ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、一週間振りです。今回は二本上げます。
1月から始まる炎龍編の後はどうなるんでしょうね。
折角なら冥門編までやってもらいたいところですが……。難しいですかねぇ。
何なら動乱編からは劇場3部作でも良いから見たいもんです。


第六話 イタリカにて

他国ならまだしも、帝都では起きる事の無かった地震の後に、議事堂が空を裂く剣から放たれた神器によって吹き飛ばされた事を知った多くの人々は、神の怒りと恐れた。

事情を知る元老議員らは、その議事堂跡に集まり、包帯だらけの帝国第一皇子・ゾルザルに視線を集める。そしてこの後、自身の見栄の為に皇族に暴力を振るったという貴重な外交カードを無駄にするという愚かな男の姿を目にすることとなった。

 

 

  * * *                       * * *

 

 

「しっかしそのゾルザルってヤツも相当バカだなぁ」

火威は人知れずそう呟く。

講義堂が爆破されたのは、早朝に剣崎三尉らが姿を消してから暫く後の事だ。彼らがファントムからの爆撃をレーザー誘導していたのだろう。

地震が起きた次の日には第三偵察隊と火威、そして銀座事件以前に拉致された日本の国民、望月 紀子(もちづき のりこ)はアルヌスに帰っていた。もっとも、自衛官らは暫くすればまた帝都に戻る事になるが。

そして帝国内には他にも日本人拉致被害者が居るという。

皇子を半殺しにされたというのに、帝国からは何日経っても文句の一つも言われる事ない。

伊丹二尉と富田章二等陸曹や栗林二等陸曹、そして外務省の官僚、菅原 浩治(すがわら こうじ)の話から察するに帝国第一皇子のゾルザルという男は、器量が狭く残忍で自己満足の世界に生きてる人物だという。その人となりが知れれば、国の利益より自身の見栄のため、小柄な女性自衛官に半殺しにされた事を否定したのだろう。ホントにバカで解りやすい、と、事情を知る者なら誰もが思う。

「栗林、どーして半殺すついでに三年殺しにしとかないんだよ」

その男を生かしておいてもロクな事が無いと思う。その余りに口から出た言葉だが

「そんなん使えるワケないでしょう!」

という当然な反論が返ってくる。

「しかし半分の長さに切るとか引き千切るとか玉ごと抉るとか……」

「そんなモノに触りたくありませんよ」

「まぁ、そうだな……」

セクハラで訴えられる前に黙っておく。脇を見れば他の隊員(主に黒川)が冷たい目で火威を見ていた。

それから暫くはアルヌス駐屯地で平穏な日々が続いた。アルヌス南の難民キャンプや、そこに付随するように作られた町は少し見なかっただけで、かなり大きくなっている。

聞けばイタリカとの交易で人や物の行き来が増え、それに伴って商隊護衛の傭兵や町の建物を作る大工、彼等に飯を食わせる食堂や、そこで働く亜人ウェイトレスやPXの従業員がフォルマル邸から派遣されているのだと言う。

ここまでアルヌスの町が大きくなると、火威もアルヌスの街の重役とも言えるレレイに魔法の師事を請うのは無理なので、その師匠のカトーに習う事となった。

しかし火威も習うだけではなく、特地語が喋れる三偵の隊員と交代で薔騎士団の研修生に日本語を教える事となる。

美人揃いなのは実に嬉しかったが、彼女らの(男同士が絡み合う)芸術に付いていける者は居ない。

そうした中、火威と相沢そして第三偵察隊に招集が掛かる。再び帝都での通訳や外務省から来ている菅原の護衛、そして情報収集の任務が課される。

「俺ら……第四戦闘団だよな」

なんで情報担当の二科みたいな事を、とは思いながらも

「悪所のお姉さんが綺麗だから良いや」

という結論に落ち着いた。だが目論見とは虚しく変更せざるを得ないものだ。

特地では他人を髪の毛の量で判断しないらしい……と思ったが、以前にイタリカで会ったピニャの従者の騎士補、グレイ・コ・アルドとは接する時間が短かったにも拘らず髪の毛の件でマブダチになれたから、そうとも限らない気がする。

つまり、悪所の亜人のお姉さんは営業トークということ。残酷な話だが、火威は覚悟していた。それに悪所に来たのは髪の毛の真実を知った後だったし、もしかしたら気にしない人も居るかも……という一縷の希望を抱けるので、火威はもう余り深くは考えない。

「しかしビックらコイタなぁ。伊丹二尉が行き成りヘリを飛び降りるなんて」

と内心で思ってた火威と相沢が降ろされたのはイタリカだった。

アルヌスを出発する時、伊丹二尉はヘリから飛び降りて任務を放棄したのだ。実際にはその後に来た連絡で、エルベ藩国の資源状況調査という火急の任務が入ったのだという。

まぁこのまま悪所に行って、隊長が任務放棄したのを絶対不満に思っているであろう栗林と黒川の二人を、ついつい茶化そうものなら肉体的も精神的にも再起不能に追い込まれそうなので、良かったと思うことにしよう。と、火威は考える。

ところで俺達は何故イタリカに置かれたのやら……相沢二尉は何か聞いてます? という火威の質問に対して

「三尉が前に悪所に居た頃から決まってたんですが、新しい情報収集ですよ」

今更イタリカで何の情報収集を……と思う火威。

そんな中、栗林の巨乳が恋しくなったとかならなかったとか。

 

 

  * * *                      * * *

 

 

イタリカで過ごす生活は中々充実したものだ。これまでの歴代当主が集めた書物も見せてもらえるし、その中でファルマート大陸の動植物や亜人、亜神、はたまた怪異などを知る事ができた。

「ダーか。こいつぁヤベェな」

本の中で説明される怪異の中には人権意識の強い自衛隊には脅威となりえる者も居て、上官が火威をフォルマル邸に来させた意味が少し理解できた。

本を読む為にハウスメイドに特地の文字を教えてもらえるのだが、火威が調子に乗って外食に誘うと「私共は屋敷内で食事する事が定められてますから」と、体よくあしらわれる。

かと言って火威に冷たいワケでもなく、屋敷で習得した新しい魔法を試すと「すごい すごい」と目を輝かせて喜んでくれる。

そんな生活が続いた中、火威は急に現実を突き付けられることとなる。

良い寝床を使わせてもらっていると、ついつい寝過ごして折角の治安が良いイタリカでランニングが出来ない、というかなり身勝手な主張は起きた直後に霧散してしまった。

フォルマル邸から送られたという偽の信箋でアルヌス食堂で働くデリラというヴォーリアバニーが日本人拉致被害者の望月紀子を暗殺し掛け、それを偶然止める事が出来た柳田二尉が重傷を負ったという知らせが入ったのだ。

容疑者はすぐに捕らえられた。館の執事、バーソロミューだ。信箋を横流し出来る人間は限られている。彼は館の一室で椅子に座らせられ、拘束されていた。借金に塗れ、女関係に付け込まれた彼が何者かに信箋を渡したのだと推測された。

彼はハウスメイドのキャットピープルのぺルシアとヴォーリアバニーのマミーナに至極きつい尋問を受けても、一向に容疑を否認している。

「三尉、尋問で使えるような……吐かせるような魔法は無いですかね」

「いや無いっスよ。よしんば有ったとしてもまだ使えませんよ」

デリラの同族のマミーナが思いの丈を乗せ、涙ながらにバーソロミューを張り倒す。それでも口を割らない。

「ぐぬぅ……もう石を抱かせよう。メイド長、竹串と五寸釘の用意を!」

グリーネという種族の血が濃いヴォーリアバニーの貫頭衣姿に若干釘づけになった火威も、一緒に派遣されてきたデリラの事は知っていた。食堂で働いていて、たまにセクハラした傭兵なんかが蹴倒される事があったけど、真面目で熱心に働いていて中々に巨乳……もとい魅力的な娘だった。それだけに、彼女を騙し、仲間の隊員を傷付ける切っ掛けとなった信箋を横流ししたバーソロミューには容赦無い。

「タケグシ? ゴスンクギですか?」

「いやちょっと待って三尉、もうすぐ健軍一佐が医官を連れてくるからっ」

火威のやらんとする事を察した相沢が慌てて止める。

人の口には戸を立てられぬもので、自衛隊員が奨んで拷問したことが門の向うの日本で明らかになると実に不味いのだ。恐らく火威はギザギザの敷物の上にバーソロミューを座らせて重い石を抱かせ、手足の指と爪の間に竹串を突っ込んで其処に蝋を垂らし、それでも吐かないなら手足の甲を五寸釘で貫こうと言うのだ。

あぁ、メイド長もう結構ですから。今の取り消しで。と、相沢が言ったところで健軍一佐が部屋に入ってきた。


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