ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
やっぱし予定通りの投稿とは行きませんでした。
最近はこの路線で良いのか……と思ったり思わなかったり。
あ、最初に出てくる人の元ネタは某ガンダムに出てくる中将閣下です。
ところでデュランてアニメでは陛下と呼ばれてた気がするんですが、どう表記したものか迷ったので、ここでは国王って表記してます。


第二話 72時間耐久グルメレース(下)

シュワルツの森から程近い丘にある、エルベ藩国の砦では、軍に籍を置く貴族らが慌ただしく動き回り、周辺の村々に放った斥候から次々と伝達を受けていた。

既に一つの村が荒らされるように消え、生存者が森に住む賢者が私営する施設の宿に世話になっていると聞く。

「早くウロビエンコの悪魔を呼べ!」

エルベ藩国の侯爵、エギーユ・エル・ドリートは、伝達を受けた下位の兵卒に激しい口調で鸚鵡鳩便の使用を言い付けた。

本来なら民草の面倒など国や貴族が見る義理は無いのだが、今度予定されている事業にはニホンと、彼の国の軍であるジエイタイの構成員の一人に執着している森の魔女の協力が欠かせないのだ。

アルヌス出兵から長らく行方不明になっていたデュラン国王は、ジエイタイの施設で治療を受けた後に帰国している。だがその過程で、炎龍討伐が目的とは言え少なくない戦力の越境を許し、剰え国内資源の採掘許可を許している。

これに反発するエルベ藩国の諸侯は少なくない。当然のようにニホンに良い感情を抱く者は多くは無いが、エギーユはテュバ山が噴火したかと思う程のジエイタイの攻撃と、それに一瞬で屠られた二頭の新生龍を見ている。

それに森の魔女と呼ばれる世界の庭師の不興も買いたくはない。

だから、そのジエイタイから忌避されるようなことや、賢者の指示を無視する訳にもいかないのである。

数日前にフルグランスを持つ傭兵団が無肢竜の棲む洞窟に入っていったきり、何の報告も無いのは痛かった。

鎚下が鍛え上げた剣を持つ者が居る傭兵ならあるいは……と思ったが、剣の使い手が悪かったのか無肢竜が異常に強かったのか、失敗してしまったようだ。

エルベ藩国の軍は一年程前にアルヌスで痛撃を受け、現段階は再建中である。無肢竜程度なら討伐出来る筈だが、壊滅したと思われる傭兵団もその殆どの戦士が一騎当千にも相応しい力を以て、先の内戦で活躍した者達だ。

その事を考えると、軍が受ける被害が尋常なものではないであろう事が予測出来る。

エギーユから指示を受けた兵卒は、エルベ藩国の願いが篭った小さな手紙を鸚鵡鳩の足に括り付け、大空に飛ばしたのである。

 

 

*  *                            *  *

 

 

圧力鍋(仮)を盛大に吹き飛ばした火威は、その日の内に味痢召を炊き直した。

店が閉まる前に急いで代わりの鍋を購入し、再び使えるようになった魔法で白細豆に一つずつ穴を空ける。

そして鍋に放り込んで普通の蓋だけして炊いたのである。

ティトなんかは、面倒臭がらずに法理を開豁(かいかつ)すれば良かったのになぁ……と思うであろうが、実のところ最初から毛髪を使って法理を端折り、原理に干渉する魔法を使った火威しは法理というものを知らない。

そんなワケで一晩中、白細豆を煮ていたが、寝てる間に水が蒸発して空焚きになっても悪いので、鍋の近くの野原で寝なければならなかった。

ついでに、黒妖犬の群れは未だアルヌス周辺に出没するので火威はその晩も警備に出ていた。

が、空焚きを恐れた火威は鍋の火を消して行ってしまう。いっそのこと、一度しっかり寝てから再び味痢召を昇華させるべるその腕を振るえば良いのだが、体力オバケと方々からも言われている身でもあるし、休日返上して都合が良い日の有給休暇が欲しい思いもある。

徹夜二日目だが、幹部レンジャー訓練に比べればまだまだ余裕だ。黒曜犬が現れても他の班の場所だったし、特に火威が働くような事は無かった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

「あれ? 栗林、なんか肌艶が良くね?」

火威は再びアルヌスの錬武館に来ていた。

今日のジゼルの神殿作業には傭兵の仕事が無いアリメルが来ているので、煮てる白細豆への注水は彼女にお願いしている。

水を入れたポリタンクと給水ホースを用意したので、そこまで手を煩わせない筈だ。

「あぁ、栗林二曹は白兵やるとツヤテカするんですよ」

火威に教えたのは倉田三曹だ。彼は過去に栗林と同じ第三偵察隊員として旧難民の自活のため、翼竜の鱗をイタリカに売りに行った時に、元連合諸王国軍の盗賊団相手に無双した栗林に(比較的ではあるが)近くに居た。

若干だが、栗林の眼鏡に適う者が現れ、その日の晩にでもナニをしてしまったのかと心配した火威だが、栗林がそういった類の(自身に似た)人間だと知れば疑問は解けた。

昨日に引き続き、栗林は傭兵相手からお突き合いを申し込まれて受けている。その中には本日仕事の筈の者も居るから、自営業者が栗林の都合に合わせた可能性がある。あるいは栗林が都合を合わさせたかだ。

後者はちょっと、オークっぽい非常識さがあるので考えたくない。前者なら、懸想してる相手がマドンナめいたモテモテ感で、一種の嬉しさすらある。

実際のところ、栗林はマドンナとは全然違うキャラなのだが。

また一人の傭兵から一本取った栗林は、弟子のように背後に控えてる犬耳少女からタオルを受け取って汗を拭いている。

その栗林が倉田と並んで話す火威に気付いたようだ。

「あれ? 三尉も稽古希望ですか?」

その言葉は、今し方やっていた事がお突き合いですらないようにも聞こえる。

事実、全て早々に栗林が余裕の一撃で決めていたので、お突き「合い」では無い。

「いや、俺は白兵の参考になればと思ったんだけどね……。お前が強過ぎで参考にならんわ」

ふふん、と誇らしげに鼻を鳴らす栗林。

「三尉なら良い勝負、出来ると思いますよ。負ける気ありませんけど」

それは誘いなのか? 誘っているのか?と思う火威だが、本当のところはイタリカでもフォルマル邸でも魔法で大分楽をしたので、「また今度」と言ってジゼルの神殿予定地まで向かった。

アリメルに礼を言って鍋を引き継ぎ、フォークで白細豆を刺してみると未だ石のように堅い。注し水をしてから今しばらく炊き続ける。

それからジゼルの手伝いに行ったが、この日は将軍級の人物の墓を暴く事ができたので、若干だが一足飛びで目標の金額に近付いた。

暴くと言うと実に人聞きが悪いのだが、歴史的価値も無いので“失礼した”と言い直す事にしよう。

昼飯を食べて午後からは栗林も来たが、聞けば明日も「お突き合い」が控えてるという。

アルヌスの傭兵ってそんなに多かったっけ? 二回か三回、並んでるヤツ居るだろ。と思う火威だが、その実態はこの機に栗林の胸を狙う者が住民の中からも参加しているのである。

むろん、そのような不埒者がお突き合いに(かこつ)けて、お突き合いの最中に馬鹿な真似をすれば、その股の棒を暫く使用不可能にされている。

「栗林、今夜は黒曜犬の警備なんぞに当たらず、ちゃんと寝れよ」

「……? 大丈夫ですよ。ちゃんと部隊で行動してるんですし」

理由も明確でない火威も言動に、訝しさを感じた栗林が答えるが

「あぁ、道場でずっと百人組み手みたいなことしてんだろ? ちゃんと寝ないと素人に後れを取るかも知れん、ってことだよ。 避けられるリスクは避けろって」

最悪の状況を考えて行動しろ、とも火威は言う。もっとも、この場合に最悪の状況は火威にとっての最悪の状況なのであるが。

栗林のお突き合いリスクの事も考えて、休暇帰還終わらねぇかなぁ……と考える火威である。

そしてその願いは、実に予期せぬ形で実現することとなった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

黒妖犬と味痢召で、結局三日連続徹夜になってしまった火威の体力と精神力は先細り、視覚化出来るならば枯れ枝のような状態になっていた。

だが実際には枯木のようにはなっていないので、戦争末期に転戦して敵を屠りまくった体力馬鹿の火威を心配してくれる者はジゼルを含めて居ない。

黒妖犬警備の後に味痢召を炊き直した火威は、やっと白細豆を簡単に歯で噛めるようになった鍋にトウガラシに似た香辛料を大量に入れる。以前、トウガラシの辛味や、トマトには旨み成分であるグルタミン酸が豊富に含まれているという話を、戦力調査隊の宇多から聞いた事がある。トウガラシの辛味を抜く方法もあるらしいが、詳しい話は聞いていない。

そして決して柔らかいとは言えないフラ麦も、夜中の内に投入してやさしい歯応えになっている筈だ。

見れば鍋の中は地獄を思わせるような真っ赤な色に染まっているが、確実にクッソ不味い味痢召の色ではない。

それに、コキュートスという寒々とした地獄もあるではないか、という理由には成らない動機を胸に、遂に火威は新型の味痢召改を一掬いして口にした。

「……………………」

少しだけ長い吟味の後、「プガッ!?」と勢い良く味痢召改を吐き出した火威が、そのまま仰向けになって地面に倒れる。

不味いものの味を下手に変えても、更に不味くなるだけだった。それが判っただけでも良しとしよう。

もしも呑み込んでたりしたらと思うと、考えただけで恐ろしい。

こんな事の為に二日以上徹夜していたのか。そんな事を考えると、火威はそのまま寝て夢の世界に旅立っていった。

 

 

* *                             *  *

 

 

「先輩。先輩! 起きて下さい!」

出蔵の声に、夢の国から強制送還された火威が、緩慢にむっくり起き上がる。

腕時計を見れば、先程から十分も経っていない。

「あぁ、すまん。ちゃんと部屋帰って寝る。あと、そこにある鍋な、危険物だから誰にも触らせないようにしといて」

起きたら片付けるから、という火威の言葉を遮り、出蔵は続ける。

「エルベ藩から鸚鵡鳩の連絡が来たんですよっ」

鸚鵡鳩とは、地球世界の鳩に似て帰巣本能を持つ鳩に似た鳥だ。その帰巣本能を利用した伝書鳩を、富田二曹は自身の子を宿したボーゼス・コ・パレスティーの生家であるパレスティ侯爵家に、この鸚鵡鳩を伝書鳩のように使う事業を献策したのである。というのも、かつての敵兵の子を宿したボーゼスには水面下で縁談が進んでおり、托卵を目論んでいたのかと誤解されて縁談は破談。実家は帝国貴族社会から爪弾きされて財政状況が傾いたのである。

ちなみに縁談先はゾルザル派の貴族だったために、破談に成ったのは怪我の功名とも言うべき事であった。そもそも、縁談の事などボーゼス本人は知らない。

さておき、この鸚鵡鳩通信は未だに試験段階であるものの、その有用性は着実に示されつつあった。

当然の事ながら、エルベ藩国からアルヌスまで鳩を飛ばすには、少なくとも一度はアルヌスからエルベ藩国まで鳩を運ぶ必要がある。試験段階でもあることから、そう気楽にしょっちゅう使えるものではない。

 

「まさか急を要する事態とは……」

強化された兜跋を着た火威が、携行していくべき装備を鞍に乗せた翼竜の前に進む。

鸚鵡鳩通信の内容は、想定を遥に上回る無肢竜による被害と、その被害を食い止める為の応援要請を至急求める物だった。

「高機使えないの? 燃料用意してたじゃん」

火威は携行していく装備を用意する傍ら、車の燃料を運搬用タンクに入れる栗林を見ている」

「あれは伊丹二尉がロルドム渓谷に放置した高機動車用です」

「炎龍斃した帰りはヘリでしたからね」

栗林の言葉を、その場に居た出蔵が補足した。

「ってか先輩、行きから兜跋着て行くんすか?」

「…………うん」

深くは語らない。

実は、エルベ藩国に行く方法は以前から決まっていた。

空を飛んでいくのが一番早い。だが自衛隊のヘリコプターを使うにしても、残りの燃料が多くないのでここぞという時にしか使えない。

そこにジゼルが火威の任務と聞き付けて、三頭の翼竜と装備運搬用の貨物を運ぶ一頭の飛龍を貸してくれたのである。

「ア、うん。猊下、有難う御座います」

「良いってことよ。お前らにゃ世話になってるからな」

ジゼルとしては良かれと思ってした事だが、火威には余り嬉しくなかった。早々と兜跋を着用してるのは、落下してしまう事を前提にしているのである。

ジゼル曰く、一頭につき二人が乗れるという。

携行していく装備と資料、その他諸々の確認する火威達。

その後、自衛官とエルフを乗せた竜の一団はアルヌスの丘を飛び立っていった。




ちょいと次回は空中での会話もある予定です。龍玉Zに迫る進みの遅さです。
そしてこの後はメインヒロインに昇格した猊下が出る予定は……ある、かなぁ……?

そんなワケで、
ご意見、ご感想、疑問、誤字・脱字へのご指摘等御座いましたら忌憚無くお教え下さい!

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