ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
今回でやっと外伝1が終了です。
構成力が無いせいで章の最後に行く文字数増えますが、今回も結構長くなってしまいました。



第二十一話 ニンジャオンセン郷

古代龍が活動を開始すればサリメルやアリメル、ティトやリトなど身内同然で接してきた彼らの住む場所が、龍の活動範囲内に入ってしまう。

ロマリアは、もう悩む事など無かった。

なし崩し的に家族か養子のような関係になったサリメルはエルフとしては珍しい部類であることも、彼女の日頃の言動を見ていれば理解もできる。

そして彼女に影響されたせいか、シュワルツの森のダークエルフの部族もロマリアには比較的好意的な態度で接してくれたいる。

翼のある古代龍が出現場所して人間を襲う場所は、賢者であるロマリアにも判らない。だが決まった狭い範囲だけを護ることなら可能にも思える。

サリメルやアリメル、それにティトら身内のダーククエルフが住む森の周辺に防御障壁を現理に干渉させる触媒となる鉱物を森の各所に配置する。

野性動物によって移動させられないようにする為に、同じ場所を精霊の使役と剣に秀でたダークエルフが短期間寝泊まり出来る簡易宿を作り、配置する。

古代龍が活動を再開し現れるまでは暫し期間があったが、ダークエルフ達は良く辛抱してくれた。

長命種が故に、配置された者達が以前に古代龍の力を見せ付けられた者ばかりだったのが幸いしたのだろう。

そうして古代龍が森に襲い掛かって来た時のロマやサリメルとの攻防は凄まじいものだった。

ダークエルフ達にからの精霊魔法の援護もあったが、彼等の森に防御障壁を張っていなければ龍の爪や牙、そして吐く炎の犠牲となり殆どの者が死んでいただろう。

その結末を変えてくれたロマリアに、森に住む全ての者が感謝したのは言うまでも無い。

 

 

*  *                            *  *

 

その日の無肢竜探査が終わり、自衛隊の課業が終わったサリメルの研究小屋を訪ねる一人のダークエルフがいた。

ティトがロマの森に戻った事を知るニムエだ。彼女はサリメルに会うと挨拶と共に恭しく礼をする。

特地に礼するなどという挨拶は無い。サリメルがシュワルツの森に布教した漫画の影響だ。

そしてサリメルの布教を敏感に受け取り、日常生活に取り入れてる優秀な“生徒”がニムエだった。

「ご無沙汰しております、サリメル様」

「おぉ、ニムエではないか。イバンとカルヤは健壮か?」

そんな挨拶をした後に、ニムエはティトがアルヌスに戻る際には両親と共にアルヌスに移住する事を伝える。

ニムエやそのオヤジのイバンの仕事の世話をすると申し出たのは、実は火威である。

ティトのガールフレンドを自称するニムエを早々とティトにくっ付け、肉食ダークエルフからアルヌスと自身の心の平穏を確保しようとしているのである。

火威は昨日から二回に渡ってアルヌスへ通信を取っていた。アルヌス周辺の森の管理人に空きが有るかとか、子供への教育を施す教師の数は足りてるかとかの内容である。

結果、両方とも数名分の空きが未だ残り、募集中という回答を得ている。火威達がエルベ藩国に向かってからアルヌスの発展は凄まじく、働き手が足りるという事が無いとまで言われた。

シュワルツの森に住みながら字の読み書きが出来るニムエはカトーの下で教師にすれば良いし、オヤジには森を管理する仕事がある。以前はテュカが行っていたアルヌス周辺の森林の管理だが、現在彼女には数日掛けてアルヌス周辺の開拓村の視察して廻るいう仕事もあり、多忙を極めていた。

ダークエルフは夫婦共働きという印象が強いから(火威の主観)、母親も希望すれば店の店員なり、やはりエルフらしく森の管理人の仕事を凱旋すれば良いかも知れない。まぁ、アルヌスに行ったら当人が決めれば良いのだが。

「おぉ、何かとティトに目を掛けてくれるヌシら親子が一緒なら妾も気が休まる」

いっそティトを貰ってやってくれぃ。はい、そのつもりです。

肝心のティト不在でそんな会話が成されているのとは別の部屋で、自身の思惑が成功した事を知らない火威は博物誌を読んでいた。

「こ、これ……モンゴリアンデスワームじゃねぇか」

特地の生物はフォルマル邸の博物誌でも見知ったが、大陸各地と海の外の世界を旅したサリメルが執筆した博物誌は内容が遥かに多く、その中には遥か昔に死に絶えて記録上の存在になった生物もいたが、驚くべき生物ばかりだった。

地球でUMAとして知られるモンゴリアンデスワームの毒が無い巨大版や、米産映画に出てきたトレ○ーズっぽい連中などの危険生物も多いが、その両者はこれから自衛隊が行くとは思えない地域に巣くう奴らだ。

火威含む全ての自衛官が相対するような事は、まず無い。

「どうじゃハンゾウ。目当てのヤツは見付かったか?」

ニムエとの話しが済んだようで、最近はちゃんと服を着始めたサリメルが来た。

「や、珍しいヤツが多くて途中で……」

「ふむ、そうじゃろ。ジエイタイの今後の役に立つかも知れぬから他の者にも読むよう薦めるが良い」

「えっ、良いんスかっ?」

本と言うものが稀少な特地では、誰でも本を読んで良いと言うものでは無い。

ロンデルでは一定の学位を所有し、内容を理解出来ると見做(みな)されなければ導士号を持つ賢者の蔵書は読ませてもらえない。

蔵書の消耗を極力避ける為なのだが、サリメルの考え方は違っていた。賢者のサリメルが言ってるのだから、何か裏が有るんじゃないかとも思ったが好意は素直に受けようと思う。

「早く読み潰して写本せんとな。大陸のの金が廻らん」

「ウチの隊員がそんなに粗い読み方しないと思いますが……」

「それは判っとる。ところで皆はこっちこっち(特地)の字は読めるか?」

こんな会話を今までにも度々するから、火威はサリメルへの接し方に困る。いっそ、後腐れ無く嫌ってしまうような事をしてくれると助かるのだが、サリメルという女は火威が見切りを付けるギリギリまでセクハラい事をしてから、火威だけではなく隊の仲間や全体への気遣い見せる。正に魔女だ。

 

「それで、どうでした?毛生えに効く動物の血っていうのは」

宿舎に戻って早々、栗林は火威にそんな話しを聞く。

卓球…もといフォル球の勝負に火威が乗ってしまった原因をルフレに聞いて呆れた栗林だが、三十路で髪毛が跡形も無く無くなってしまった上官には同情しないでもない。

「絶滅動物の中にはチラホラ該当するのが居るけどな、まだ賢者の蔵書は一杯あるから後で見せてもらうわ」

「あー、カトー老師も一杯本を持ってましたからね」

アルヌスに居る老魔導士を引き合いに出す栗林の言葉に、火威は遺伝と言う物の無情さを感じる。いや、ひょっとして老師も何らかの方法で……。

そこまで考え、栗林に向き直った火威はサリメルの言葉を伝えた。

「あー、そうそう。後で津金一尉にも言っておくけど、栗林もこっちの字は読めるよな? サリさんは隊員の皆にも読んで良いってさ」

その話は栗林にも驚くべき話しだ。深部偵察隊に所属し、今現在も第三偵察隊に居る身の彼女も特地の文化は相応に知っている。だから貴重な本を赤の他人と言っても良い栗林や他の隊員に読ませる筈が無いと思ってしまっていた。

そして先日の発言内容が内容である。栗林もテュカとは全く違うサリメルというエロフには、苦手意識を持っていた。

 

その栗林は今、ルフレを挟んでサリメルと同じオンセンに浸かっている。夕食後にある夜間の歩哨するまでに得る事が出来る唯一の息抜きが出来る一時なのだが、ロマの森に来てから早い段階でサリメルに同じような状況で軽く胸を揉まれたので気が抜けない。

会って早々に、ぱっと見ではただの怖い人に見える火威を誘惑し始めるし、同性である自分にも手を出す。出蔵は少し見ただけで手は出さないから好みは有るのだろうが、最初は人間になら誰にでも股を開くような類の女かと思った。

「シノや」

「は、はい!?」

突然投げ掛けられたエルフの言葉にも動揺して声が裏返ってしまう。

日本に居る友人達も栗林の大きな胸に無礼を働く事はあったが、このエルフの場合は本気の百合を敢行しかねないのである。

現にルフレからもサリメルの同性愛趣味に注意するよう言われている。

「博物誌はもう見たか?」

考え過ぎだったと思う質問に

「あぁ、火威三尉からも伺いましたよ。まだ拝見してはいないんですが、貴重な機会を頂き有賀とう御座います」

と答える。

「いやいや、今後のヌシらの助けになるなら良いんだけどな……」

それから続けられたサリメルの言葉は、栗林への注意とも取れる内容だった。

曰く、森の名の由来となったロマリアというヒトの魔導士とサリメルが百年程前に大陸各地やその外を旅した時、ロマリアは手強い相手や好敵手となる男を探していたが、最後まで彼女の眼鏡に適う男は現れなかったという。

これまでの栗林を見ていたかのような話しは、彼女の疑問を呼び起こす。

「そのロマリアって人はどうなったんです?」

若干、日本に帰還した丸山と同じ事を不安に感じた事のある栗林は尋ねた。

「最後まで一人身じゃったよ。妾から見ても佳い女だったのに不憫なことよ」

サリメルは言うが、実は嘘が含まれる。

古代龍を倒すに至らないまでも、入念に策を敷いたロマリアは戦いを経て心身共に消耗しきり、寿命を早める結果になった。

床に臥せがちになった彼女には実の子供こそ出来なかったが、夫も家族も出来たのである。一人として血の繋がらない家族だが、ロマリアは幸せだった。

家族となったエルフの中には、無理な旅をしてワルハレンの実を手に入れて来る者もいたがロマリアの命は今更長くはならない。

セレッソの花が咲き誇り、それが散ってゆく頃、ロアリアは大勢の家族に見守られて静かに息を引き取った。

サリメルが栗林に話したのは、武張った強情な女を(たしな)めるためにロマリアが自ら作り、後世に伝えるようにさせた古事である。

だが、そんな話を聞いた栗林を「早いところ勝負を付けなければ」と焦らせ、サリメルの思惑の外に落ち着くとは、夢にも思わなかったのである。

 

 

*  *                             *  *

 

 

次の日の課業終了後。

この日も火威は研究小屋に隣接する部屋で椅子に座り、昨夜に引き続き博物誌を読んでいた。火威の近くには三角と内藤、そして清水がいる。

夕食を済ませた彼らはサリメルが閲覧を許可した博物誌を読み、未だに特地語の習得が不十分な内藤と清水に三角が教鞭を取っている所だ。

津金一尉は読まなくて良いのかなぁ、と思ったり、内藤と清水なんかを見るに「お前ら後で歩哨だろ」なんて考える火威は古代龍の項を捲る。

「どうじゃハンゾウ、見つかったか?」

リョカン施設でルフレや従業員と話し合っていたサリメルが、長い廊下の奥から来るのが見えた。フォル球で火威(+栗林)が勝ってからセクハラめいた事をしなくなって、露出する面積も劇的に抑えられた彼女は火威からも他の隊員からも好印象を得ている。

「やー、今古代龍の項目見てます。毛生え効果のある肉なり血なりはこういう生き物が多いですからね」

「左様、強大な力を持つ生物の血肉は食すと予想出来ない作用があるからの」

ただ、炎龍は伊丹やレレイ、そしてテュカの手で斃されて久しいし、炎龍となる新生龍も第一戦闘団によって駆除されている。

「炎龍はもう絶滅したっぽいですからねぇ……」

まぁそうじゃな、と答えるサリメルは続けて火威に問う。

「それともヌシは炎龍を逃して欲しかったとか?」

サリメルが嘗て見た炎龍は、ニャミニアよりも素早く強大で、高熱の炎を吐く。火威が戦っている時、ニャミニアに喰われてすぐ近くにいたサリメルは火威の魂と、彼の戦い方を感じ取っていた。

先に相手から逃げたのはニャミニアだが、あの戦い方では炎龍は斃せない。だから今の火威が炎龍に挑むのは辞めて欲しい。

以前にフルグランを持ち、サリメルの宿に逗留していた傭兵団の団長が今の火威と似たような事を言っていた。炎龍が異界の戦士に斃され、これまで挑んできた奴らが不甲斐無かっただけじゃないのか、とか、俺でも斃せた、などという粋がった発言をしていた。

結果としてニャミニアも斃せなかったようだが、今となってはあの男に抱かれずに良かったと思う。

「いやぁ、たまに帝国貴族とかに“俺でも斃せた”なんて粋がる奴らがいましてね、そういう奴らの前に新生龍でも持って行って“はい、どうぞ”って言ってやれりゃぁ最高だなと」

その火威の答えにサリメルは笑った。やはりこの男は身の丈と言う物を知っている。

「まぁヌシらが来るまでは炎龍の敵は炎龍か、他の古代龍しかおらんかったのじゃが、百年以上前に力を持った者が意図的に新生龍を飼って他の場所に持って行ったりすれば別じゃな」

アラブの石油王でも、やらないだろうことをサラっと言ってのけるサリメルは続ける。

「挑まないで欲しいし、居場所もハーディーの使徒にでも聞かなきゃ解らんのだが、古代龍の中には水龍というのもおってな……」

火威達が知った所でどうにも出来ないないと思って伝えた話に三角は口を開く。

「ジゼル猊下はアルヌスに住んでますよ」

「な……っ!」

三角の知らせを聞き、サリメルは以前に火威はジゼルと面識があるという話をしていたことを思い出す。

「あ~、そうっすね。まぁ水龍の被害が出てるなんて話しは聞きませんし、聞けても行ける場所か解らないんですけどね」

何もしてない生き物を駆除するのも躊躇われますし…そういう火威の言葉を聞いて、サリメルは安心した。

そのサリメルの向かいで、この中では火威の次に位が高いと思われる男が、その下の位と思われる二人の男に本を見せて説明している。

「ほら、これが牙って単語だ。こっちが毒って単語。ほら、図で説明されてる通りに如何にも“命を刈り取る形”をしているだろ?」

そこはかとなく厨二めいた抽象的過ぎる日本語による説明の三角を見て、サリメルは『何言ってんだお前は』な表情を作って見せた。

エルベ藩国に来てから初めて見るサリメルの怪訝そうな表情に、彼女は厨二病が嫌いなんじゃないかと直感した火威だった。

 

 

*  *                             *  *

 

 

次の日。

朝も早いと言うのにサリメルは火威から教えを請われ、触媒を使わずに魔法を現理展開させるため、法理を開豁する方法を師事していた。

発毛効果が期待される動物の血肉が最近死に絶えた炎龍を最後に自衛隊の活動範囲内から消え去ったということは、火威を落胆させるには充分過ぎる事実だった。

また、先日の懸けフォル球の結果もである。最初はサリメルの料理を要求すると言っていた火威だが、携行してきた隊の糧食が余り有るので以前から気掛かりにしていた触媒の問題を解決しようとしたのである。

と、言うのも、触媒は使った分だけ消費する。鉱物魔法に使う鉱物は火威の私物だが、購入当初は防衛省に建て替えてもらおうと考えていたのである。

だが、自衛隊員が使う官品は全隊員の最大公約数から決められるため、全隊員÷火威では税金で支払われる訳が無いのだ。

そんな火威の事情とサリメルの世話好きが噛み合って、以上のような光景が生まれたのである。

「おぉ、流石はハンゾウじゃ。筋が良いぞ」

空中に氷柱を作り出した火威は魔導を志す者の中では筋が良いとサリメルは褒めるが、褒めて伸ばすというのがサリメルの指導者としての方向性である。

 

一方、厨房脇の作業室。

アリメルとミリエムはこの日もぬるま湯にディジェの豆を浸けていた。

この作業が何をするか解らなかったアリメルだったが、以前に同じ事をした時に判した。

半日掛けて浸けた豆を柔らかくなるまで豆を煮て、その熱が冷めたら精霊魔法で豆を砕き再び熱す。

それを目の粗い粗い布で濾し、水を足して出来たのがディジェミルクという飲料だった。アリメル初めて見るこの飲料は、これまでに経験したことの無い香ばしい匂いを放つ。

「こ、これは……」

「あー、母さんがアリメルに持たせてやれって。宿が始まったらお客さんにも出すらしいよ」

それは日本で言うところの豆乳というものだった。ミリエムが言うには、サリメルが大陸の外の島から採取してきた豆だという。アリメルは魔法でも掛けられたように香ばしい香りの飲料に魅了された。

その時、作業室の扉を開けてサリメルが入って来た。法理の訓練からそのまま来たサリメルの後ろには、この世界でサリメルが初めて作ったディジェミルクと、その搾り糟であるカナンを使った料理を自慢すべく火威も連れている。

「さ、早く朝飯にするのじゃ~」なぞとほざく彼女の目当てはディジェミルクを濾した時に布に溜まった粕だ。

ミリエムとアリメルも火威に朝の挨拶をしようとしたが、先に目の前の禿が声を挙げる。

「って、これオカラじゃないスか!?」

どんだけ日本被れだよッ?と思う火威が次に見たのは久し振りに見る豆乳だ。

「ゲェッ なんでコレが!?」

「ぬ、なんじゃハンゾウ。カナンとディジェミルクを知っているのか?」

宇宙世紀の新人類が乗ってそうな名前が付いてる豆乳を見て、次にアリメルとミリエムを見た。サリメルはと言うと、大陸の外から採取してきた豆で作った食料を火威が知っていた事に少しながら残念に思う。

「日本でも知られた健康食品ですよ。まさか特地にも有ったなんて……」

「ニホンにも有ったんですか? 母さんからは胸が大きくなるってのんでたんですよ」

ミリエムは言う。確かに豆乳に含まれるイソフラボンは有能な健康作用があるが、接種し過ぎると乳癌リスクを高めるとも言われている。まぁ特地のディジェミルクと日本の豆乳がどこまで同一か不明ではある。だが胸が大きくなる以上はほぼ成分に違いは無さそうだ。

「ぬ? 現理が進んだ異界の研究ではディジェミルクに何か問題があるのか?」

火威の顔色を読み取ったサリメルが問う。

胸の小さなアリメルの為に用意した物だと推測出来るので、余り怖がらすような事は言いたくなかった。だが万が一を考えれば言っておいた方が良いと考える。

それにアリメルの胸は本人が不安視するほど小さくはない。服の上からでしか解らないが、出蔵も満足出来るB+と言ったところだ。

「や、これは確かにガブ飲みすると胸が大きくなりますね。実際に大きくなってたヒトとか居ましたし」

但し、火威が見たのはテレビで見た話しだ。しかも中国のオッサンである。

「そんで健康食として知られてるんですけど、胸が大きくなる成分が諸刃の剣と聞きまして、飲み過ぎるとちょっと厄介な病気に……。こっち(特地)じゃ治療するのも……」

出蔵が厄介になった医療の神の信徒になればどうだろう……とも思う火威だが、自分のことでは無いので懸けのような事は出来ない。

「あぁ、あと産まれてくる子供が特定の食材を食べるとアレルギ……拒絶反応を起こすこともあるので、余り飲んではダメです」

火威がこんな脇の知識を持っているのも、大学を五年生まで続けてプー太郎のように暇を持て余し、方々に興味を持ちつつも大成しなかったからである。

「な、なんと……ディジェミルクにそんな毒が」

「いや基本的には健康に良いです。常識的な量なら美容にも胸にも良いですよ」

「じょ、常識的な量ってどれくらいの…っ?」

急いた感じで火威に聞いて来たのはミリエムだ。彼女の巨乳が豆乳に依るものなら、確かに不安になる。

「専門家じゃないから詳しいことは判りませんが……。まぁ毎朝・毎昼・毎晩浴びるように飲まなければ……じゃないっすかね」

それを聞いてミリエムは胸を撫で下ろす。

「な、なんだ……。週にコップ一杯じゃ何ともないんですね」

「まぁ妊娠中はちょっと良く解らないですけど……」

それでそこまで大きくなってるなら明らかに遺伝だよ。そう思う火威の前で、明らかに残念そうなアリメルにサリメルが優しく言い聞かせた。

「アリメル、心配するでない。子供が産まれれば大きくなるは必然ッ。希望を持つのじゃ」

なぜ力が籠っていたのかは知らないが、火威が知る限りで出産経験が少なくとも三回以上のサリメルが娘の肩を軽く叩いた。

 

 

*  *                            *  *

 

 

ミレッタの声を聞いたのはロマリアが亡くなり、己の師としても母としても友人としても彼女を慕っていたサリメルが、その母の遺体に泣き添いている時だった。

何故、仮り染めの使徒であった自分が主神に選ばれたのかは解らない。

だが、ミリッタの神官になってから昔より多くの世界を知る事ができた。

昔より多くの人間の業を見る事ができた。

昔より世界に広がる多くの可能性を感じる事が出来た。

帝国の政変があった去年まで雪と氷に(とざさ)された檻に囚われ、ロマリアとの約束も果たせなかった。だが新たに森を荒らすようになった竜は、異世界の戦士によって斃されている。

残りの無肢竜も宿の経営にしても、彼らによって悩乱(のうらん)する必要も無くなった。先程までは最後の点検で、宿内の至るところで過不足が無いか見てくれていた。今も火威に渡すべき物があるので、ルフレに呼んで貰っている。

 

ルフレが火威を探して売店近くで見かけた時、彼の目線の先に書かれていたのは『・アプコ 8アクス ・ルガン 10アクス ・ウィレシア 9アクス ・ワルハレン 時価 ・直飲み 1シンク(15歳未満は応相談)と書かれた看板だった。

「なんじゃこら?」

呟いた所でサリメルが呼んでいることをルフレに聞いた火威は、「なんで神様が売ってるんだろ?」と思いながら研究小屋に向かう。火威が去った後の売店で、ルフレが看板を見て溜息と共に呆れたような声を出す。

以前、クリバヤシとサリメルと共に温水に浸かった時、サリメルはテルタの北の山地で会った英雄病の鹿男がサリメルにしつこく婚姻を申し込んだ挙句にミリエムにも手を出そうとしたダメ鹿男の話をしていたが、サリメルも中々どうして、ダメエルフだと思う。

その後、営業を開始した売店には『ウィレシア9アクス』の後から削られた看板が見られるようになったとか。

 

「どーもサリさん。なんでしょ?」

大きな行李……というか葛籠(つづら)に身体半分を突っ込みながら、火威の声を聞いて呼んでいた人物が来たことを知ったサリメルはそのままの姿勢で喋る。

薄い衣に身を包んだサリメルが、巨大な容器に半身を突っ込んでお尻を突き出す姿は健康的な男である火威などには実に目の毒だ。

「ハンゾウ、おヌシな……」

相変わらず探し続けているサリメルに声だけの返事を返す。

「ハンゾウ、あの竜甲の鎧はニンジャと言うヤツではないか?」

確かに兜跋の兜を仕上げる際、火威は忍者を意識して赤く長いマフラーなぞを使うようにしたし、タンスカでも強行偵察やゾルザル派帝国軍の要人を拉致などの忍者的な働きをしている。

アルヌスに帰還してからも兜跋を見た自衛官は『青い巨星』と評する一方で『突撃強行偵察型忍者』だとか『突撃忍者』『忍者青影』と呼ぶ者のが少なくない。

だが日本の事は漫画以上は知らないサリメルが『忍者』という存在を知ってる理由が解らない。

たぶん、きっとアルヌスから出回った漫画知識だろうが、下手な答えは話しが拡大してしまう上に、回避に成功した文化侵略を誘発しかねない。

「さ、さぁ、どうでしょうねェ……。アレを作っくれたのはコダ村の避難民ですからねぇ」

兜とマフラー以外はコダ村避難民が作った鎧である。

「あからさまにニンジャなのじゃがなぁ」

と続けるサリメルが、遂に目的の物を発見したようだ。

「あぁ、あった。これじゃ」

なぞと言いながら葛籠から顔を出した彼女の手には、アマコア……と言うより機動戦士ガン○ムに登場するジェスタめいた兜と口当てが一体になったような防具だ。

「このメンポ、着けてみい」

忍○かよ。明らかになったネタ元に心の中で呟く。アレを基準に日本を想像されても困るし、そもそもあの物語を作ったのは日本では無くお米の国の住人である。

そういえば、と火威はロマの森に来た時の事を思い出した。サリメルが着ていた衣装はユ○ノ=サン的なくノ一スタイルだった気がしてきた。

その火威がサリメルに言われた通りにメンポ……もとい仮面を着けるてみると、非常に見たくない光景が広がった。

目の前に居るサリメルの皮膚の下が透けて見え、真っ赤な血肉や筋肉の繊維が見えたのだ。

「うげっ……!」

スプラッタな映像に慌てて視線を壁に向けると、今度は畜獣を放牧しているであろうマッパ!!!(真っ裸)のオッサンが目に飛び込んできた。

「げぇッ!?」

確実に仮面の影響なので、慌てて顔から外す。

「サ、サリさん、これ……!」

サリメルが言うには、彼女自身が昔作った、霊格の高い者にしか使えない魔法具だという。

作ったは良いが中途半端な性能で、長いこと仕舞い込んでいたようだ。

最初は何の為に作ろうとしてたのか、サリメルを知る火威には良く理解出来たが、今後の自衛隊の任務に役立つかも知れないから火威に譲るなんて話しになると、火威は困った。

アルヌスにはレレイのように霊格の高い者が居るし、彼女の師事を受けるべく大陸各地から魔導士が集まる事が予想され、既に数人が集まっている。

なので火威は有り難く貰うフリして、置いて行く事にした。サリメルが本当に呆けてて、後になって盗まれたとか言われても困るし。

 

 

*  *                             *  *

 

 

最後までエルフの女魔導士に引っかき回され、精神から疲れ切った自衛官と五人のダークエルフを乗せたHMV二両とLAV一両によって構成される三両の車列がシュワルツの森を離れ、アルヌスへと向かって行く。

「帰ったら休み有りますかねェ」

という出蔵の声に

「いや、お前ら任務の前に散々休んだから無いよ」

という津金が答えが返って来る。

あの休みじゃエロフに遭遇した疲れの代償には小さ過ぎるんだが……。

「大体、お前ら先発の三人はエルベから準男爵の位もらったろ。あれで全部だよ」

出蔵や火威、それに栗林は、ニャミニアの討伐を確認したエギーユがデュランへの公信でエルベ藩国から準男爵の称号を貰っている。だがこの準男爵という称号、国によっては貴族とは認識されないので「褒められただけ」のような所がある。

それも公の上でデュランに知らせて三人を推薦し、エルベ藩国貴族全体から反対意見が出ないようにするエギーユの気苦労があった。低い位だからと言って文句は言えない。

「まぁアルヌスに帰ったら陸将からお褒めの言葉くらいは頂けるんじゃないか?」

「思ってた以上に大変な任務でしたからねぇ。そうだと良いですねぇ。先輩とか一番働きましたから」

その先輩たる火威は車内におらず、遥か上空のイフリの背に乗っている。

アルヌスに帰る際、先頭車に乗ろうとした火威をイフリが摘み、自分の背中に乗せたのである。イフリが「最後のご奉仕」だとか言ってるのをサリメルは聞いた。

龍語を知らない火威達自衛官は飛龍の意を逆なでし、ここで暴れられても困るので、火威の身柄を差し出すしかない。

時間があれば寝てしまう火威は鞍に付いている輪っかに、兜跋のウィンチギミックのフックを掛けてスヤスヤ寝てしまっているが、彼は忘れていた。

エルベ藩国に来る前、他人から聞いただけの知識をあてにジゼルの神殿予定地近くで味痢召に大量の香辛料を投入し、ただでさえ人間の食い物とは言えない物を準BC兵器に昇華させているのだ。

アルヌス周辺に出没していた黒妖犬はコレを食べて動きが鈍った所を殲滅されたが、その前にジゼルも怖い物見たさで食べて暫く行動不能にしている。

アルヌスに帰ったら上官から大憤怒を受けた上に戒告が待っている火威には、龍の背で眠る今こそが、何も知らない一番の幸せの時間なのであった。




もう外伝に入っちゃってるんで、そろそろ火威にリア充成分を加味してしまおうかと思います。
まぁ女神二柱と一頭に心寄せられてるので既にリア充ですが、
折角外伝まで書いてるので好い加減判り易いリア充に……。
そもそも外伝は髪の毛が一本も無くなった主人公にヒロインを足す為に書いてますからね。

で、外伝2ですが、猊下のターンですがちょくちょく栗林が目立ちますかも。

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