ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

51 / 120
ドーモ、庵パンです。
ややサボってしまったので、一週間以上かかりました…(;
九話の亜神クリバヤシですが、思った以上に栗林が無双した感じがしないので、
また機会を見つけて栗林無双します。
外伝Ⅲの栗林メインのターンでやると思います。
で、サリメルの昔話は最後の一説にちょこっとあります。


第十一話 地の底で見た存在

一晩経ったロマの森。

今日は朝から無肢竜退治出来るとあって、飛龍のイフリの面差しも心無しか気合が入っているように見える。

無肢竜は飛龍にとって、結構なご馳走らしい。栗林が仕留めた小型の無肢竜は首だけ銀の盆に載せてシエラに捧げられたが、首から下はイフリが食べた。

火威が仕留めた火を吐く無肢竜は、どんな化学物質を持っているか判らないから取り上げようとしたが、「約束が違う!」とでも言いたげな表情のイフリが頭から食べてしまった。

イフリに何の異常もない所を見ると、化学物質で生成した炎などでは無く火の精霊でも吐いていたのか、或は飛龍が想像以上に頑丈な身体を持っていると言う事だ。

まぁ多分後者だろう、と考える火威が地図を広げた。今日は朝の内に三カ所か四カ所、午後にも同じ数だけ無肢竜の巣を潰しておきたい。

無肢竜の巣は昨日のように窪んだ土地が多い。

キャリバーことブローニングM2重機関銃は頼りになる装備だが、このような地形では余り役に立たない。とは言え、今は物質浮遊の魔法が使えるのでデッドウェイトにもならない。

ロンデルに行ってる時に知ったが、物質浮遊の魔法は、火威が特地で魔導を習い始めた初期に覚えた物質軽量化の魔法と同種の魔導だという。

もし火威が戦争中に物質浮遊の魔法を覚えていたら、AH-1同様の三身ガドリングを個人で携行・運用してかなり楽が出来たろう。だが火威はともかく、教える側のレレイやカトーには複数の仕事が有って、余裕を持って誰かを師事する時間も無かった。

初日は火威が担いでいたが、あれは単に魔法の存在を忘れていただけである。

火威が忘れていたのである。大事なことなので二回言いました。これ以上はメタな話なので言わないが、決して庵p(ry

 

 

*  *                            *  *

 

 

宿と研究小屋や裏手の崖から離れた場所に厩舎を立てるべく、サリメルに保護されて従業員になっている男や女、それに子供達は木材を運搬していた。その中にはサリメルやルフレの姿もある。

運ばれた木材で厩舎を建てるのはジョバンニの役目だ。彼はこういった力仕事になると呼ばれる便利屋的な一面を、多いに利用されていた。ジョバンニ自身もそれを判っていて張り切ってやっているのだから、特に不都合は無い。

温泉と宿の経営者であるサリメル自ら、従業員と同じ作業な取り組むのは、彼女の性分としか言いようが無い。多少の不利益や使役者が軽んじられるような錯誤が発生しても、彼女は今までに自分で出来ることは大抵自分でやって来た。

ルフレはまさかエルベで土建のような作業をすることになるとは思っても無かったが、他に仕事があるわけでも無し。恩人であるサリメルがやっているのだから、見ているだけと言う訳にも行かない。

帝国内戦の最後、少し我を通せばフルタに付いてニホンに行く事もできた。

それをしなかったのは今までにやってきた事への負い目もあったが、幸せになる事への恐怖に似た気持ちもあったかも知れない。

もう一つのエンディングを確かめるべく走る。もう一つのエンディングとは、ゾルザルを始め、テューレたるルフレが治めていた国のヴォーリアバニーの部族を苦境に陥れた者達が、破滅をする様を見届ける事である。

それはテューレの死を意味している可能性が高かった。

ゾルザルの味方になったつもりは更々無かったが、客観的に見ればテューレはゾルザルを裏切った身である。

だがゾルザルの軍列に戻ってみるとゾルザルは既に死亡。ヴォーリアバニーが辛酸を舐めるに至った事に関わってたか不明だがアブサンを始め、複数人のオプリーチニナが強襲してきた存在に殺害されて、ゾルザル派の軍も敗北した後だった。

ボウロは……強襲してきた存在によって消し飛んだらしい。

結果的に復讐は果たされたが、自分では何もしてない。

戦で敗れ、多数に兵を失い心を弱らせていたであろうゾルザル。渇望している勝利という餌に、毒を含んだ再起と励ましの甘い言葉で判断力を狂わし、ヴォーリアバニーの国を攻めることを発案した者の名を語らせようとしたのだ。

そしてゾルザル本人も、デリラに投げられ、部族の恨みが籠ったナイフで殺すつもりだった。

そんな心積もりだったテューレは、ゾルザル派の敗残兵が去った森の中で生きる目的を失い、自死も考えた。

その時である、サリメルというエルフから声を掛けられたのは。

咄嗟に思い浮かんだ偽名は、自分の名から適当に考えたものだ。

新たに連れられた場所は、初めて足を踏み入れるエルベ藩国だった。そしてサリメルがミリッタの神官であることも知る。

更に、他種族に寛容な珍しい精霊種エルフで、この上無く色狂いである事も知る。

テューレは、自分が仕える相手はロクな奴が居ないと若干思ったが、サリメルは前の主人と違って注心されたら改めるし、細かい事でもちゃんと自分の非を認める。

ロンデルで得られる最高学位も持っているが、その事で偉ぶって他人を見下す事も無い。

来たばかりの時に同衾をねだられたり、少しでも好みの男や少年ばかりか、好みの同性が泊まった時に同じ布団で寝ようとする困ったところが多々あるが、実際には非常に優しいエルフである。

だからテューレ改めルフレは、サリメルが開いたこのオンセンリョカンの経営に心血を注ぎ込もうと決意したのだ。

 

火威が出発前に彼女に伝えた温泉宿の新商品は、ルフレが考えていた物を明瞭な形にした物だった。

サリメルでなはなくルフレに話したのは、先にサリメルに話したらエロい形で再現されそうだからである。

余りエロい形で出来るような事では無いのだが、宿を売春宿などと言ったサリメルだからエロい形でのみ残すことを火威は恐れた。

「畜獣の乳に果汁を混ぜて売り出すとはのぅ。ハンゾウは達眼の持ち主じゃな」

「はい、しかもサリメル様の魔導で果汁入りの乳を冷やしておくとは、手抜かりありませんね」

「うむうむ、流石はハンゾウじゃ。いよいよもって同衾をば……」

そんな平常運転のエロフをルフレが白い眼で見ない訳が無い。それはともかく、火威の案は完全に日本で流通するフルーツ牛乳である。

火威達の援軍として津金の隊がエルベ藩国に向かうに当たり、狭間陸将とロゥリィが文化侵略の程度を相談したのである。

その結果、“特地の技術で可能なものなら許可”という結論が出たのだ。それで火威はフルーツ牛乳を慣行した。

後年、この地を訪れたロゥリィ・マーキュリーが言ったらしい。

誰もここまでやれとは言っていない、と。

 

 

*  *                            *  *

 

 

「先輩の案、思いっきりフルーツ牛乳じゃないすか」

「ロゥリィに断罪されても知りませんよ」

「そ、そうかぁ……?」

ルフレに献策した温泉施設の新商品に、後輩と部下の二人にダメ出しを食らうのは火威だ。

「まぁほら、風呂に入ったら何か飲みたいと思うのは皆が思う事だろ? やることもないから温泉テーブルテニスやろうとするのも道理だろ?」

「ねぇよ!?」

語るに落ちたような火威の告解に出蔵は声を荒げ、栗林は「断罪待った無し」と呟く。

「いや、流石に卓球やろうとは言っちゃいないけどさ、宿の中で出来る遊興施設は有った方が良いかも、とは言ったよ」

それならセーフかなぁ……とは思う部下二人だが、サリメルが知ったらどのような改変が成されるか不安も感じるのであった。

 

シュワルツの森から火威達と合流したアリメルは、集結早々火威達に土下座した。

「ア、アリメル!どうしたの!?」

当然ながら火威も栗林も慌て、出蔵は動揺して何事かと問いただす。すると、依然としてティトが“引っかかっている”という。

遠まわしな物言いなので、何がどう“引っかかって”いるのか疑問である出蔵と栗林だが、昨日に引き続いて普段の彼女には見られることの無い余裕の無さを感じさる必死感で、事の詳細を問うのを止めさせている。

火威はと言うと、翼竜の背でティトの裏の顔……というか、シュワルツの森では表なのかも知れない顔を知ったので、何となく想像は出来た。

「まぁ津金一尉が来るのまでに来てくれれば良いかなぁ」

その代わり、協力出来ない日の分の日給は支払われない。もっとも、給料が本格的に支払われるのは日本と再開通した後なのだが。

そもそも今回の任務に参加する現地協力者は、多くの部分で個人の有志である。

アリメルは出蔵と結婚することを長老たちに知らせ、顔を見せる意味も有ったから来たし、ティトはロンデルまでの足《白チョコボ》を貸して貰ったので、借りを返す意味で来た。

ティトが二日続けて休むとなると、身内のアリメルとしては非常に肩身が狭い。肩身は狭いが、弟の女遊びが災いし、相手方の親に捕まっているとは恥ずかしいので言えずにいた。

このようにアリメルはダークエルフの中では貞操観念の強い女性であったが、元々強い訳ではない。身近に反面教師が居たから強くなったのだ。

 

この日、無肢竜を捜索・排除するための作業は、予想を大きく超えて(はかど)った。

途中で無肢竜なのか本物の蛇なのか判らない小さな長虫が出たりしたが、未だに戦闘は無い。長虫はアリメルが言うには蛇らしい。昼の時間も近いし、レンジャー徽章に憧れてる栗林が捌いて調理したが、美味しそうなので火威も少し分けてもらった。非常に美味い。味痢召がクソの様だ。

 

午後の探索は、存外チャレンジャーだったアリメルが、栗林が捌いて調理した蛇を食ったことで少々胃もたれをを起こし、彼女を気遣りながらの探索だったので多くは調べる事が出来なかった。

だが午前と午後を合わせても八つの巣を探索する予定だったが、予想を大きく上回って十一ヵ所の巣を調べる事が出来ている。

複数の無肢竜と戦う前提で予定を立てていたが、戦うべき無肢竜が極少数しかいなかった事が原因である。

それはイフリの戦果と食欲の為だ。

無肢竜が存在する巣の上空で旋回する彼女だが、火威達が決められた道に沿って進むものだから、彼女が捕食可能な大きさなら早々に仕留めて食ってしまうのが原因していた。

陽が暮れて来た十二カ所目の巣の主は、イフリも食える大きさではなかったらしいことを思わせる。

ここでも他に漏れず、想像してた通りの地面が大きく窪んだ斜面の下に無肢竜の巣は有った。

だが肝心の無肢竜は地面に小さく口を空けた洞窟の中に居るらしい。

これでは身体の大きいイフリが仕留められないのも無理ない。

「目標はあの中か。まぁ蛇は寝る時間だしな」

言う火威が、続けて指示を飛ばす。

「先ずは俺が行く。5分経っても俺が出て来なかったり、排除不可能な無肢竜だけが出てきたら、即座に重い装備を棄てて撤退しろ」

火威は、自分達が小さくとも狂暴な竜を相手しているんだという事を改めて言い聞かせた。

斜面を降った火威が巣の穴を覗き込み、周囲に敵性生物が居ない事を確認して洞窟に侵入する。程なく、アリメルや栗林と出蔵も洞窟内に入った。

洞窟の中は出入り口から考えると驚く程に広大で、自衛官達がエルベ藩国に来てから最初に潜った物に較べても遥かに大きな空間を持っていた。

地震や火山活動がファルマートの中では活発なエルベ藩国内でも、これ程の空間を持つ洞窟を見つけると、一つの事を懸念せざるを得ない。

「出蔵、栗林、何時でも脱出出来るようにしといて。アリメルも同じく警戒して」

ここまで拡大した洞窟を、無肢竜の習性によるものと考えたのだ。

蛇の習性にも龍や竜の習性も門外漢の火威だが、想像出来る事態には可能な限り警戒する。休みの時に味痢召などでは無く、ジゼルに無肢竜の習性を詳しく聴かなかった事を後悔した。

その彼が敷いた陣形は、先頭は火威自身、中列に出蔵と栗林、そして後方にアリメルという菱形隊形だ。密集せず、慎重に少しずつ足を進める。

洞窟の中は暗いので、光の精霊魔法で作った小さな光球を頭上に浮かべて光源を確保する。

そして火威が敷いた陣形は、先頭は火威自身、中列に出蔵と栗林、そして後方にアリメルという菱形隊形だ。背後からの奇襲には全員が注意するとして、密集し、慎重に少しずつ足を進める。

後方のアリメルも精霊魔法の使い手なので、火威の部隊が持つ光源は前後二つになる。

密集したのは、昨日のように炎を吐く無肢竜がいても、その炎から皆を守る自信が火威には有ったからだ。まだリンドン派魔導士が覚える防御魔法しか使ってない。

ロンデルで入手した木材を使った防御障壁は未だ展開しないでいる。

周囲を警戒しながら進めば、地上に綱がっていると思われる通路が幾つもある。

かなり深い洞窟内に、(せば)まった通路がある。いっそのこと手榴弾でも投げ込んで安全を確保したいが、落ちて来た岩で通路が塞がるのも避けたいし爆発音で洞窟内に複数居るかも知れない無肢竜が集まって来る可能性もある。

洞窟の二層目に侵入してから、他の三名に一層周囲の警戒をするよう火威は声を掛ける。これ以上は警戒のしようが無い中、仲間の足音すら気に障る。

炎を吐くような奴は、可能な限り一体の時に倒したい相手だ。

二層目の洞窟は一直線で地上に伸びる通路は確認出来ない。

少し進むと、ようやく目標である無肢竜の姿が有った。

「よし、やるぞ」

半身以上を土の下に隠しているが、その頭部は以前に帝都の大帝門で見た炎龍の頭部よりは小さいが、それ以外ではイフリなど今まで見たどの龍よりも大きい。

「あれがニァミニアか?」

呟く火威が、どんな相手だろうと速やかに敵を排除すべくキャリバーを降ろし、準備を部下に指示する。

光源にした光球が二つも有るとあって、無肢竜は逸早く気付いて鎌首を上げ、侵入者の方向を向いてる。警戒心を向けているのは明らかだが、未だに動く気配は無い。

そしてその向こうに、対騎剣のような身幅の大きな剣が地に突き立っているのが見えた。

直ちにキャリバーを降ろして三脚で固定したた火威が、三人に指示して自らも爆轟を展開。

のみならず、爆轟を封じた二つの漏斗を浮かせた。

その間にも、出蔵がキャリバーの槓桿を引いて銃口を無肢竜に向けた。

 

 

 

*  *                            *  *

 

 

今更言うまでも無く、少年が大好物なエロフは想いを伝えて受け入れられた日の晩に、ミリエムが寝た後にリト少年と番う。

サリメルが驚いたのは、リトが体格に見合わない程の強い責め方で、永遠に近い長命が故に、個体数の少ない精霊種エルフであるサリメルをたったの一晩で孕ませてしまったことだ。

サリメルと同類の精霊種の元夫にも、出来なかった神業である。

そして産まれたのがハーフエルフのアリメルだ。彼女はダークエルフの父親に似て褐色の肌を持っていた。

故郷の森を出てから千年以上、学都を出てから六百年以上の月日が流れている。そろそろ落ち着いて一つの場所に腰を据えたいところだ。だがサリメルは使徒として大陸各地を放浪する事を運命付けられている身である。何時かは旅に行かなくてはならない。

アリメルが支えも使わずに一人で立ち、長旅が出来る程に体力が付いた頃、二人の娘を連れてサリメルは再び大陸を巡る旅に出た。




WEB版は読んでないんですけど、水龍ってどんな形なんですかねぇ。
炎龍っぽいのか長いのか、今現在は読めない上に確認できるメディアがないので疑問だけが積み重なります。
まぁ、水龍を出す予定も無いんですけどね。

そんなワケで、質問・疑問など御座いましたら、忌憚なくどうぞ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。