ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
まさか前回の投稿からこんなに掛かるとは思わなんですわ……。
っていうか外伝1で15話以上書くことになるとは……。

そして漫画のウォルフ。
あんな所に郷里が有ったんですね。当小説で書いたのと全然違いました。
まぁアルヌスの北なんで、取り敢えず予想通りです。



すいません。めっちゃ予想外の場所でした。



第十四話 闇の蟒蛇

「ふぅ……痛ェ、おっかねぇ……」

火威は兜跋の兜を抑え、しっかりと襟廻(えりまわし)の接合部に引っ掛けてから呟く。

ロマの森で過ごす最初の日、ティトとアリメルから「森の魔女に食われるかも」なんて話を聴いて、実際に幾度となく性的に食われそうになり、火威が望めば何度も肉感的美女との行為にもありつけたが、実際に気を許して見ると食欲的な意味で頭から頂かれそうになった。

早い話が、契約を済ませたのである。

「にはははっ、まぁ許せ。これで契約完了じゃ」

「……紙の契約書じゃ駄目なんスか?」

サリメルから距離を取りつつ、火威が尋ねる。この女には背中を見せたくないし、少し離れておきたい。

しかもこの女、無肢竜との戦闘があるかも……とか言って、アメジストの装飾が眩しいデザイン重視の大型ナイフまで用意している。

栗林が使えば判らないが、大型とは言え二回の爆轟に堪えたニァミニアの鱗にナイフが通じるとも思えない。

ただ、二回目の爆轟は早咏唱ではあったが……。

「魂の契約に羊皮紙やニホンの紙など使える筈なかろう。ヌシの血を妾が舐める事に意味があるのじゃ」

なにその悪魔めいた契約……と思いながら自分の頬を気にした。禿頭の強面の頬に、女性の歯形があったりしたら色々な物が霧散してしまう。緊張感とか威厳とかが。

「妾の歯形とか残ってないから安心せい」

ホント、このエロフは人の心を良く読んでくれる……。そんなことを思った火威はふと気になった。

徐にサリメルの瞳を見据え、力強くも無言で訴える。

「な、なんじゃ……?」

火威の視線を一身に受けて何を感じたのか、ぽっと頬を赤らめるサリメル。取りあえず大いに誤解である。

「いや、露出度下げてくれると嬉しいなー、と」

一晩お願い出来るなら――なんて言葉も過ったが、こういう時に条件を質にするほどサリメルはみみっちぃ女ではない。

「にゃ、にゃんとハンゾウは女体が嫌いなのか……!?」

やはり、言葉で伝えなければ判ってもらえないらしい。

「や、大好きですけどサリメルさんの肌色はちょっと過ぎるなー、と」

「妾が脱ぎ過ぎだったとは……」

「Yeah、そっスね。サリさんのプロポーションなら縦セタとかも……あ、この話はまた今度」

「いぇあ? くっ、また新しいニホン語が……! まぁ良い。今度「たてせた」とやらと共に教えてもらおう!」

見ているだけなら火威の好み弩ストレートの巨乳美女エロフと、ほんわかした心が和むのんびりした雰囲気を醸成しつつ、己の女運を少しばかり嘆く。

三十路を過ぎて遂に本気で想いを寄せる相手が現れたと思ったら、その相手は自分以上に強い男以外とは付き合わない上に、本人が人外の強さだったりする。

ならばと、火威自身も持ち前の体力に飽かせて白兵と基礎体力を得る為に訓練していれば、妙に青い女神様のお気に入りになったりする。

女神様から告られないのを良い事に、最初に好きになった女に交際を申し込むべく訓練を続けていたら、任務で自身の好みの弩ストライクの肉感的なエルフの賢者に出会う。

好みを計ったかのような女性で、今までの禁欲も不意にしかねない程に危ない事態だったが、彼女は幸いにして恥女だった。

だがこの恥女、他人の忠告は素直に受け入れる正直さもあるので、その辺りは数々の誘惑を受ける事になる火威には実に良ろしくない。

余り素直に受け入れられると、その素直さに好意を持ってしまうからだ。

とは言え、今日までに若干ながら芽生え始めた好意も、今しがた顔を噛まれた事で霧散してしまった。

今までは現場指揮官としてサリメルの研究小屋にも足を運ばなくてはならなかったが、明日か、遅くとも明後日にでも津金一尉に押し付けられる。

その前に、闇に包まれた洞窟通路の先に居るであろうニャミニアをどうにかする必要がある。とは言え、選べる行動は津金一尉が来るのを待ち、LAMで穴だらけにする事くらいしかないが。

彼の無肢竜が居るであろう闇の中を見据え、火威は考える。

手強い敵は超が付くほど大型の無肢竜一頭。

フォルマル邸の博物誌で見たり、ジゼルから聴いたような情報は全くの無意味だ。

無肢竜や蛇の腹には鱗が無いように思われるが、実際のところ蛇の腹には鱗が変形した大きな腹板と言うものが並んでいる。この腹板は間隔を伸ばしたり縮めることが可能で、これを立てたり寝かしたりして蛇腹のエッジを引っかけ、木を登ったり前に進むことが出来る。

そして蛇行と言うように、蛇はS字にくねって静かに前進する。これは、腹板を地面にぴったりとくっ付ける為である。

この生態によって生まれた余計な距離によるタイムロスのお陰で、栗林も出蔵もアリメルも二層まで逃げ切る事ができた。一応、火威が多少ながら時間を稼いだこともあるが。

この辺りは火威達の世界の大蛇なり蛇なりと変わることは無い。ついでに砂の上では蛇腹は使えないので、砂漠などに住む蛇は他の方法で前に進むのである。

火威も大学時代に脇の知識というか、人生の暇な時間にこのような雑学を蓄えてきたので知識としては知っている。だがそのまま特地の竜に当て嵌るかは判らない。何せ炎を吐くのだ。平気で砂の上でも活動するかも知れない。

身体の全面が鱗で覆われているとなると、確実に鱗が無いのは口の中や体内だけとなる。

だが、さしもの火威もこれには(かぶり)を振った。リスクが高過ぎる。

ニァミニアが口を開くのは炎を吐く時と捕食する時である。

今までにも炎を吐いた無肢竜の口に爆轟を見舞った事はあるが、このバカみたいにデカい蛇はその重量で押し潰そうとする。

これには、こちらがタダの獲物では無く、ニァミニア自身の生存を脅かす敵である事を知らしめて炎を吐く為に口を開けさせる必要がある。

ただ、そうなると栗林や出蔵、それに明日にでも来るであろう津金一尉の危険度が増すのが困るところだ。

「集結後じゃないと危険か……」

頼みの綱としていた爆轟は、師であるレレイのように三十個も光輪を展開する事が出来ないのでニャミニアを斃すのに威力が足りない。

津金一尉が携行してくるLAMを釣べに撃って斃すしかない。

 

丁度同じ頃、ティトは明日もまたニムエの親父から強制的な説教される為にシュワルツの森に足止め喰らうことが半ば決定していた。

「はぁ~、どうしてこんな事になっちゃったんだろ」

多分、というか絶対に不器用な癖して器用なホドリュー・レイ・マルソーの真似するからである。

それは判る。それが判かりつつも尚言いたくなるのは、拘束四日目が決定しつつある彼の気持ちだ。

「不器用なのにハイ・エルフの真似するからよ」

判っている事を言われるのも業腹だが、声の主は大好きな姉、アリメルの物だった。

あと少しで他人の妻となってしまうが、人妻というのもそれはそれで……。

「姉さんお帰り。今日は何が有ったの?」

「多分、ニァミニアじゃないかっていう無肢竜が見つかったわ。ナオ達が明日になったら本格的に攻撃するから、貴方も来なさい」

「ニ、ニァミニア!?ホントに!?皆無事なの!?姉さんは判ったとして、クリバヤシさんとか!」

目標発見の知らせに思わず声を荒げる。そして心配して挙げた名は自分でも予想通りに主に女性だった。

「ヒオドシが凄かったわよ。お陰で皆助かったわ。流石は飛び級で博士号取るだけあるわね」

努力の塊というか、隊の教練以外にも気でも狂ったような稽古の数々を火威がやっているのは、アルヌスに住んで居れば良く目にする。

やはり以前にハイ・エルフが言ってたように、最後まで女性を騙し通すよりも、努力して本当の事にする方が簡単な気が……。

「いや、変わらない……か?」

毛髪が一本残らず抜ける努力である。寧ろこちらの方が難しいかも知れない。否、絶対に難しい。

だが噛み噛みとまでは行かなくとも、喋りが苦手なダークエルフとしてはホドリューと火威の真似を程々に真似るしかない。

*  *                             *  *

五十年程前、前回の炎龍の活動期だった頃の事だ。

古代龍が巣としていたテュバ山。その周辺に住む者達を、一カ所に集めた魔導士が居た。

サリメルが住む森が、ロマの森と言われるようになった女魔導士のロマリア・デル・ドリードという栗色の長髪の女性だ。

彼女はアリメルらダークエルフが炎龍に襲われそうになると、颯爽と前に出て魔法の障壁で皆を守ったから、父やティトなど多くのダークエルフが生き残れたし、サリメルも助かった。

だがロマはヒト種だ。長命種のエルフと違ってその命は長くない。

去年、考えられていたより早く活動期に入った炎龍によってヒトやエルフが大勢死んだ。そしてその時、大勢の命を護るべき立場にいた魔導士のサリメルが居なかったのだ。

サリメルは当時、アリメルの姉であるミリエムを迎えに行っていたと言うが、その夫のエティを見てもミリエムは未だ一向に見てない。

エティが居る以上、ミリエムを迎えに行ったのは本当なのだろうが、どうせ男でも追い掛けていたのだろう。

それにだ……

それに多くの友人のダークエルフ、そして父のリトが犠牲になってしまったのだ。

その時、何処で何をしていたのか。

問い(ただ)さなくてはならない。

 

そんな風にアリメルが考えていた頃、出蔵と栗林はシュワルツの森の近くまで来ていた。

サリメルの宿の近くに駐車した高機動車からアルヌスに通信を入れてから暫し逡巡したが、火威一人がニャミニアを見張っていると言うのに自分たちだけが何もしないという訳にも行かない。

シュワルツの森近くにあるエルベ藩国の砦に居る藩国諸侯のエギーユ・エル・ドリードに、ニャミニア発見の報告をすべくアリメルと共に森に来ていた。

「さて、来たところで何をどう言うべきか」

アリメルの故郷に来たところで、出蔵は逡巡する。

基本的にこの地の貴族や軍人に、一般民衆を護るという意識は無い。寧ろ搾取するものだと思っている所がある。

自衛隊が特地に来た頃、ピニャの薔薇騎士団が盗賊団からイタリカを護っていたが、それだって異世界の敵である自衛隊がイタリカを襲っていると勘違いしたからであって、基本的にこの世界には警察組織は無い。

とはいえ、ニャミニアはエルベ藩国としても斃したい害獣だろうから、多くの人員を割かざる得ない筈だ。

その事を考えれば、出蔵にもエギーユに兵を出させる方策は見えてくる。獣人や、地元の人間しか使わないような林道は無理だろうが、国の交易に関わるような街道の警備には人員を出せる筈だ。

まぁニャミニアの巨大さなら、多少障害となるような人が居ても、薙ぎ払われてしまいそうだが……。

しかもあの無肢竜も、他の野生動物と同じように障害の無いところへ行ってくれるだろうか、と。出蔵の胸には少なくない不安が転がっていた。

 

 

*  *                             *  *

 

朝焼けの空に、一頭の翼竜がロマの森に向かって飛ぶ。

その鞍に乗るのは、顔を出しかけた朝日にも負けない程に鮮やか濃い赤黄色の長髪が映えるハイ・エルフの女性だ。

彼女が乗る翼竜の鞍には、ロンデルで購入し加工した丸太が複数括りつけられている。

ベルナーゴ神殿近くで先払い式で借りた翼竜は飛龍程の体力は無く、ここに来るまでにも六回以上休みながらで来ている。

ベルナーゴよりエルベ藩国に近い位置で翼竜を借りれば良かったのだが、母の伝手があるベルナーゴでなければ翼竜など借りれる物では無い。

ベルナーゴのハーディーと言う神は、もし依代が居たら母、サリメルの娘であるミリエムとも抱き合うつもりでいたようだが、幸いにして依代となれる人間は居なかったのでミリエムは綺麗な身体のままである。

ミリエム・ミリ・カルピスは、母やハーディーのように同性と抱き合う非生産的な行動の意味が判らない。

自身の夫も雪の精霊の一種らしいからミリエムと子を作る事は出来ないが、そのハンデを以って余りりある力強さに惚れたのだ。

そんな自分に甘いミリエムだが、サリメルと違って彼女は一度に一人の人物に尽くす女性だ。彼女の心を射止めたのは、本来なら氷雪山脈に住んでる筈のエティであるジョバンニである。

ミリエムが愛情を態度で示しても嫌がらないから、互いに好き合ってる事は確実(とミリエムは考える)。他の者からミドルネームを知られて獣欲を満たす為に誘われも、初めては夫で済ませたという言い訳が成り立つので断る事が出来ている。

むろん、嘘では無い。一般的に言う子作りを済ませた訳でもないが。

ともあれ、母と夫が待つミリッタの神殿まで急がれる。急がねばならない。異世界の軍と行動を供にし、今もなお母への誤解を続ける妹の認識を改める為にも、ロマの森に住む者達の為にも。一刻も早く行かねばならない。

 

*  *                             *  *

 

 

サリメルのお陰で否応もなしに緊張感が続く火威の腕時計は、ニァミニアの動きを見張るようになってから、既に長い針が五周ほどしていた。

洞窟の中では判らないが、今頃外では朝を迎えている筈である。

あと数時間もしたら津金一尉以下九名と志願した現地協力者と、待ちに待ったLAMが来る。

「クククククッ、ニァミニアめ。あと数時間の命だ。頸を洗って待っとけよォ」なんて言葉を、声に出して言ってみたかっけど、少し離れた場所でぐっすりと寝てるサリメルを起こしてしまいそうなので黙っておく。

こうして寝顔を見てる分には至極佳い女なのだが、起きて行動し始めるとトンでも無い積極性を発揮する。主に悪い方向で。

そんな心休まらない女の、数少ない心休まる数少ない一面から眼を放して三層に注意を向けた時、それは起きた。

「もんげェー!?」

背後から酷い悲鳴が聞こえて振り向くと、少し前まで見ていたサリメルが巨大な蛇に丸呑みにされる姿が見えた。

「なっ!? コイツ!!」

火威は直ぐに理解した。

三層は二層から少し覗いただけで内部は調べていない。三層目の先から、一層に繋がる通路があったのだろう。一層と二層を繋ぐ通路は狭かったが、今自分が対峙するニャミニアの質量を以って当たれば容易に崩れる薄さだった。

近距離で魔法の詠唱は自殺行為。右肩に吊る64式小銃も敵の鱗を通す筈も無し。幸い、サリメルのお陰で反応の速かった火威は現在ニャミニアと睨み合う形となっている。

LAMも味方も居ない状況で、火威は覚悟を決めた。




今回はサリメルの過去回、アリメルが似たようなことしてますけど有りません。
次回はちょっと長めに過去話をやる予定……ではあります。

そんなワケでご意見やご感想、誤字・脱字等御座いましたら、忌憚なく申し付け下さい。

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