ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

69 / 120
ドーモ、庵パンです。
前の投稿から妙に間が空いた気がします。
本編の最後の方はもっと空けてましたが。
これも夏が暑いせいです。湿度70%とか日中の気温が35℃とか、もういっそ氷河期が到来して欲しいです。
まぁ大陸と地続きになると、それはそれで問題が起きそうですが。


第八話 勲章と愚策

狭間陸将の開会セレモニーの後、楽士隊のファンファーレを合図に、参加者達が持っていた風船を空に放つ。

飛び立った色とりどりの風船には脱硫ブラントの研究斑によって作られた水素が入っており、アルヌスの空一杯に広がった。

組合側の主催者代表の挨拶を終えたエルフの盛装を着込んだテュカが、鏑を用いた火矢で空に広がる風船を射る。

火矢が当たると、そこから次々に風船が割れて花火のようになり、中に仕込まれていた色とりどりの花弁(はなびら)が舞い落ちた。

「おおぉ、すっげ。エルフの盛装ってホント森の精霊って感じっすね先輩」

「そらまぁ、テュカは精霊種だし」

彼らの名誉の為に名は明らかに出来ないが、自衛隊の精神的武装を解除出来たのは今日が初めてかも知れない。

日本から次元壁を隔てた異世界で、隊と士気を維持していくのは並大抵の努力で出来る事ではない。

まぁ、今の間の抜けた会話の二人はこの地で他種族の嫁を見付けたり、すっかり馴染んでるから例外かも知れないが。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

その時、大会場の横を黄色い悲鳴やら歓声と轟音を上げ。四人乗りボブスレーが凄まじい勢いで通過していき人々をさらに湧き立てる。

全てのアトラクションが営業を開始したのだ。

開会の式典が終わるのを、今やおそしと待っていた子供達が、お目当てのアトラクションに向けて走りだす。

すかさずスタッフ達が、その勢いを鎮めよるために叫んだ。

「走らないでください! 屋台は逃げませんよ」

こうしてアルヌスは、エムロイの神官による呪舞の効果で、熱狂を秘めた大祭典へ突入したのである。

 

 

*  *                            *  *

 

 

 

数日前。

合コンの受け付け終了させて、もう幾つ寝ると大祭典、な夜だった。

参加させてくれと現れるたのはエルベ藩国の任務で、支援として火威達と行動を共にした三角一等陸曹だ。

「えー、まさかお前、ジゼル猊下目当てで来た?」

本来なら受付終了後の参加は認められる訳が無いのだが、火威は一人分余計に払っているし、日頃からこの陸曹を三角と言う名前から弄らせてもらっている。

「えっ、や……まさか、神様目当てだなんて恐れ大い……」

胡乱げな目の火威は、黙って相手の反応を見続けた。

「す……すいません! 特地の食材を日本料理に近付けようと努力するジゼルさんに惚れてしまったんですっ」

素直に白状したのは、ジゼルが以前に食堂に来た火威に良く絡んでいたからだ。その様子を見れば二人は友人くらいの仲だと思うし、最近はすっかり冷え込んでしまったように見えるが、その前は友人以上の関係にも見えたのだ。

火威自身もジゼルとは友人以上の関係になろうとしていたし、実際に一時は恋仲にあった。三角もそれを知っているので、元彼のような立場の火威に戦々恐々としているのだろう。

「いや、別に謝るこっちゃ無いんだがな」

「えっ、や……三尉はジゼルさんと恋仲にあったんじゃ?」

叱られる覚悟を決め込んでいただけに、この肩透かしには気が抜けた。

「俺がフラれちまったんだよ。まぁアレだ。合コンなんだからジゼルさん以外にも可愛い娘はいるし、視野は広くしとけって」

「は、はい!」

返事と共に、三角は敬礼を取る。

「任務じゃないんだから敬礼すんなって。あぁ、あと視野は広くしても栗林には手ぇ出すなよ」

「栗林…忠道中将閣下ですかね?」

「違ェえって。二曹の方だよ」

「えっ、そっちの栗林が合コンに!?」

忠道中将閣下な訳ないだろう。何驚いてんだコイツは……。そう思う火威は続ける。

「いや解らん。参加者の名簿は今、倉田が持ってるし」

「はぁ……でもあの栗林に交際を申し込む男が居るとは」

居るんだよ。お前の目の前に。

言ってやろうかと思った火威だが、やっぱり面倒臭そうなのでやめておいた。

「まぁホラ、薔薇騎士団の()達は帝国貴族の中では珍しく貴族なのを鼻に掛けた感じもないし、色んな人と話すのが良いと思う。騎士団以外にもアルヌスの娘も参加するしさ。向かえのウルドさんとか」

「し、神官が参加してOKなんですかね…!」

「いや、お前もジゼルさんが参加するって聞いて来たんだろ?まぁこっちの宗教会は余り堅いこと言わんっぽいし、良いんじゃない?」

少しばかり釈然としない様子の三角だったが、彼も火威に四千円相当の支払いを済ませた。

「あぁ、そうだ三角。ちと協力して欲しいことがあるんだがな……」

 

 

*  *                             *  *

 

 

そういった訳で、火威が大祭典の出店に使う食券を買うのに使える資金は、当初予定してた額より四千円分の余裕がある。

叙勲式には火威も喚ばれているが、それまでには主催者側の人間としての仕事もちゃんとあるので、その任務に就かなくてはならない。

とは言え、火威の場合は会場を歩き回って警備するという気楽なものだ。

人混みを進んでいると、近くの大天幕から楽しげな音楽が鳴ったり、大道芸人が人々から拍手と喝采を受けている場面にも遭遇する。

今頃、出蔵や三角は会場の何処で綿飴やら鮒掬いの出店を出してる筈だから、それでも見に行こうと歩き出す。

だが少し行くと、道の両脇に屋台を出して道幅を狭くしている場所があった。

しかしそこは街と中央広場を繋ぐ道路だ。そこは通行の妨げにならないよう、露店を出してはいけないことになっている。なのに幾つもの店が軒を連ねていた。

大祭典に水を差さないよう、先ず火威は端の店から偵察に入る。

目に入ったのは禿でヒゲの店主が、現在アルヌス在住のジゼルが手ずから作ったという民芸品の護符を、銀貨一枚で売っているところだ。

「そこの兄さん!ベルナーゴ神殿のジゼル猊下が手ずから作った代物が大祭典価格で買えるチャンスだよ!これを逃す手は無いよ!」

俺の事を兄者と呼ぶのか。このハゲ親父……。

火威の心に、ちょっとした悪戯心が湧く。そして何の力も感じられない護符を見て真剣に選ぶ振りだけしてみた。

「ふーん、ジゼル猊下が手ずからねェ……」

群衆からずいっと一歩前に出て、しゃがんで覗き込む火威の顔を見て驚いたのは髭面のハゲ親父の方だった。

「み、右目を通る傷っ。ウロビエンコの悪魔!?」

髭ハゲ親父の小さな悲鳴を聞いて、周りの店の店主達も即座に反応して腰を浮かせた。

「今はコンバットおじさんだよ」

言いながら、ハゲ親父が護符だと主張する民芸品を見て行く。予想通りに全てが何の力も無いガラクタだ。特地記念に買う土産物でも、銀貨一枚は高すぎる。

「まぁジゼルさんはあれで料理も編物も出来るお嫁さんにしたい亜神ナンバーワンだからなぁ」

「そ、そうなんですかい?」

「いや知らん」

自ら言っておいて、突き放すやり方に、明らかに怪訝な顔を作るハゲ髭親父に構わず、その場を後にしようと立ち上がる火威。

「ちょっ、ちょっと兄さん。買わないのか!?」

「うん、もっと安けりゃ考えるけど」

決して買うとは言わないのである。そしてその火威は、ジゼルが民芸品など作るのか本人に聴きに向かった。様々な可能性が考えられる以上、疑わしきは罰しないのが今の火威のスタイルである。

触る者を皆傷付けていた(ような気がする)戦争中なら、その場で血祭りに上げていたかも知れないが、今は平時で大祭典が始まったところだ。

せっかく皆が苦労して開いた祭典に水を差したくないし、火威自身も拘束されてしまう。

「は? んなもん作らねぇよ」

予想通り、禿髭親父は偽物を売っていた。

案内しろ、と言われた通りにジゼルを禿親父とその仲間達と思われる連中が店を連ねる場所まで連れて行くと、禿は既に一悶着起こしていた。

蒼いドレスの少女が禿に襟首を掴まれ、爪先が付くかどうかの高さまで吊り上げられている。

「理非分別のつかぬ無礼者めが! 偽物を売っておったのは貴公らではないか!」

その近くに居るのは伊丹二尉だ。どうやら禿らが売っていたパチモンを鑑定眼があるらしい少女が見破って、そこに二尉がたまたま居合わせたらしい。そしてこの区画に店を出しているのは、エルダー一家とかいうヤクザのようだ。

まぁここのブロック長は伊丹二尉だし、騒ぎが起これば来るよな……と考える火威の前で、ジゼルが禿に向かう。

少女は男達に挑もうとするが、そこを伊丹に抑えられて伊丹の背後に押しやられた。

「ちょっと待った待った」

と、男達にも自制を求めるが、ヤクザは余り聞いていない。

「はぁん? お前、いったいそのガキの何なんだ?」

「オレ達はそのガキに(バイ)を邪魔されてな、その損害を償ってもらわなきゃなんねえんだ」

「お前がその損害を償ってくれるってなら、穏便に済ますことを考えてやってもいいぜ」

ヤクザ達は、数に飽かして徹底的な威しを伊丹にかけた。自分達のすることに文句を言う奴はこうなるぞという見せしめの意味もあるのだろう。

「へえ……誰が、誰をどうするって?」

しかしジゼルが禿の背後から巨大な鎌を伸ばし、その喉元に引っ掛ける。

その長大な刃の輝きに、震え上がる禿。

「な、な、なんだ、てめえ……え?」

鎌の主である彼女が作ったと称して護符を売っていたのだから、その名を知らない筈もなく、禿を始めエルダー一家は総じて震え上がった。

「ヒオドシ、こいつらか?」

「えぇ、そうっす」

エルダー一家の連中は「すまん、密告(ちく)った」と続ける火威には余り視線は向けず、亜神であるジゼルから視線が外せない。

その後、エルダー一家は全員がジゼルによって何処かに連行され、モグリの店舗も無事に撤去された。

蒼服の少女はどうやら保護者の居ない迷子らしいが、迷子を保護することはブロック長の伊丹二尉に任せて火威は別の区画へ向かって行った。

 

 

*  *                            *  *

 

 

出蔵は門が開通している時に日本に行ってザラメを買って来たことがあったが、大祭典では特地で採取出来る材料の使用が推奨されるので、ザラメは使えず出蔵が寝起きする官舎に封印されることとなった。

だが綿飴は飴を火で溶かして霧状にして噴射させたものに、木の棒を突っ込んで巻くだけなので、ザラメ飴に代わる材料が有れば可能なのだ。

この世界ではシロンという、甘味に使用される調味料という形で砂糖が存在した。

綿菓子製造機の方は、特地で材料を集めるとなると時間も掛かるし金も掛かる。なので駐屯地前の自販機にあるジュースの缶を使う他ない。

アルミ缶の蓋と底の中央に穴を空けてスポークを通し、缶の底側2Cm程の側面に大量の穴を空けるのである。

スポークとは、自転車などの車輪中央から放射状に延びて車輪を形作る金属製の棒の事だ。これの端に先程のアルミ缶を付ける、片方にザラメと同じ時にかったモーターを付けることで綿菓子製造機は完成するのだが、モーターの保存方法が良くなかったせいか、ちゃんと発動してくれない。

だが有り難いことに、アリメルが風の精霊を使役できるので、小さな風車を作って缶を回す事が出来るようになった。

御蔭で出蔵が出す店の前は常に風が吹いているが、糸状の飴が飛び散らないように作った風防で火にも影響はない。一見すれば日本のお祭りで見るような綿菓子の屋台である。

当然、特地の人からすれば、初めて見る装置なのではあるが。

「やっべ! 綿飴の需要舐めてたっ。砂糖が足りねぇ!?」

日本の製缶技術と特地の精霊魔法によって出来た綿飴は人々の耳目を集め、瞬く間に間に綿菓子を求める子供達、或いは物珍しい装置を間近で見ようとする客でごった返した。

「ナオ。そろそろシロンが無くなるわ!また追加しないと」

自衛官ではないが、精霊魔法がないと装置は動かないのでアリメルもいる。彼女が出蔵の子を身籠ってから、既に半年近くが経ち安定期に入ってお腹が大きくなりつつある。

「あぁ、それじゃ自分が倉庫から持ってきますよ」

「やぁ、助かる」

志願した清水陸士長に感謝しつつ、出蔵は午後の分や明日以降に使う砂糖の事を考える。稼げる内に稼ぐか、それとも量を決めて今日分が無くなれば閉店にするか。

アリメルの出産までには多少、多めに稼いでおきたい。だがエルフの出産時期が何時になるか解らないので、二の足を踏んでいた。

「おぉ、本格的に作ってんじゃん」

そこに来たのは会場全体の警備という名目で遊び歩いている火威だ。

「お、先輩。丁度良いところに」

出蔵はエルフの妊娠期間が、何年位なのかと賢者号を持つ火威に聞く。

「いや、それこそ嫁さんに聞けって……」

「だって怖いじゃないですか。万が一、百年とか言われたら」

「いや、そりゃねぇだろ……流石に」

半年程前にも似たような会話して、それでいて妊娠してたなんて経験があった。そうすると、ひょっとしてもう産まれているのかも? なぞと思ったりするが、アリメルは明らかに妊娠中なので突拍子もない考えは浮かぶ前に沈没させておいた。

いや、或は二人目? ……もし自分がもう一人居たら、火威は確実に理不尽にもぶっ飛ばしていただろうと思う。

 

 

*  *                             *  *

 

 

久しぶりの一人相撲を終えた火威であるが、大祭典の初日には叙勲式があるので何時までも遊んでいる訳にもいかない。

叙勲式に臨むに辺り、火威は現在持っている徽章を全部、制服に付けて行こうかとも考える。だが一番重要な徽章さえあれば、スキー徽章なぞ敢えて付ける必要など無いのだ。

そこでシンプル・イズ・ザ・ベストを標榜する火威は、体力徽章と防衛記念章、そして特殊作戦群にも並ぶ自衛隊の精鋭、冬季戦技教育隊の証である、特別なレンジャー徽章を身に付けた。

この冬季戦技教育隊、通称を冬戦教とも言い、日本で唯一の冬季専門部隊である。

かつては各部隊から優秀なレンジャー過程を経た者を集め、更に訓練し続けた超精鋭部隊として知られていて、現在に()いてもその練度や戦闘能力は変わっていない。

余談だが、数々のオリンピック選手を輩出し、高度なスキー技術を持つ国内でも屈指の戦闘技術を誇る部隊である。また、2016年に体育学校に収容されている。

特殊作戦群とも頻繁に合同訓練を行っており、火威が南雲ら特戦群の隊員に会ったのもタンスカが初めてではない。

また、雪中戦においては世界随一とも言われる戦闘技量を持ち、そのタフさは「冬眠しない羆」とも「油断してると頭からカブリとやられる」など、酷い言われようである。

まぁ、火威本人は、やることが無いとすぐに冬眠してしまうのだが……。

「正直、死ぬかと思ったが、何だかんだ取れてしまった徽章に役立ってもらわねば」と言うのが火威の意見であり策である。

自衛隊の精鋭に憧れる栗林には、火威が持て得る数少ない魅力の中で、最大の武器である筈だ。

胸にピニャから大きな勲章を付けてもらった火威は、意気揚々と周囲を見回す。

栗林には冬季教の課程を修了させた証である、特別なレンジャー徽章を見て貰わなければ成らない。その為にも、三角に頼んで少しばかり策を敷いたのだが、三角は早々に見つけることが出来たのだが、肝心の栗林の姿が見当たらない。

「火威三尉、おめでとう御座います。そろそろ良いですか?」

三角からも火威を見つけたが、結構人も多いので三角の言ったことは火威まで聞こえない。サリメルのような地獄耳を持ったエロフやヴォ―リアバニーならば聞き取れるだろうが、火威半蔵という男……聴力は常人レベルである。

「あぁ、三角。ちょっと待て」

三角が何を言っているのか察した火威が止めるが、今度は火威の言葉が三角に聞こえない。彼等は知らないし、三角は栗林に聞かせる為とは聞いていないのだが、この時、栗林は別の場所で南雲や剣崎と話していたのだ。

「す、すっげェ! 火威三尉、冬戦教だったんですか!」

やたら、デカい声で三角は叫ぶように言い出した。というか、叫んでる。

「火威三尉! すっごいですよ! 冬戦教っすよ! 冬戦教! 冬季戦技教育隊ですよー!」

「せ、せやな……」

(ようや)く三角の元に来れた火威が、同意しつつも、ちょっと黙ろうか、と聡す。自分で依頼したことだが、栗林も居ないのに実際にやられると恥ずかしい。ぶっちゃけ公開処刑だ。

そんな恥ずかしさを得たところで、初日終了。




ドーモ、所々原作からそのまま抜粋しております。
さて、来る23日はいよいよゲートのブルーレイ・DVDの最終巻が発売ですね。
オーディオコメンタリー二本……は無いにしても、続編の発表とかやってもらいたいものです。

それはそうと、原作でもしっかりキケロさんは来ていた罠。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。