ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
引っ張るだけ引っ張ってようやくこの章のラスボスが登場です。
今回も少しばかり長いハズ……かも?
んで、ニァミニアというのはコンゴか何処かのUMAの名前を元にしております。
出蔵が某MAに例えてますが、流石に370mもありません多分。
で、今回は最初の一節がサリメルの過去話です。


第十二話 無肢竜の王

ミリエムとアリメルを連れたサリメルは一時は北西に向かう。

この時には既に西方砂漠と海を越えた場所以外のファルマート全域を回ったサリメルだが、まだエルフとしては十分に子供のアリメルを連れて過酷な砂漠へは行けない。

そこでサリメルは一転、大陸の北東に向った。

彼女が産まれ育った故郷のある森が目的地だ。

千年振りに見た故郷は相変わらずで発展の欠片も無い限界集落だ。

育ててくれたエルフの女性は長老になってたが、他の種族と違って余り老けた感じがしなかったので沐浴の際に抱き付いたら大変驚かれた。

習慣の違いなので(サリメル限定の)致し方ないが、他の精霊種エルフにアリメルが土エルフなどと言われて侮られる事が、母親であるサリメルには我慢ならない。

丁度オリンピアードが開催され、周囲の村々から大勢のエルフが一堂に会している。世の中には他種族でも侮れぬ者が居ることを、世間知らずの田舎者共に解らせようとしたが、ダークエルフの血が流れるアリメルはまだ幼く、戦士としての才覚は当然のことながら芽生えてすらいない。

仕方ないので三等以下を大きく引き離し、全種目の一等と二等をサリメルと立派な女性と言える程までに成長したミリエムで取ったが、二人とも精霊種エルフなのでサリメルに主張は届かない。

次は成長したアリメルと三人で1、2、3位を独占しようと思ったが、アリメルは多くの精霊種エルフが自分を見る目が険しいものだと感じ取っている。

幼いアリメルが、この森に二度と来たくないと来たくないと思うのも当然の事であった。

千年振りに帰ったというのに、見るべき物も無い故郷の森を後にしたサリメル達は、氷雪山脈に沿う形で西に向かう。

途中で会う人間は、この時代では大陸のほぼ中央に大きな都を作って方々で侵略戦争を続ける「帝国」というヒト種の集団だった。

サリメル達が旅の途中で会う彼等は大概好戦的で、少し油断すれば娘達を拐そうとする。

サリメル独りなら好色漢は又とない客だが、娘達に危害が及ぶ恐れがあるなら避けて行くしかない。

当時には氷雪山脈付近にも帝国の勢力は少なからず進出してきていて、これがまた厄介な存在ではあったが、その一方で元々土地に住んでた者たちは寒さに強い他種族が多かった。

その中で初めて見る種族も居た。一見すると怪異のような巨体を誇るが、その実、温厚で無口なエティという種族だ。

長命の彼らは無口と言うより一言も喋らない種族だ。その上に総じて剛腕で、気味悪がった帝国の先兵が長槍で追い立てようとすると裏拳一発で吹き飛ばしてしまったことがある。

だが種族的に戦いを好まないのか義侠心が厚いのか、害そうとしない限りは実に良い友人である。

正直、外見での雌雄の判断に困る種族で、学都では生態学を専攻していたサリメルも増え方が気になったが、その中ではノリの良い開明的な雄の話し(筆談)によると)、エティという種族は全員雄らしい。

増え方も“気が付いたら”居たとか、”いつの間にか”あった、など、彼ら自身でも謎の多い種族だ。

賢者としては謎は放っておけないので、暫し彼らの里に逗留して研究していたが、エルフとしても行き遅れの年頃になってきたミリエムの事も考えると余り長居は出来ない。

そろそろお(いとま)を……等と考えていたが、世の中は思ったようには行かない、

彼女らが逗留していたエティの里が何者かの襲撃を受けたのである。

里に住む獣人の話では、襲撃してきた者達はヒト種であったそうだから、最初は帝国の手の者かと思われた。

しかし二度目に襲撃してきた者を捕らえると、既に死んでいるという有様。それでも行動し、生者を襲おうとしているのだから、反魂呪文が使われた何よりの証左だ。

三度目の襲撃では帝国とその者達が交戦していたから、不死者は帝国の手の者で無い事が判る。

反魂呪文のように世界の理をバランス、命の尊厳などを著しく侵し、狂わし、乱すような因子は、世界の庭師たる使徒に断罪される。

サリメルも使徒ではあったが、神ではなく神殿に選ばれた使徒だから不死の肉体という訳では無い。

エティの里から脱出するには、不死者と帝国の両勢力を躱して抜けなければならない。サリメル本人と成長して精霊魔法の使い手となったミリエム、そしてアリメルだけなら光の精霊魔法で不視化して抜け出す事も出来る。

だがサリメルがそれを良しとしなかった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

如何に賢しい頭脳と頑強な鎧のような鱗を持ち、この世界では最強の部類と言われる生物の一つである竜と言えど、横の繋がりが無く、少し大きい程度の無肢竜が、入念に屠竜の支度した魔導自衛官に何一つ抵抗出来る筈も無かった。

無肢竜が居た場所には、砂埃に塗れた無肢竜だったネギトロめいた物が倒伏……というか潰れている。

「心配のし過ぎじゃないですか?あの大蛇っぽいヤツだって火も吐きませんでしたし」

言う出蔵に火威は返す。

「俺はな、モン○ンで初めて三乙したのがガ○ラアシャ○なんだよ。だから部位破壊も捕獲報酬も要らんから見つけ次第ブっ潰したいわけよ」

この先輩、結構ゲーム下手だったよなぁ……。出蔵がそんな事を思い出しつつ、その出蔵が見る前で火威から慎重に手渡された大剣を見ながら栗林は昨日の事を思い出す。

昨夜、似たような大剣を持ってサリメルの宿に帰還した時の話である。昨夜に持って帰った大剣は、今栗林が柄を握る大剣よりも幾分軽かった。

それでもサリメルやルフレは驚く。

それもそうだろう、出蔵三尉が抱えて辛うじて持ち上げ、宿の従業員の男となると持つことすら不可能だった剣だ。

ここまで重い刀剣類はロゥリィのハルバードくらいしか知らないが、火威という男は「先っぽに重りが無いから聖下の鉾槍よりは持ち易いハズ」とか言っている。

神の御印であるロゥリィのハルバードを持った事があるのかと聞けば「稽古の時に素振りさせてもらった」との事。

明らかな白兵戦用武器を持って帰ってきた自衛官に、何を勘違いしたのかサリメルとジョバンニが両腕に一杯の刀剣類を抱えて宿まで来た。

「ヌシら、剣や槍の類を使うのか?」

なぞと言って持ってきた刀剣類の中に、穂先が幅広で諸刃の剣のようになった槍があった。火威が真っ先にその柄に触れる。

「ぬぬ、流石ハンゾウ。御目が高いのう」だとか、何処ぞの商人のようなセリフをほざくサリメルが続ける。

「これは(ケダモノ)の槍じゃ。狂戦士の魂が封じられているという曰く付きの代物じゃよ」

ロゥリィが聞いてたら断罪されそうな事を言うサリメルの前で、火威が試しに槍を構えてみる。

その瞬間に火威の瞳が獣の目に変わった(かも知れない)。何処からともなく吹き込んだ風がサリメルの長い髪をそよいだ(ような気もする)。

だがそれ以外に変わった事は無かった。

「……この槍は出来損ないだ。生えないよ」

そんなことを意味するナメック語を呟くと、火威は栗林に槍を渡す。

もし槍に口が有り、言葉を持っていたなら言っていたかも知れない。「こ、こいつ(毛根が)死んでる!?」

どういう意図があるのかは判らない。多分、興味深そうにずっと見ていて、尚且つ銃剣で無双する栗林が使えば鬼に金棒……という風に思ったのかも知れない。

ところが、火威に渡された槍は栗林の感覚でも非常に重かった。今までにもウェイトトレーニングでバーベルやダンベルの類を持った事はあるが、(ケダモノ)の槍はそれ以上の重量を持っていた。

それだけの槍を持って軽々と扱うのだから、火威という男が帝国内戦の最終決戦の地となったイタリカの住民に感謝されて、謝礼金を受け取ることとなったのも納得出来る。

日本に帰還した丸山貴絵に言われてから若干気にしてたが、確かに強さを求めているように思える。

以前に炎龍の首が大帝門に掲げられた際、帝都からアルヌスに戻るチヌークまで向かう馬車の中でも炎龍を倒すべく訓練を続けていたと自白した三尉だ。

しかも特地では余り意味の無いように思えるが、冬季遊撃徽章の持ち主だ。冬季遊撃課程教育では特殊作戦群との合同訓練も活発に行われる。お突き会いでは栗林を上回る特戦群のメンバーが未だに現れなかったが、火威という男は判らない。

思わぬ所に予想外の人材が居たものだと思う。

だが栗林は現在富田章へ恋慕中なので、同時に二人に想いを寄せるなど二股めいた事は出来ない。

頭部がスッキリしたとは言え、火威と付き合うのは向こうから告白してきた時なのだ。

大剣を返してもらった火威が、本来なら背嚢がある筈の兜跋の背中に剣を据え付けて携行する。

出蔵や栗林は火威が戦争中にも敵から鹵獲した同種の大剣を使っていたと聞いていたが、まさか持ち運びや易いように鎧の背にアタッチメントだかホルダーを増設してたとは思っても無かった。

栗林は今の隊長が「禿頭筋肉系の特地人?」とすら思ってしまうが、もう一人の上司の高校の先輩となると日本人なのだろう。

その火威はと言うと、振り払った筈の脅威が未だ拭えぬ事に冷汗を流し、アリメルや部下に引き続き警戒を促している。

この感覚は以前、ジゼルを連れてアキバ探訪した時に似てる。

あの時もオークの視線……ならぬ死線を受けた時から身体の具合が変調をきたした時以来だ。だが火威自身の直観という不確かな物では、此れという異常もないのにアクションを起こすことも出来ない。

何処かから敵性生物が見張ってるんじゃないかと思い、周囲は勿論のこと天井も見たが気配の主は見えない。

改めて隊列を組む際に、害獣が襲撃してきても良いように警戒を促す。そのまま進むと、やがて第三層にでも繋がるであろう洞窟が口を広げていた。

二層はもう少し続くが、すぐに行き止まりになるのでこの洞窟に入るしかない。

「これは……絶対に居るな」

火威の直感が全力で語っている。行くべきでは無いと。と言うか、火威の頭上の光源が薄っすらと三層内に蠢く何かを照らしている。

野外なら上砂嵐と爆轟を駆使すれば結構楽に斃せそうな相手だが、相手のホームグラウンドでやるとホームグラウンドの洞窟自体が潰れそうだ。というか、潰れる。

火威は部下とアリメルに、万が一の時は出口向きに全速力で走る準備を伝えた。三人もジゼルから聞いた話の無肢竜とは、全然違う相手を敵にしているので異論は無い。

帯嚢の蓋を開けると、無肢竜が嫌う獣脂のムッとした悪臭が辺りに漂う。

同じ場所にレーションを仕舞っておいた事を後悔してた火威が、防御魔法と爆轟の光輪を、現在の火威に出来る25個の最大展開しつつ、浮遊の魔法で浮かせた獣脂を洞窟に放り込んだ。

爆発と共に洞窟内から炎が吹き出す。だが即座に展開した障壁で、炎は少しばかり無肢竜自身の身体を焦がしただけだ。

「全員撤退! 逃げろ!」

棲家に爆発物と悪臭の発生源を放り込まれた無肢竜は、侵入者を捕食すべくその姿を現す。

太さは巨象程、長さは全身が出てきていないから不明だが、後にアルヌスに帰還した出蔵によると「ドッ○ーラくらいあった」らしい。

「ちょっ…! なんスかアレぇ!?」

「良いから逃げるんですよ!」

誰に問うつもりなのか解らない出蔵の声に応えつつ、栗林が彼の襟首を引っ張って一層まで向かう。

その中で味方の撤収を支援するため、キャリバーを手持ちで撃ちながら地面から少し浮いた地点を後ろ向きに滑走する火威を見て、出蔵はまた驚いた。

「ネッカクホバァーッ!?」

本当なら物体浮遊の魔法を兜跋に使い、空中を縦横無尽に飛んで無肢竜の死角から大剣を突き立てる事を夢想していた火威だったが、思惑とはままならない物で地面を高速で滑るだけしか出来ていない。

「出ッ蔵!良いからお前ェは後ろに全力ダッシュしろぃ!」

地上を走る以上、鎌首を上げる無肢竜の目を狙う事は不可能だ。8メートル程の給弾ベルトを撃ち尽くした時、火威は足を止めて精霊魔法の詠唱を始めた。

「三尉、早く! 何やってんですか!」

振り返る栗林の声が響くが、火威が足を止めたのは存外足の速いニァミニアに追いつかれないための方策を敷く為だ。この巨大無肢竜には、アルヌスに連絡を取って多目の支援を要請する必要がある。

「良いから先に行け!」

詠唱を終えた火威の周囲に、霧が立ち込める。そして再び地面を滑るように動くと、その姿が残像のように残った。

「フヘヘ、どやァ?」

誰とも知れずに問う火威の姿は複数あり、その残像に惑わされたニァミニアも侵入者への追撃を留まる。

その間にも無肢竜の背後を取った本物の火威が、早詠唱で展開した爆轟を、無肢竜の後頭部に叩き付けるのだった。




最初の原案だった「魔導忍者彼の地にて斯く戦いけり」の忍者っぽさが、ようやく出て来たと思います。
むちゃくちゃ遅かったです。本編終わって外伝1の後半に出て来るとか、タイトル詐欺をやらかすところでした。
前回と今回を少しばかり長くしてますが、外伝1が終了するまであとどれくらい必要なのか予定を立てても書き始めると長くなっていく不思議……。
本編も似たようなことが有りましたねぇ……。
外伝2では原作と同じ大祭典をメインテーマにする予定ですが、何時になったら出来るやら……。

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