ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
ここのところ投稿が鈍り気味です。
まぁその分長めにしてるから、堪忍してくだされ。
っていうか、投稿を始めてもう一年以上になるんですなぁ……。

機会が有ったら銀座事件のことも外伝として描写したいものです。
二日を1話の二行くらいで済ませちゃったので。


第十六話 ケモナー達の憂鬱

カトリ・エル・フォートは苦労している。いや、今は苦労していないから一昨日まで苦労していたと言った方が正しい。

現在はロゥリィ・マーキュリーの信徒であるなんて話を大祭典で聞いたから、ミドルネームにロゥが付くと思われるヒオドシ・ロゥ・ハンゾーが大祭典の準備や、なんやかんやで帝城に出入りしていた時、彼から女好き且つ亜人好き(ケモナー)の気配を十二分に感じたカトリは、彼好みであるという美女亜人を餌に帝国への帰属を促すことを考えたのである。

モルトからの指嗾があっての行動だが、彼がいれば帝国は暫く安泰。他国からの進行や反乱を恐れる必要もなくなるのだ。

そしてヒオドシから反ってきた答えは、乳が牛みたいに大きな亜人美女と月に5万スワニの給金であった。

巨乳牛乳亜人美女は心当たりがあるが、5万スワニはモルトに報告したところで何ら解決する筈も無い。

給金の代わりに領地という方策も考えられたが、ゾルザル派に付いた貴族の領地は既に没収して新たに貴族となった亜人達に当てがった後である。

こうなったら給金の方は交渉次第で負けてもらって、巨乳美女亜人の方で納得してもらうしかない。

カトリは悪所のミノ姉さんを始めとする巨乳女性達に声を掛け、慎重に交渉してきたのである。

貴族なら下の者にやらせりゃぁ良いじゃないか、という声もあろうが、フォートの家の者でヒオドシの嗜好が一番解っているのはカトリ自身だということを自負している。カトリはハーピィ系の次に好きなのが巨乳系亜人なのだ。

巨乳美女が、元から娼婦の場合なら交渉なら楽な方だ。だがそうでない場合も少なからず有る。時には人妻で子持と言うことすら有った。所帯持ちだったりしたら諦める他ない。

そんな失敗や経験を何度も積み重ねなければ、人外の力を持つ男の子作り奴隷になってくれなんて事は言えない。良くて頭がオカシイと思われるか衛兵を呼ばれるかで、悪くすればその場でゴロツキ共が出てきて袋叩きにされる。

肝心のミノ姉さんの場合は、娼婦以外の仕事を持っている堅気だった。常時トップレスで下半身も体毛のみの、言ってみれば常に全裸の彼女ではあるが、ちゃんとした仕事を持っている女性だった。

芯の強そうな瞳のミノ姉さんである。以前から近付き、知り合い程度にはなっていたカトリは怯んだ。下手な事を言えば殴られる。人外(ヒオドシ)の子作り用愛玩奴隷になってくれなんて言ったら、確実にぶっ飛ばされる。

幸いにしてヒオドシという男はカトリ自身と同じように、亜人や女性に対して敬意を持って接する人種であった。だから普通に「とある人物の愛人になって欲しい」と言って必要な契約を結び、支度金を渡せば良いのだ。

何か裏があるのかと勘繰ったミノ姉さんだが、元がサッパリとした気性の持ち主である。これまでカトリと付き会ってきて、彼の底の浅さは知っている。嘘を吐いているならもっと解り易いのだ。

以上の事からミノ姉さんはカトリからの誘いを快諾した。特別な思い入れがあるなら別だが、誰だって何時までも悪所にはいたくない。

良い意味で調子に乗ったカトリは山羊系亜人の娼婦も勧誘した。ミノ姉さんに比べると幾分も小柄で幼く見える彼女だが、その乳房は見るより遥かに大きい。それはカトリ自身が一晩の床で確認済みである。

彼女に、とある武将への愛人契約なんて話をしたら顔を上気させて赤くなりながらも了承してくれた。この初々しさも魅力の一つである。ヒオドシもきっと気に入るだろう。

最後の一人にはカトリの私兵の一人であるノスリという種族の女兵士だ。

以前の帝国なら、女に兵士が務まるのかと言うところであったが、聞く話しによればジエイタイには亜神のような女兵士がいるという。確か名はクリヤバシと言ったか……。

さておき、ノスリという種族は種族全体が頑丈であると女兵士――ナモが言っていたのだ。同族の男には魅力が無いと言っていた彼女は氷雪山脈にある里から出てきたと語っていた。

そして彼女達の種族は暑さが大の苦手らしい。事実、冬が来なかった去年までは彼女も年中軽装で道行く男どもの視線を独り占めにしていた。要は豊満な肢体を持っていたのである。

カトリ自身、一晩お世話になったことが有ったが、中々……否、そこいらの娼婦からすると上位に入る良さである。また、種族的なのかナモ個人だけなのかは不明だが、性行為に関しても非常に明け透けである。兵士から特別な門客として取り上げ、先の二人と共に待機させている最中にも、色々と楽しませてもらった。

そして今日、()る筋から得た情報ではヒオドシは帝都に来て、そして帝城に来るという。カトリは帝城の門の前でその時を待つ。

 

 

*  *                            *  *

 

 

自衛隊の悪所事務所。

それが面した道は決して狭いとは言えないが、高機動車と貨物、そして96式装輪装甲車等、異世界の車が小さくない道を進む様は異様と言えた。

診療所を併設するこの施設には、余所からも良く人が出入りする。火威は、その自衛隊の敷地内に車を駐めた。

治安の悪い悪所で車を駐めても大丈夫なのは、ここが悪所のなかで最も治安の良い地点だからだ。悪所の顔役であったベッサーラ一家がこの自衛隊の事務所を襲い、返り討ちにされた結果、日頃恨みを買っていた者達から皆殺しにされた記憶は、一年以上経っても周辺の者達の記憶には鮮明に残っている。

とは言え“悪所”である。この話を知らないガキや新顔が居てもおかしくはないので、念の為に敷地内の中庭のような場所に車両を移動させる。

「ご無沙汰しております!」

ベテラン自衛官の新田原は、閉門騒動の時でもアルヌスに戻らず、帝都に残る自衛官らの指揮を執り続けた。ゾルザル派が内戦で勝てば絶体絶命に陥るが、再び門が開いた時の特地の人々の心証を考え、逃げる訳には行かなかったのである。

最も、当時指揮系統を離れていた火威は、イタリカでゾルザル派の帝国軍と接敵しなかった場合、風力車を使って帝都経由でテルタまで襲撃しに行くつもりではあったのだけれど。

新田原は何時ぞやのように、親戚の甥っ子の如き敬礼を取っていたころから見て立派になったように感じる三尉に敬礼を返す。まぁ三十路を越えたオッサンなので、これが普通である。しかもテッパチの下は禿頭だ。

続けて入って来た女性自衛官も、嘗てはこの事務所に出入りしていた者だ。顔見知りながら、何処となく印象が違う。言うなれば、尖っていた先端が丸くなった感じだろうか。

伊丹とピニャがシーミストで一時行方不明になったのを最後に、最近は事件も任務も無かった。だがつい先日起きた氷雪山脈での動乱は()()ものは無い。栗林も、その二つ名の如き亜神のようにとは行かずとも、嘗てのように鋭い刃のような心持ちで事に当たらなければならない筈だ。

「アルヌスからの移動、ご苦労だった。早速で悪いが特戦と合流する前に皇城に行ってもらえないか?」

「こ、皇城ですか?」

嫌な予感がした。絶対にカトリが出てくる。火威の直観が確定的な予想となって全力で叫んでいた。まぁ俺だけの時なら誤魔化すことも……。

「同行する女性自衛官も共に来てくれとのことだ」

「な、なんすかソレ!?」

新田原が言うには、大変な事態に陥ってる氷雪山脈に向かう同性に、ピニャが労いと感謝の声を伝えたいのだという。

ヤッコデカルチャ(なんか恐ろしい)……」

「ん、どうした?」

非常に近い将来に敷かれた茨の道に、思わずゼントラーディっぽい言葉を発してしまった火威だが、一応はこれも命令や任務の内だから仕方ない。

 

内戦の後でも相変わらず治安の悪い悪所は血気盛んな連中とのトラブルを避けるべく武器らしい武器は身に付けずに拳銃だけを携行し、栗林を連れてゼロス門を抜け、皇城があるサデラの丘までの大通りに入った。

「そういや栗林は皇城に入ったことあったっけ?」

「特地に来て半年過ぎくらいの時にありますよ。我々が特地で初めて地震を経験した時の夜です」

「あ、そか。そういやそうだったな」

栗林は、その夜にゾルザルの取り巻きをブチ殺し、更にはゾルザルも半殺しにしている。火威達は知らないのだが、皇帝モルトにはこの世には怒らせてはならない存在が居るということを知らしめた夜だった。

大通りからサデラ丘直前の広場のようになった場所にそれは居た。

「げぇッ!?やっぱり!」

カトリ・エル・フォートは火威を見つけて手を振る。

「あぁ!やはりこの道で良かった!ヒオドシさん。良い知らせです!」

大声で話すものだから、火威にもこれから彼が言おうとする事が解ってしまった。

「子づく……」

そこまでカトリが言ったかと思うと、100メートル程ある距離を一瞬で詰めてしまった。

もし伊丹がこの場にいたら「ヒューッ」とでもネタを振ったかも知れない。

魔法でも使ったのか解らないが、100メートル5秒フラットとか、そんなもんじゃァ無い必死さが有った。

「カトリさん、その話は『考える』と言ったけど、考える前に無かったことにして!」

その言葉はカトリにとって到底受け入れられるものではなかった。

「えぇ!? そんなっ! 亜人の巨乳美女も揃えたのにッ! 皆ヒオドシさんを待っているのにッ!」

まさか複数の巨乳美女を揃えているとは思わなかった火威だが、会ったことも無い巨乳さんより何度もお突き合いとデートを重ねた栗林の方が良い。何せ小柄ながら子供を出産したら多分、絶対Iカップである。

「いや、うん。それはカトリさんの愛人にすると良いんじゃあないかなぁ……。日本に帰還する俺に預けるより、亜人との付き合い方が巧いカトリさんの方が絶対に良いって」

「なん……だと……」

それも良いかも知れない。ミノ姉さんは魅力的なガテン系だし、山羊子さんは妹系甘えん坊だ。ノスリ兵子はバカっぽいところがあるが、馬鹿な子程可愛いというし一番の巨乳で尽くすタイプである。しかし……

「いや駄目だから! それじゃ私が色呆けで巨乳さんを集めてたみたいになるじゃないですか!」

「あ、うん。良いんじゃないかな。それで」

「良くな……!」

良くないと言おうとしたところ、ヒオドシに付いて来た女兵士が(ようや)く二人の所に走って辿り着いた。

「あぁ、紹介します。っていうか大祭典で会ってますかね。近い内に結婚する栗林です。こっちでは亜神クリバヤシって呼び名で知られてますかね」

鉄製の兜(てっぱち)を取って会釈する女兵士の綽名を、知らぬ帝国貴族は居ない。亜神クリバヤシと言えば、右手一本で帝国の完全武装兵を複数人ブチ殺し、巨躯のゾルザルを半殺しにしたと噂のジエイタイの女兵士である。

この人を怒らせる訳には行かないんだよ。解ってくれよ。な? という事を目で語っていた火威の声無き声をカトリは誤解なく受け取った。

「そ、それなら仕方がないですね」

カトリは二人に一礼して、サデラ丘の前から去っていった。

「何の話ししてたんです?」

「あ……あぁ、帝都では料理革命前にミスター・コヅっていう料理は美味いけど無名の料理人が居てな、ちょっとその人の料理レシピを二人で探してたんだよ」

相槌を打つ栗林だが、彼女には疑問が残った。

「カトリさんが最後に言った『仕方ない』って、何ですか」

「あぁ、ミスター・コヅは帝都以外でも活動しててな、ロンデルとか色々行った俺にも協力を求められたんだけど、ミスター・コヅを知る前だったから余り協力っ出来なかったワケ」

我ながら完璧な隠匿能力である、と、火威は自画自賛する。これでもう帝国からの勧誘は無く安泰か。否、モルトの親父さんならまだ諦めないに違いない。

火威は、今後出来るだけ帝都には近付かぬよう心に決めた。

と言っても、これから帝城に行かねばならないのだが。

 

 

「申し訳ない!」

ピニャの執務室に入って早々、ピニャ・コ・ラーダは執務台に額を打ち付けるように頭を下げた。

「ど、どうしたんす?」

突然の事で栗林と付き合い、ニンジャヘッズから足を洗って堅気になりつつあった火威が思わずヤクザスラングっぽい反応を返してしまった。

ピニャの秘書であるハミルトン・ウノ・ローも火威と似たような反応だ。

「今更何を言おうと信ずるに値せぬと思うが……」

曰く、ピニャの署名で特地派遣隊に救援要請をしたのはモルトらしい。

その言葉が真実にせよそうでないにせよ、「なりふり構わねぇな、あのオヤジ」というと言う印象は既に持っているので、どうでも良い。

「まぁ山脈行くのは聖下や鎚下からの要請というか、指名でもありますので何れにせよ行かねばならんのですよ」

「ロゥリィ聖下やモーター鎚下からか!?」

世界の神々からの御指名という、結構誉れ高い仕事なんじゃァないかと思っている火威だが、実際そうらしい。

「何でもロゼナ・クランツとか言う連中の残党が、禁忌を犯しまくってるみたいですね」

「あちらの情報は中々入って来ないからな。やはりそうなのか」

ピニャは先の内戦で敗北したゾルザル派の残党が、魔導士を雇うなり脅すなりして徒党を組み、山脈に篭って帝国の混乱を狙っているのかとも予想していた。

どうやらヴィフィータやグレイら薔薇騎士団も、マリエスに来るまで同じように思っていたらしい。

「昨今じゃ、テルタに続く街道では賊に落ちた兄様の派閥の者が出るとも聞く」

テルタは一時、ゾルザル派の本拠地となった帝都に次ぐ都である。

全く平和が嫌いな連中だと火威は嘆息する。キャラクター的にバ○キン○ンと気が合いそうだ。

「そういえば同行する女性兵士というのは?」

話しも無さそうなので、そろそろ帰ろうと思っていた火威だったがこれが本題であった。「あぁ、こっちの栗林が行きますんで」と言うと、栗林が一歩前に出て敬礼する。

「おぉ、クリバヤシ殿か! これは頼もしいな!」

他人の嫁(暫定)に地獄めいた山脈での活躍を期待し、負担させて欲しくないのだが、栗林はこの任務に対してやる気満々らしい。

「お久しぶりです。ピニャ皇太女様」

「……? クリバヤシ殿、何か雰囲気変わったか?」

ピニャも新田原と同じものを感じていた。言うなれば、絶対的な余裕感である。

「あぁ、一段落着いたら結婚しますので」

「なん……だと……?

同じリアクションを一話で二回使ってホントに申し訳ないが、カトリもピニャも同じくらいの衝撃を受けたのである。

「だ、誰と!?」

まさかイタミじゃねぇーだろォーな!? という言葉は隠して詰め寄る。

「それは、此処に居る火威三尉と……です」

二話続けてというか、一話内に同じ表現もアウトっぽいが、敢えて使わせてもらう。伊丹が見てたら誰だお前的な栗林がそこにはいた。

「そ、そうか、それは……まぁそうだな」

何が言いたいのか解らないが、納得したらしいピニャが落ち着いて椅子に背を預けた。一応、「おめでとう」という言葉は貰ったが、この反応は一体何なのか。

その後続いた長い沈黙も正体不明である。秘書のハミルトンが自分から言葉を発さないのは兎も角として、誰一人何も言わなかった。

「あ、そんじゃお話が終わりでしたら自分らはここらで……」

話しも無いと見ると、敬礼してから気の抜けた様子で帰ろうとする火威。うかうかしているとモルトなんかが来るんじゃァ無いかと言う、有り得ない心配もあった。

「ま、待て。待ってくれ!」

まだ有るんすかいピニャさん。という事は言葉は思考に移すだけに済ませて、一応聞いておく。

「テルタから招集した部隊や帝都からの追加部隊を同行させてくれ!」

「えっ、それって多いんすか?」

また精神力や体力を使いそうな事を、ピニャは言い始めたのである。




ギャグはここいらでちょいとお休み……かなぁ。
庵パンには基本ギャグしか書けないのでうっかり出してしまうかも知れませんが、次からはシリアスに行きたいと思います。
あと飢狼の方も進めたいと思います。狼さんはまだ暫くエロくなりませんけどね。

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