ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
減ったりする可能性もあるのですが、一応は突入したので言わせて頂きます。
遂にお気に入り指定が400突入ーッ!!

皆様、ご愛読有難う御座います。
ついで読みでも有難う御座います。
ページを開いてみただけの人は……一応読んでみて下さい。
程々に面白い筈……かなぁ……。



第十五話 指切り

陽の落ちたアルヌス駐屯地。その司令官執務室に火威の姿はあった。既に課業の時間は過ぎているが、喫緊の事柄なので火威が帰還した事を聞いた狭間は報告を求めた。

「事情は理解した。火威三尉は明日、訓練の後にこちらが選定した隊員を帯同して帝都で特殊作戦群と合流したあと、再びマリエスに向かってくれ」

狭間の命令は至極あっさりしたものだった。火威はマリエスで見聞きした事を包み隠さず狭間に報告した。他国の戦争に関わり、加担するかも知れないこともだ。

にも関わらず、狭間はマリエスへの派遣を命じる。

「あ、あの、帝国の戦争に関わる恐れが……」

「ピニャ殿下からは民間人保護の依頼も来ている。先日帝都から帰還した富田二等陸曹が依頼書を持たされてな」

ピニャも抜け目無いというところか……。火威も何時今まで以上の戦力がマリエスを襲うか心配ではあったので、個人的には渡りに船と言える。

「明日からも任務だ。三尉ももう帰って休み給え」

その狭間の言葉を聞き、帽を被っていない火威は斜め10度の礼をして執務室を後にする。

火威が出た後で、狭間は眉間をマッサージするように揉んだ。実際にピニャから民間人保護の依頼が届いたのは事実である。

だがそれよりも前にロゥリィやモーターからの依頼と、それに伴う形で火威を推薦する声が届いているのだ。

モーターに到っては火威というヒト種を戦士として大いに認めているらしく、追加の装備まで造ってしまったという。

伊丹と良い火威と良い、この世界の住民や神々に気に入られ過ぎてる嫌いがあると、彼らの人権やらその他諸々が心配になってしまうのである。

 

 

一夜明けた駐屯地から少し離れた訓練場。これからマリエスに向かう筈の火威はこれから使うであろう装備を武器曹に注文して高機動車と貨物に積んでから、健軍に呼ばれて此処に来たのである。

「遂に来ちまったぜ。地獄の三丁目にッ!!」

火威の目の前にはかつて「ピヨ彦」と名付け、何時まで経ってもトサカが出ないことから「コッ子」に改名した鶏がいる。

彼に課された訓練内容は、自身で育てた鶏を自分で絞めて喰えという内容だった。

狭間からの特選群への推薦は事実なのだろうが、それには習志野の空挺団に入らなければならないらしい。

空挺レンジャー相応の実力は持っていると思われる火威であるが、それでもその訓練過程にあり特地でも実現可能なものは避けられないようだ。

火威の近くで似たような訓練を受けている自衛官が、早々に課題をクリアしても火威は中々手が動かせなかった。

ピヨ彦改めコッ子とは、様々な思い出があるのだ。アルヌスに新しく来た入植者の子供が、恐面から警戒するのを解くためのダシに使った事もある。

大祭典の時には薔薇騎士団の女性達とお喋りするためのダシに使ったこともある。

栗林とのデートでも、実際は犬好きだけど鳥もイケると動物好きをアピールして山車のように肩に乗せた事もある。

出汁の取り過ぎで出がらし感のあるコッ子だが、それほどまで共に思い出を築いてきた相棒なのだ。

「コッ子……」

コッ子は鶏だから返事はしない。あっち見たりこっち見たり、気ままなものである。もし返答でもしようものなら、火威のこの訓練は確実に失敗していただろう。

火威は目を瞑る。目を開けた時にコッ子が正面を向いていた時は、この訓練は不可能だと考えた。

暫し後、目を開けるとそこには……。

「あれ?コッ子どこ行った?」

視界の外に移動していたコッ子を発見するとその頸を風の刃で撥ねた。

「次は食う方に生まれてくれ」

少し前からの友を泣く泣く食べた火威なのである。

 

午前中に訓練を済ませた後、火威は高機動車や貨物に積まれた装備や念のため為に少しだけ積んだ燃料をチェックしていく。

午前の訓練で火威の士気は低下しているが、それで手を止めるようなら自衛官として相応しくないと火威自身が考えている。

今回帯同することになる隊員は、火威同様に自身で育てた鶏を潰して食べるという任務をこなしている。

しかも火威が特殊技能としての魔法をフルに使い、コッ子の頸を撥ねたり、食べる際にも寄生虫が気になって炎の精霊(サラマンダ)使用で食したのよりも遥かに早く課された訓練内容を済ませているのだ。心強く思えたのは当然である。

荷台には火威が帯同していく隊員、そして帝都で合流する特選の隊員分の寒冷地用装備と、同じ分だけの人型寝袋。更に門を開く事を前提にして駐屯地にあるカイロのほぼ全てと、AH-1コブラに付いているM197ガドリング砲と超電磁砲の砲身を積み込まれている。

よく特地に寒冷地用装備なぞを持ってきたなというところだが、そこは「用意周到・頑迷固陋」と評される陸上自衛隊の気質が生きたのだろう。

更に、マリエスには複数の龍が出現したことから十五本のLAMも貨物に積んでいるのだ。守勢一方だった氷雪山脈も、この地球舐めんなファンタジーの群れで一気に優勢に持ち込めるだろう。

狭間に聞いたところ、先日帝都から出した鸚鵡鳩の郵便は未だ届いていない。火威の方が先に来たのだから無駄金を使った事になる。

これも安心の必要経費と思えば仕方ないのだが、火威には未だ用意しなければならない物がある。私物装備の用意の為と、出発前に時間を貰った火威はモーターの神殿「モタ」に赴く。

そこで火威は以前、モーターが約束した通り対騎剣三本と、新たにモーターによって鍛えられたグランスティード一本が放射状に組合わさった武器を受け取った。

「有難う御座います!」

この世界でも頭を垂れるという挨拶や感謝を示す方法が有るらしく、火威はモーターに深々と頭を下げた。

「あとこれもだ」

巨大なドワーフは、火威に三発の神鉄製の砲弾と、同じ材質で出来た大剣を好々爺した顔で差し出す。

それを片手で差し出す辺り、どれほど巨大なドワーフか想像出来るだろう。

「いいんですか?」

「ほーだんの方は以前に君が頼んだ物だろう。それと持ってたダンビラもそろそろ砕ける筈だ。あれは儂が若い頃に鍛えた物じゃからな」

ロゥリィと会う前に造った物だとモーターは語る。

その時点で百歳は余裕で越えてそうだが、ヒトとは感覚が違うのだろうから火威から言う事は無い。

再三礼を述べてから、火威は高機動車に戻った。

もはや士気は戻り、最高潮にある。マリエスに戻ったその日の内にでも、敵の中枢に討ち入りして任務を終わらせれると錯覚する程に有難たかったプレゼントである。

贅沢を言えば恋人であり、一応は将来を約束した栗林とも顔を合わせておきたかっが、こればかりは仕方ないと軽い気持ちで諦念した。だがその背後に、今となっては懐かしいエンジン音が聞こえてきて、一つの声が投げ掛けられた。

「隊長、遅れて申し訳ありません」

聞き覚えのある女声に、火威が振り返る。

振り返ると、そこにはアルヌス周辺の怪異掃討で散々世話になった96式装輪装甲車と、結婚を前提に付き会っている筈の栗林が車両のエンジンを切って出てくるのが見えた。

「あぁ、志…栗林、有難よ。高機の中が満載で特戦が乗れんからな。助かるわ」

プライベートでこそ名前で呼び合っているが、公の場である仕事中は苗字や階級で呼び合っている。

「火威三尉、こんなに装備を持って行く必要あるんですか?」

そんな事を言いながら、栗林がレミントンM870のカスタムモデルらしき散弾銃を携えてる。

「うむ、餅みたいに膨らむ亜龍とか、こっちでは見ない怪異も色々出るからな。こんくらいは有った方が安心」

火威の説明では直ぐに理解できるようなものでは無いし、火威自身マリエスでの深刻さを詳しく説明して栗林を心配させるのを躊躇らったので、極簡潔にしか説明しなかった。

「よく解りませんね。行く時に改めて説明してくださいよ」

言いながら、栗林が貨物に散弾銃を詰め込んでいく。

「え、何言ってんの?」

火威は、そう言わずにはいられない。

 

 

*  *                             *  *

 

 

96式と高機動車、そしてそこに連結された貨物という少し多目の車両を浮かして特戦と合流する帝都を目指す高機動車の運転席で火威は一種の諦念の元車両を飛ばし続ける。

 

先程96式を動かして来た栗林が、火威が帯同する隊員と知った時、勿論驚いた。嘘だと思った。それもその筈、火威が受けていた訓練は第一空挺団の訓練課程で、空挺レンジャーとなる者は男性自衛官に限られるのである。

というか、レンジャーの門戸そのものが男性自衛官にしか開かれていない。身体的に力がどうしても不足するとか、母性保護の観点から入隊出来ないとか色々言われている。

その点で言えば、栗林はダーという巨大怪異にもナイフ一本で挑み、勝利する程の猛者であるから力は問題ないだろう。寧ろ自衛隊で一番白兵戦が強い者を栗林以外で探すのは難しい。

ナイフ一本でダーに挑めと言われたら、魔法の使用を許可されれば火威にも楽勝ではあろう。格闘で挑めと言われたら、長いのを使わせて欲しい。ナイフ一本のみで挑めと言われたら、命令なら従うがそうでないなら盤返しである。

「つーか栗林、空挺に入る気かよ!?」

「入れるんなら入りますよ。特戦に入るには空挺に入らないといけませんからね」

特戦まで狙ってんのかいこの女ッ!? そう火威には思わずにいられない。

まさか男性自衛官を上回る猛者とは言え、先の気質の繰り返しになるが「用意周到・頑迷固陋」と言われる陸上自衛隊が女性である栗林のレンジャー入りを認めるとは思えない。

だが、特地に来る前に米国の女性兵士が苛酷な訓練に耐え抜けてレンジャーになったとも聞く。いつ日本やそれを防衛する自衛隊が心変わりを起こし、女性自衛官のレンジャー入隊を認めるか解らない。

そもそも栗林の帯同を認めた狭間や、訓練自体を受けさせた剣軍の意図が、女性自衛官のレンジャー入りを認めたものとしか思えない。

「っつか何で栗林も来るの!まさかお前も特戦への推薦目当てとか!?」

「私にはその話は出て無いですよ」

やべっ。これオフレコだったか、と思う火威に栗林は続ける。

「マリエスの代表が女性だからですよ。女性を逐一ボディーガードするなら、三尉じゃ駄目でしょ?」

そういう事ならと、気を緩めた火威ではあったが「それで特戦への推薦が貰えるなら、交渉するしかありませんね」と初めて見せる悪戯っぽい顔を見せる栗林である。

失策、完全にヘマをやらかした……考える火威は、出発前にどうにか栗林の考えが変わるように説得を開始した。

「待て!栗林。特戦には「今日の点呼は産まれた時の姿で」というのが有ってな」

「どうして三尉がそんな事を知っているんです?」

オ○ガという小説で読んだからである。火威が本当に知っているのは伊丹の欺瞞情報しかないが、まず栗林の羞恥心を刺激することにしたのだ。

「いや、まずその前にも空挺では対恥辱訓練というのが有ってだな……」

今度火威が口にしたのは、挺進部隊が故に敵地で捕虜になった場合の第一空挺団の訓練内容だった。推論として第一空挺団にこのような訓練内容があるであろうという予想は成り立つが、実際は火威が知り合いから聞いたものである。

そしてその知り合いも、別の知り合いから聞いた又聞きで栗林を止めようとしているのだ。

「絶対にメッチャなんか酷い悪口言われるぞ。お前堪えられるかッ?」

「堪えますよ。訓練なんですから」

「いや、お前訓練だと思ったら駄目たぞ!実際を想定したら胸とか揉まれてしまうぞ!っつか実際捕まったら揉まれるだけじゃなくて子供が出来そうなことされてしまうぞ!」

そこまで言うと、流石に栗林も退いて見せる。オマケとばかりにその胸を揉み始めた火威だったが、これは栗林の自衛によって鼻頭をぶん殴られて中途で阻止された。

「なっ、なにやってんですか!?」

「いや、空挺に入ったらこういう事もされるかもよと……」

大してダメージが無いように見えるが、本当なら鼻骨粉砕の大怪我である。今頃エルベ藩国の森の中で、露出多過のエルフっぽい亜神が突然の鼻血飛沫に右往左往しているだろう。

 

帝都に向かう高機動車の中、火威は前方を見据えて車を操作し、栗林は火威がマリエス周辺で地図に書き印した洞窟やクレバスの位置を説明と共に、特戦群の隊員に配布する分を新しい地図に書き写し終えていた。

「栗林」

切りの良いところと見ると、火威は口を開く。空中機動で障害物の無い空を飛ぶ車である以上、余り前を見ている必要もないので火威は栗林の手伝いをしていることも多い。

なんです? と応える栗林に、火威は雪山で任務をこなす際の心構えや、特戦と行動していれば起こらない事だと前置きした後で、氷雪山脈でビバーク……所謂野営や、不時泊しなければならない時の注意点を伝える。

「硬い殻を持った蛭のデカい版みたいな奴が出るからな、出来るだけ洞窟の中に逃げ込んだ方が良い」

「あぁ、サリメルさんの所で見た奴ですね」

サリメルの元で見た博物誌にも図解で描かれてはいたが、現物は更にグロテスクだった。一応肝が珍味なんだけどな、と付け加えて、火威は一息吐く。

「あとな、志乃」

火威は敢えて栗林を名前で呼ぶ。

「今は任務中ですよ」

「良いから。大事なことだから」

そこまで言われると、栗林も吝かではないが耳を傾ける。

「志乃、この任務が終わったら結婚して欲しい。一緒に暮らそう」

その言葉に、栗林は言葉が無い。というか思考が一時出来なくなった。が、脳が再稼働すると思いっきり照れ隠しに火威の背をブッ叩いた。

「ぐっはァ!? な、な……」

何すんぞ!?と言う前に来たのは栗林からの抗議だ。多分、今頃エルベ藩国内の森の中でエルフっぽい亜神が突然血反吐を吐いて驚いている。

「何を馬鹿なことを言ってるんです!」

「えっ……これを馬鹿とは何だよ」

火威としては一世一代のプロポーズのつもりでもあったので、それを馬鹿呼ばわりされると身の置き所が無い。空飛ぶ車から逃げ出したいところだが、そこに栗林が付け加える。もっとも、車から逃げ出すと兜跋を装備してない火威は落下死してしまうのであるが。

「三偵では任務の前に結婚とか言ってしまうと、死亡フラグが立つとか言われているので、その……」

そう言って口籠る様子は他では見られない程に可愛らしいものだ。「お前、偽物だろう!」と伊丹なら絶対に言う。

「ハッ、二等陸曹ともあろう者がそんなオタッキーな言い伝えを信じてるのかよ」

此れを聞き、栗林は憮然となった。確かにこの三偵の決まりは伊丹が決めたものである。火威もオタクっぽい気配はあるが、伊丹のような明らか様なオタクとは違う。

「そんなフラグ、俺にへし折れないと思う?」

傲慢な言いようだが、その戦歴の最たるものを閉門時に蟲獣を一掃する様を、栗林は近くで見ている。それにオタクの上官が言ったジンクスを律儀に何時までも信じている姿を見られ、気恥ずかしかった。

「良いですよ。ですから絶対に約束は守って下さいね」

オゥ、イェ。と返す火威には、お前何処人なんだと言いたくなるが、単に喜びを表現する方法が限られただけである。

下手に動揺すると高機動車が落下してしまうのである。だから先程栗林にブッ叩かれた時は、実は非常に危なかった。

火威と栗林は、指切り拳万(げんまん)という微笑ましい方法で約束の印を結んだのであった。

 




今回は投稿時の時間が無く、後ほど訂正が入るかも知れないのでご了承下さい。
そして次回はだいぶ遅くなるかも知れません。

そりゃ、まぁ……
Gジェネの新作が発売されましたことですしおすし。

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