今回はめっちゃ筆が進んだので一晩置いての投稿になりました。
別にサブタイやら内容がエロいから筆が進んだワケじゃないです。本当です。
いや、ホントホント。
つってもちょっと短いかも。
シュワルツの森に行って長老達に挨拶するダークエルフの姉弟と別れる際、自衛官達(というか主に火威)はこんな話を聞いていた。
森の魔女に出会ったら、もしかしたら喰われるかも知れない。
いや、取って(物理的に)喰われる訳ではないが、特に火威なんかは好んで狙われるかも知れない、という。
肝心の火威は、少しの間、薄暗い洞窟の中に居た事もあって、再び眠気が頭を
ダークエルフの姉弟から、取って喰われる訳ではないが喰われるかも知れないという、ワケが判らない説明を受けた火威は
「ダイジョーブ、ダイジョーブ」
と、よく考えもせずに応えた。
この時にはエルベの森に住む魔女と呼ばれる賢者に会うため、既に兜跋を脱いで高機の車内に入れておいた火威である。エルベの軍人から「サリメル」という魔女の名を聞いていた火威であるが、あぁなんか聞いた気がするなぁ……くらいにしか頭が回らなかった。
実際には帝国内乱の最終決戦時に、フォルマル領で会っているのだが、その時はお互いに顔を隠す服装をしていたし、再び会合した火威はこの場に居る自衛官の中では最も上位の者でありながら、眠気の余りに自己主張も低く影が薄い。
そのせいか、「ヌシがハンゾウか?」と、ぴたぴたの網タイツに黒いマイクロビキニっぽい最低限の生地面で身体の各所を隠した碧の長髪の魔女に聞かれたのは出蔵だった。
これは、真っ先に火威が名と所属を名乗らなかったせいもあるが、そのことに気付いて名乗りを挙げるまでに、否定に間を要した出蔵の鈍さのせいもある。
出蔵が否定し火威が自らの所属を名乗るのは、ほぼ同時だった。お蔭で雰囲気というか、それまで緊張していた空気が霧散した。
「ブフゥーっ、なんじゃヌシら、グダグダではないか」
吹き出して笑うエルフの女性を見て、自衛官らの緊張も解けた。その後、エルベの軍人と話していたサリメルだったが、その話が終わると自衛官らに付いてこいと手を扇ぐ。そして「日本家屋の趣きある茅葺屋根のお宿」といった建物の前まで来て自衛官らに問う。
「ちょっと見てたもれ。これを見てどう思う?」
「……すごく…日本風です」
自衛官らは三人とも同じ事を言う。実際には日本風だけではなく大きく長い建物なのだが、それを言うと色々アウトっぽいので言うべき言葉は取捨選択した。
「そうじゃろ。ジョバンニが半年でやってくらたのじゃ」
一晩でおっ建てたワケじゃないことに安心しつつ、見れば怪異めいた初めて見る巨体の亜人がサムズアップしている。
「サリメル様、あの亜人は……?」
火威が訊ねると、サリメルは答えを用意していたかのように答えた。
「初めて見るじゃろ? 氷雪山脈付近に住む“エティ”という種族じゃ。妾の娘婿じゃよ。無口だがホントに良い連中じゃよ」
火威達は後に知ることになるのだが、このエティという種族は無口どころか一言も喋らない。物を食べる為の口はあるが、呻く事も無いのだ。
大きな日本家屋の前まで来たところで、サリメルはまた口を開く。
「以前にアルヌスから帝都を回ってきた書籍の中に出てきた宿を倣って建てたんじゃよ。この恰好も同じようにニホンから入ってきた書籍の絵草子にあった“フク”じゃ」
日常的に着る服じゃない。よっぽど言おうかと思った火威達だが、サリメルの言葉は未だ続く。
建物の扉を開けながら、彼女は言った。
「入ってくれ。ヌシらにはこの
周囲には無肢竜が嫌う臭いを出す獣脂を撒き、エルベの軍人も砦まで追い返した。何の心配も無いから今晩はゆっくり休んでくれと言う。
任務の為とは言え、自衛官が風俗施設に泊まるのは如何にも拙い。なので火威は眠気を抑えながら必死で脳味噌を働かせる。
「い、いや、サリメル様。我々も日本国民の負託を得た自衛官ですので、それが売春宿に泊まったことが明らかになると色々拙いことに……。ほら、壁に耳あり障子に目ありって言いますし……」
「壁に耳ありショウジキメアリー? 新手の怪異かのぅ?」
些か怪訝そうな顔をしていたサリメルだったが、よし判った、と手を叩いて解決案を示した。
「それじゃヌシらがいる時は
登記簿も無いこの世界では、宿主の意向次第で宿舎の使い道などいかようにも変えられる。客が居ないならば猶更の事だ。
それならと、出蔵も栗林も泊まる事が出来るようになるが、火威だけはサリメルに指示されたジョバンニに引っ張られてしまった。
「ハンゾウ、ヌシは別じゃ。以前に約束したじゃろ?」
そんなこと有りましたかいのぅ? 睡魔に襲われつつある頭で、そんな風にしか思っていない火威は簡単にサリメルの研究小屋に拉致されてしまった。
* * * *
サリメルの幼少期は、それは優しい両親に蝶よ華よと育てられていた。
母親の身体が弱いとあって、兄妹が居なかった事も原因しているかも知れない。
精霊種のエルフなら美しいのは当然だが、二親はサリメルを麗しい姫君のように育てた。多分、この辺りで一人称が決まっている。
我が儘一杯で育てられたサリメルだったが、ある日、彼女を悲劇が襲う。大好きな母親が村で流行っていた病で死んでしまったのだ。
エルフの中では少女と言っても良い歳の妻を愛していた父親は、その現実を受け入れられずに、来る日も来る日も嗚咽して過ごしていたが、そんな姿を見兼ねた父の友人が酒盛りに誘ってくれた。
だが、これが第二の不幸の始まりである。
三人の友と酒盛りして、ようやく前を向いて生きる気になったかに思えた父は、河原で足を滑らせて水没し、そのまま帰らぬ人ならぬ帰らぬエルフとなった。
両親を失ったサリメルの両祖父母は、既に全員が病気や事故で死んだり、大樹の苗床になったりしているのでこの世に居ない。
独りぼっちになったサリメルは子供とは言えない容姿にまで成長していたが、実際の年齢は子供だったので母親の友人のもとに引き取られた。
今までの生活を思えば、多少の不自由はあったが、生活していく程に困るものではなく、母の友人も実に良いエルフだった。
だがサリメルが成人を迎え、百年に一度開かれるオリンピアードなる周辺村落のエルフが一堂に会した競技会が始まると、状況は変わった。
走るにしても、何かを投げるにしても、どの選手も似たり寄ったりの成績で、特にズバ抜けて凄いという者は居ない。
それでも僅差で勝った者が、ドヤ顔で結婚を申し込んでくるのだから鼻で笑ってしまった。
盛大にそれら男エルフを振ると、産み育ててくれた両親に由来する悪い癖で、何か面白い事は無いかと外の世界へ飛び出して行ってしまった。
エルフの村の外は危険な生物が闊歩するが、そこは精霊魔法でやり過ごす。
怪異の類と遭遇すると、精霊魔法で姿を消しながら故郷から持ってきた弓矢で一方的に倒してきた。
途中、見たことも無い種族の子供を保護して一緒に旅を続けていくと、学術の都市に辿り着く。
そこには様々な種族が集まり、勉学に励んでいた。
聞いた事もなく、見たことも無い知識に触れたサリメルは直ぐに彼等の勉学に興味を持った。
サリメルも保護した子供と共に、その都市で学業を続けるが、何分、生きていくには飯を食わなくてはならない。
保護した子供は既に成長していて、立派な大人になって甲斐性も持ち合わせていたから、後払いで彼に飯を食わせてもらった。
後払いで払うつもりでいたのはサリメル自身の身体である。最初は困ったような顔をしていた少年だったが、この少年がサリメルの最初の夫となる。
忘れられないその時の気持ち良さは、サリメルの今後に大きく関わってくる事になる。
ある日、一神教の信奉者が戦争を起こし、その一部がサリメル達が住む都市の図書館に火を放った。
長い旅の中で戦闘経験も豊富だったサリメルも奮戦し、多くの一神教徒の戦士を倒したが、その中で図書館を守っていた少年が死んでしまった。
サリメルのお腹には、少年の忘れ形見とも言える命が宿っていた。
その命を産み落とすと、しっかりと成人するまで育て、一端の学者になって結婚するのを見届けた。
助産婦も無く、かなり危なかった出産の事を思い起こしたサリメルは、既にこの時代には存在し広まっているミリッタの神殿を訪れる。
そこで信徒となり、ドンと来い出産ッ!と、気を大きくしたサリメルの目の前に現れたのは、ワーウルフの魔導士だった。
学術都市からミリッタの神殿まで距離があり、途中には怪異の目撃例も有るからと護衛も兼ねて送ってもらったが、どうやらニホン人的に言うとオクリオオカミだったようだ。
ミリッタの信徒は少なくとも一回、神官は娼婦を兼ね、求められたら身体を売らなくてはならない。
以前から未亡人のサリメルの身体を狙ってたらしいこのワーウルフの責め方は、今は亡き少年と比べても非常に激しいものだったが、エルフの村を飛び出した時から見ればサリメルの筋金は違う。中々悪くないと思ってしまったのは、既にこの時には一種の才か、天命だったのかも知れない。
サリメルの昔の話を書いて、毒素が薄まったかなぁ……と思いつつ、
悪化していく感のある古代サリメルです。
それはそうと、お気に入り指定が270個を突破しました!
皆さん、まことに有難う御座います!
これからも、どうぞお読み下さると実に幸いです。
質問疑問、その他、誤字脱字など御座いましたら、ご指摘下さると幸いです。