ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
このところ遅筆も良いところです。

で、ありのままを言うぜ。
真剣に書いていた筈なのに、気付いたらギャグ調に書いていた。
何を言っているのかわからねぇと思うがおr(ry

外伝15話ですが、前回よりちょいと短いなぁ……って気がします。
これだけ時間を掛けてどうしてなのか……。


第十五話 追撃の森

現在から150年以上は前のことだ。

ファルマート大陸全土で強権政治でも敷いたように、侵略戦争や併合政策で巨大化していく帝国の確立期において、他国……それも格下と考えられていた他種族に頭を下げるのは、赦されるような事では無かった。

百人隊長は兵の被害を少しでも抑える為の行為だったのだが、彼に帯同してきた副隊長は身分が低いながらも帝国貴族だったものだから、余り良い顔はしない。

また、帝国の同じような価値観の元で育った兵にも少なからず似たような事があるのは、当然とも言えた。

百人隊長の男がサガルマタの代表に頭を下げたのは、不死者を効率的に斃す方々を兵達に知らしめるためなのだが、肝心の兵の間には竜人女性に(たら)し込まれた等と言う野卑な噂が流れていた。

そんな話は帝国人の間で伝わる内に、他種族が自分たちより劣った精神を持っているようにと、一種の願望にもなる。

実際に戦場で見る彼女は勇壮で凛々しく、戦場の外では容姿端麗な美女だ。実際にその姿に見惚れたのは百人隊長では無く兵の方だったりする。

だがサガルマタの代表である竜人女性の本質は、剣弁高芯咲くが如き気高さを持った女性だ。外から来た男を誘い込むような事などは無い。

そうして不死者を制する方法を知り得た帝国ではあるが、帝国の将兵は誰独りそれを百人隊長の手柄とは認めなかった。

それだけやれば、動けなくなるのは「当然だろ」と言うのが彼らの意見である。

生きてる人間に対しても同じ事をすれば動けなくなるは異論無いのだが、それが今まで出来なかったのは動く死体を怖れるが余り、積極的にやろうと言う者が出なかった事が原因する。

それでも猶戦わなければならない帝国の将兵の為に、他種族の女性に頭を下げた百人隊長に対して、サリメルはヒトと言う種族の中にも感心出来る者が居ることを知った時だった。

 

*  *                            *  *

 

 

ニァミニアの尾が叩きつけられ、火威が居た場所の岩が爆発するように弾けて砕け落ちる。

数刻前は逃げるのに必死で気付かなかったが、この無肢竜は改めて見ると思ってたよりは小さい。精々でC-1輸送機を二~三機繋げた大きさだろうか。

とは言え、巨大なことには変わり無いので攻撃する機会は中々廻って来ない。

眼の前の火威に対して尾で攻撃出来るんだから、如何に鋭い神経の動物だろう。だが相応のタイムロスはある。

そして自分の弱点が判ってるのか、その牙で食い衝こうとか、炎を吐こうとかしない小賢しさが、火威には気に喰わない。

無肢竜に古代龍や飛龍のような知恵は無いというのが、この世界では特に論ずる必要も無い程に常識と言えた。だがそれを改めなければならない事態が目の前で起きているのが気に喰わない。

なんと言っても面倒臭い。

「クソがっ。死に晒せ!」

精霊魔法とロンデルで学んだ物体浮遊の魔法でニァミニアの頭部までの距離を縮め、拾った大剣で強かに殴りつける。

この時には既にニャミニアの両眼を潰すことに成功してはいたが、野生動物である敵は火威の位置を的確に把握し、襲ってくる。

動きを止め、足音をたてなければ多少は誤魔化す事も出来るかも知れないが、一刻も早くサリメルを助けなくてはいけないので攻撃するしかない。

今までに鹵獲してきたグランスティードと違い、あくまでも敵を斬る為に鍛えられたと思われる剣だが、それを以ってしてもニァミニアの鱗を傷付ける事は出来ない。だが、何度か巨大な鉄の塊で頭部を殴ってダメージを与えているらしい。

ブン殴った直後は若干ながら昏倒しているのを、何度か目撃している。

決定力に欠けると思われた火威だが、時間を掛ければこのまま撲殺というのも可能だ。

だが早くしないとニァミニアに呑み込まれたサリメルは窒息してしまうし、遅ければ胃酸で溶かされてしまう。

底の知れない力を持っている魔導士のエロフだが、余りに無理な事を期待してはいけない。例えば持ってたナイフでニァミニアの腹を突き破って出てくるとか。

この巨大無肢竜にも小さくないダメージを与えているのだが、倒せそうな気配は遅々と感じられない。

この際、卒倒させて生きたままでも腹を裂いてサリメルを助け出すしかないのではなかろうか。ニァミニアを岩盤に縫い止める特大の釘は、今火威が振っている大剣を使うとしても、腹を裂くのには魔法でも使うしかないのか……。

弾き飛ばされてきた岩が火威を襲う。それを防御魔法と鉄拳で砕くと火威は改めて思い知った。

やはり、この野郎(ニャミニア)は息の根を止めるしか無いと。

「そぉい!」

相手の隙を見て腹を斬りつけるが、頑強な鱗に阻まれて刃を通さない。

その所作が火威の隙と見えたのか、ニァミニアは口内に炎を蓄えると、火威に向けて一気に吐きつけた。

それを瞬時に大剣で防ぎ、距離を取って追撃に備える。

間合いを取って鎌首を向けるニァミニアの顔を見据える。今、この敵の体内にはサリメルが居る。生死を懸けた戦場の中で、その事だけが火威の意識にあった。

「貴様……! サリメルが居るんだぞ!」

激昂する火威は大剣を脇に構え、兜跋に魔法を掛ける。

もはや卒倒させるなどという考えは無かった。

この場で殺す。それだけがニァミニアに向けられた火威の意思だ。

ニァミニア自体の体を目隠しにして詠唱する時間を稼ぐと、爆轟を出っ張った場所にぶつけて巨大な岩石を砕き取る。

「死ぬェ! このクソ長虫野郎がァ!」

怒声と共に魔法で浮かせた岩石をニァミニアの頭部にぶつけ、そのまま押し潰す。

勝ちを確信した火威は、敵の死亡も確認しないままニァミニアの腹に大剣を突き立てようとした。

だがその時になって逡巡する。丸呑みとは言え、サリメルが喰われてから暫し時間が経っている。

しかもニァミニアは炎を吐いたのだ。無事でいて欲しいが、冷静に考えても生きてる可能性は低いし、見るに堪えない姿になっているかも知れない。

だが生きて助けを待っていたなら……

一瞬そんな考えを巡らせていると、ニァミニアの頭部を押し潰した岩石が砕け散り、傷だらけになった頭部の至る所から血を噴き出させた竜が、脇目も振らずに一層へ向かい始めた。

「逃がすかコラ馬鹿ッ!」

追撃するが、一度遁走を決め込んだニァミニアの逃げ足は速い。

しかも道では無い地面の中を通ろうとするのだから頭部を攻撃出来ない。

返り血を受ける程に腹や尻尾に大剣を振り下ろすが、大蛇の進みを遅らせるには至らない。

火威は思う。完全にガラ●アシャ●じゃねーか、と。

いよいよニァミニアの全身が地中に潜ってしまうと、仕方なしに土砂を掻き分けて追い掛ける。すると敵は地下ではなく上に向かっていた。

このまま地上に行かせてなるものか! そんな思考が火威を動かす。

敵が掘って出来た道とは言え、その通路は土や岩石が重力に従ってすぐに塞いでいく。火威はそれらを風の精霊や圧縮させた空気の球、更には大剣を円匙(えんぴ)代わりにしたりと可能な限りの手段を総動員させて後を追う。

先にニャミニアが土を砕き抉っていった道だ。海底トンネルやら地下鉄の路線を作るシールドマシンよろしく地下世界を進むと言うのは、言うまでも無く経験に無いが、想像以上に容易に掘り進めることが出来る。

そうしている内にニャミニアの尻尾を確認した。大剣で一度に大量の土砂を掻き出した火威は、剣の切っ先を敵に向ける。

「俺はノンケだがなァッ!」

叫ぶと、一気に大剣を突き出してその切っ先が深々とニャミニアの尻に突き刺した。ニャミニアが雄なのか雌なのかは判らないが、餌程度に考えていた矮小な生物相手にここまで痛めつけられ、最後には産まれて以来受けたことのないような痛撃である。

その痛みに耐えかねて、地面の中で悶え苦しむ蟒蛇(うわばみ)は激しく地中で身を揺する。その様子は与えたダメージを計るには十分……とも言えない。突いた場所が場所である。

この状況では敵を屠ろうにも限界がある。地上に出たら即刻叩き潰さなくてはならない。火威が次なる戦術を考え始めた時、それは起きた。

地中で悶えるニャミニアの動きが呼び水になったのか、土の壁が崩壊し掘ってきた通路が崩れて行く。

「や、やべ!?」

急いで後退するが、勿論間に合わない。

ニャミニアの尻尾を睨んで口惜しさを噛みしめ、もはや噛み殺しながら、火威は崩れて行く土砂に埋まっていってしまった。

 

*  *                            *  *

 

 

何組かのエルベ藩国の将兵を近くの主立った街道に配置し、出蔵や栗林、そしてエギーユと彼に追従する四人の兵は、巨大な地下回廊に繋がる洞窟の入口に来ていた。

この情報は、以前にこの洞窟を探索したことのあるアリメルから知らされた事だ。曰く、かなり長く巨大で入り組んでいだ地下回廊で、ここ以外にも地上への出口は複数あるらしい。

そのアリメルや目撃した兵士らから聞いた話しを合わせると、ニァミニアの全長は40レンから50レンある事が判った。出蔵達の世界の単位に直すと64メートルから80メートルだから、出蔵は逃げ切った相手を四~五倍程度大きく見紛ったことが判る。

戦闘のプロである出蔵にしてみれば実に恥ずかしい間違いを犯してたのだが、先程分かれたエルベの将兵の中には「地を割り天を衝く程に大きい龍」なんて事を言う者も居たから、それよりはマシだろう。

まぁ、余りにも極端な例で一人しか居ない例ではあるが。

「先輩は大丈夫かなぁ……」

人外めいた僚友で尚且つ己の先輩を心配して言った事だが、キャリバーも効かずLAMも無い今では人外の禿先輩の魔法で足止めするだけが唯一の頼りだ。

もう一人の人外容疑の掛かる部下の女性自衛官は、先程、高機動車を回収してから津金一尉や味方の追加支援がロマの森に来るのを今や遅しと待っている。勿論、待ち遠しいのは出蔵も同じなのだ。

イフリには謝礼を兼ねて、捕食出来る無肢竜を発見したら食べて良いと言っているし、それが不可能な連中がいたなら上空で待機していて欲しいとお願いしている。

「う~む、可能性としてはアリか」

出蔵は眼の前に口を開く地下回廊の入口を見て独り言る。

ここからニァミニアを発見した洞窟まではかなり離れているが、地下回廊で繋っている可能性を考えたのだ。

テュベ山脈と言うのは全体的に見てもそれ程高い山がある訳では無い。その創成した時期のことなど異世界人の出蔵が知る訳が無い。

だが地下回廊の先を行けば、先輩とニァミニアが睨み合ってるところまで行けるかも知れないという想像は出来る。

出蔵には某機のフライトタイプかジ●ンの重機動戦士よろしく地を滑るように移動しだした人外禿先輩が負けるイメージが出来ない。コブラの機首に付いてる無痛ガンでも装備しろよってくらいに日本人……というか人間辞めちゃってる。

だから眼の前の洞窟入口から出てくるイメージは、先輩ではなく血塗れの大蛇がほうぼうの体で這い出て来る姿が、鮮やかな映像として出蔵の脳裏を過ぎった。

ならば、洞口の入り口からは直ぐに退避出来るようにしておいた方が良い。エギーユらエルベの者達にその旨を伝えていると、眼の良いアリメルが叫ぶ。

「ナオ! あれ見て!」

彼女が指した森の上空でイフリが旋回し続けている。イフリが喰えない大きさの無肢竜となると真っ先に思い付くのがニャミニアだが、それより小さい可能性もある。

イフリが飛んでいるのはサリメルの宿が近い場所だ。彼女は無肢竜が嫌う獣脂を宿周辺の森に撒いたと言っていたが、それを当てにして宿の従業員である避難民に被害が出るのは避けたい。

先輩が負けたとも思いたくなかったし、再びニャミニアと遭遇するのも勘弁願いたい。とはいえ行かなくてはならない。

そんな遅疑逡巡していると栗林の無言の圧力が出蔵を強かに押す。その栗林が口を開いて何事か言おうとした時、出蔵は決断した。

「あ……そんじゃ行こか」

押されて出たような軽い言いぶりで栗林を呆れさせた出蔵は、エギーユらにニャミニアの可能性がある無肢竜との戦闘を伝える。

正直、エギーユらの装備がニャミニア退治の役には立つと思えなかったので同行を申し出なかったのは有り難かった。

そうして出蔵と栗林、そしてアリメルの三人を乗せた高機動車はイフリが上空を舞う森に向かって行った。




なんか……サリメルの昔話でうっかり整合性を取れてないところあるかも?
今回、主人公が生き埋めになってますが、まぁ死んでません。
ネタばれ? ネタばれになってませんよね?

それはそうとサブタイはジェフリー・ディーヴァーという方の小説と同名ですが、
当然の事ながら内容は全然関係無いです。

※6月18日、ちょい文章整理。

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