ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
最近は不定期投稿になりつつあります。
まぁ最初は水曜土曜の投稿でしたから、ペースが若干戻った感じですかね。
今回のサブタイは前半の一部がサリメルの過去回ですが、それ以外が全部夜です。
従って時系列は全然進んでいません。

もう庵パンはこの低速度のバッドステータスを背負って書く事にしました。


第十話 夜の森

金髪碧眼の精霊種エルフの夫だった男は、南方で古代龍が出たとか言っていたが、度々居を構えて落ち着いていた森を出て、種族を問わず女性に声を掛けていたから、恋の旅に出たのであろうことは多分に推測できる。

サリメル自身の使命も内容が内容なだけに余り夫を非難することは出来ない。そして十数年の時を待ち、子供も独りで森をうろつける程度に成長すると、その子を連れて使徒としての使命を再開。

子供の名付けに便利な命名式だけを拝借して、住み慣れた森を後にしたのである。

サリメルと子のミリエムが向かったのも南方なのだが、古代龍が出ているというのは満更嘘でも無かったらしい。

だからまだ幼いミリエムを連れるサリメルは、古代龍の活動範囲外である現在ではグラスと呼ばれてる半島だった。

日頃から肌色の多い服装を好む元人妻エルフは、この地には余り多くないダークエルフを魅力した。

彼等は本来ならもっと内陸に住んでいるらしいが、彼等の集落を訪れた旅人から魚と言うもの聞き、興味を持った一部の若者が半島まで来たのだと言う。

この時にはサリメルも魚や魚料理、はたまた魚の干物を知っていたからダークエルフ達に感謝されたし、干物の作り方を教えたらグラスに住む種族のアクアスにも感謝された。

感謝ついでに番いもしたが、彼等の子を孕む事は無かった。

しかしただ一人、狂乱に参加しなかった者が居る。

ダークエルフの中で、一番年下の少年だ。名をリトと言う。

彼はサリメルが一番最初に夫とした少年に似ている。もしかしたら生まれ変わりかも知れない。

古代龍が倒されたという知らせの後、彼等は故郷の森に帰って行ったからサリメルとミリエムも付いて行き、そこで早速リトに結婚を申し込んだ。

リトははにかみながらも、申し出を受けてくれた。

曰く、年上で豊満な女性が好みらしい。実際にはサリメルとリトの歳の差で、歴史のテキストが一冊出来るくらいあるのだが。

 

 

*  *                             *  *

 

 

火威達が無肢竜を討伐し、鐵塊の如き巨大な剣を回収して宿舎に戻る頃、アルヌスでは課業を終えた自衛官が新しくなった食堂で夕飯を取っていた。

既に閉門してから久しい。

日本からの補給を断たれた自衛隊の食堂に、食材の在庫は無く、陸将含む全ての自衛官がこうしてアルヌスの食堂に食べに来るか、出前を取っている。

津金 和文(ツガネ カズフミ)一等陸尉と下位の曹官も当然そんな身の上だ。

繰り返すが、既に自衛隊の食堂では食材が尽きているので、曹官以下の食費が無料という訳にはいかない。

「火威三尉と栗林二曹がいたら、自分らが行く前に終わりそうですね」

火威と栗林の人外な強さを知る曹官は言った。

津金も対無肢竜に関しては同じような事を思う。だが今回の任務はエルベ藩国で温泉を掘り、それを軟水にして、尚且つ国内や外つ国から客を呼べる遊興施設を拵える民事も含まれる。

隊内でも格段の特殊技能を持ち、イタリカからアルヌス帰還早々に蟲獣の大群を吹き飛ばした三尉と、若くして上級格闘指導官の資格を持ち、帝国との戦争中にも武勇を轟かせた二曹の二人の自衛官が居るのだから、如何に緊急事態が発生して五人が先行したとしても、翼竜同等の脅威は簡単に振り払ってしまうだろう。

だが民事作戦ともなれば、同じのようには行かない。

日本の温泉街に似せるなら、普段から方々に遊び周りに行かなくてはならないのでは無いか。と、火威達の事をある意味で高評価し、買い被っていた。

実際には火威は鎧や装甲、或は二次元のナニかに傾倒してるし、栗林はやたらと銃器に詳しい上に自分でも不正規戦用装備を用意するくらいで、本人が気付かないだけの伊丹の類友である。

その上、エルベ藩国内の協力者である賢者(とうか恥女)が、間違い日本でありながらも日本贔屓である。それが帝国経由でエルベに入った温泉宿の写真を元に、既に宿舎を建設しているとは思わない。

津金達の予想は、半分ばかり外れようとしていた。

「あぁ、そういや黒妖犬が前後不覚になって全滅した件ですが……」

 

津金達が夕飯を取りながら、先日までアルヌス周辺の脅威となっていた害獣の事に付いて話し始めた時、外の露天では伊丹耀司二等陸尉とロゥリィも夕飯は食べるべく空いてる席に腰を下ろした。

最近はレレイが伊丹の嗜好を知る為に、彼が読んでる薄い本を読んでみたり、料理の添え物を工夫することが多い。

賢者であるレレイが、毎食三度が三食弁当を持たせるという、避けられそうな愚かな真似をする訳が無い。

多くても一日に二食である。そして今がレレイの手弁当が着かなかった夕飯を、食堂まで食べに来たところなのだ。

席に座るとロゥリィが早速冷えたエールの大ジョッキを注文している。

冷蔵庫の類いが無いにも関わらず冷えた飲み物を出せるのは、レレイを師として仰ぎファルマート各所から集まった魔導士の卵が、勉学の傍らで生きる為の日銭を稼ぐべく食堂でバイトしてるからだ。

ちなみに自衛官の中にも、生活のお役に立ちスキル程度に魔法を使える者は少数ながら出現している。

火威のような者は、ファルマートの歴史の中でも、やはりレア中のレアケースらしい。

その火威に対する想いを(ヒロインの中で)早々にハッキリとさせたエプロン姿のジゼルが、伊丹を見つけると走り寄って来た。片手には米粒が掬われた木の杓がある。

ロゥリィに挨拶してから、ジゼルはその杓を伊丹に突き出して言う。

「ちょっと食ってみてくれ」

食べる側専門だと思っていたジゼルが言うのだから、伊丹もロゥリィも少しばかり意外に思う。

そして言われた通りに食べてみる。

「あら、中々美味しいじゃなぁぃ」

「本当だ。結構行けますよ」

ロゥリィと伊丹が感想を返すが、ジゼルは納得いかないようだ。

「そ、そうじゃ無くてな、ニホンの米と比べて柔らかいとか、硬いとかあるだろっ?」

実際には違うが、伊丹の意見がロゥリィの追従かと思われたようだ。

伊丹の意見のみを聴きたいとあっては、ロゥリィは黙ってるしか無い。

「あ~、そうですね。隊の糧食と比べても少しパサついてますけど、こっちの米をそのまま炊いたのよりは大分近付いてますよ」

ファルマートにも米という農作物はあるが、日本で起きた事のある米不足の際に輸入されたタイ米のように、日本人の口に合う物では無かった。

そんな事もあって、ジゼルは“誰かさん”の為にファルマートの米を調理で日本米に近付けるように努力中なのである。

最も、その誰かさんはタイ米でもファルマート米でも平気で食べてるが。

伊丹の貴重な感想を聴いたジゼルは、礼を言うと再び厨房に戻って行った。

「ジ、ジゼルの奴ぅ……」

思わぬ成長と、ハーディーの神官や世界の庭師としての仕事を放っぽらかして青春に勤しむ後進に、ロゥリィは呆れるやら感心するやら……。

「ヒオドシと知り合って二百年分は成長したわねぇ」

本音を言うと、ほんの少し羨ましくもあった。

 

 

* *                             *  *

 

 

 

無肢竜を倒した夕刻。

皆が同時に飯を食うということも無いので、火威が進んで番を買って屋外に出たサリメルの研究小屋の中で当のサリメルが嘯く。

「うぬぬ、先程見たのが爆轟か」

無肢竜の口に突っ込まれ、此れを爆殺した火威の魔法を思い出す。

直後に対騎剣を見つけたデクラが「て、手に持つ方のドラゴン殺し!?」と叫び、ハンゾウが軽々とソレを持ち上げて回収してしまった。

手に持たない方のドラゴン殺しであろうモノは、明け方にハンゾウを起こしに来た時にサリメルは確認している。ドラゴンを殺せるかは知らないが、そこいらの女なら一突きで殺せるだろう。無論、性的な意味で。

ともかく、爆轟も覚えたいサリメルだが彼女の頭の中では既に優先順位は決まっていた。

「やはり絵草子のニホン語を……」

思考がそのまま言葉になってもれたのか、言いかけたところでルフレが口を挟んだ。

「サリメル様、ジエイタイの方々は貴女と遊ぶ為に来た訳ではありません。デュラン陛下に献策したオンセンリョカンを実現する方策を伝えるべくいらしたのです」

「わ、判っとるよもぅ」

考えていた事の殆どを見透かされ、唇を尖らせて返答するサリメル。

イタリカの近くでルフレを見た当初、美しく可憐なヴォーリアバニーがどうして泣いているのかと思った。そして、このまま彼女を放置して行ったら悲劇的な結末が待っているかも知れないと考えて拾ったのである。

何処で秘書をやっていたのかも分からないが、彼女は優秀だった。

サリメルの趣味には全く理解が無かったが、宿舎を売春宿から家族向けの仕様に変え、宿泊しない場合でも入浴料を徴収する事で、宿の収益は一気に増えた。

無肢竜が出るようになって客は一人も来なくなってしまったから、しばし(いとま)と物見遊山に掛かりそうな資金を与えて離れていたが、それが今日になって帰って来た。

ハンゾウと同衾し、尚且つ眷属にしたいサリメルには余り有り難い話しでは無い。

優秀な従業員が帰って来てくれた事は嬉しくないはず無いが、彼女は本当にサリメルの趣味に理解がない。「神官から男誘ってどうすんですか!」と怒鳴られた事も一度や二度では無い。

それなら、とルフレ自身を誘ったら張り倒された。

ルフレが旅に出た直後に宿を再び売春宿にして、ジエイカンが来た時に三度宿に変えたが、これが発覚したらまたルフレに大目玉喰らうだろう。

そのくらい、ルフレはニホン語で言うエロス嫌いだとサリメルは思っている。(日本語では無いが)

「ヴォーリアバニーなのに変なヤツじゃのぅ」

というのが、言わないまでもルフレに対する印象だ。

 

外の番を終えた火威が、不寝番の時刻までサリメルに日本語を教えると言う。ちなみに今日の不寝番は火威が最初である

昨日と返事が違うのは、サリメルが「日本家屋の趣きある茅葺屋根のお宿」の経営者なら、不自由が無い程度に日本語を教える必要があると思ったからだ。

アルヌスに日本式の建造物が少ないのは、使徒のロゥリィ・マーキュリーが出来るだけ文化的侵略を抑える為に、意図的に少なくした部分がある。

本来ならエルベ藩国で建設する宿舎も、この世界で一般的な煉瓦や土壁の物にする予定だった。しかし火威達が来てみれば、温泉エロフによって和風の建物が出来ている有様。

その中での救いは、中身が間違いニホンだらけだと言う事だ。火威は、敢えてこの部分には手を付けずに進めようと考えた。

ちなみに、火威の考えが昨日と違っているのにはもう一つ理由がある。

サリメルはエルベ藩の諸侯に対しても意見を通すのだから、ゾルザル派帝国軍の残党や軍閥の回し者では無いという事も推測出来る。そもそもあの連中は、亜人を傭兵として末端で使う事があっても内務には関わらせようとしない。

エルフながら、ここまで内務に口を出すならゾルザル派残党の回し者ではないのだろう。

そんな判断があった。

「不寝番などせずとも無肢竜は来ないと言ったろうに」

「いや、蛇の方は良いんですけどね。前にウチの上司……ってか上役の一人がエルベ藩諸侯の恨み買うような条約結んじゃいまして……」

「うむむ、そうなるとシノも女子ながら大変じゃのぅ」

「まぁ栗林も自衛官ですから。それに昼間に白兵したから」

でもちょっと物足りなかったかな……そんな事を呟き付け足す火威。その火威の前にいるルフレは思い出す。

地震のあったあの夜に、魔杖の先に付いてる剣でゾルザルの取り巻きを突き殺し、魔杖そのものから発射される魔弾で撃ち殺した小柄な女兵士が、上位の男の命令でゾルザルを打擲(チョウチャク)……と言うか喜んで半殺しにしたのを見ている。

ゾルザルの指の骨が折れる音とその悲鳴は、今までで聞いたどんな音楽の音色より甘美なものであった。思わず笑いそうになったが、笑わないように口の中を噛んで変な顔になったりもした。

だが大馬鹿者のゾルザルをそのまま殺されてもいけない。便利な駒になって貰わないと困るので助けたが、その時に女兵士がサリメルが新たにお気に入りとしたシノでは無いかと思い始めている。

昼間に見たシノの無肢竜への対応は、ヴォーリアバニーでも出来る者は滅多に居ない素早いものだった。

無肢竜を見つけた第一声は賊の物だったが、竜を見つけるが否や風よりも早く動き、何時の間には魔仗に装着した剣で飛びかかる竜を往なす。

地に落ちた無肢竜が向きを変える前に、その頭部に魔仗の剣を突き立て、懐に持ってた短刀を堅い筈の鱗がある背中に突き刺し、そのまま捌いてしまった。

これを見て、ルフレの疑いはほぼ確信に変わった。

「先ずは発声練習からじゃ。ハンゾウ、先ずは妾の胸触って」

「んな練習は必要ありませんし意味解りませんがな」

ルフレの前で、エロフは相変わらずエロフだった。

 

夜。

特地に時計は無いが、日本や自衛隊で言う所の夜半過ぎ。

外では最初の不寝番であるヒオドシというジエイカンが、宿の近付く者が居ないか見張りに立っている。

ルフレは羊皮紙に、無肢竜の脅威が取り払われた後の宿の営業方針を画策していた。

サリメルは独りで酒を呑んで奥の部屋でグッスリ眠ってしまった。ヒオドシやルフレにも酒を勧めたが、ルフレは仕事がまだ残ってるしヒオドシは「任務中に呑めないって言ったでしょ」と、少し呆れて言っていた。

前にも酒を勧めたことがあったらしい。ヒオドシという男に少しばかり同情する。

アルヌスの門は今は閉じられているが、ヒオドシというジエイカンは将来的には再びニホンと通じるなんて話をしていた。ならば、ニホンを真似た宿の外装なら将来的にはニホンの品々やニホンの食材を使った料理で客を迎えるのが良いか……

とは思ったりはしたが、同時にアルヌスに住むエムロイの使徒は、急速な文化的侵略を抑えたい意思があるのだから、ニホンらしいのは宿の外観だけで、中身はファルマートそのものにしようと考えた。

熱い湯上がりには何か飲み物が欲しいが、どんな飲み物が良いか……考える事は色々ある。

その時、外で物音がした。ヴォーリアバニーの聴覚は特戦群の隊員からも集音器並みと言わしめる程に良い。その耳が聞き取ったのはサリメルがシノと言い、仲間からもクリバヤシと呼ばれているとても小柄な女兵士が現れた様子だ。

「あ、なんだ、栗林か。交代の時間まだだろう」

「いえ、三尉に相談がありまして」

栗林の相談内容を要約するとこうだ。

白い毛色のルフレというヴォーリアバニーは、ゾルザルの愛玩奴隷のテューレに似ている。その足跡は内戦が終わった後でも見つからないから、もしかしたらルフレがテューレかも知れない、と言うのだ。

最初はただのそっくりさんかと思って聞いていた火威も一つ思い当たる事がある。

サリメルと出会ったのは内戦最後の決戦の場となったフォルマル領だ。ゾルザルお気に入りの愛玩奴隷なら、その場にも連れてきて可笑しくない。

サリメルは賊ですら殺さずに保護しろという気性の持ち主だ。ゾルザル派の帝国軍が潰走し、一人残されたテューレがサリメルに保護されてても可能性としては大いにあり得る。

「まぁ仮に同一人物だったらさ、お前が半殺しにしたゾルザルを守ってやったというのは判るよ」

「な、なんでです!?」

ちょと声デカいよ夜なんだから、と苦情を付けた火威は続ける。

「自分の手でゾルザルを殺したいからだよ。俺だってそう思う」

少しばかり冷や水を浴びせ掛けられたような気持になった栗林に、火威は続けた。

「お前は知らんかも知んないけど、ヴォーリアバニーの国だか部族はゾルザルに滅ぼされたらしい。古田陸士長からの情報でも、テューレって人はゾルザルに叛意を抱いていたってさ。自分の手で殺そうと思うのは当然っちゃ当然だろ」

「結局三尉が轢き殺しちゃいましたけどね」

「しょ、しょうがないだろ! 急にゾル公が前に出て来るんだからァッ!?」

事故の加害者の様な言い分に、声デカいです、と言われた事をそのままそっくり返す栗林。

二人の話を最初から最後まで聞いていたルフレは、安堵に胸を撫で下ろした。

クリバヤシがルフレの事をゾルザルの愛玩奴隷だったテューレだと気付いたところで害を成すつもりは無かったが、ようやく見つけた安住の地を、恩人に黙って出て行かなくてはならないかと思われた。

同時に感じるのはヒオドシという名のジエイカンへの感謝の思い。そして

「やいヒオドシ、お前かいワレェ」

と言った感じの、長年に掛けて狙っていた獲物を奪われた事への、ほんの少しの敵愾心だった。

 




なんか勝手にテュカの異母姉妹らしきキャラ作ってますが、オリキャラとしてご容赦下さいませ。
んで、今作では生存してるテューレの扱いや心情が所々ギャグキャラ的になったり、河内弁めいた感じになったりわってる気がしますが、一時的なものです。
ギャグ所が済んだら元のクールなテューレさんに戻ります。ホントです。

という訳で質問や疑問、その他の指摘点やご感想など御座いましたら、
何でも言って下さいませ。

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