ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
日本シリーズとその後の精神的ショックで投稿が遅れてました。
でもまぁ、札幌の隣が北広島だから、実質広島が日本一で良いんですよね?

そして結構時間が空いたのに、書いた文字数少ないです。
30年振りを逃したのはデカかった……。


第十二話 秋霜烈日

「まさか帝国からの追加支援が薔薇騎士団が中核の部隊とは思いませんでしたよ」

火威はグレイ・コ・アルドを呼ぶ際、普通に「グレイさん」と言ったり親しみを込めて「アルドン」と呼んだりと一定しない。

初対面で直ぐに親友になったせいで、どう呼んだら良いのか思いあぐねているのだ。

親しき中にも礼儀ありというのが火威の方針だが、親しみを込めた付き合い方をしたいというのもある。

陸上自衛隊では、判断は遅疑逡巡すべからずという事を口を酸っぱくして言われているが、火威はこの分野に於いては劣等生と言える。

「しかし考えましたね。馬では無く犬橇(いぬぞり)とは」

「雪上での移動には犬が良いと、土地の者が言ってましてな。それで少々時間を取られてしまいました」

今回、帝都から追加で送られてきた兵力は薔薇騎士団の白薔薇隊を含めて総勢で六百名居るという。

マリエスを守る兵員が少なくなっている中で援軍が来たのは喜ばしいことだが、その一部が薔薇騎士団というのは火威には厄介なことだった。

彼女等(一応男性団員も居るが)は貴族出身ながらピニャ・コ・ラーダ指揮の元、優れた剣技や野営、そしてそれに伴う“根性”を持っている。

そして、何と言っても美しい。その美しい女性達が傷付くのを見るのは忍びないのである。

翡翠宮の防衛戦でも、それを極力避けるべく戦いに(喜々として)参加した火威には余り嬉しくない二つ名が付いている。

今はノウ゛ォールの連中と火威が居るとは言え、被害を減らす戦い方を考えなければならない。

グレイを帯同して新たに来た士官とは、後で話し合う必要があると火威は考えた。

 

 

*  *                            *  *

 

今から二百年程前、ファルマート大陸が東方の騎馬民族の大帝国から侵略を受けたことがあった。

ファルマート大陸の国々は不倶戴天の国同士でも協力して外から来る敵に対して対抗する必要が出来たのである。

しかしそれでファルマートの国々が、未来永劫兄弟のような同盟国になれるほど単純なものでは無い。

ファルマート外の敵を撃退し、騎馬民族の一部を懐柔・吸収、そして騎馬の運用方法を取り入れ改良する事で、今まで以上に強大化した帝国に対抗するため、周辺各国は同盟を結ぶ動きが活発化した。

その同盟の中心的存在となったのが、魔導国家のロゼナクランツであった。

帝国の歴史書の中では、ロゼナクランツの王族以下、国民は全て帝国によって虐殺されているとグレイは語る。

「ロゼナクランツの武門の一部が生き延びたり、帝国に下ったなどと言う話しも耳にします。噂の域を出ないのですが……」 火威は、グレイの説明を聞き、朧げながらも敵の姿を掴む事が出来た。

昨夜、グランハムと共にリーリエから聞いた敵勢力の正体も同じような名称の連中だったからだ。

「しかし帝国も陰湿だよなぁ。自分に不利な同盟だからって小国をボコボコにするなんて」

そう言ったのは、犬が引く橇の上のヴィフィータ・エ・カティだ。

薔薇騎士団の黄・白薔薇隊の隊長は二人ともアルヌスに居るので、現在は実質的に彼女が薔薇騎士団の団長ということになる。

「まぁ、そういうことは何処の世界でもあるからなぁ」

「そうなのか?」

「そうだと思うんだけど」

高速でマリエスに向かって走っている最中に、例をかい摘まんで出せと言われても困る。火威はそこまで歴史には詳しく無い。

だがウ゛ィヒィータもそこまで興味は無かったようで助かった。

「それにしてもよ、こんなに走る必要あるのか?」

「ヴィフィータ殿、先程の宿の亭主やヒオドシ殿が申されてましたように、雪中の怪異が存在するのは事実のようです」

そのグレイの意見に、ホバーするように雪上を滑る火威も顔を寄せた。

「そうそう。貴女に何か遭ったら健軍一佐に合わせる顔無いし、雪中の怪異は後で見せるからさ」

精神衛生的にアウトでろう雪竜のヴィジュアルに、果してこの女騎士は堪えれるだろうか、なぞと思いつつも、翡翠宮や決戦時の薔薇騎士団の強さを思い返し、まぁ大丈夫そうだな、という結論に落ち着く。

「そういやシュンヤは?」

ヴィフィータが知っている日本人男性名は健軍しか知らないことは火威にも解っている。それでも念のために聞いておくのは、火威という男の用心深さを顕していた。

「健軍一佐はエルベ藩国から運んで来た原油を使えるようにする施設の責任者だから、こっちまで来てないよ」

「“へりこぷたあ”ってヤツで来れないのか?」

駐屯地に残っている燃料で来ようと思えば来れそうだが、片道切符になる可能性が高い。

「や、スマン。言葉足らずだった。チヌークってヘリの燃料を作るためにも施設が要るんだわ」

「お前が来たじゃないか」

「俺、独り飛んで来たんだよ」

火威は氷雪山脈に来てから何度か繰り返した説明を、ここでもう一度しなければならなかった。

「そりゃモルトの親父さんが欲しがる訳だ」

「あぁ、やっぱしそうッスか?」

マリエスに来る時、帝都を経由して情報を集める事も考えた火威だが直接来て正解だったようだ。

下手してカトリやモルトの意向を承けた者に会っても面倒だし、マリエスでは亜龍らの跳梁を許すところだったのだから。

「話しは変わるけど、氷雪山脈にある街の人口を把握してたりするかねぇ?」

「そりゃぁ解らないな」

「ですが全ての街を併せてもイタリカを多少上回る程度でしょう」

火威とて、明確な人口を把握しているのは期待していない。

アルヌスですら、閉門前後に漸く世帯調査をしたところだ。大凡の数が把握出来れば良いのである。そういう意味ではグレイの回答で火威は十分だった。

残りの生ける屍の数を知る為の質問なのだが、山脈内で生き残った人間は、現在、残らずマリエスに籠城している。

火威が氷雪山脈に来た時、ノヴォールの亜人達が交戦していた生ける屍は武装していた。ならば帝国から来た兵が山脈で死亡し、生ける屍となったと考えるべきである。

そんな思考が頭に浮かぶと、グレイやヴィフィータに氷雪山脈の人口を聞いた意味も殆ど無いことが解る。

火威自身、頭の巡りが良い方では無いことは解っているのだが、「勢いで考え」てしまう癖があるのが我ながら憎たらしい。先にハトリが率いて来た部隊の総数と、生き残りが解れば残りの生ける屍の数が大体解るのだ。

もっとも、ロゼナクランツという敵の魔導士は龍や怪異を使役してくるから、気休め程度の参考にしかならないのだが。

話している内に、マリエスの城門が見えて来た。その時、火威の脳理に対処のしようが無い事が思い浮かんだ。

「ん~……まさかと思うんですが」

「なんでしょう?」

律儀に答えるグレイに、火威は可能性の話と前置きして言う。

「外から死体を持ってくることなんて、ないスかね?」

 

 

 

*  *                            *  *

 

 

長剣が甲高(かんだか)い音を発して石畳に落ちる。

その長剣に続くように、四肢と首を切断された男が自らの作った血溜りに崩れ落ちた。

魔法を放った女は深く息を吐くと、自身で作った死体を一瞥して呟く。

「その身をつまらんことに使いおって」

傍には魔導士らしきローブを纏った様々な種族の男女が姿勢を屈めたり蹲って襲って来るかも知れなかった出来事に備えていた。

「な、何が起こってるんですか?」

手探りで辺りの状況を確かめようとする若い獣人の男。

「ロゼナクランツの連中が本に仕込みよった呪いじゃ。ヌシはその本を開いて、周りの者までも巻き込んでしまったのじゃよ」

直に視力は戻ると、その女……サリメルはベルナーゴ近くまで遊びに来ていたロンデルの学生達に伝える。

誰でも良かったのか、魔導士だから狙われたのかは解らないが、噂に聞いた生前の能力を持ったままの生ける屍が本当の事だと厄介な事になる。

「ロゼナ……クランツですか?」

「さよう、ロンデルの学生なら基礎の史学で耳にするであろう?」

最近の学生を試すように、サリメルは必要最小限の情報で問う。

「二百年程前に滅んだ魔導国家……ですね」

学生の解答は一応、及第点である。

「それがまた頑張り始めたようじゃな」

ミューの家族は大丈夫か……そんなふうに娘の養子一家を心配していると、武装した衛士に取り囲まれてしまった。今し方、現場を見た者が呼んだらしい。見ただけなら女のエルフによる殺人現場である。

素直に捕まったサリメルだが、彼女はその日の内に釈放された。

男が凶器を持っていたこともあるが、事件現場に居た証人達は殺害された男が売り物として差し出した本の呪いで目を眩まされたことや、男の所有物から滅びた国の末裔であることや、何者からの指示書が発見されたからだ。

これを知ったサリメルは、この男が自身がロゼナクランツの生き残りの子孫であることを知ったのは、つい最近なのではないのかと考えた。

少なくとも、指示書を残して事を始めるなど、玄人のすることでは無い。

「ハァ……疲れた。もう帰ろ」

サリメルが再び旅に出た理由となった敬称に関する用件は、もう済んだ。これからは大手を振るって使徒として名乗りを上げることが出来るが、今は疲れた。精神的に。

今となっては先の男が、どの程度ロゼナクランツと繋がりが有ったのか知る事は出来ないが、必要以上の警戒心で不必要に命を奪った気がするのだ。

サリメルは、かつてハーディから貰った道具である特別な力を持った自身の髪の束を使い、ニンジャオンセン郷があるロマの森までの道を開く。

 

 

*  *                             *  *

 

 

帝都で鸚鵡鳩通信を利用した火威は、すぐさまマリエスに引き返す。この通信方法では長文を伝えられない上に安くない。その上、鳩が猛禽類に襲われて届かないこともあるので、複数羽飛ばすしかなかった。

カードより現金派の火威ではあるが、現在給料となっている賠償金の一部前借りから支払われる給料はは小遣い程度の額しかない。内戦最後の報奨金やレシピを売って儲けた火威だが、今現在は他の自衛官と同じミニマム金持ちである。

早い話が何羽も飛ばせる金が無いのでピニャに借りに行ったのだが、帝国の一大事でもあるので担保無しで借りれた。というか頂戴できた。

この間にカトリなど、モルトの意を受けた者に会わなかったのは幸運だろう。会えばきっと時間が取られる。

帝都からアルヌスまでは600km以上離れてはいるが、火威の知る限り伝書鳩というのは追い風ではあるが、170km以上の速度で飛ぶ。個人の体感では飛龍より速いのだ。

まぁ追い風でなければ70か80km程度だった筈だが。

次期皇帝のピニャは今、忙しい身分なので面会できるにも時間が掛かる。帝都を出たのは陽が暮れ始めた頃だった。

氷雪山脈に入ってからは例によって猛吹雪が吹き荒れていて、強化型の兜跋でも寒いくらいではあった。だが冬季遊撃レンジャーの訓練課程に比べれば幾分か余裕はある。

冬季遊撃レンジャーが人の姿の樋熊というのは、言い得て妙かも知れないと火威は考える。

マリエスの屋敷に着いたのは深夜だった。腕時計を見れば日付を過ぎて数時間経っている。

「よぉヒオドシ」

声質としてはウ゛ィヒィータに似ているが、ウ゛ィヒィータではない女声が装備に付く雪を払い除ける特徴的なハゲ頭の背中に投げ掛けられた。

振り返ると、そこには一時同棲したことのある亜神がいたのである。

「げっ、猊下!?」




次は中ボスっぽいです。
まぁ中間という訳ではないのですが。

それとこの小説、目次の右端に(改)っていう訂正印が付いてからの方が完成度高いです。
きっとそうです。
付いてなお二週間とか間違いに気付かない時とかありますけど、マシになってます。

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