ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
なんか気が付きゃ緩く進み予定だった主人公が一番厳しく殺戮してますね。
これは……どうしちゃったのか…。

いまいち進んでませんが、取り敢えずオリキャラの大半の処遇回であります。
悪い処遇では無いと思います。

で、サブタイは頑強という花言葉を持つ花です。
まさかここで一話使うとは思わなかったので、花言葉を引っ張ってきました。

そりゃーそうと、アニメでも健軍×ヴィフィータは成立しましたな。
次回はいよいよ最終回でしょうか。原作読んでると安心して見れますが、何処まで原作再現するんでしょうか。
っていうか総撃編と冥門編どうすんでしょうか!?


第三十六話 グロリオサ

「よし! 総員退去! 『脱兎』を発令」

「『脱兎』だ!『脱兎』!」

狭間陸将の号令が隊員の口伝えで広がっていく。

出蔵はこの時を怖れていたのだ。アリメルという佳い女とは、日本では会えそうも無い。だが命令なら従わなければならない。

門の再開通まで待っててくれとは、とても言えない。再開通が何時果たせるか判らない。もしかしたら永遠に果たせない事も有り得る。

だがその時、栗林二曹が嘉納大臣から預かったという書類を受け取った狭間が、中身をさっと斜め読みして言う。

「防衛大臣の命令書だ。よし、これで政府との連絡が回復した。レレイ嬢の無事も確認できたから総員退去命令は一部変更! 残留希望者を残すぞ!」

 

 

*  *                             *  *

 

 

丸山は私服から戦闘服に着替え、階級が下の者を集めて臨時の部下とし、蟲獣の侵攻を少しでも遅らせるために、三重に蛇腹状鉄城門を設置作業し終える栗林を見た。

「あれ? 志乃、あんた帰らないの?」

桑原陸曹長から似たような事を聞かれた栗林は振り返りながら声の主に答える。

「日本に戻ったって面白いことありませんよ……って貴絵じゃない?」

あんたのタッパが羨ましいわ。そんな事を言う栗林の心層を見てやろうと丸山は意地悪く核心を突いてみる。

「まぁねぇ。でも志乃、富田君も余り付き纏われると迷惑するんじゃないの? もうヒトの旦那なんだし」

「っ!?」

丸山の言葉に動揺が隠せない。

「も、もう辞めてよ! 貴絵は帰るだろうけど私はもう少ししたら変な蟲と戦うんだし」

「あ、ごめん」

戦い前の動揺は、決してプラスに働くとは言い難い。

お詫びとばかりに、丸山は栗林が以前に語っていた理想の男性像を体言した男の名を告げた。

「火威三尉って、何十歳も年上の佐官じゃない?」

「いやいや志乃っ、あんた何言ってんの!? 自分で三尉って言ってるじゃんっ」

「……っは!?」

「しかもあんな面構えだけど、少し前まで二十代なのよ!」

「な、なんだってー!?」

右目を通る傷があり、米国に行って大統領選にでも出れば、その濃い外見故に名前付きのアメコミキャラが出来そうな男が、以前まで栗林自身が所属している第三偵察隊の隊長だった男より年下だったとは、火威が所属していた第四戦闘団の団長である健軍一佐も気付かぬことだ。

「でもまぁ、あの髪型はねぇ……」

それを聞いて丸山が溜息混じりに(こうべ)を足れる。

「うん、確かにあの落ち武者みたいな頭はねぇ……」

あの髪型さえ改まって、向こうから告ってくるのなら、考えてやっても良いかな、ぐらいには思う栗林だ。

 

 

 

出蔵の心配は杞憂に終わったが、レレイが力尽きて門が失われれば、再びあの蟲獣を相手しなくてはならない。

命を大事にするならアルヌスの住民皆で銀座に渡りたいのだが、そうも行かない。当然、アリメルはアルヌスに残っているのだから、自分も前線で蟲獣と戦わなければならない。

アルヌスに残留していた部隊の過半が渡り終えたところで、各地に派遣されていた部隊も次々と帰還していた。

車両や武器弾薬は、可能な限り残していってくれるらしい。まぁ、魔導自衛官が居ない中で大部隊に襲撃でもされたら、ひとたまりも無いし、その時の配慮だろう。

その魔導自衛官の火威と、先程後送のチヌークで帰還していきた相沢を除く特地戦力調査隊の面々も、レレイの作った門を渡ろうと隊伍を組んで列を作っている。

「で、出蔵三尉……」

話してきたのは先日負傷し、ついさっきまで出蔵に代わってICレコーダーで工作員の言質を取っていた内田だ。

「エミュのフィギュアの事、宜しくお願いします……」

ギプス包帯をした腕で顔を拭う内田が、そう出蔵に語り掛ける。

「め、めいコンか。分かった。お前の二次嫁の事は任せろ。再開通時まで出来るだけ保っておく」

「いえ、違うんです」

「へ?」

内田は言う。

「物珍しがって高い値を付ける貴族とか居ると思うんで、良い値を吹っ掛けて売っちゃって下さい」

元三偵の誰かさんが批判しそうな事を、この二曹は言ってのける。

俺、もう三次嫁居ますから。そんな事を言う内田だが、盛大に爆発して下さい、とは言えない出蔵だ。これを言ったしまうと自分も十分に爆破対象になってしまう。その事は理解出来るからだ。

先輩なんかが居たら、きっと歯軋りして、蟲獣の世界に、世界が七回くらい死ぬ滅ぶ光輪を撃ち込もうとするか、砂糖を吐くか糖尿で死んでしまうだろう。やっく・でかるちゃ。

「あ、出蔵三尉」

今度話し掛けてきたのは、推定で内田の三次嫁の丸山だ。

レレイさんが頑張ってるんだからお前ら早く行けよ、と思うが、銀座に消えていく列の先頭はだいぶ先だ。

「火威三尉にっ!」

何かと思って聞いてみれば、火威が栗林に思いの内を自白する際、土下座しながら交際を申し込むのは辞めろ、というものだった。

「ま、まさか土下座までするこたぁ……」

とは思ったが、火威という男はあれでいて結構、女性を立てる。いや、立てるというよりは付き合い方を知らないのだ。知らないが故に女性に対して下手に出て、友人関係でも言いなりになってしまうのである。

ならば、栗林に対して土下座しながら交際を申し込むくらいの必死感を持っていても不思議は無い。

まぁ火威と友人関係にある女性と言えば、聖下や猊下、そしてかなり年上のテュカの他は火威自身が師と仰ぐレレイくらいなのだが。

そんな時、丸山達が並ぶ列が急に動き始める。見れば前の方が走って門を越える程に急ぎ始めたようだ。

「あ、あと一つ!」

なにっ! まだあるのか!? そういう出蔵も丸山に並んで走り出している。

「ひ、火威の頭っ!?」

そう言ったところでUH-1Jが降下してきて、一瞬だけ拡大した門を通り抜ける。

出蔵は門の前で端に逃げたが、丸山や内田は屈んだまま銀座に消えていった。それでも出蔵は彼女が言おうとした事を誤解なく理解した。丸山の言葉は階級を忘れていたのか、実際そのくらいに思っていて言い捨てたのか知らないが、女性と付き合おうというのにあの髪型だけは大いに大問題だ。

 

 

 

レッキに向かう最中に敵翼竜部隊の襲撃を受け、負傷した相沢はベッサに回ってきたチヌークに後送され、今現在はアルヌス駐屯地に帰還している。

相沢としては火威の行方が気掛かりだったが、若干ながら期待していた。

彼は「韋駄天」の事を知らない。相沢が思うに自身がフォルマル邸の博物誌で見知った古代龍に近い力を身に付けている。

彼が何故そんな力を身に付けたのか、また、身に付ける必要があったのか。知らない相沢には推測しか出来ないが、特地に来て炎龍の話を聞いてから、課された訓練以外にも鍛え始めた気がする。

その自主練の中で魔導のメニューが追加され、全体的に訓練量が多くなったのは彼が休暇で日本に一時帰還してからだ。

それが更に常軌を逸するレベルになってきたのは、ゾルザル派の軍隊との戦争が激化し、その中で日本人拉致被害者の奪還任務を完了させ帰ってきてからだ。

特地に来た当初、彼は随分と結婚し子供を欲しがっていたが、鍛えたら鍛えた分、人間離れしていった。

これでは女性から避けられるんじゃないかと思うのは誰の目から見ても明らかなのだが、彼が日本から帰還する度に、その都度の自主練が特に常軌を逸しているように見える。

 

相沢は自分より重傷な者に肩を貸して、駐機していたチヌークから降り、アルヌスの丘を駆け登るる。脇腹の上の部分が痛むが堪えられない程では無い。

丘を上がり切ると、そこは門があるドームを囲むように蛇腹の鉄条網が幾重にかに張り巡らされていた。

「相沢二尉、こちらです。急がないと帰還出来なくなってしまいます」

言ってきたのは特地戦力調査で僚友だった出蔵三尉だ。

君は帰らなくて良いのか、そんな事を聞いたら、防衛大臣から届いた最後の通達で残留希望者はへの帰還命令は撤回されたのだと言う。

見れば、ドーム内にあった門そのものは無くなっているが、代わりに無色透明の水たまりか鏡のようなものが宙を浮いている。

相沢は初めて見たが、伊丹と同行してロンデルやベルナーゴに行った4人の娘の中の誰かが特地の神・ハーディーから門を開く力を授かったと聞いていた。

無色透明な鏡のような物の前でレレイが詠唱し続けているから、これまで少し疑問に感じていたことが解消された時だった。

では、出蔵三等陸尉、後のアルヌスの事をよろしくお願いします」

そう言って出蔵に敬礼すると、相沢は銀座に消えていった。

 

 

 

*  *                             *  *

 

 

 

オロビエンコの一画にはイタリカの兵士や戦闘の遺体が丁寧に瞑葬されていた。

それに対し、広間のそれ以外の場所にはハリョの死体が乱雑に散乱している。

広間の床の至る箇所に仕掛けられた魔法式の罠の犠牲者だ。

一撃で死ねた者は良いが、そうでない者はその血で広間の床を塗装するよう這いずり回り、他の罠を踏み抜いて漸く死ねるといった凄絶な有様だ。

そんな事だから、一度仕掛けた罠も瞬く間に減っていく。

それ程までにハリョの刺客は多いし、火威も罠を仕掛け直す時間もないので戦闘で消耗する。

光の精霊魔法で姿を消し、真新しい剣で迎撃出来たのは最初の一戦だけで、その後は次々とハリョの刺客を倒し、昏倒させている。

いや、昏倒で済んだ敵など居ない。致命傷を負わせられる合間も無いから気絶させているのであって、意識を取り戻した連中は再び剥き出しの殺意で火威に向かってくる。

向かってくる相手が多い時にしか大剣を使わない火威は、敵が少ない時は鹵獲したバスタードソードでハリョを薙ぎ倒す。

フォルマル邸内に援護として入った当初こそ、ハリョの刺客を【火威の校舎】めいた悲惨な末路に送っているが、今現在はそんな余裕は物理的にも精神的にも無く、敵の死体は一黒焦げになったり戦いの中で四肢の何れかを吹き飛ばされた者もいるが、全体的には五体満足である。

皇帝の寝所を衛る二人の騎士の反応を見て、戦士として最低限の倫理を弁えようと考えた火威であるが、仲間の死体を盾に突撃してきたハリョの戦士が、仲間の死体を突き破って奇襲してきて以降、ハリョの戦士に対する戦い方を固定化させた。

こいつらには何をしても良いし、何をしてくるかも判らないのだと。




気付いて見れば今回も日曜投降……。
水曜土曜と投降してましたが、もう不定期投降ですね。
次辺りで多分最終回です。

そして、お気に入り指定230を越えました!
皆様、本当に有難う御座います!

次で終わりかと思いますが、多分外伝的な物が続きます。
いや、他の物を書くことも可能性としてはありますが、取り敢えず案はあるので書きます。
栗林とか全然ヒロインしてないんで……。

―3月24日追記―
さ、最終話が一向に進みません……。
2期終了前どころか3期開始までに終わるかも怪しくなってきました。
3期あるか判りませんが。

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