ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
なにやら今までで一番サブタイっぽさが出たと自負しますが
それっぽい慣用句があったので改変しました。
意味? 知ったこっちゃぁないんですよ(
最近、この章のメインヒロインである栗が出て来ないので、どうしたもんかと……。
どうしよ……?


第十話 明日を知らぬ雪

陽が落ちてマリエスが闇に包まれると、氷雪山脈には本当に吹雪が吹き始めた。

見ている限り四六時中呑気そうなショタ系亜人のロクデ梨の半分を食った二人からの情報だったために信憑性が疑われ、余り深刻に考えていなかった火威だが、実際に時間になってみるとニセコで猛吹雪が起きた時と同じくらいに激しい吹雪が吹いている。

そして、明日になって城門を開ける前に城内の雪掻きをしなければ、雪中に棲む怪異が城内に侵入してしまうという。

と、言っても、城壁から少し離れた部分の雪を広めに掻くだけでも防止できるので、そこまでの重労働ではない。

それにマリエスには二重の城壁がある。城内に雪が積もっても内側から内堀に雪を捨てていけば、雪に乗じて怪異の侵入を許すことは無いのだ。

だが建造物の上にも雪は当然積もる。山脈内にあるマリエスは雪濠地帯の都市なので、この種の雪掻きをしなければ建物は雪の重さで潰れてしまうのだ。

その対処は後に説明するとして……。

火威は夕飯の時間になってシュテルン家の晩食に呼ばれた。

現在の家長の晩餐に呼ばれたのはグランハムやユエルも同じなのだが、帝都から来た百人隊長は来ていない。百人隊長程度のくらいでは、然程(さほど)重要視されないようだ。

幹部自衛官とは言え火威も、それほど高い位とは言えないのだが、今現在マリエスに居る自衛隊の中では唯一にして最上位の位の持ち主だから呼ばれている。

火威は自分程度がアルヌスの自衛隊を代表するつもりは無い。東京大学の哲学科なんて所を卒業した狭間陸将の思考を真似る事など出来ないし、やれる筈も無いことことは解っている。

だが火威の発言は“自衛隊”の発言として受け止められてしまうのだ。更にはアルヌスの評判にもなりかねない。

帝都から来た部隊も、少なくは無い兵力で来たのだろうが百人隊長程度を寄越してモルトは戦下手なのか? と思う所である。

実際の所、現在は氷雪山脈に向かう兵力が編成されて接近中なのだが。

 

火威を招宴に直接招きに来たのは、亜人のメイドだった。肌の色はピニャやレレイと余り変わらないが、その耳は龍人に近く上に突き出ていて角も生えている、広義で言うところのハリョだ。

メイド服はフォルマル邸の蒼いロングスカートではなく、漆黒に近い黒のロングスカートだった。

太い尻尾がスカートから出ているところを見ると、龍人とヒトの混血らしい。美女と言えるが表情は暗く、ジオらショタ系亜人の能天気さを幾分か分けてあげたいと思うが、現在のマリエスの状況を考えれば彼女の状態は健全だろう。

 

「ヒオドシ殿、態々呼びつけて申し訳無い。そしてアルヌスから救援に来てくれたことを本当に感謝する」

面倒ではあったが、現在の街の代表に晩餐の間、会合も兼ねた相手をする。

これも任務の内と考えれば仕方ない。グランハムやユエルも同席してはいるのだが、今日、リーリエの話しの相手をするのは火威のようだ。

亜神と眷属は今日の戦果や出会った敵の事などを話しながら食事を摂っている。

リーリエから掛けられた言葉の「本当に」のところが強調されていたところを見ると、彼女は本当に苦労していたらしい。火威も知り合い含む死人や訳の解らない怪物に襲われては堪らんので、リーリエには同情する。

それでもリーリエはそれら怪異と闘い続け、今日まで持ちこたえてきたのだ。恐らくSAN値の概念すら無いのか、サリメル並みにごん太の精神が良い方向に働いているのだろう。

「いえ、今ファルマートがまた戦国乱世になっちゃ、自衛隊も困りますからねぇ」

「そう言えば講和はニホンから申し出されたんだったな。何故だ? 戦かえば勝てるのに何故なんだ?」

「へ? あぁ、日本は基本的に平和ならそれで良いんですよ。あとちょっと賠償金とか資源とかで儲けさせてくれれば」

言葉尻は声が小さくなっていったが、リーリエはそれで納得したらしい。

「とまれ、貴殿に来て貰わなければマリエスは危なかった。輝下や眷属殿にも御越しになられているが、何せ手が足りないからな」

火威はマリエスに来てから先程、亜人女性のメイドに呼ばれるまでに、リーリエ以外のシュテルン家の人間は既に死亡、または行方不明になっている事を聞いた。

母は数年前に病没。頭首であった父と兄はこの動乱の最中、生ける屍との戦いで戦没し、弟はその戦闘で行方不明になっている。

現在、シュテルン家で確実に生存しているのはリーリエだけなのだ。

帝国が日本に進攻した当初、僻地故にヒトが少なく、戦闘員の多くを亜人に頼っていたシュテルン領からは、亜人を帝国軍の軍列に列する事を良しとしなかったが故に、小さくない勢力を持っているにも関わらず、銀座事件にも、アルヌス奪還にも駆り出されなかった。

だが、シュテルン家と亜人の仲はフォルマル家ほど良いものでは無い。寧ろロミーナの代にマリエスを拓いた頃は、亜人達の力を利用しながらも、時には虐待するような悪いものであった。

リーリエの父であるパラオの代になってから再び亜人の力が必要となり、帝国全体でも亜人の地位は向上してきたのでシュテルン領の亜人の発言力も増したが、多くの亜人には釈然としない心持ちが残った。

リーリエ自体は亜人に対し、フォルマル家の人々と変わらない程度に接しているのが傍に控える龍人やハリョのメイドへの態度で解る。

昼間の戦闘では鉄の塊であろうロングスピアを振り回し、敵を圧倒していたが今は穏やかな表情の貴婦人だ。

ボーゼスのような豪奢な金髪縦巻てきロールではないが、煌びやかなストレートの金髪を持ち、防衛時に見た緋い戦装束が良く似合う美人である。

それが下仕の亜人に事細かく説明し、ものを頼んでるのだから、悪くは無いのだろう。

「あぁ、そうだリーリエさん」

メイドに用件を伝え終え、居住まいを正した今日以降の事を伝えなければならない。

「今日、私は現在の山脈の状況を確認するのが主な任務内容だったのですが、救援要請通りの状況でしたので、一度アルヌスへの帰還し再度来る事を予定してました」

「そ、それは困るな。輝下とユエル殿が降臨されてはいるが、貴殿に去られては……」

グランハムやユエル、そして矢鱈と頑丈なノヴォールの衆という亜人の集団が居ても敵と拮抗している状況だ。自衛隊無しに今日のような守勢が続けば、何れは押し負けてしまうだろう。

「えぇ、ですからマリエスか、この近くに鸚鵡鳩通信を送れる所はありますかね? それでアルヌスに状況を伝えて任務の継続と応援要請を打診しますから」

「いや、す、すまないヒオドシ殿」

今の状況で山脈から離れられないのは、火威も良く理解していた。だが鸚鵡鳩通信の話しの中で謝れるとなると、僻地故の懸念通りなのかも知れない。

「この地で鸚鵡鳩は生息出来なくてな。帝都や近隣の街や村への知らせは伝令が馬や徒歩で行くしかないんだ」

予想通りではある。火威も高校時代まで、一番近くのコンビニは徒歩で15分は歩かなくてはならない場所に住んでいたのだ。この程度の不便には慣れている。

まぁ、今回はマリエスに居る多くの人間の命が掛かっているから、重大性はコンビニの比では無いのだが。

一月(ひとつき)二月(ふたつき)程度、オレとグランハムで敵を押し留めてやる」

脇から口出ししたのはバトル大好きっ子のユエルだ。飛び道具でもあったら彼の言葉を当てにしたいのだが、生憎ユエルは接近戦専門である。

その力は先の大祭典で味わった火威自身、大いに期待しているが今回は相手が相手である。人間のホモだが英雄視されているユエルに斃れられると士気に関わる。

そんなに長くなくて大丈夫、と火威は掌を柔らかく(かざ)しながら言う。

「吹雪が止んだらアルガナを占拠している連中を倒して、そのまま帝都に行って鸚鵡鳩を使おうと思ってるんですよ。往復で半日程掛かりますが、その許可を頂けないでしょうか?」

火威の言葉を聞き、リーリエのみならずユエルやグランハム。また控えていたメイドも身体の動かし方を忘れたように固まった。

 

 

*  *                             *  *

 

 

「しかしビックらこいたなぁんね。蒼いヨロイさんの中身が見事なまでのハゲさんだったとは」

「いやいや、ハゲさんはアルガナで僕らの隊長さんを見た時、なにやらビックらこいてたなぁん。前に帝国とアルヌスのジエイタイで戦争してた時に見知った仲なんじゃないかなぁん?」

ジオはアルガナの敵勢力を掃討しに行ったロペロと情報交換していた。

と言っても、彼らの種族が戦いに臨んだ時は、その頑丈な身体のお陰で自軍に被害を出すことが無く、最終的には相手方の根負けで和平に持ち込んでいる。

元々戦いを好む種族でもなく、毎日のんべんだらりと食う物に困らない生活が出来ればそれで充分な彼らには向上心も無く、故に他の種族の上に行こうと言う気も皆無に等しい。

そんなんだから、わざわざ互いが持つ「情報交換」なぞする必要も無く、というか必要性を見出せないので、雑談としての流れで話しているのである。

数十年前、山脈に住む他種族の賢者が集落に来て、このまま怠惰に生きていたらジオらの種族が世界から消えてしまうから、せめて子作りくらいは同じ種族で済ませろと言われた彼等だが、同じ種族の女よりも他の種族の女の方が魅力的に見えてしまうのである。

それはノヴォールの衆の女性も同じで、里の男よりも外の世界の男の方が幾段も良く見える。何があっても相手種族の子供しか産まれないという呪いのような生態のせいで、彼等の種族は年々数を減らし、今では五十人程度しかいないのだ。

最も、同族同士で子供を作ろうとすると、どうしても血縁の近い者との間に作るので、健康な子供が産まれ難くなるという事情もある。

ヒトに比べたら寿命が長く、戦いの中で倒れなければジオでもあと300年は生きるという。

山脈の何処かにいる賢者の苦労は、未だ報われずにいた。

 

 

*  *                             *  *

 

 

リーリエは執務室で、昨日までは減る一方の防衛部隊運用の編成に頭を悩ましていた。だが今夜に限って言えば難しく考えず安眠に就けそうだ。

ヒオドシというアルヌスからの助っ人は、それほど迄の力を持っていた。聞けばアルヌスからも昨日の夕刻から来て、今朝マリエスに着いたという。

しかも、十数オトル分のロクデ梨を積んだ籠まで物体浮遊の魔法で運搬してき事がノヴォールの亜人から明らかになっている。

話しだけ聞けば疑う所であろうが、実際にノウ゛ォールから来た二人の亜人が見て早速その成果を享受していたのだから信じない訳にはかない。

その亜人の一人は防衛戦の最中に兵舎を破壊し、それだけなら良かったのだが二人でロクデ梨を半分も食べていた。

リーリエも貴族としての一般教養の他、賢者としての学問を屋敷内に所蔵されている本から得ているのでヒオドシがどんな意図でロクデ梨を持って来たか解る。

幸いというかご足労ながらというか、この果実が必要になる病気は発生していなかったが、現在は篭城している状況なので貴重な食料資源である。

二人には本来なら重い罰が課せられるところだ。だが只でさえ少ない人員を拘束して減らす訳にも行かないので夜中中雪掻きの罰を申し付けてきた。

 

さておき……。

 

魔導士としての向き不向きは家系等に依る血筋や努力の程度にも左右され、リーリエ自身も一応は魔法を使えるのだが、一番大きい要素は個人の才能である。

アルヌスから来た魔導士は、帝国は勿論、ファルマートで名高いカトー老師と、今のファルマートでは知らない者が居ないレレイ・ラ・レレーナ導士の二人から師事を受け、尚且つ自身もロンデルで博士号を持つという男だ。

以前ならリーリエもロンデルで学問を学びたいと考えていたが、シュテルン家の頭首となった今では、夫となった人物に政務を押し付けなければ無理だろう。

仮に結婚して夫に政務を任せる事が出来ても、貴族という身分からロンデルで他の学士と同じように下宿先に泊まり、学問を研鑽していくのは無理かも知れない。

少し前まで同じような事を弟や兄にも話していて、貴族という身分ながらも理解のある家ではあったが、今は状況が状況だ。

屋敷にある本で学問を続ける為にも、そして領民を守る為にも今は戦わなければならない。

リーリエが戦い続け、そして勝ち生き残ることの出来る希望がアルヌスから来たのだから。

 




何やら新キャラのリーリエがヒロインっぽくなっています。
これは……予想外。でも栗林がヒロインですのでッ!
で、作中に出てきた「オトル」は特地の重さの単位です。
原作に出ている公式単位です。マジです。

さて、今回エロンダムの話しをしてませんでした。(今思い出した)
ある程度出来たら投稿しますね。まぁ本編は書き直しなんですが。
取り敢えず全年齢向けで投稿します。17.5歳くらい向けで。
ビルドファイターズなんで、どう頑張ってもグロとかのGは出せないです。
まぁガンダムだからどうしてもGなんですが。

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