ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
今回もどうにか水曜投稿です。でもMPを削りましたので、今後直す可能性が高いです。
二期終了までに完結出来れば理想ですが、今のままでは難しいですねぇ。

今回、また特地戦力調査隊のメンバーの数人が出て来ますが、3偵と似た事をしているので、ますますMP下がりました……。
隊長の佐官の名は庵パンの趣味です。
で、実際の人の性格なんぞ解りません。


第三十三話 風の眷属

ゲートの銀座側を占拠する外国人NGOを標榜する連中を見ながら、出蔵は舌打ちをして憤りを隠せないでいた。

ゲートの特地側に広がるアルヌスの街では火事が起きているのか、黒い煙が上がっている。

現在、出蔵は休日を返上して戦闘服に着替えている。だが鎖骨を折っているということもあるので、火威程に引き金が軽くない彼だが64式少銃は取り上げられている。

だから狭間陸将の後ろで相手の工作員が言う事を、残らずICレコーダーで録るしかないのだ。このICレコーダーは先日、アリメルと東京に行った際に、エルフ語練習用にと駐屯地祭の材料のついでで買ったものなのだが、こうなることが判っていたら録音容量の一番大きい物を買うべきだったと後悔もする。

明らかに武装している中国人達が国際NGOなどではないのは確かなので撃ち殺してしまいたいところなのだが、中には動員かけて集められたであろう留学生や労働者、そして観光を名目に集められた共産党員などがいる。

そして今は中国人工作員の女がレレイを人質にしていた。

工作員全員を同時に撃つことは不可能だ。出蔵の先輩が如何にチートな自衛官でも時間を止めるスタンドを使えるほどチートではない。

この遣る瀬ない状況で、出蔵に出来る事と言えば、都合良く持っていたICレコーダーで相手の代表の言質を録ることしか無い。

もし、このままゲートを閉じる事になっても、何時か誰かが開いてくれるのを信じて録るのだ。もちろん、人質になっているレレイが無事に戻ってくるのが一番良い。

出蔵達のような自衛官は勿論、アルヌスに住む全ての人々が見知った人物だし、何よりアルヌス生活協同組合の幹部で頼りになる天才で美少女だ。

レレイを人質にしている女をどうにか出来ないか……。今は相手の代表者と狭間陸将が交渉しているが、どうにも旗色は良くない。今は機会を待つ他無かった。

 

*  *                             *  *

 

施設斑の冨野三佐はあらゆる事態を想定し、集まった曹官と駐屯地があるアルヌスの丘の麓に広がる街を徘徊する怪異・ダーの掃討に当たっていた。

この三佐、機動戦士とか小田原とかは全然関係ない。癖の強い性格の彼は派遣当初、幾つかの黒い作戦を立案して「黒冨野」と呼ばれたこともあったが、今現在ではその黒さも鳴りを潜めて「白冨野」などと呼ばれているが、癖の強い性格はそのままだ。

その彼が想定した事態は、発令された「韋駄天」が特地派遣の自衛官の全体撤収を意味する「脱兎」になった時、万が一にでも残された自衛官が居た場合の事を考えたのだ。

冨野の下に集まった曹官は宇多一等陸曹、日下部二等陸曹、丸山二等陸曹、そして今回の非常時に、自衛隊に無償で協力するというアリメルの弟のティトだ。早い話が現在後送中の相沢と、負傷した伏見と内田と出蔵、そして火威とウォルフや薔薇騎士団を除いた特地戦力調査隊の面々である。

日下部もマーレスで負傷したものの、その傷は極めて軽微なので戦闘は可能である。彼は96式装輪装甲車を運転している。

その装輪装甲車は暗くなってきた新難民地区に進入した。

 

冨野三佐に率いられた彼等は、今現在の指揮官に似て余り無駄なことと思われる事は話さない。不要な事を喋らない三佐の性格がそのまま指揮下の者達にまで伝播したようだが、丸山はダーが居ることに疑問を口にした。

「ダーは全部調べてきたハズなのになんでっ……!」

ゾルザル派の旗下の商人からダーの擬態を解く笛を買い取ったのは彼女だ。それに答えるように宇多が言う。

「今作戦の直後に、直接アルヌスまで来た新難民が多いんですよ。きっとその中の子供に擬態したダーが……」

あるいは、その時の難民の全てが怪異テロを起こす為のゾルザル派の者かも知れないのだ。

「お前ら、子供が出てきても銃口は向けるな。子供とは言えないほど怪異化したら俺が許可を出す。構わず撃て」

そんな冨野の声に、車載機銃のブローニングM2重機関銃の槓桿を引いて弾を装填する丸山が聞いた。

「ところで怪異化してない子供はどうします? 助けるんですか?」

「発見した段階で怪異化してないなら、誰であろうと救出対象だ」

敵か味方か判らない対象を保護するのは、それだけで自衛官の負担となる。

「日下部っ、ストップ! 右手に避難民とダー!」

宇多の声に車が止まり、即座にブローニングと三丁の小銃による弾幕がダーを襲う。この巨大怪異は象や犀と同じように一発の銃弾程度では倒れないが、今の部隊の構成員は過去にもダーを蜂の巣のような穴だらけにした経験を持っている。

あっさりとダーを排除した部隊は、避難民である二人の男女を保護して車内に押し込んだ。

二人を保護して戻ってきた宇多を確認してから、冨野が口を開く。

「この人たちを降ろしたら、また向かうぞ。油断するなよ」

「まぁ、あの程度ならジャンジャンバリバリと……」

「出たら困りますよ。弾薬だってあるんですから」

日下部の軽口を宇多が窘める。実際には今の銃火程度では、彼等が携行している弾薬は簡単には尽きないのだが、実際に侵入しているダーの数は未知数だ。多く見積もっておいて良い。

再び走り出した96式装輪装甲車は新難民地区の大通りを行く。それから直ぐの事だった。

「マ、マルヤマさん!」

ティトの悲痛な声の先には、今し方助けた男が抜き身のナイフを持ち、その腕を丸山が抑えてる姿だ。

その光景に皆が注意してしまった一瞬、女の方が懐から袋を取り出し、車の中に撒き散らす。

宇多や丸山、それにナイフを持った男はそれを思いっ切り浴びてしまった。

「臭っさ! 何これっ? 」

「何しやがる!このクソアマ!」

思いのほか口の悪い冨野三佐がナイフを持つ男を64式小銃の銃床で殴り付ける。ナイフを持つ男は確実に自衛隊の敵対勢力だし、女の方は既に宇多が羽交い絞めにして抑え込んでいる。

「蟲獣の体液さ! これでダーは狂ったようにお前たちを付け狙う。これでお前たちは死ぬんだ!」

女はそう叫んでから甲高く笑う。それを羽交い絞めていた宇多が口を開いた。

「つまり、探さないでもダーから来てくれるということ?」

「そ、そうさ!」

女は宇多の反応を意外に思ったのか、言葉を詰まらせる。

「ジエイタイの魔杖に限りが近いなら……!」

その女の言葉を遮り、おっとり系かと思われてた宇多が口を開く。

「すまん、ありゃ嘘だった。あと五百頭は余裕で殺れる」

「ま、マジすか?」

日下部の呟きに答えたのは冨野だ。

「キャリバーの弾も5000発はあるし、64式小銃の弾はその倍ある」

冨野は日本語で喋っていたので、それを聞いたティトは態々二人の男女に教えてやった。

二人はこの上ない程に「ヤッチマッタ」感のある顔をしながら、ダーを掃討するためにゆっくりと走行する96式装輪装甲車の中に捕らえられていた。

 

 

*  *                             *  *

 

 

フォルマル領の農耕地帯を、一台の荷車が高速で駆け抜けていく。それは偶に畑まで踏み荒らして突き切って行くから、乗っている火威の意思を離れている事を表している。

火威は油断しきっていた。いや、油断というより考えが足りていなかっただけなのだが、特地に来て以来、最もイレギュラーな事態に飛び込んでしまったのだ。

荷車は本来、馬などの曳く動物を操って行き先を決める。風の力で動く車も、ハンドルや帆の方向を変えるから行き先を決められるのだ。ところが火威が乗る風力で走る半グライダー荷車は、馬も居なければ操縦するハンドルもトルグの類も、荷車に取り付ける為に無くなっている。

しかも吹いてる風は絶賛自然の暴風なので、操作も出来ない有様である。

以前にテュカからイタリカには「氷雪山脈から吹き降ろす風が強まる」と聞いたのは憶えているが、肝心の「吹き降ろす」の部分を、火威は「吹く季節」としか憶えてなかったのだ。

「吹く」だけではなく「吹き降ろす」のである。この差は非常に大きい。

出来るだけ道に沿って走ろうとする火威だが、やはり今日に限って人が多い。

ゾルザル派の軍隊がフォルマル伯領に侵入しているから当然なのだが、ゴールド免許の火威はついつい癖で避けて走ろうとしてしまう。

だが高速で、操作を受け付けない荷車だ。人を避けられるなら良いが、どうしても避けれないとなると、風の玉で進行方向に居る人物をぶっ飛ばしてでも避けるという乱暴な方法しか取れない。

そして、空中を征っていた時と違って、ここは人の多い地上である。風に文句を言っている暇も無く、事故が起きないように可能な限りの体重移動で操作するしかない。

火威を乗せた荷車は、昇り坂を駆け上がっていった。




トゥハッタっぽい(別人ですが)人の台詞はトゥハッタの台詞そのままです。
宇多の台詞は本家そのままかは、解りません。どうなんでしょ?
で、今回は三場面書いているんですが、妙に短いんですよねぇ……。
それと、以前に「設定だけで出てきた思いっ切りオリキャラ」は前回出てました。
今後の都合上出て貰ったんですが、その必要なかったかも?
まぁ出した以上は其の設定に沿った改変しますえ。

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