サブタイは単なるシュチュエーションです。っていうかなんとなくです。
全く酷いサブタイなんで変えるかも知れません。
要は思いつかなかっただけなんですが。
まぁ岩みたいに堅い雪を作中で成型するんで、勘弁して下さい。
「ジゼル曰く古代龍」を倒した火威には、予想通りのユエルの反応が待っていた。
「貴様! “ぼーたおし”では力を抜いていたのか!?」
「ありゃ単にアンタの力が強かっんだよ」
「飛べれば蒼軍の棒もすぐ倒せただろうが!」
「魔法は禁止だって江田島さん言ったよね!?」
ついつい感情的になり、口論になりかける。
そして面倒だが本任務が終了した直後にでも勝負することを約束させられる火威であった。
しかし今やるべき事は多い。
古代龍ほど大型では無いにせよ、味方の龍が吹雪を凌ぐ為の巨大な「かまくら」を拵えるのは手間だった。
火威が龍のかまくらを拵えようと思ったのは、建設資材も建設要員も居ない中で当然と言える判断である。資材となる雪はマリエス周辺に履いて捨てる程あるし、成型も楽だったからだ。
かまくらは断熱性が高いので、冬が過ぎるまでジゼルの龍は比較的快適に過ごせるだろう。成すべきことが終わればジゼルや火威や龍が氷雪山脈に居る理由も無いのだが。
龍用のかまくらを拵えるのに当たり、苦労するのは出入り口であろう事は解っていた。あのサイズである。出入り口の雪が崩壊するのを止めるには、魔法を使うしかない。
しかし、かまくらを製作する前にやるべきことがある。
雪の中に潜む雪竜を、粗方駆除する必要があるのだ。魔法で空気の弾を作り出して雪上に浮かべると、それが弾けて
脳味噌があるのか疑問なデカい蠕虫はすぐに飛びついて来た。そこを氷の矢で貫き、一匹一匹懇切丁寧に駆除して行く。
「ハッ! どや!」
ドヤ顔を見せる相手が居ないのが、少しばかり寂しい。そして昼になってマリエスに飯を食いに行った時のジゼルの言葉は、火威を少しばかり凹ませるものだった。
「あぁ、いいよいいよ。そんなん翼竜だって食っちまうからさ、そのまま“かまくら”作ってくれても大丈夫だって」
火威には二の句が出ない。取り敢えず、少しばかり雪肝を確保したから良しとしようと……そう考えることにしたが、雪竜は「釣り」という手段で確保しないと肉の苦みが肝に移って食えたものではないのだ。
それを教えてやるかリーリエやミューは思案した。だが下手な事を言って助っ人の士気を挫いてもいけないので黙っておくことにしたのである。
* * * *
かまくらを本格的に作りだしたのは、午後からだ。
と言っても、アルガナの再掃討があるので昼よりだいぶ後てからになる。
火威とノヴォールの亜人連中は昨夜の様に石造りの板の上に乗り、それを滑らせるように飛ばして目的に着いた。
ちなみに薔薇騎士団や他の帝都の兵力はマリエス防衛の為の任に就いている。
「っつーか昨日捕ったのに、こいつら何処かからリスポーンしてるんじゃないのかァ?」
釣り上げられた雪竜を見て火威が煩わしそうに頭を掻く。
「昨日全部取れなかっただけなぁ~ん。それより“りすぽーん”て何なんだなぁん?」
迂闊にゲーム用語を使ったせいで、ほんの少し面倒な作業が追加される。だがこの日はミティ等の多少大型の怪異は見られなかった。昨日の内に全て駆除したようだ。
しかし雪竜の方は、釣り糸を垂らして竿で雪を叩いて暫くすると何時までも“アタリ”が来る。今日は火威含めて15人で来て、釣竿も15人分あるのだが、数分間を置かずに釣れてしまうからジゼルの龍のかまくらを造る時間を確保出来るか不安が生まれた。
「げっ、これどうなってんだ? 網でも投げるか!?」
「雪の下にいるのに意味無いなぁん」
ノヴォールに駄目押しされると、なんか腹立つ。それはさて置き出来るだけ早くマリエス近くに戻らないと、かまくら造りに使える時間が短くなってしまう。
ノヴォールを置いて火威だけ戻ることも考えたが、怪異にも一応知恵のある者はいるのでミティが隠れているという事も考えられる。10発近い
そこで火威は午前中に使った手を使った。雪上に空気の玉を浮かべて破裂させる。すると複数匹の雪竜が雪の中から飛び出し、その中の一体に火威は物体浮遊の魔法を雪竜に掛けた。
「ハッ! アホめが。人間様に掛かりゃこの程度よ!」
そしてそのまま自分達の居る建物の上に乗せて
「ありゃりゃ~、雪竜をああやって〆ると苦くて食えたもんじゃなるなるなぁんよねぇ」
「なん……だと………」
午前中に取った雪竜は、肥料くらいにしか成らないことが判明したノヴォールの一言だった。しかし雪竜を誘き寄せる方法としては間違っていないので、雪上よりかなり高い場所で空気の玉を破裂させることにしたのである。
釣り続けていると、予想より早く陽が暮れてくる。火威が編み出した効率を高めた手法で釣った雪竜の数は到に300を越え、釣れるペースも鈍ってきた。
冬が近付いているとは言え、陽の陰りが日本の秋に似ているのはファルマートがある星の地軸が去年と違って来ているからとしか思えない。
これもアルヌスの門を長く開けてたことの弊害なのだが「直るのか? コレ」と思わずにはいられない火威である。
レレイ師匠ならきっと何とかしてくれる、と思う事にして、雪竜は元々氷雪山脈に棲んでいる生物だから、余り取りすぎると生態系を崩すかも知れない。
夕方にもなった頃、ジゼルが来て味方の龍が根城の相談に来た。明日の朝にも敵の襲撃がある可能性を考え、少数ながら味方の龍を連れて来ているので彼等が棲むことになる「かまくら」の相談に来たのだ。
正直、そろそろ撤収して良いかも知れない。
今居るノヴォールのリーダー的な存在のガナーにもそのことを話すと、マリエスへの撤収に同意してくれた。ちなみにガナーはショタよりオッサン顔で、他のノヴォールからも一目置かれている存在だ。
「人間は雪肝のみに生きるに非ずだな゛~ん」
妙に濁声のガナーだが、他のノヴォールよりは考えが深い……ようだ。
マリエスに戻ると、そこでは遺体を火葬していた。午前の戦いで犠牲者が出たのかと思ったが、荼毘に付してる遺体は襲撃してきた生ける屍達だという話しを聞く。
無論、「荼毘」なんて言葉は特地に無いので火威の観点だが、一昨日来た時には味方の戦死者以外の死体で生ける屍に変貌する可能性が無いもの以外は野晒しというものだった。それに比べれば、随分と心に余裕が出来たものだと思う。
帝都から薔薇騎士団を含む援軍が来て、全体の士気が回復したのだろうが、これは良い傾向だ。
マリエスに戻った火威は直ちにかまくら造りを開始する。魔法を大系的に学ばず才能とカトーやレレイ、そしてアルペジオから講習で伸ばして来た火威だが、それでも雪のように真っ白な物体は魔法の良媒体であることは知っている。
門が閉じた直後に、レレイから「触媒になるもの」と言ったような話しで雪が媒体として非常に優れている事を聞いたのだ。
今回は触媒にするわけでは無く、単に雪でかまくらを造るだけだが、ジゼルの龍達が可能な限りのポテンシャルを発揮出来るように細工するのも良いかも知れない。
そして建築した飛龍用巨大TOHU型かまくらハウスの中央には、温風を滞留させて多少溶けても良いように周囲の雪が自動的に集まる呪いを掛けた。
が、一棟目の高機能TOHUハウスを造って考える。
中を暖めたのでは、かまくらの意味が無いと。そして周りから雪を集めるなら、他のかまくらが崩壊してしまう。
仕方ないので温風の精霊と呪いには退去して貰って、形だけ同じ物を造ることにした。
三棟目のかまくらに取り掛かったところで、雪が降って来た。今日の再制圧はそこまで怪異を倒してないのだが、程度の問題では無いのかも知れない。或はロゼナ・クランツの呪いとは別に自然の雪かも知れない。
一頭の翼竜と、黄色の鱗の飛龍がそれぞれが自分の身体に合ったかまくらの中に入って寝ている。この後にでも、雑魚寝で竜の集合住宅が可能かジゼルとも相談しようと火威は考えた。
集まった方が体温で暖まるから良いや……とか、そんなことを考えたのではない。人間並みに賢い飛龍でも臍が無い以上は変温動物である。互いの体温で自らの体温を保持することなど、余り期待していない。(変温動物にも例外がいるので、少しは期待したが)
要は面倒だからである。巨大かまくら造りの全工程に魔法を大いに利用してはいるが、札幌雪祭りにも使わないような量の雪で一軒一軒作って行くのは非常に手が掛かる。そこでの龍の集合住宅である。
そんな事を考えながらも3戸目の仕上げると、残りを明日にしてマリエスに引き返した。早速竜の一頭が雪の中に隠れていた雪竜を見つけて咀嚼している。
* * * *
「するってーと、大きいヤツを一つ建ててそこに複数の龍を棲まわすワケか」
シュテルン邸に戻った火威は、早速ジゼルに龍の集合住宅を相談した。以前に会ったばかりの頃は「この龍人さん何か怖い」とか思いつつも美人だからと会話を楽しんでいたジゼルだが、今では彼女と交際して一線を越えてナニまでした間柄だ。
突然「別れましょう。貴方にはもっと相応しい
というか、昨日ジゼルが来て火威の顔を見つけた時、彼女は非常に嬉しそうな表情だった。アルヌスから遠く離れた氷雪山脈の地で元カノと出会ってしまった火威は精神的に身構えてしまったのだが、屈託なく振る舞うジゼルに救われた気がした。流石は神と言ったところか。またはジゼル本人の気質かも知れないが……。
「良いよ。ってか翼竜は元々群れて生活するから、数頭一緒の方が良いかもな」
「おぉ、そんじゃ明日は大型のかまくらを幾つか作って……」
「あ、でも飛龍は違うぞ」
こっちは精々で二頭同居までが通常の生活スタイルらしい。
「っつか猊下、こんなに飛龍が居るなら何人か伊丹二尉とテュカに付いてバーレントに行けたんじゃないッスか?」
それに対し、ジゼルが頭を掻いてから決まりが悪そうに答える。
「主上さんがイタミって奴どれほどの男か試そうとしてんだよ」
「えっ、主上さんてハーディって神様ですよね。それが何故?」
その問いに、ジゼルはいよいよバツが悪そうに口を開く。
「そ、そりゃぁ主上さんがロゥリィお姉様を娶ろうとしてたからだよ。でもお姉様はイタミに御執心だろォ?」
火威が特地で得た知識では、ハーディという正神は女性神である筈だ。その女性神がロゥリィを娶ろうとしていたのだから、神になっても同性愛者はいるらしい、そういえば近くにホモォの亜神と眷属がいたなと、火威は思い出す。
「それよりお前はどうなんだよ! クリバヤシと上手く言っているのか!?」
唐突にジゼルは火威に詰め寄った。「オレが諦めて渡した先の女はどうなんだ!」という事を問われているのだろうが、実際には火威も死ぬ気でロゥリィと剣技の訓練を交えて努力した。
とは言え、ジゼルの指嗾が無ければ一度はオーク以上の兇暴さと諦めた栗林と付き合う事は無かっただろう。お突き合いという試練は有ったが、山脈に来るまでにアルヌス周辺の町や村でも(アポルムとか)御似合いカップルとして認知されるようになった。
「ああ~、良い感じですよ。子作りとか流石に未だですけど……」
「なっ、亜神クリバヤシと付き会っているだと!?」
その時、ジゼルと火威の話しを聞き付けて来たのはヴィフィータだった。後に同じ薔薇騎士団のスィッセスから聞いた話しでは、ヴィフィータは他人の恋バナが大好物らしい。
夕飯の後もこの話題が持ち越したが、ジゼルはと言うと愛人として火威の近くにいれるかという話しを咽喉まで昇らせて言えずにいた。だが聞けば聞くほど、不可能という怪物の気配を感じる。直ぐには無理だろう。ジエイタイの言葉で言えばミリミリと迫るのが賢い方法かも知れない。
次の日の昼には、マリエスの先の雪原には十二棟程の竪穴式住居を大型化させたようなかまくらが出来ていた。シュテルン邸で借りたメイド服を焼かれたので、元々着ていた白ゴス神官服を着て寒そうにしているジゼル監修の元、翼竜は四頭で一棟のかまくらを使い、飛龍は二頭で一棟のかまくらに押し込める。
飛龍用のかまくらには一頭分の空きがある。翼竜は全頭で三十八頭。飛龍は五頭。数えてみれば閉門時のアルヌスよりも幾分少ない程度だが、これだけの戦力があればマリエスの守備は暫く問題無いだろう。おみそ状態になってしまった一頭の飛龍は緑色の鱗の飛龍だ。特に身体がデカいので、一頭だけ別のかまくらも仕方ない。非常にどうでも良いのだが、イフリとエフリが揃えばRGB原色が揃うな、と火威は考えた。
次の日の朝早く、火威はアルガナに潜むミティを探索・駆除してからアルヌスに一時帰還する。
山脈の端の空の中で、火威やミューやリーリエが言った言葉を思い出す。
リーリエにはジゼルと味方の龍がマリエスに来た日の夜に、この日の朝早くに一時アルヌスに帰還する事を伝えたのだが、その時に「出来るだけ早く私の元に帰って来て欲しい。ヒオドシ殿には伝えねばならないことがある」という言葉を貰った。
会って数日のハゲに惚れた訳では無いのだろうが、出来るだけ早く……四~五日程度で他の助っ人と武器を引き連れて戻る事を約束してしまった。
実際に帝国からの支援要請が事実だった場合も、再び氷雪山脈に支援として来るのに算定されてる時間だから、これは問題無い。
また、昨夜ミューが伝えて来た知らせは、予想はしていたものの些か逡巡してしまう内容だった。
彼女はタト―ヴィレという集落から避難する際、ロゼナ・クランツに協力している者達であろうヒト種の戦闘員から村を追われたと話していた。しかも、それは生きて居るヒト種だったという。
氷雪山脈に来てグランハムの話しを聞いてから、生きている人間相手の戦闘も想定に入っていたことだ。現時点でやるべき事に変更は無い。しかし敵の素性が問題となる。
ロゼナ・クランツに生き残りが居て、今日まで帝国に対して抵抗を続けているというのならば、それは帝国の戦争である。火威らのように、自衛隊が安易に介入して良い話しでは無い。
民間人保護という意味では大いに介入したいし、ジゼルやグランハムの手前、火威だけが身を退くというのは避けたい。火威はこの件を狭間に報告するか否か、悩みながらアルヌスへと帰還していった。
今回は前回よりもちょいと長めです。
何やらジゼルのターンに戻ってる感じですが、猊下のターンが短かかったからちょくちょく入れて行くんじゃよ。
次回から再び栗林のターンですが。
さて置き、感想や質問・疑問など御座いましたら忌憚なく申し付け下さいませー。