今回一番苦労して捻り出したのはサブタイでした。
次からサブタイ(上)、サブタイ(中)、サブタイ(下)みたいな感じに
やってく事も考えてしまいます。
帝都の城門に掲げられる炎龍の首を見て、火威が何を思うだろうか。
その心は討伐した者への嫉妬心や敵愾心かも知れないし、今までの努力が無駄に終わった虚しさかも知れない。
確実なのは、己がこじ開けようとしてた扉が、何物かに追い抜き様に蹴倒されたという事実だ。それは一言で言えば喪失感という感情である。
「三尉、なんか残念そうっスね」
表情に心の内が出ていたのか、倉田三曹に指摘されて気付く。
「い、いや、嬉しいし、めでたいよぉ? 今夜はステーキだ…ってくらいに」
火威からすると、かなり大きい嬉しさの例え話なのだが、主観が過ぎる例だったようだ。
「それってそんなに嬉しいんですか?」
栗林にまで言われると、火威はあっさり白旗を揚げた。
「ぅ……すまん、実は最初に炎龍の報告を聞いた時からさ、討伐の方法とか自主訓練を重ねててな、機会があれば……と思ったんだが」
だが炎龍については未知の部分が多いし、城門に掲げられる炎龍の首は思ったよりデカい。聞いた話だと頭も悪くないから、俺が挑んだところで上手く行っても退散させただけで、悪くすりゃ俺が黒焦げか喰われたかも……。
そんな弱音にも似た慰めで、自分を納得させようとする。
それに未だに特殊作戦群が流した欺瞞情報を信じている火威だ。伊丹の直属の上官である檜垣 統(ひがき おさむ)や三偵の隊員などが聞けば否定し切るのだが、炎龍を倒したのが伊丹二尉だと知った火威は「伊丹二尉に目ぇ付けられちゃ仕方ねぇなぁ」と思っちゃったりもする。
だが振り上げた拳の落とし処が判らないのも事実だ。この闘志、どうしてくれよう と、沸々とした気分を無理矢理抑えながら、三偵のメンバーと共に帝都の郊外に向かう荷車に乗り込む。
一度はアルヌスに帰還して、次に悪所に詰める隊員と交代するためだ。薔薇騎士団の団員が二人乗っているのは、アルヌスで語学研修していたボーゼス・コ・パレスティーとシャンディー・ガフ・マレアーの交代要員だろう。
「そういや三偵が次に悪所に行くのは俺より早いっスよね?」
「はい、予定では一週間後です。三尉は?」
火威が聞いたのは「おやっさん」こと、偵察隊の副長の桑原陸曹長だ。その桑原陸曹長に聞き返されて火威は困ってしまった。
「あー、俺は401部隊たったハズなんですけどねぇ……。なんか何時の間にか任を解かれてる……って言うか別の仕事を任せれてるっぽいし、この後もサッパリなんですよ」
次の任務はイタリカでなのか、悪所でなのか、アルヌスでの雑務やデスクワークという事も考えられるが、一切何も聞かされてない火威は不安も感じた。何らかの任務で恐ろしいオークが待ち受ける日本に行かねばならないかも知れないからだ。
過去の事を思い 、重い雰囲気を醸し出す火威に他の隊員も気を遣ったのか、一様に重くなる荷車の雰囲気。
(お、いかんいかん)
似たような事で、わざわざ狭間陸将の手を煩わせるに至った覚えのある火威は、この重苦しい雰囲気の切っ掛けを作ってしまった本人として何か言って空気を変えようと口を開いた時、
「そういや三尉は好きな歌手とか、アイドルとか居ますか?」
突破口を拓いてくれたのは倉田三曹だ。だが
「う~ん、そうだなぁ」
正直、困った。コレと言って好きな歌手もアイドルグループも無いのだ。強いて言えば、皇居に住まわれる貴い御方の御即位二十周年式典で招かれた男性アイドルグループなのだが、この場に薔薇騎士団の団員が居る事を考えると、下手な答えは彼女達の芸術の肥やしにされ兼ない。
空中から吊ってるかの如きダンスを、純粋に驚嘆する意味で好きな火威であったが、今はこう答えるしかない。
歌手の名前とかは判らないんだけど、と前置きして
「ぷりずむコミュニケート、とか良んじゃね?」
* * * * * *
アルヌスに戻った火威には、彼の予想に反して何の任務も言い渡されなかった。
自衛官相応の訓練やデスクワークはあるが、それ以外は日本で送っていた平時と同じものだ。しかしこれは、戦闘に臨むのが生き甲斐と化した、また、仮にも戦争状態となっている仲間がいる傍らで火威には苦行と同等の苦痛でもある。
兎にも角にも、此れという任務がない火威は暇な時間があればカトーを先生に魔導の勉強をしていた。
とは言っても、近頃ではカトーもアルヌス生活共同組み合いの仕事や薔薇騎士団の日本語研修生への指導で忙しくなっているため主に自習で、カトーの時間に空きが出た時にだけ見てもらうといった極めて忙しない具合だ。
それでも、矢除けの加護や雷撃、そして火の精霊や光の精霊の使役等の精霊魔法を使い始めた時には大変驚いてくれていた。エルフやセイレーン等の特定の種族以外で、精霊魔法をここまで使えるのは極めて稀な存在らしい。ただし、矢除けの呪文を使って出蔵と一緒に並び、コダ村の子供らに石を投げてもらった時などは
「うぉあ、痛った!コレ、しっかり当たってますけど!?」
「悪いな出蔵、この魔法は一人用なんだ」
ふざけて練馬区の金持ちで苛めっ子の如く言ってのける火威だが、出蔵としては納得しないようだ。
「確かに高校の時は喧嘩が強かったけど一般ピープルだった先輩が何故こんな魔法中年にッ!」
「一歳差だろうが。中年じゃねぇよ。まぁ、アレだ。“なんとなく”やってみました。あと“出来る”とイメージしてやればな……」
「にゃんと直感とか幽波紋とか!? 何時からスタンド使いや宇宙世紀的な新人類にっ」
実際に火威は高校の頃からは、数学でも図形の問題ではある程度目測を割り出して答えを出している。だが、それは式と言えるものは少なく、それこそ“なんとなく”限りなく正解に近い答えを導き出し、解答欄に記入していた。
だが、式も書いてないので△か、大概×を付けられていた。
「ヒトは私の事を“飛火野の強化人間”と呼ぶよ」
最後までふざけて見せる火威と出蔵。そんな二人をコダ村の子供達は不思議そうな目で見ている。
だがヒト種の限界故か、精霊魔法の効果は限定的なものになるらしい事が判った。そして一度に二種類の魔法を併用するのも、今の火威には難しいようだ。また、金属製の装備を付けたままでは全く魔法は使えないことも判明したので、自衛隊の装備の多くが併用不可能なのも判る。
その中で困ったのがボディーアーマーだ。砲弾などの爆発時に発生する破片から身体を防護し、被害を低減するために着用するこの装備は対帝国兵時の防刃にも大いに役立つ。矢を射かけられても貫通しないことから、外したくない装備なのだ。
実に悩ましい二者択一だが、この時期には既に銀座事件で逮捕した“捕虜”返還と、それに伴う和平講和の時期が迫っている。今更、戦闘に魔法を用いる事など無いのである。
無論、銀座事件の被害者賠償も残りの拉致被害者の返還も済んでいない今からでは、相応に時間が掛かるだろう。とは言え、既に和平への一本の道が出来ている。
和平に関しての唯一の懸念事項は、ゾルザルというバカ皇子が第一皇子だという事だ。つまり、日本人や日本のある世界の感覚からすると、長男が帝位を受け継ぐ事になる。
帝国の習わしやしきたりは不明だが、もし皇帝の身に何か有ればゾルザルは暴走。講和はぶち壊しとなる。今は何も無くとも、何時か帝位は移るものだから、その時になって再び開戦となる可能性も無くは無い。
しかし、今現在は和平に向けて事態は推移している。文民統制なんだから、火威が一人で気張っても仕方ない。自衛官なら上の命令に従うしか無いのである。
このことから、火威は今まで通りの装備を選んだ。選んだと言うよりは、平和な時代を過ごすのならば、命令でも無い限りは自衛官相応の装備が求められる筈である。
そう思うと、脱力した。もう少しすれば戦争も終わるというのに、一人で戦闘の準備をしている自分に気が付いて、力が抜けていった。
まぁ、生活のお役立ちスキルにはなってくれるだろうなぁ……。そう思いながらも、数日の日々が過ぎていった。
* * * * * *
その日、伊丹耀司二尉は改めて特地資源調査員の辞令を受けていた。現地人を2~3人雇い、特地の資源を調査して回るという仕事だが、彼の直属の上官であった檜垣三佐が言うには「あっちこっち特地を歩き回って資源を調査してこい」というものだ。
これを聞いていた火威としては「あ、良いなぁ~」というのが、実際には言葉にはしないまでも素直な感想だ。そして思った感想は顔に出易いようで、レレイからは「短期間で魔法を習得した貴方も機会があればロンデルに行ってみると良い」と言われたりもした。
普段、無口なレレイが、話しかけられもせずに、ここまで話すのは珍しいので“ロンデル”という街を調べてみると、学術都市である事が判る。そしてアルヌスから大分離れている。少なくとも歩いて行ける距離ではない。
休暇の際に私用で高機動車を使う事は出来ないから、ロンデルに行く場合は日本から車を持って来なくてはならない。特地に於いては速いとされる移動手段の馬でも、相当時間が掛かるし、飼料が必要になる。或は火威自身も特地資源員になるかだが、仮にも第四戦闘団に組み込まれている火威には不可能な道だ。だとすると、休暇の際に日本から車を持ってくる以外に方法は無い。
「ま、しゃーねーや」
何時になるか判らない機会を待ちながら、魔導の訓練を終えた火威は幹部用官舎に足を運ぶ。その道すがら、戦後の帰還命令を予感し、独り恐れおののくのだった。
ストックが少なくなってきたので次回からは更新が遅くなるかも知れません。
19もお気に入り指定して頂いたのに心苦しいですが、どうか何卒お待ち下さい!
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