ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
前回までのサブタイが適当過ぎるので、今回は真面目に考えました。
結構、マジで。

第二部も残すところ後二話か三話ですが、今回も全然ジゼル猊下が出て来ません。
次回ちょっと出る予定ですが、もう2部では猊下は余り出ません。
3部で目立つ予定ですが、3部は栗林のターンなのでどうしたものやら……。


第十一話 伝統危険遊戯

富田とボーゼスの間に産まれた子供は、名を『舞』という。

最近、巷で溢れるDQNネームでは無いだろうことは、富田の実直さを見れば確定された事なのだが、火威は富田の娘がファルマート的な名前になるのではないかと、少しばかり考えたものだ。

名前というのは厄介なもので、それだけで個人の人となりやその人の家族、背景が推察されてしまう。

あの東京のオークは、奥・オークが本名だというのだから名付け親には悪意しか感じられない。

まぁ、実際に名は体を表しまくっているのだが。

『舞』という名には、艶やかで優雅なイメージがある……という火威の脳内には、某格闘ゲームのお色気クノイチがいたりする。特地には加藤さんや香取さんが居たりするから、もしかしたら『マイ』さんも捜せば居るかも知れない。

ならば敢えて特地名を考える必要もない。あの栗林も『亜神クリバヤシ』として特地の一部で有名である。

さて置き、富田の娘の名が日本でも特地でも通用するであろうハイブリッドな名前であることは、ほんの少しだけ縁のある火威をホっとさせてくれる結論だ。

そんな火威の都合はさて置いて、伊丹が何度も手を叩いて会場の支度が終えたことを伝えたのは、倉田が狭間とパレスティ侯爵の通訳を終えた時だった。

皆がそれぞれの席を選んで腰を下ろし、落ち着いた頃合いに司祭のフラム、そして助祭のニーナを連れたロゥリィらが正面の祭壇にハルバードを立てた。

そうして主役達を受け入れる準備が整ったところで、会場の外からどよめきが聞こえる。

新郎と新婦がやってきたのだ。

フォルマル家のミュイらゼプリル達が聖歌を歌い、それに合わせて新郎と新婦がしずしずと花の敷かれたバージンロードを祭壇に向かう。

ミュイは以前のイタリカ防衛戦の縁で呼ばれたが、呼ばれるだけでは心苦しいとフラワーガールの特地版とも言えるゼプリルに自ら志願したのだ。他のゼプリルはレレイ、ティカ、ヤオなどの美少女や美女が志願している。

無肢竜を軒並み排除する為に、エルベ藩国に追加の支援でやってきた清水が、後の広報や、報告の資料にするために複数の写真を撮り、ボーゼスの花嫁姿を初めて見た女性達からはうっとりとした溜め息を漏らす。

だが溜め息だけでは無く、唸り声も聞こえる。まさかまた栗林か……ッ! なぞと心配し警戒した火威しだったが、唸り声……そして瘴気は帝国貴族の席から聞こえた。

見れば皇城から見た┌(┌^。^)┐ホモォなエルフの亜神と喋っていた貴婦人が発生源だった。もしまた栗林だったら、今度こそ火威の心は折られてたかも知れない。最近になって元通りに直った火威の精神は、まだ補修部分が弱いのである。

それは兎も角、黒い瘴気を放っている(ように見える)貴族の女性は二人だ。皇城で見た時は綺麗な女性だったが、今にも新郎や新婦に飛び掛かりそうである。

火威は知らないが、彼女達はレディ・フレ・ランドール侯爵令嬢と、そのウエストポーチ的なアン・ルナ・リーガー男爵令嬢だ。

ボーゼスの長いベールが地を擦らないよう保持するゼプリルは、テュカとレレイ。さらにヤオが指輪を載せた台を捧げていく。ベールで顔を隠しているが、髪の色や耳の形で一目瞭然である。

そして、そのあとに花を持って続く四人が姿を見せた時、式場内外が一斉にどよめいた。

それもそのはず、パナシュ、ハミルトン、ヴィフィータ、そしてピニャまでもがゼプリルとして列に並んでいたのである。

一瞬、特地では女性皇族が旗下の騎士団の団員の結婚式にゼプリルとして参加するのかことがあるのかとも考えた火威だが、動揺している貴族達の反応を見るとピニャ独特の趣向らしい。

その効果か、般若の顔になっていた貴婦人は唖然として、次に諦念へと変わり静かに席に着いた。その時、一瞬富田が腕を絡めるボーゼスを見て、驚きと覚悟を決めたような表情をした気がしたが、何せ一瞬な事なので解らない。

ボーゼスが皆の注目を一身に浴びる主役の座を、ピニャらに奪われたことに対して反感、怒り、苛立ちと言った複雑な悪感情をで、富田と絡める腕に力が篭ったことなど、火威が知る筈も無いのである。

 

火威が極度に栗林を恐れたのは、彼が公言する「根に持つ性格」が形を変えた形態の現れだった。

基本的に女性に対して「恨み」という感情を抱かない彼は、彼の実の姉である女性に対して憧れや畏怖の念を抱いていた。 そして姉は、正に栗林と同じあからさまな武闘派だったのである。

故に火威は栗林に対して明確な憧れと恋心を抱いた。

だが栗林の暴走を目の当たりにしてから、火威の心には恐れのみが残った。栗林に想いを寄せ、恋焦がれた分だけ深く大きな恐れが残ったのである。

直後にジゼルと男女の仲になり、神である彼女の心を惑わせているのだから、火威という男は罰当たりモンである。

暴走時の栗林と似たようなキャラクターで奥・オークというのが居るが、アレはヤバい。本当にヤバい。

 

 

*  *                             *  *

 

 

どうしてこうなった。

現在の火威の思考を、一言で説明するとそういうことだ。

ロゥリィが婚姻の儀式を執り行おうとした時、声高らかに意義を唱える者がいたのだ。

一瞬、般若顔の貴婦人の仕業かとも考えた火威だが、答えは違う。異議を唱えたのは昨日、親子丼のネーミングセンスに目を白黒させていた蒼服のドレスを着た少女だった。メイベル・フォーンという名の亜神だ。

地上に現れた六柱目の亜神と言っていて、他の五柱の亜神はドワーフのモーターと肉食植物系美女のワレハレン、そして┌(┌^。^)┐ホモォなエルフ男とロゥリィだから、やはりサリメルは亜神とは違うらしい。

だがパレスティ侯爵の「六本目の亜神が現れたなど聞いてない」という問いとも思える呟きに対して、メイベルは「名乗りを手控えて参った故」という答えを返していた。

仮にサリメルが亜神で、何かの都合で名乗りを手控えていたなら通信手段の無い特地ならば知らなくても不思議ではない。

そして亜神同士は引き合う……なぞと、ふざけた事を抜かす者が居るような気がするが、同じ事を考えたのは火威だけで、現在アルヌスに居る他の亜神は全てロゥリィが昔の貸しやその他の縁で呼び寄せたのである。

誰か解らない自衛官と火威の冗談を真に受けて混乱した挙句の凶行か、とも一瞬思ったが、違うようだ。ロゥリィが結婚式に関わると、結婚できないズフムートの呪いが掛かっているので、それを成就させに来たのだと言う。

実にピンポイントな呪いを掛けたものだと思うが、実に迷惑な呪いだ。後に聞いたロゥリィの話しでは、ズムートの信徒が行う行事を邪魔すると、同じ事が永遠に出来なくなるという。

非常に底意地悪い効果を持った加護だと思うが、火威の他人の振りみて我が振りを直そうと思う話しだ。今回はアルヌスの住民、そして自衛隊が本気モードで大祭典を開き、その中で結婚式も行うから、呪いも発動出来なかったらしい。

最初、メイベルはロゥリィが司祭を降りれば呪いは発動せず、結婚式も問題なく執り行えると言っていたが、ナッシダを行う為に他の亜神をアルヌスに呼んだのは他ならぬロゥリイだ。

ロゥリィが居なければ出来なかった事をやるのに、最後の最後で祭祀から放り出すなど通常の神経を持った人間なら出来る筈がない。ロゥリィに大恩ある火威なら尚更の事で、その意見はこの場に居る多くの者が同じだった。

だが、退かないのはメイベルも同じだ。ロゥリィや伊丹と闘うために、眷属代わりの助太刀も用意しているという。

「げ、あいつかよ……」

祝い事の席を血で汚すような事は勘弁願いたかったが、こいつの登場も勘弁願いたい。そいつは┌(┌^。^)┐ホモォの片割れの綺麗なシュワちゃんの方だった。

しかも伊丹に戦わなければ花嫁を奪う、とか言ってる。

特地に来て以来、久々のジャイアニズムを目にした火威だが、この綺麗なシュワちゃんは見た目通りのバトル大好きっ子らしい。だがここはアルヌスで、仮にも日本である。そして日本の法律が適用されるから、私闘などは認められない。

更に言えば自衛官の個人的な都合で装備は貸与されないし、仮に伊丹が勝負すると言ってもシュワちゃんが背中の鞘から抜いたような諸刃の剣のように、武器を用意することなど不可能なのだ。

「全くやれやれだぜ」とか思う火威を余所(よそ)に、ロゥリィとメイベル、そして伊丹とシュワちゃんのやりとりを聞いていた海上自衛官二佐、そして大祭典の実行委員長である江田島が、この一件を宗教的な儀式の意味合いが強いのかとメイベルに問うている。それに対し、神の呪いが関わっているのだから、その通りだとメイベルは答えた。

それを聞いて、江田島は一つの方策を導き出した。

怪獣退治と並ぶ自衛隊の伝統で、何故か死人が出ない棒倒して勝負しようと言うのだ。挑まれたのはこちら側、ならば勝負の方法は挑まれた方が選ぶというのが我々の流儀らしい。そんな流儀は知らなかった火威だが、役に立ちそうなので憶えておこうと思う。

棒倒しは、百五十人ずつに分かれて敵方の柱に似た棒を倒すか三秒傾けると勝利する競技だ。元々大祭典では別の出し物として今現在も行われている最中なのだが、火威は色々規格外過ぎるので出禁にされている。そして栗林のように打撃系格技経験者も出れないルールだ。

だが今回は真っ先に伊丹ではなく江田島に、ロゥリィ側チームの黒軍の百五十人に組み込まれてしまう。

火威は止められてもミリミリっと、ちゃっかり黒軍に入ろうとしてたので、これには拍子抜けした。

「まぁ良い。シュワちゃんには各の違いという奴を教えてくれよう……」

独りごちる火威は早くも戦闘態勢だ。実際の戦闘とは違うが、久しぶりの実戦競技とあって腕が鳴る。

それは他の自衛官も同じだ。特選群の南雲や剣崎、そして通常のルールでは出場出来ない筈の栗林も黒軍に入っているし、勿論富田も黒軍として出場する。倉田や式の写真を撮っていた清水も出場するようだ。

他、レレイとテュカも黒軍に付いたし、アルヌスの傭兵のウォルフやメイアのような亜人の従業員も黒軍で存分に力を振るうという。また、ペルシアらフォルマル家の戦闘メイドも黒軍として参加する。

そして無論、黒軍たる黒ゴスの使徒ロゥリィも出場するし、ピニャら薔薇騎士団の団員達もロゥリィの旗下で戦えることを一生の誉と参加している。

出蔵はアリメルを孕ませ、今回の大祭典で魔法少女のフィギュアやガン○ラを貴族に高値で売って、出産費用を稼いでから守りの人生に入り、可能な限り危険は避けると言って出場しない。ヲノレ、リア充……。

対してメイベルの蒼軍には般若顔してた貴婦人のレディとアンという女性が早々に参加表明している。それに続けて蒼軍に少なく無い数の伝統貴族が蒼軍に参加した。

これを見るに、レディという人物は帝国の貴族社会の中でそれなりの力を持っているようだ。

本来なら大祭典に十数万もの人間が参加する予定は無かったのだが、┌(┌^。^)┐ホモォなエルフ男の亜神がピニャより先にレディに話してしまったことで一気に帝国貴族、並びに帝国周辺の有力諸侯など、貴賤を問わず多くの者に伝わってしまったのである。

それを考えればレディという貴族の影響力は油断ならない。だが、それら貴族が蒼軍に組しても百五十人には及ばなかった。そこに声を出したのはメイベルとトラブってた筈の禿を始めとするエルダー一家だった。「レディ様、いつものように金を出してもらえるなら手を貸しますぜ」

と言ってたところを見ると、互いに顔見知りで尚且つ不正の臭いが漂う。差し当たり、レディという我儘貴族の意に沿わない商人やら豪農に嫌がらせする為にエルダー一家を差し向けて商売や畑を荒らす、などの行為をしていると火威は直観した。

蒼軍には更にエムロイの神官である筈のヴォトカ司教が組みした。何故エムロイの神官が蒼軍に? と思う火威しだが、ロゥリィ曰く「反抗期なのよぉ」らしい。良い年したオッサンが司教にもなって反抗期とは、実に情けない。

それでも一人足りない蒼軍は、一人くらいは誤差の範囲だとか言ってシュワちゃんが二人分働くとか舐めたこと抜かしてたが、終わった後にケチ付けられても適わない。

その火威の思考は別にして、江田島はパレスティ伯爵を蒼軍に入れてしまった。

「伯爵閣下は、最初結婚に反対なさっていたと聞きましたので」

江田島に結婚反対派貴族の中に連れて来られたパレスティ伯爵は実に居心地が悪そうだ。

「だ、だが今は認めておるぞ!」

「いえいえ、まだ心の中にわだかまりがあるんじゃないですか? ならいっそ、結婚反対派に参加していただき、これに勝ったら侯爵が堂々と娘さんとお孫さんを連れて帰る、というのはどうかと思うんですよ」

「なに、ボーゼスとマイを儂が連れて帰ってよいのか?」

そうして百五十人対百五十人の棒倒しが、今まさに開始されようとしていた。

負けるワケにはいかない。

「現実という奴を教えてやる」

何の現実なんだかサッパリだが、そう独り呟く火威が開会式の会場となった大広間に向かって行った。




今回は棒倒しの下準備で一話使ってしまいました。
次回も棒倒しで一話使いたい……のですが、そこまで文章力は無いかなぁ……。
そんなワケで質問や意見、感想など御座いましたら、忌憚なくどうぞ!

…………って言うか、お気に入り指定が360人を越えてた!?
皆様! 本当に有難う御座います!

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