ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
普段より短いですが、切の良いところで投稿です。
そして前回、忘れてましたが

お気に入り指定が350人を突破!! そして360人に届こうという所です!
読んでくださる皆さまっ!本当に有難う御座います!


第十話 装備と結婚式

朝方の忍者屋敷で、寝屋としていた森から帰った火威が鶏に餌をやり、浴室を掃除してから湯を入れ直す。

早朝から騎士団やキケロ夫妻が泊まる忍者屋敷で、甲斐甲斐しく働く火威は、一昨日から同じ事をしていた。

要するに、帝都からの来客の為に忍者屋敷の主人でありながら下男のように走り回っていたのだが、体力徽章を持つ火威は、ここに来て徽章の持てる能力の全てを発揮していたと言える。

「ヒオドシ殿、おはよう御座います」

二階から降りて、そう言って来たのは黒髪の薔薇騎士団員、スィッセス・コ・メイノだ。内戦の最終決戦のフォルマル邸内で、火威が救うことになった女性でもある。

あの日、火威は毛という毛を全て失った。眉毛と下の毛は生えたが、まさか強力な魔法の触媒に、自身の毛を纏めて使っているとは思わなかった。

「や、ども。おはよう御座います。メイノさん」

彼女に連れ立って来た従者の少女も起きていて、火威に朝の挨拶をする。

この世界の人間は総じて朝が早いが、火威なんかは、こういう休みの日は本当なら昼まで寝ていたい。

というか、大学時代の休みの日には、実際に昼近くまで寝てた。

「ヒオドシ殿には色々手数掛けて申し訳ない。本来なら貴国のスガワラ閣下を習い、私共でアルヌスで宿舎を確保しなければならなかったのですが……」

「いやいや、現在のアルヌスに宿泊施設らしい宿泊施設は無いですからねェ。それに、この忍者屋敷も元々人が泊まれる宿を建てる目的でしたから、今回が初稼働なんですよ」

本来は自衛官の詰所的な物を想定していたが、他の客を想定していない訳ではない。その為に、宿泊客の失礼にならないよう、各部屋には最低限の調度品も揃っている。

自身が寝ていて現在はキケロ夫妻が宿泊している天守閣部屋には、家具も揃ってなかったので、栗林の知らせを受けてから急遽、家具と調度品を揃えたのである。

ただ、それは見る者が見ればラブホっぽいとか言われるかも知れない。勿論、ジゼルとアキバに行った時に買ったゴム製品は地下の部屋に隠したし、扇情的な照明が備えられている訳でもない。

火威が今までの生涯で唯一、行ったことのあるラブホもオークに拉致されてマグロ同然の状態で行った一回切りだから、火威がラブホを意識しようもない。ただ、建物の外観が日本の地方ありそうなラブホめいてるとか、複数人の来客に急遽、用意した寝具が二段ベッドだったり、ダブルベッドだっただけである。

「ニホン語研修や、騎士団の自習で聞き知った事なのですが、我らが推進する芸術と対を成すものに、ユリなるものがあるそうですが……」

「あぁ、百合ですか。どちらにせよ非生産的なモンですけど、絵草紙で見るなら自分は百合が良いですねェ。まぁ他人の趣味に口出しする気は無いんですが」

三次では余り見る勇気無いし……などと呟く火威だが、今の発言は遠回しに「あんたらの趣味は非生産的だ」と言っているようなものである。

つまり、今の発言は二ヶ月程前に特地のレクリエーション係りのような物に任命され、地道に少しずつ積み上げて来た薔薇騎士団の女性たちへの信頼が、音は起てないにせよサラサラと風化していたようなものであった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

大祭典から遡ること数日前、ロゥリィからの手紙を受けて来た亜神の「匠精マブチス」ことモーター・マブチス鎚下の元に向かった。

エルベ藩国で入手したグランスティード、或は対騎剣の基となった大剣、フルグランを返すためだ。

ニャミニア相手に乱暴に取り回しても刃毀(こぼ)れ一つ無く、斬れ味も鈍らない業物を手放すのは惜しいが、元の持ち主なのだから返さなく手はいけない。

このように、火威が筋を通そうとするのは彼が貧乏ながらも盗み一つ起こさず育てられて来た実家の両親の影響である(金は大好きだが)。

「この剣は貴方が鍛えた物だと伺いました」

そう言って火威は大樹のような荘厳さと落ち着きを纏い、白髪で巨躯の老ドワーフに大剣を捧げる。

ドワーフという言葉には「小さい人」という意味があるそうだが、マブチスに限っては違うらしい。

神様だし、例外はあって然るべき。と、考える火威の前で、モーターは増大な髭を扱いて不思議そうな顔をした。

「ふむ、これは……君が使っていたのか?」

「はい、三ヶ月程前にエルベで拾い、大型の無肢竜が大量発生した際に使用しました」

「禁忌の存在退治したのよぉ」

そんな事を言ったのはロゥリィだ。

「あれっ。聖下、何時の間に? って言うか禁忌の存在って?」

「最初からいるわよぉ」

どうやら火威はモーターにばかり集中して、ロゥリィが居ることに気付かなかったようだ。

「時々居るのよぉ。この世に生きてる生き物を使って世界を荒らし廻ったりぃ、離れた所にいる者に復讐を企む馬鹿な魔導士が」

サリメルはエロフだが、誰かの恨みを買うようなことをするとは思えない。むしろ馬鹿な魔導士の方である。

いや、あの調子で他人様の家庭内不和を作ってしまってたら……。

「そうなると儂らのすべき事を背負わせてしまったな」

火威の思考を中断させたのはモーターの言葉だった。本来なら世界の庭師たる亜神が、禁忌を犯し伸び過ぎた枝葉をたる事象を裁定しなければならないと言う。

「いやぁ、いいですよ。自衛隊の仕事には害獣駆除もありますから」

「そうもいかん。何かしら礼をさせてもらわないとな」

モーターは世界の神から礼があって然るべきと言って、火威が造り揃える予定の対ゴーレム、或は巨大生物の武具やら道具を造ってくれると言う。

「それと、これもだ」

そう渡されたのは、今し方返した筈のフルグランだ。

「えっ、良いんですか?」

「これを使って無肢竜のベネナを退治したのだろう? これを使いこなすヒトが居るとは思わなかったが、使えるなら剣が君を選んだということだ。そこの鉄の乙女からも聞いておるよ」

鉄の乙女とはロゥリィのことらしい。そのロゥリィはフルグランを使って、剣技大会やこの先に控えているかも知れないお突き合いに備えた火威の稽古を、しているのだと伝えたらしい。

「もらっておきなさぁい」

「いや、しかしこの先、剣を使うような事が……」

「良いからぁ……」

ロゥリィの目付きが若干厳しくなったので、火威は有難く大剣を貰う事にした。対ゴーレムや巨大生物の為の装備を頼んではいるのだが、実際のところそれらは火威の趣味の領域である。

退官後に特地でそれらを装備して、特地世界を見て回れたら良いなぁ……くらいの感覚で頼んだのだ。

 

「それよりヒオドシィ、オツキアイの自信の程はどうぉ?」

モーターが逗留している従業員宿舎から帰る最中、ロゥリィがそんな事を聞く。

「正直、どれだけ鍛えても完全に自信が着いたとは言えませんね。栗林はホントに亜神なんじゃないかってくらい強いですし、実際に滅茶苦茶強いですし」

ロゥリィには、栗林が銃剣一本で巨大無肢竜に挑んだ話しをしていた。ロゥリィも嘗てイタリカが敗残兵に襲われた時に栗林と共闘しているから、彼女が一般のヒト種よりも遥かに高い戦闘能力、そして恐ろしい程に戦場を客観的に見下ろす感、即ち戦闘感があることを知っている。

それでもまだ鍛えていると言うのだから、ロゥリィも火威に同情を禁じ得ない。とは言え、特地の神官や信徒にすら成ったことが無いのだから栗林の昇神は無いだろう。

 

 

*  *                               *  *

 

時系列は現在に戻る。

大祭典も三日目に入って、いよいよ富田とボーゼスの結婚式の当日となった。

火威は今日もロゥリィの神殿のすぐ側に増設された礼拝堂へ続く道にある、枝や石ころ、その他諸々のゴミを避けたり掃除したりしていた。こうして新郎新婦が来るまでに道を綺麗にし、花道に続けるのだが、早い話が終いの雑務である。

この仕事が終われば一息吐けると思われるのだが、不確定な事を期待して裏切られた時に感じる疲労感は一入だ。ならば合コンが終わり、栗林とのお突き合いが終わるまでは気を引き締めた方が良いと火威は考える。

全てが終わるまでの四十八時間、いや、多く見積もって九十時間は油断してはならない。でもまぁ、寝る時くらいは緩んで良いか……と考える火威の前で、たった今、掃除した道を通ってボーゼスの家族や友人、親戚、そして富田の上官や同僚達が式場に向かって行った。

この礼拝堂はワレハレンの協力を得て増設したものだ。何か建物を建てた訳ではなく、神殿本体と同じコンセプトで、森の中にあった数十本の樹を移植し、空いた空間を整地して石を敷き詰め、木々の樹冠を天蓋代わりにした、とてもメルヘンチックな空間なのである。

更に、森の礼拝堂は壁に囲まれた閉鎖空間ではないので、式に呼ばれてない帝国の伝統貴族が礼拝堂を囲む形で遠巻きにして見ている。

彼らも、富田とボーゼスの結婚式がどのようなものか興味があるらしい。近くでは、これを商機と見た者が露店を出したり、ハイキングのように敷物を敷いて結婚式が始まるのを待っている者も多い。

火威は富田の同僚として呼ばれているので、それらに構わず同僚達と共に礼拝堂に入って行った。

 




いよいよ二部も終盤です。一部より妙に早いですが、勘弁して下さい。
栗林を此れ以上無い強女のように書いてますが、実際ゴリラ以上の強者として書きます。
ゾルザルを二発で半殺しにした栗林は、鬼強い。

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