滅してから、御者の男はシロフと名乗り、その後に出てきたニカブの女性はサリメルと名乗った。

「だーかーら! 最初のヤツを斃したのは妾だって!」

何かの約束事でもあったのか、火威が戻ってくるとサリメルとシロフが口論している。恐らく、危険な場所ではサリメルがシロフを守る約束でもしていたのだろうが、シロフは(しき)りに「もう嫌だ! もう帰る!」と喚いている。

「あぁ、貴方を刺そうとしたオプリーチニキ、サリメルさんが吹き飛ばしたと思うんですよ」

サリメルに助け舟を出したが、シロフは一刻も早くこの場を去りたいのか「いや! でも嫌だ! もう帰りたい!」と子供のように喚いている。

シロフの目には、一発の銃撃でオプリーチニキがバラバラになって吹き飛んだように見えたのかも知れない。というか、人一人を簡単に解体出来るような魔法など、普通は無い。

「まぁ聞く話じゃこいつ等が最後尾だと思いますけど、念のためにこの辺りで隠れていた方が良いかも知れませんね」

まだ遅れているヤツがいるかも知れませんし……と言い加えて火威は鹵獲した荷車に自身の落下傘を取り付けている。

嬉しいことに地表では一切の風が吹いていない。落下傘の破れた箇所を火の精霊とグランスティードで溶着し、風の力で走る車でイタリカまで急行しようと言うのだ。

「では妾達はここでゆっくり隠匿しとる」

シロフも精霊魔法が使えるサリメルに頼るしかなかったのか、反論も無い。

「早けりゃ今日中にでもゾルザル共を排除してイタリカに行けるんですけどね」

「ふむ、お主のような剛の者に会えただけでも良しとするかのう。して、お主、名は何と申す?」

この場で個人情報とか明らかにして良いものなのか……と考える火威であったが、相手はゾルザル派では無いのは明らかなので、素直に答える事が出来る。

「おぉ、ジエイタイのハンゾウと申すのか。時間が有ればニホンの話を色々聞きたかったが、イタリカの窮地ともなれば仕方ない」

妙に馴れ馴れしいなぁこのエルフ……。とは思うが、エルフである以上は美女である事は確かなので、会って早々美女と名前で呼び合う仲になれたことは嬉しく思う火威だ。

「機会があれば同衾できることもあろうて」

エルフかと思ったらエロフだった。会ったばかりの美女にそこまで求めていない火威の愛想笑いは、実に乾いたものである。

荷車に落下傘を装着し終え、五本のグランスティードを載せ、鹵獲した大剣のホルダーにもう一本のグランスティードを付け、それを背中に装着する。そこに火威が乗るのだから、荷車の重量もかなり重くなって大抵の風には飛ばされないようになった筈だ。

そして風の精霊を召喚し、火威はイタリカの救援に急行していった。




遂にお気に入り指定が200個突破しました!
読んで下さる方々に御礼申しあげます!

アニメ二期終了までに書き終えることは出来ないと思いますが、
これからも何卒宜しくお願いします。

ちなみに、今回登場した明らさまな名前のサリメルは、戦後ですがこの後に出て来ます。
シロフは以前に書いていた小説のキャラでしたが、ホボロウの信徒になって出て来て貰いました。
当小説では(多分)もう出番無いです。
デュランが厄介になっていた修道院の主神がホボロウですが、何の神様なんでしょうねぇ……。
重傷のデュランが居たと言う事は、医療の神様か何かなんでしょうかねぇ?

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