ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
昨日投降しようと思ったのですが、直前の書き足しをしてたら予想より多くなってしまいました。
最初にハリョの刺客視点で書きましたが、予想以上に噛ませ犬っぽく……。

最終話は次か、その次です。
はやく出来ればアニメの二期終了までに完結させることが出来るかも知れません。
まぁ、それからも外伝めいたのが続くんですが……。


第三十五話 バランスブレイカー

屋敷内で迎え討ってくる幾人もの戦闘メイドをやり過ごし、最後の関門たる皇帝の寝所前まで来たのは一つの小さい影だった。

その影の主が猫系なのか犬系なのかは判らない。だが近い血筋に怪異がいるらしいことは、醜悪なるその面構えを見れば判る。

ボウロという男の下で組織される、ハリョの影戦部隊の構成員となったのは、彼が一人で生きるようになってから間もない頃だった。

エルフやキャットピープルやワーウルフにヴォ―リアバニー、その他の全ての種族は他の世界から来た者達である。

それに比べ、ハリョと呼ばれる自分達はこの世界で発生した。

故に、この世界の正当な主は自分達である。

 

これが詭弁であることは、彼らとて判っている。だが、それでも彼らはその虚栄にしがみついた。

無いものを有ると言い張らないと、彼らは拠所を失い、たちまち再び独りに戻る事を怖れたのかも知れない。

 

だが、そんなこたぁ知ったこっちゃー無い、という人間も少なからず居る。

帝王の寝所前を衛る二人の女騎士は鋭い口調でハリョの刺客に誰何する。これが様式美というものなのだろうが、彼には答えてやろうという義理も持ち合わせてなかった。

黒髪の女騎士に剣を振り上げ、予備動作も短く斬り付ける。

それは流石に剣で受けられたが、そうしてる間にも自分と同じ道を辿って仲間が一人来てくれて、自分が相対する黒髪の女騎士より幾分か幼く見える金髪の女騎士の相手をしてくれている。

自分の役割は、可能な限りモルト皇帝までの障害を減らす事にある。ここで死んだら、きっとエムロイの下に逝く事になるだろ。

彼は剣の握りと唾を持ち、固く構えた。突貫し、刺し違えてでも敵の数を減らそうというのだ。

その様子を見て、黒髪騎士も剣を構え直す。

ハリョの刺客が床を蹴って駆けだすと、それは起きた。

まず、首元に熱いような痛みを感じる。

そして聞こえたのは気勢を発する男の声だ。

彼が生涯の最後に聞き、見たのは、拳を突き出す青い鎧の男が発した気声と、血を噴き出しながら倒れる自身の体だった。

そして途切れる意識の中の一瞬で気が付いたのは、玉砕覚悟の突撃では、エムロイは魂を拾ってくれないこと。そしてそれを乱入者に救われた事だ。

 

 

*  *                             *  *

 

 

「やばいやばいやばいやばいッ!」

銃口を並べて自衛官らが巨大な蟲に銃撃し続ける。

鎖骨を折っているとは言え、出蔵も89式小銃なら無理して撃てなくもない。当然、治りは遅くなるが、緊急事態に鎖骨が折れた事を言い訳にして何もしない訳には行かない。

先程までは狭間陸将の隣でICレコーダーで言質を取っていた出蔵は、ゾルザル派帝国軍撃滅の為に内地から新たに搬入された89式小銃を持ち、門の前でNGOを名乗っていた工作員との睨み合いの場に出ていた。

言質を取る単調な作業は内田に任せ、集まってくるダーを掃討した特地戦力調査隊の隊員と共に工作員に小銃を向けている。

レレイを人質に取る女が、居丈高に振る舞って勝ち誇ったような嘲笑すら浴びせてくる。出蔵を含む多くの自衛官が憤慨し歯軋りするが、それすらをも高笑いする女の声が掻き消していた。

ホント、もう胸糞展開だぜェッ……誰かさんならこう言うだろう。しかも工作員の一人が後方に控える荷台の大型トラックに合図すると、ドーム内に轟音を轟かせて門の一角に突っ込ませた。

凄まじい衝撃音が成るが、それでも門は辛うじて形状を保っていた。もう撃っちゃって良いんじゃないかな、という発想は、レレイを人質にされている以上は却下されるしかない。

そして門の向こうから西洋人と、銃を持った覆面をした男達が入ってきた。覆面した男達は覆面の隙間から見える肌色を見る限り、アメリカか西洋諸国の人間だろう。

中国の工作員と話し合っているが、やはり、お互いで出し抜き合おうとしてたらしい。いっそお互いで殺し合ってくれれば余計な手間が省けるが、その場合はレレイの身が非常に危険になる。

出蔵がそこまで考えたところで、どういうワケだか伊丹二尉がドームの天井から降ってきた。

それはもう、某アルプスの少女よろしく巨大ブランコにでも乗っているかのような大スイングで、レレイを人質にしている中国工作員の女を特地側まで蹴り飛ばしてしまう勢いである。

 

その後、伊丹二尉に続いて富田二曹、栗林二曹、テュカが降りてきて、帝国第二皇子の清々しいまでの小物っぷりや工作員同士の撃ち合い、はたまたドーム内の異変と工作員の代表者らの想像力の無さを見る事になったが、今はその工作員らも撃ち合いや巨大な蟲に食われたりして死んでる。

唯一生きてるのは、伊丹二尉に蹴り飛ばされて特地側でウォルフに確保された女くらいだ。

この女を見れば、アリメルが如何に良い女かが再認識させられる。別れてから幾時間も経ってないというのに、出蔵は彼女が恋しくなった。

巨大蟲をあらかた潰す事が出来たら、すぐに会いに行こうとでも思う…………

 

…………などと考えてる場合ではない。

アルヌスの頂き、すなわち門が有ったドームの内部では、門が崩壊したかと思うと地揺れが鳴り響き、本来ドームの天井が存在する筈の場所は闇色に塗りつぶされ、その中央に紅と黒柴が渦巻く暗黒の太陽が出現していた。

ドーム内の床も今までのように平坦ではなく、漏斗状に窪み、しかも中心に近付くほど急激に窪んでいる。その中心は何処まで続くか判らないほど深い穴が口を開けていたのだ。

二組の工作員の集団は、そこから這い出た巨大な蟲に喰い殺されている。触手に絡めとられて引き込まれた者も居たが、まぁ喰われて死んでるだろう。

深淵から這い出し来る蟲を手当たり次第に撃つが、パンチ力の弱い89式小銃では勿論、オーク等の肉厚な怪異すら一撃で斃せる64式を、自衛官らが並べて撃っても巨大な蟲共を堰き止めることは難しかった。

74式戦車の主砲が火を噴き、爆風が多数の蟲を巻き込むが蚤をハンマーで潰そうとするが如く効率は良くない。むしろ、蟲がアルヌスや特地の世界に広がるのを抑えているドームを傷付けてしまうので、多用は出来なかった。

いっそのこと深淵の向うに戦略核でもぶち込みたいが、出蔵の判断でどうこう出来る物ではないし、そもそも核があるのは閉ざされた門の向こうだし、戦術核すら持っていない日本の誰が決断したとしても無理な話だ。

その時、レレイが飛び出した。

髪の束を額に当てて、小さく呪文を唱え、日本への道を押し広げる。

すると、大きく窪んでいたドームの床が元の平坦な床に戻り、門が有った場所には、静かな水を湛えたような壁に似たものが立っていた。

ドーム内に溢れてしまうかと思われた蟲も、流入が止まれば自衛隊の火力に次々と屍を築き上げる他ない。

「ヨウジ! ギンザへの道を広げた。こうしておけば、他の世界に繋がる『門』は押し潰されて蟲獣は入ってこれない。 今の内に魔法陣を!」

 

 

*  *                             *  *

 

シャンディー・ガフ・マレアとスィッセス・コ・メイノは見た。見てしまったのである。

乱入してきた青い竜甲の男は、シャンディーと交戦中のハリョの刺客を、いとも簡単にひっ捕まえると「目だ! 耳だ! 鼻!」などと言いながら、ハリョの頭部を整地して血溜まりに沈めてしまったのである。

その直後に地揺れが来たが、どうしても青い竜甲の悪魔と関連付けたくなる。だがシャンディーもスィッセスも、以前に帝権擁護委員に包囲された翡翠宮に現れた竜甲篭手のジエイカンの話は聞いているので、あるいは……とも思う。

今し方現れた竜甲鎧の男はフォルマル邸内の間取を知っていたのか、衛るべき場所も聞きもせずに早々と行ってしまった。

その背中に掛けてある大剣を何故使わないのか、二人は不思議に思ったものの、それから暫く経つとモルト陛下の寝所周辺の警備が、一層厳重になっているのに気付いた。

翡翠宮に現れたジエイカンは魔法剣闘士のような力を持っていたと聞いているが、人体錬成は禁忌とされる魔法でも聞かない。

悪魔のような戦士だから、本当に悪魔と契約して戦力を借りたのかとすら思えてくるが、シャンディーは別の事を心配していた。

翡翠宮にヒオドシ・ハンゾウというジエイカンが現れた時に、彼と彼の同僚か上役のアイザワ某が、揃って負傷した中年以上の兵士に肩を貸していたという話を、その場に居た従者の少女から聞いたのである。

これは、もうシャンディーの目から見れば漢同士の美しき友諠。その様を見たと言う従卒の少女から事細かく詳細を聞き、ハンター(ヒオドシ・ハンゾウ)アイヴィー(相沢某)を主人公に薔薇騎士団の記録に残る報告書(という名の英雄譚)を書かなければならない。

その報告書が書き終えるという矢先に、ハンターの残虐超人めいた性格が明らかになってしまったのである。これは、最初から書き直す必要すらある。

シャンディーは頭を抱えた。

 

 

*  *                             *  *

 

 

フォルマル邸から時折、外の戦場に向かい、ピニャ殿下に意見具申して刺客迎撃の為の人員を館に戻し、その分の敵を撃滅する。

その方法は思いのほか上手く進み、敵に気取られる様子もなく両軍の戦力は次第に萎んでいく。

その最中に地震や激しい砂嵐があったから、火威には自衛隊の戦力が来られない理由が門の異変で発令された<韋駄天>に拠るものだと理解できた。

今回は地震だけではない。太陽が閃光に包まれてから暗転し、東の空が闇に包まれたかと思うと、その方角から来た突風が木々をなぎ倒す勢いで襲ってくる。

直後に来たのは視界を覆い尽くすほどに分厚い砂嵐だ。

その後の地震は慣れっこなので、別にどうでも良いくらいの揺れだが、その前に起きた異常事態は韋駄天どころか脱兎が発令されても良い程の事なのである。

脱兎が発令されてしまえば、特地残留希望者を含めて自衛官は皆、日本へ撤収することになっている。もはや沈む船と同じ状況にあるので、魔導グライダーも使い潰してしまった火威は特地に置き去りという可能性が強いと、火威自身が自覚していた。

まぁ、特地には神田や銀座で見たような奥オークも居ないし、ジゼル猊下を始めとする綺麗な女性も少なくないから良いかな、とは思う。

だが栗林に会えなくなるのが、何よりも無念だし、心残りだ。

そんな自分の都合が叶えられなくなったら、後はゾルザル派の連中を討滅して特地で生きる他ない。

そうすれば薔薇騎士団の誰かと良い仲になって婿養子とかになり、貴族の仲間入りしたり、悪所で見たミノタウロス系のトップレスお姉さんを側室なんかを迎え入れたり出来るかも知れない。

火威は知る由もないが、肝心の薔薇騎士団の多くの面々からは、相当警戒されているのだが。

 

 

屋敷の外から入って皇帝の寝所に行くまでに、オロビエンコと呼ばれる必ず通る大広間がある。時折、会食や舞踏会が広かれるこの広間は、奥行き21レン、(1レン 1.6メートル)幅8レンと、剣を振り回して戦うのには十分な広さがある。

ハリョの刺客ともなれば、他の箇所から押し入ることも少なくないが、一度潜入する道筋が確立すると、大概の場合でその道筋が使用される。

今の場合でも他に漏れず、同じ轍が踏まれていた。そしてその道筋こそ、オロビエンコを通る道である。

火威もそのオロビエンコに急いだ。今まで温存していた最後のグランスティードを抜いて広間に進むと、既にそこにはフォルマル伯の兵士や戦闘メイド、そしてハリョの死体で覆われていた。

火威は戦闘メイドの死体の中に、見覚えのある顔を見た。

「エンラ!?」

馬頭のそのメイドは、火威や相沢が以前にフォルマル邸に逗留していた時に、何かと良くしてくれた事があった。

ファルマートの言葉や文字を憶える時にも一々付き合ってくれたし、彼女が話す小咄なんかも非常に面白く、特地語を憶える助けになった。

ハウスメイドの質の高さを思い知らされ、尊敬すらした。

それが、物言わぬ骸となって倒れていたのである。

火威は後悔した。かつて逗留していたことがあるなら勝手知ったるフォルマル邸である。

敵の侵入経路など、直ぐにでも判った筈だ。

それなのに、ハウスメイドに犠牲を出してしまった。それも、自身が非常に世話になったエンラだ。

「戦う気が無いのなら見逃してやる。失せろ」

火威を見つけたハリョの青年が言う。

このハリョも妙にガキっぽい。そんなことを考えた火威の前で、ハリョの上半身が消えた。

その上半身が空中を舞って地に付く前に、半身を失った青年の後ろに控えていたハリョの連中も肉塊にされ、壁や床の染みと化す。

一言も喋らず、無言で敵を殺戮する様は、火威が初めて憤激した事を意味していた。




最後の方に名前だけでてきた馬頭戦闘メイドのモチーフは、
勿論先代の三遊亭圓楽師匠であります。
漫画版でも馬系のハウスメイドさん、居ましたよね。
アレとは多分別人ですが、普通にそんなメイドさんが居るフォルマル邸は、考えてみりゃ凄いもんです。
んで、最後で真っ二つにされたハリョの青年はウクシではありません。
ウクシはペルシアと交戦しているのですよ。

最終話を次の一話で纏めると非常に情報密度が濃くなってしまうので、たぶん二話になると思います。

しかし最後に近くなって主人公の方向性が腹案と変わって来やがりました。
これは……もうどうしよ。

ともあれ、感想やご意見など、御座いましたら是非とも御一報お願いします。
どんな短い内容でも、忌憚なく宜しくお願いします。

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