ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
久し振りに短期間で更新です。
その代わり以前より短いです。
外伝1もそろそろ終わりです。
外伝2は短い予定ですが、夏場は書かないので期間としては長くなるかも知れません。
ついでに16話は加筆があるかも知れません。


第十六話 グライディング・ツリー

シュワルツの森やロマの森から少し離れた小高い丘。

その麓には巨大な穴が空き、近くにはダークエルフの一団が居た。

その中で一組の男女が言い争っている。と言うよりも、女の方がほぼ一方的に男に文句を叩きつけている状態だ。

女の方は、そろそろ女性と言える年頃になりつつある少女のダークエルフで、男の方は壮年のダークエルフだ。

「おとん!だからティトが言うてたやん! さっきのがジエイタイとニャミニアやて!」

「いやぁ、まさかティトの小僧っこがホントんこと言うとるとは……」

「ティトは嘘言わんわっ!」

言葉下手なクセして歯が浮くような世辞や台詞を吐くような事はあるが、基本的に善良なティトが誰かを騙したりすることは無い。

仮に有っても嘘を吐いてることがバレバレなので、騙される者はティトと初対面で余程善良な者か、余程の馬鹿だけだろう。

とは言えニムエの親父が長々ティトを足止めしていたのは、彼の好い加減(と思われる)異性交遊を責める為であるから、娘に意見させるような落ち度は無い。にも関わらず意見されたい放題なのは、五百才を越して娘離れ出来ず、愛娘と妻に頭が上がらない親爺の性格が原因しているのである。

シュワルツの森に住むダークエルフの間でも、少し前から大き目の無肢竜が近隣のヒト種が住む村々を荒らしまわって言うという噂は入って来ていた。

通常の無肢竜程度なら、部族の中で少しばかり腕を磨いたダークエルフにも斃せる相手だ。とはいえ炎龍の脅威が無くなって幾許(いくばく)も経ってない。その記憶はダークエルフを用心深くさせるのに十分だった。

ティトとアリメルが帰って来た次の日から剣術と精霊の使役に優れた者を集め、近くに巣を作り巣食う無肢竜を粗方(あらかた)斃していったのは、ダークエルフにとっては近所の害獣を片付けて生活環境を整えるようなものではあった。

エルベ藩国にとっては、頼んでもいないのに害獣を始末してくれる有り難いことだったのだが、それも昨夜アリメルがシュワルツの森に戻ってからの事だ。

ティトがほざくニャミニアなんて大き目の無肢竜は、部族の者が山狩りの過程で蛇革の武具にしていると思っていたニムエの親爺だが、胸は薄いものの昔から真面目過ぎるくらいのアリメル言う事は信じている。

日頃の信用というのは、こんな時に凄く大事だということの証左だろう。

大きさだけなら古代龍と同等かそれ以上、なんて話は(にわか)には信じ難いが、更に信じ難いのはそれを一人で封殺し続けているヒト種が居るということだ。

まぁ無肢竜も巨大化しただけの存在で、尚且つ封殺しているのが亜神クリバヤシとかなら可能かも……

……なんて考えていた彼の目の前で、地面を割って出て来たのは巨大な無肢竜だ。そいつは暫くその場で周囲の様子を確認するためか鎌首を動かしていた。

ダークエルフの一団に一気に緊張が走り、剣を抜き弓を向けた。しかし両目が潰れてる事が判ると決して誰も足音を立てず、風の精霊で風上に立ってやり過ごしている。

「急いでティトを解放せんと!」

ニムエが言うが、別にティトが物理的に拘束されている訳ではない。

見た目ニムエの姉のような美人のおばちゃんと、その他多くのお姉さん方とお兄さん方……早い話しが部族の皆の元で精神的拘束を受けているだけである。

ニムエにとっては、それはそれで心配な事態だ。ティトの事だから間違いを犯すかも知れない。親爺や近所の精霊使いとニャミニアの実態を調査に来ていたニムエは踵を返してシュワルツの森に向かおうとする。

一刻も早く自分の元に置いておかねば。

「えぇいド畜生めがァ!あの地下のクソ長虫!」

ニムエが決心したところで、大蛇が出てきた穴の脇から竜甲の鎧を纏った人間が罵詈雑言(だと思う異国語)を吐きながら地を吹き飛ばして出てきた。

ダークエルフ達は突如地の中から出てきた竜甲鎧の人物に弓を向け、剣を抜いた。するとその人物は両手を挙げて敵意が無い事を示しながら口を開く。

「デカい蛇見なかった!?」

長く赤い襟巻と兜で顔を隠して声も急いている。その声色から明らかにオッサンと判ると、ニムエは無肢竜が逃げて木々を薙ぎ倒していった森を指さし、その親爺は男が何者なのか明らかにしようとする。

「あ、あんしがティトと来たジエイタイか?」

「その通りだが詳しいことはまた今度ッ」

それだけ言うと竜甲鎧の男は無肢竜が薙ぎ倒した木々に走り寄り、目ぼしい大樹を見つけて浮かせると、それに飛び乗ってから何処かに飛んで行ってしまった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

昼近くになってミリエムが乗る翼竜も(ようや)くエルベ藩国内に入ることができた。テュバ山脈もエルベの森ももう目と鼻の先にある。

母やジョバンニが待つ神殿に戻れば、久し振りの旅も終わりだ。タトーヴィレに残ったミューも居れば親子四人で暮らせるのだが、彼女は彼女の意思で氷雪山脈に残った。

 

帰還を急ぐ彼女の遥か下を、異世界の車列が進む。

特地の人間からは馬の要らない荷車などと呼ばれる車が二台、サリメルの宿があるロマの森に向かっている。

その先頭を走る軽装甲機動車、通称LAVを運転するのは同僚から「サンカク」なんて渾名を付けられ呼ばれる三角(みすみ)(たけし)一等陸曹だ。

彼は助手席に座る津金一尉の他、八名の隊員と共に来ている。

ロマの森に向かうLAVのハンドルを握る傍ら、以前に伊丹二尉が資源調査で使った高機動車に、よく無線等を付けてくれたと柳田二尉を感心していた。

伊達にエリートを気取ってるワケではない。それに態々(わざわざ)シュワルツの森まで中継地点を設立した施設科にも感心していた。

そういった下準備があったから、戦闘技能に長ける隊員と、エルベ藩国内に住んでいたダークエルフと個人的に交友がある少数人の隊員が選抜してエルベ藩国まで派遣できたのだ。

そこに発生したイレギュラーは、蟲獣の大群を即座に吹き飛ばしてしまった三等陸尉の力でもエルベ藩国で猛威を振るう害獣を討伐できなかったことだ。

蟲獣を排除した時と無肢竜と相対した時とでは、周囲の条件の諸々が違うだろうが、この事実は重い。

零式戦闘機がF-4ファントム相手に互角の勝負した……ってくらいに。

「上空、翼竜!」

叫んだのはハッチから首を出し、周囲を警戒していた内藤(ないとう) 潘史(はんじ) 三等陸曹だ。ただちに彼はキャリバーの槓杆(こうかん)を引く。

「待て待て!撃つな!」

それを制したのは津金だ。

翼竜といえば戦争中にゾルザル派閥帝国軍に編成された敵対生物というイメージが強いが、先日ジゼルが連れて来て火威達が乗って行った生物でもある。

勿論、内藤も命令が無いのに勝手に発砲する訳が無い。この世界でも余り一般的ではないが津金はこうした「騎乗生物として使われてるだけの翼竜」であることを想像したのだ。

「どんなのが乗ってるんスかねぇ」

「野生かも知れんだろ」

三角の呟きに津金が返す。彼らの位置からでは、翼竜に乗ってるエルフの姿は見えないのだ。

竜の次に彼らの視界に入ってきたものは少しばかり衝撃的だった。

「アレ……UFO?」

空中に突如、棒のような物が現れたのだ。三角は運転しているので不可能だが、津金含む数人の隊員が双眼鏡を使って見るとそれが大樹であることが判る。肉眼で見ると空を高スピードで同じ方向に向かうソレは、日本の特集番組で見るような母船型UFOのようでもあった。

「木が空を飛ぶなんてな。特地はまだまだ判らんことがあるな」

津金が呟くことは多くの隊員が思うことであるが、更に見ていると新たな発見をする。木の上に誰かが乗っているのだ。

「桃●白かよ!?」

内藤が言うが、津金は更なる事実を見つけた。

「って火威じゃねーか!!」

その人物は蒼い鎧を着用していた。そしてその鎧は、その外見が故にアルヌスでも結構名の知られたハゲの三等陸尉が愛用していた代物である。

あいつ何やってんだ? 皆が思う。誰だってそう思う。

 

 

*  *                            *  *

 

 

余り的中してほしくなかったが、実際に的中すると心の底から的中して欲しくなかったと思う。

サリメルは無肢竜が嫌う獣脂を森に撒いたと言っていたが、想定外に巨大な無肢竜であるニャミニアは想定外に森に侵入してくるかも知れない。

その想定外を想定して宿まで戻り、宿に逗留し従業員となっている避難民を、ルフレやジョバンニの力を借りて近くの洞穴まで避難させたのだから出蔵の勝利!

……

…………というワケにも行かない。今まさに出蔵や栗林の前にニャミニアが迫って来ているのだから。

「あー、これ。ヤバい」

アリメルが火の精霊で作った火矢でニャミニアの眼を射掛けて栗林がキャリバーを速射し、火威から借りた対物ライフルでアリメルが狙う眼と逆の眼を狙う。

とりわけ狙撃が得意という訳ではない出蔵だが、日本に帰還した隊員から専用のスコープを借りれたので、何も付けずに撃つのよりはマシである。

数時間前に地面の下で追い掛けられた時と違い、ニャミニアは両目を潰されている上に頭部を中心に大きな傷が見受けられる。

先輩は負けちまったのか……ッ!

そう思いながらも対物ライフルを撃ち続けると、バレットM95に装弾していた5発の徹甲弾などすぐに尽きてしまう。

すぐさまキャリバーと同じNATO弾を装填して撃つが徹甲弾に輪を掛けて効いてる気がしない。

高校時代に、現在は禿げてる先輩と「ゴ●ラが出現した時に自衛隊が狙うべき部位」なんて話題で盛り上がったが、その時に狙うべき部位として真っ先に挙がった眼は既に潰れてるし、蛇に爪なんて無いし、口の中を狙おうにも全く口を開く素振りも見せない。

相手が●ジラじゃないということだけが、せめてもの救いだ。

そうしている間にもニァミニアはどんどん接近してくる。

ナムサン!ブッダよ。貴方は寝ているのですか。

出蔵達との距離が10メートル程まで迫った時、空から大蛇を蹴り付ける巨体が現れた。上空で待機していた飛龍のイフリだ。

出蔵は一瞬戸惑ったが「イフリに当てるなよ」と命令を飛ばしてニァミニアを撃ち続ける。

ここまで接近されて判ったが、ニァミニアは腹や尻尾にも深い傷が幾つかある。

もはや少人数で敵性生物の頭部を撃っても効果無しと見た出蔵は、仲間を散開させて各々が効果があるであろう部位を撃つ。

「はああぁぁァッ!」

驚いたのは、着剣した64式でニァミニアの傷を抉り始めた栗林を見た時だ。

咄嗟に「待て待て待てェ!?」と止めてはみようとしたが、あ…そういやコイツ亜神クリバヤシだったっけ? と言葉を言い淀んでいる。

早い話しが、有り得ない絵面に若干混乱しつつあるのだ。

大蛇と赤いドラゴンの怪獣大決戦に、ドラゴン側として知り合いの女が銃剣掲げて参戦してるのだ。まぁ混乱する。

出蔵は離れた地点から、確実に強固な鱗に覆われてない傷口に対物ライフルの弾丸を叩き込み、栗林は持ち前の膂力(りょりょく)でニャミニアの(ケツ)に刺さっている大剣の傷を広げている。

人間だったら非常に痛いが、大型の無肢竜であるニャミニアにとってみれば少し大きな蜂に刺されるようなものである。

彼その長大な身体で、最初に格闘をしかけてきたイフリを締め上げる。古代龍が相手なら勝てるかどうかも判らないが、飛龍程度が相手なら殺すことは簡単だ。

ニャミニアの身体から投げ出され、受け身を取って栗林は向き直る。その間にも出蔵は鱗の無い部分を探し、対物ライフルで敵を斃そうとする。

だがそれにも関わらず、ニャミニアは蛇の大口を開いてイフリに炎を浴びせ掛けようとしていた。その口内に炎が湛えられる。

「アルフェ直伝のうまい棒を味はどうだオラァー!!」

丁度良いくらいの丸太……というか大樹がニャミニアの口に突っ込まれ、その勢いのままに泉がある方向まで運んで行く。

拘束を解かれたイフリも、大蛇を突き刺していた栗林も、撃ち続けていた出蔵もアリメルも、何が起こったのかを誰かに問いたかった。

少し間を置いた後、出蔵が口を開く。

「えっと……今、火威先輩の声だったような?」

「えぇ、突っ込んで来た木に火威三尉が乗ってましたね……」

動体視力が極めて高い栗林も言うし、アリメルも肯定する。あの大樹には兜跋を装備した火威が乗っていたと。

魔法ってスゲェな……と考えた出蔵は、アルヌスに帰ったら暇が有ればカトー老師にでも師事しようかと思ったりもした。

 

 

「どうだこの蛇野郎! 無肢竜野郎は人の多い宿まで来ると思っていたよ! テメェーが木をブッ倒していくのもこっち来るのも、何から何まで計算尽くだオラァー!」

今までの恨み辛みをぶつけてから、泉の畔に撞木の如く叩き付ける。

「爆☆発!!」

叩き付ける前に空中で飛び降りた火威が宣言すると、大樹は破裂するように砕けてニャミニアの半身を吹き飛ばした。

「勝った! 第一部、完!」

 

 

*  *                            *  *

 

 

火威が勝手に終わらせようとしてるが、民事任務の半分も終わってないのでまだ少し続く。

半身を吹き飛ばされ、ネギトロめいた死体になったニャミニアを見て火威は呟く。

「サリメルさん、仇は取りましたよ」

漏斗のように戦闘にしようするのに適合した形でも材質でも無いとは言え、爆轟を封じた物質を体内に突っ込んで爆発させたのだし、サリメルが喰われてから時間が掛かり過ぎている。

中々面白く、見てるだけなら素晴らしい人物を助けることが出来なかったことに、沈痛な表情を浮かべる。

だがここで思わぬことが起きた。

「ハ、ハンゾォ、妾を殺す気かぁ~」

ニャミニアの下腹部を短刀で突き破って、産まれたままの姿のサリメルが出てきた。火威は色々な意味で慌てたが、最終的には女好き故の考えに落ち着く。

「綺麗な裸体してやがんな」と。

 

 

*  *                            *  *

 

 

ニャミニアの爆発に巻き込まれそうだったから、ちょっとお前責任取れ。

といったような事をサリメルに言われたので、火威はサリメルの行水を手伝い裸のままの彼女をお姫様抱っこして研究小屋まで向かわなければならなかった。

行水の手伝いをするのに、サリメルは案の定豊満な胸を揉ませようとする。それだけなら長い間特地でエロ本にも事欠く火威には困ったことなのだが、サリメル自身が「どうじゃ? 良いんじゃぞ。このまま妾を襲っても。孕ませようとしても良いんじゃぞ」等とあからさまな残念美人力を発揮するから助かった。

研究小屋に入る前に出蔵と栗林、そしてアリメルにも会ったが、今の自分の状況を「罰ゲームみたいなもの」と説明して了解を得ている。

出蔵と栗林はサリメルがニャミニアに喰われた事を説明すると驚いてたが、アリメルは特に驚くような反応も示さない。昔からの知り合いならサリメルの力も知っているのかと考えた火威だが、サリメルのことを厳しい眼で見ていた事が気になった。

研究小屋の前では丁度ロマの森を抜けて来たティトとも出会う。分かれて数日しか経ってないが、その間に様々な事があったせいで久々に会う気がするのは火威だった。

出蔵も栗林も、一応は昨夜ティトに会っている。

そのティトがサリメルを指さし、何の涙かは判らないが袖で拭いながらこう言った。

「これ……母さんです」

栗林と出蔵は驚きの声を挙げ、火威は予想通り過ぎる事実に二の句を継げなかったという。




討伐方法はタイトルが全てを物語ってましたね。
そしてダークエルフ親子の三河弁が合ってるのか気になって仕方なし……。
なら使うなよ、ってところですが、何故だか三河弁を喋らそうと思ってしまいました。
見えない力ってあるんですね……。

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