ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ。庵パンです。
異様に時間が掛かってしまいました。
原作をなぞるとついつい原作まんまやってしまって、そこがまた心情的にキツイのですのよね……。
そしてアニメでロゥリィの中の人の種田理沙さんが活動休止とは……。

これは来年の7月にゲートの続編というポジティブな期待して良いのでしょうか?
ってうか艦これの続編では足柄さん出ないんでしょうか? 或は代役?
庵パンめは種田さんの足柄先生が良いと思います。
っていうか嫁艦の祥鳳が大破とか有り得んので作り直しを要求すr(y


第十二話 黄泉返り

メイベルが結婚式に異議を唱えた時、火威はつい反射的に土下座で式の継続を頼み込もうとしてしまっていた。

今考えれば、無駄なことをしなくて良かったと思う。自身の土下座を無駄に安くしなくて済んだ火威は棒倒しの会場で江田島の声に耳を傾ける。

「皆さん!正々堂々とした戦いを望みますよ。戦いが終わった後で文句をつけるのは無しです。ですから全力で戦って下さい」

江田島の注意が両陣営に行き渡った。

棒倒しの為、既に自衛官らは運動着に着替え、テュカやレレイらもゼプリルの衣装を脱いで軽装となった。

蒼軍の貴族達も、フェンシングの防具に似た運動着に着替えて競技が開始されるのを待っている。

火威は競技が開始される前に、自身を落ち着かせて現在に到るまでの自身の状況を客観的に見ようとしていた。

部隊を指揮することのある幹部自衛官なら必要不可欠なスキルなのだが、客観的に見て解った事が二つある。

心構えが舐めプだったのはシュワちゃんでは無く自分の方だったのだ。

相手の力量も解らない状態で早々に┌(┌^。^)┐ホモォというだけで軟弱者と決め付け、自身の力を過信している。

戦いに臨む者が一番やってはいけない事だ。第一、亜神の眷属がである者が、普通の基準で測って良いはずが無い。

メイベルが伊丹をロゥリィの眷属と言ってたが、火威は銀座事件以降を始めとする伊丹の功績を知っている。「喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっと人生」をモットーにしていると隊内では色眼鏡で見られているが、実際の手柄の数を鑑みれば脱帽モノなのだ。しかも特選群出身っぽい。

亜神の眷属とは、それくらいのレベルの人間ということになる。それを考えれば、シュワちゃんを警戒しても警戒し過ぎるということは無い筈だ。ジゼルはサリメルが亜神であると言っていたが、やはり間違いなのでは無いかと思う。あの変態が神とは、どうしても思えないのだ。

さて置き、こうして向かい合って見るとシュワちゃんが只者で無いことが、その肉体に漲り周囲に張り詰める闘気で解る。

火威は確信した。特地に来て以来、(栗林を除く)人間の中では一番の強敵である。

そのシュワちゃんと反対派貴族の後ろには、柱とも言える太さの倒すべき蒼軍の棒がある。

そして解ったことのもう一つは、万が一に火威が不参加の時に彼がやろうとしてたことを、江田島に見抜かれていたことだ。

火威は帝都に行く度に毎回片道六時間、帰る時にも六時間の往復十二時間を、それなりに質量(兜跋に入った火威)を高速で飛ばして行き来している。

レレイ曰く「軽くない重量の物体を長時間の連続使用で力尽きないのは脅威的な事」を成しているのだから、嫌でも魔法の能力は研鑽される。

それでも今の時点で火威が魔法を使う場合、じっくりと法理を開くために精神を集中させる必要があるのだから、広場でやろうものなら誰から見ても魔法を使うであろうことが明らかとなる。

火威が見学の場合、棒倒しを見る観客の後ろでこっそり法理を開豁して蒼軍の棒をグググっと倒そうとしていただろう。

「海のゴロウ、侮れぬ」

この戦い……今から始まる新婦を懸けた棒倒しは、魔法の類は一切禁止である。ついでに言うと海上自衛官の二佐である江田島の下の名は五郎である。

 

 

「もーい。新人ノ亜神ガろぅりぃニ喧嘩ヲ売ッタト言ウノハ本当カ?」

「そうなんですよおワレハさま。メイベルって名前だそうですう」

「嬢ちゃんに喧嘩を売るとはなんという命知らず。だが、こうなると面白そうだ……」

「ユエル、折角の機会だから頑張って暴れておいで!」

ボーゼスをあたかも優勝の景品のように、会場を見渡せるひな壇に座らせて、その両端を守るように勝負の立会人である亜神が腰を下ろし、モーターとホモいエルフ亜神のグランハムが酒を注いだ杯を掲げる。

「おい、どうして参加しちゃダメなんだよ!?イタミの知り合いってことなら参加資格はあるだろう!?」

ジゼルは久しく自分が好きな火威の姿を見ていた。今は戦いに臨む(まなじり)と精悍な顔付きになっていて、それはそれで魅力もあるのだが、少し前は冷たい表情の下に敵をどう料理してやろうかと企む加虐的な眼だったのである。

しかも棒倒しなら堂々と皆の面前で火威の踏み台にもなれる。

そのシュチュエーションを想像すると、今にも鼻血が出そうだ。

「空を飛べる猊下が参加してしまったら、黒軍が有利になりすぎてしまいますでしょう?……とうか、何故お御顔が赤く?」

フラムに(たしな)められるついでに指摘され、慌てて暑さのせいと誤魔化すすジゼル。

アルヌスの門が閉じられるよりのより少し前、ジゼルはロゥリィに諭されてからハーディから言われたままで無く、自分自身で見聞きした事を調べるように心掛けている。

物事の発生地点や、過去に起こったことでも事件や事柄が記された記録がある図書館に行くようにもしていた。

その調子で数ヶ月前に設立された駐屯地附属の特別図書館で日本文化に触れ、色々な物を知識を追加していたのである。

お蔭様で、考えるだけでも鼻血が出そうな妄想で出来上がる。が、彼女は思い起こすように火威を同じヒト種の女に渡したのだと、心の内で(かぶり)を振る。

それでも、もし出来ればもう一度くらい……。などと、想い人と同じように独り相撲で忙しいジゼルは、傍から見て意味不明の青い巨乳さんだ。だがジゼルも火威に「合コンの中で同じヒトの女に告白する」ことを約束させたし、ジゼルも火威のことはスッパリ忘れるよう努力している。

 

「では、これより棒倒しを始めます。よ~い」

江田島が左右の両陣営を見てから、空砲を確認して拳銃を掲げる。

黒・蒼の両軍が息を飲んで合図を待った。

号砲が鳴ると両軍の攻撃班が広間のほぼ中央ですれ違い、双方の攻撃の的に走り出して行った。

五分間の死闘が始まったのだ。

 

 

*  *                            *  *

 

 

シュワちゃんを先頭に一軍となって、裸足で突き進んでくる蒼軍の攻撃班。

地響きすら感じられる蒼軍攻撃班の猛進に、黒軍の指揮官は狼狽えながらも指示を出す。

「きたきたきた。駆け引きもなんにもない力押しです! 迎撃班出動!」

棒の上からの命令に、倉田や清水らの迎撃班が前に出た。

倉田ら三十名の迎撃班は二重の横隊を作って蒼軍を迎える。

が、シュワちゃんがその中央に突き刺さるようにして突撃すると、倉田達は一撃で吹き飛ばされてしまった。

「俺の出番これだけっスか~!?」

しかし二枚目に控えていた壁は予想より遥かに高かった。突撃するシュワちゃんを阻もうと、禿げた自衛官がその前に現れて、あたかも相撲でも取るかのようにズボンの両腰に手を掛け、シュワちゃんに組み付いたのである。

「んぬっ、ここは通さんッ!」

魔法の使用が厳禁されてる火威は、久しく味わう生身の戦闘に突入したのである。

「クッ、貴様そこをどけェ!」

「できるかァ!」

火威の任務はこの場でシュワちゃんを封殺し、時間一杯まで彼を拘束することだ。火威とシュワちゃん、もといユエルの純粋な力比べが開始されたのだ。

「……貴様っ!この軍の名のある武将と見た!」

こんな時でなければ、別の形で決闘を申し込みたいと思わせる禿頭の男だ。

だが火威はその言葉に律義に応えてやる義理は無い。というか余裕が無い。

火威は特地で初めて自分より力の強い相手と力比べしている事を悟る。

「だが、やらせん!」

次第に黒軍の石垣ならぬ人垣に、どんどん押しやられてしまう。本物の相撲だったら既に押し出し状態だ。

実際、本物の相撲ならうっちゃりたい火威だが、今の状況でユエルをうっちゃっても黒軍の棒に近付けるだけなのでそれも出来ない。

黒軍の他の壁役である栗林や南雲はユエル以外の蒼軍攻撃斑の意識を刈り取るべく攻撃に忙しい。

ここは火威一人で支えきるしかないのだ。

「……ぐッ!そこをどけェ!!」

雄叫びを上げるように怒声一発、激昂したユエルが袖を掴み、大外刈りのような形で火威を地面に叩きつけた。

素手による肉弾戦で潜り抜けてきた修羅場の数の違いと言える。

「ほガァ!?」

火威は後頭部を強かに地面に打ち付け、暫しのあいだ卒倒してしまった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

次に火威が付いた時、全てが終わった後だった。

最終的な結果から言うと黒軍が勝ったのだが、それに至るまで紆余曲折あった。

自衛官でありつつ観客となっていた出蔵によると、勝手にシュワちゃん呼ばわりしていたユエルは、火威が気絶した直後に富田や他の自衛官がが抑え付け纏わりついたが、その怪力を以て自衛官やら富田にしがみ付いていたユエルから引き剥がそうとしていたパレスティ侯爵ごと、棒の上で指揮していた伊丹に向かって人の塊を投げ付けたらしい。

それだけを聞けば負けたのかと思うところだが、その時には黒軍の攻撃斑も蒼軍の棒に殺到し、特地班や三人娘とヤオの波状攻撃で蒼軍の棒をえいやっ…と倒しているところだった。

結果として棒倒しは引き分け。

だがズフムートの呪いを成就させんとするメイベルはこのままでは済まさない。ロゥリィに一騎打ちを挑んだのである。

「一騎打ちって、あの娘は武器なんて持ってないやん」

と指摘した火威であるが、出蔵はメイベルが自身の胸を切り開いてディーヴァという剣を取り出したのだと、この場で起きたスプラッタ的な出来事を説明した。

火威も過去にフォルマル邸でこの世界の神や亜神にについて。はたまた特地の歴史の触り程度を学習したから、血剣ディーヴァの存在は知っている。

秩序を司るズフムートの神力を持った宝剣で、正当な所有者である王の縁者以外が持つと(たちま)ち朽ち果ててしまう上に、使う度に一人の命を奪うことになるから使用は控えられ、それまでエデンという国も国教であったズフムートもエムロイが国教になった。

ロゥリィが亜神になったのはその前後だろうと予想出来るのだが、その時代に詳しく何があったのかは解らない。

火威はタンスカや閉門騒動時にもロゥリィの実力を知っているし、その上で稽古を付けてもらっているからロゥリィが負けることは無いだろうと気軽に聞いていたが、メイベルはロゥリィの九百五十年前の親友の子孫で生き写しと言って良い姿だという。

そしてズフムートの信徒の中で語り継がれている歴史を信じてるメイベルが、アルヌスまで来た理由が改めて判明する。

九百五十年前の結婚式を邪魔し、中断させた呪いでメイベル・フォーンの女は(ことごと)く結婚出来なかったらしい。

だがそれはメイベルの祖先であるベルティ・エム・フォーンが、その頃にエデンと言う国の摂政であるメタノールとかいう酷いロリコンに名目上の結婚した後、彼女が心臓に宿す血剣ディーヴァを取り出されて殺されてしまうからだ。

伊丹は呪いのせいではなくて蒼髪のせいであると指摘したが、それもメイベルは聞く耳を持たなかったという。

彼女の主神であるズフムートは、その目で世界を見て回れと彼女を昇神させた。これは余りにも間違った事を教えられているから、ちゃんと自分の目で世間を見てこいと諭しているのだろう。

しかしながら、火威が考えていた以上に緩い昇神の基準の低さだ。

余りの基準の低さに、サリメルが亜神というのも満更ジゼルの考え過ぎでは無いような気がした。

九百五十年前をリアルタイムで生きて見ていたモーターや┌(┌^。^)┐ホモォなエルフ亜神のグランハムは、その歴史が大きく間違っている事を知っていて、メイベルの主張する歴史がズフムート教徒によって大きく歪められたことであることを知っている生き証人だ。

だが二人が言い聞かせた所で我執に凝り固まったメイベルは信用しないだろう。だから当の先祖に言い聞かせてもらうしかない。

そこで白羽の矢が立ったのがジゼルだ。その後の事は火威の意識も戻っていたから知っている。

亜神同士の戦場の近くに倒れていたのに、誰も回収してくれなかったと言うのは実に悲しい出来事だが、亜神同士の戦いからは目が離せるものでは無かっのだ。

戦死者を除き、殆どの者の魂が行く冥府を司る神であるハーディの使徒であるジゼルにメイベル先祖であるベルティの魂を連れて来てもらおうと言う話しが出たのは、ズフムートがメイベルを昇神させた理由を、彼女なりの(間違った)見解をロゥリィに叩き付けた時からだ。

しかしハーディという神は悪戯好きで捻くれ者らしい。誤解させておいた方が面白いとか言い出すかも知れない……なんてことを言い出すのではないかとジゼルは心配する。

もし閻魔大王が似たようなトリックスター的なキャラだったら嫌だなぁ……と火威は思うところだ。

「大丈夫大丈夫、ハーディとズフムートはめっちゃ仲悪いから、メイベルって使徒の娘を絶望させて離反させる目的って言えば、手駒を増やしたがってるハーディは手を貸してくれるんじゃないか?」

そんな陰に満ちた方策が、まさか太陽神の使徒の口から出てくるとは思わなかったジゼルと火威である。水清いと魚棲まずと言うが、こんな調子なら存外付き会い易い神かも知れない。ただしホモい仲はだけは勘弁である。

「あ、兄貴って……腹黒いんだな」

ジゼルは大きく頷くと、大地に大鎌を突き立て両手をぎゅっと握り合わせた

 

この戦いがズフムート信徒であるメイベルの育て親から彼女に吹き込まれた間違った知識と、それを元に形成されたメイベル自身の我執が起発点と解ればロゥリィがハルバードを握る手にも力が入らない。

戦っている理由が馬鹿馬鹿し過ぎて、事に本気で打ち込む気など萎えてしまうのだ。

その為ロゥリィは防戦一方で、何度かディーバの打ち込みで吹き飛ばされて苦戦していた。

「もういい!この分からず屋はぁ、幽閉するっ!」

何を言っても一つの考えに凝り固まり、他の可能性も考えようとしない餓鬼にディーウ゛ァなど持たしてたら何しでかすか解らない。

だから親友の子孫とかそういうことはどうでもいい。解体して幽閉するのだ。

メイベルもロゥリィの意図を察し、ディーヴァを構えて気合いを入れ直した。

しかしその時、ロゥリイとメイベルの間に天空から光が差し始めた。

「者共、聞け! 冥王ハーディからのお言葉である!」

ジゼルの宣言が轟いて、周囲の群衆が片膝を突いてひれ伏す。それまで戦っていたロゥリィを始め、ダンカンやグランハムまでもが構えを解いて片膝を突いてひれ伏したのだ。

即座に反応出来なかったのは伊丹達日本人の自衛官くらいのものだが、火威なんかはすっかり特地の習慣が身に付いているというか染み込んでいるので、さり気なく片膝突いてひれ伏している。

ジゼルは、それを気にすること無く続けた。

「メイベル・フォーン。汝に祖たるベルティらの魂との面会を許す。それらと話をし、真実を知るが良い」

「なっ!?」

凍り付くメイベルの前に、神々しい光の柱が降りてきて、そこにベルティの姿がうっすらと浮かんだ。




棒倒しでは火威は全くの役立たずでした。
ジゼル的にはOKかも知れませんが、栗林的には振り出しに戻ったかも知れないです。
まぁ、そこは……ファン小説だから多目に見てくだされ……。

次回はいよいよ二部の最終回の予定です。
二部のラストと三部の序盤は続いた話しみたいに解りにくいかも知れませんが、
どうか堪忍して下さい。

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