ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
水曜に投稿できるかと思いましたが、今日にずれ込んじゃいました。
ここ最近、またしても話が進まない龍玉Zモードになりつつあります。
ここいらでお休みを頂くかも知れません。


第二十話 サイプレス

陽が沈んだ氷雪山脈。

その雪原上を一体の雪竜が蠢いていた。

本来なら群れで行動する生物であるが、獲物が発生させた音を感じ取った一体が、群れから離れて行動するということは、それほど珍しいことではない。

それに、同族が一度に大量発生したということが、彼らの食糧事情を極めて悪いものにしていた。

彼らに脳という器官は無いのだが、生命を維持し子孫を殖やしていくために、条件次第では反射的に多少の無理もする。

獲物が出したと思われる音がした位置まで来て、思案するように周辺をグルグルと動き回る。

すると突然、雪の中から()()が雪竜を引きずり込んだ。突然の出来事に離れた他の雪竜は気付きもしない。

その何かは空いてしまった穴を再度、雪で塞ぎ、ときおり内部から叩いて次の犠牲者を待つのである。

 

 

*  *                            *  *

 

 

猛スピードの影が駆け抜け、その後を縫うように氷の刃が突き刺さる。

火威はロゼナ・クランツが放ったと思われる、形の悪いスノーゴーレムとの戦いの中にあった。二次被害にならぬよう、装備を整えて出てマリエスを出たすぐ後のことである。

ノスリが拵えた、神を模した雪像とは違い、距離を空けて様子を見ようとすると巨大な氷の塊を投げたり、先程のように氷柱を飛ばしてくる。体当たりで粉砕しようにも雪の身体の内部には棘を持った鉄の柱が据え付けられていた。

隠れていた雪の丘を破壊された火威は空へ逃げつつも、決して敵の位置は逃さず把握しておく。その敵が、巨大な氷と岩が混じった塊を掴むと火威に投げつけた。

容易く避けるが、宙に放り投げられた塊がマリエスの方向に向かっていく。

「やべ! しまっ……!」

しまったと言い切る前に、岩はマリエス上空で塊が砕けた。小さな砂や雪の粒になって城内に降り注ぐ。スノーゴーレムはロゼナ・クランツの首謀者が自ら作り上げた魔導兵器らしい。

火威は、かつてロミーナが掛けた呪いという物の威力を目にしたのである。

この呪いがあるから、ロゼナ・クランツは怪異や人間の死体で生ける屍を作りだして、使役しなければならなかったのだ。

その役目を担えないであろうが、目の前のスノーゴーレムは山脈で遭遇した敵の中は一番の強敵と言える。

擲弾は既に尽きてしまったし、LAMを持って来るのであったと火威は後悔する。だが後悔したところでどうしようも無い。それに火威は、この程度の障害なら軽く越えられそうな気がしていた。

「火蜥蜴! 君に決めた!」

光の精霊で虚像という名の分身を出して敵を翻弄。呼び出した火の精霊(サラマンダー)は炎の舌をゴーレムに巻き付かせ、じわじわと相手を溶かして行く。

「他愛無いぞォ!! 雑魚がァ!」

特殊剣を展開させて回転させる。突撃と共に炎の精霊を剣にも纏わり付かせ、高熱を持った大剣を叩き込んでスノーゴーレムの芯を砕き壊す。

誰か見てたら崇拝の対象になってしまうかな。志乃を助けに行ったら惚れ直されるかな……なぞと、腑抜けたことを考える火威は、すぐに三人の捜索を再開した。

そしてロゼナ・クランツの呪いで風雪吹き荒れる氷雪山脈を探すこと二時間。遂に火威は洞窟内の栗林達を発見したのである。既にマリエスから随分と離れていた。

三人が一緒にいてくれたのは、幸いだった。リシュやミューは山脈内の別の集落で暮らしていたから、周辺の地形を知らない可能性が大きい。万が一、クレバスに落ちたら怪我で済まない。洞窟の場所が記された地図を持ったいる栗林と一緒にいてくれる方が、断然安心なのだ。

使い勝手は悪いが、サリメルが持って来た仮面の力で壁とか色々透視出来る火威には、洞窟内で一夜をやり過ごそうとする栗林達が()()と見えるのである。

「デカァァァァァァァァいッ!! 説明不要!!」

と、火威は思わずにいられなかった。そしてその後に起きたことも、彼が想像もしなかった出来事であった。

 

 

*  *                            *  *

 

 

アロンの精神を回復させようと画策するサリメルは、仕事の前にシュテルン邸の内部を歩き回っていた。

ニンジャオンセン郷の二号館を建てる時の参考にしようというのだ。だがそこで彼女は懐かしい顔に出会う。

「お、ジゼル猊下とグランハム輝下にユエルではないか」

グランハムとユエルには最近会ったが、ジゼルと会ったのは竜人神官の彼女が昇神して間もない頃だった。二百年振りくらいだろうか。

「げェ! サリメルっ!?」

「エルベ藩国では世話になったね。君も来たのかい」

勿論、この男の場合の世話とは宿舎や飯のことのみである。

「やー、ちょっと眷属が深手を負ってしまってなぁ」

「彼は君の眷属だったのか」

グランハムは火威が何処かの使徒の眷属であることは判ったのだが、それがまさかミリッタの使徒であるサリメルの眷属とは思わなかったようだ。

「オレぁ解ってたけど」

ジゼルが諦念と言った感じの言葉を口にする。

「ほぉ、猊下は解っていたのか」

「まぁヒオドシとは家が近いからな。よく酒とか呑むし」

「なっ!?」

普通の会話が何時の間にか、ジゼルの強烈な反撃ボディーブローになっていた。

「ま、まさか……同衾とか……」

そんなサリメルの言葉に、ジゼルは意味有り気に薄く笑う。ゲイ術が形になったようなホモさが溢れるとは言え、二人の男性がいる前で性的な話を女神に振る女神に眉をひそめる諸兄もおられようが、グランハムとユエルはこれがサリメルというハイ・エロフの平時の姿だということを知っている。悟っているので特別に思う事はない。

過ぎていくエロワードを右から左へ聞き流すだけだ。

「遠く東方まで赴きファルマートで最も腕のある医術者であろう君だが、リーリエという娘はもう……」

サリメルの意識をマリエスに戻したのはグランハムだった。彼等は亜神であり、何時までもヒトの男の話題を話していていい立場ではない。世界の庭師としての仕事を話さなければならないのだ。

「あぁ、リーリエか。うん、もう治したから大丈夫。妾はロゼナ・クランツの連中との因縁は浅く無いからな。何も聞かずに信じてくれ。絶対に勝()るから」

どうやって治したんだか解らない二柱と一人だが、この女は禁忌にならない方法で色々とルールを逸脱する。今回も自身が亜神であるのを良いことに、道理を無理で抉じ開けたのかも知れない。

「確かに最近まで幽閉されてたのを脱出した事は認めるけどよぉ。それだって人間の御蔭だろ?」

「猊下は知ってて助けてくれんかったか。まぁちょいと三昔前から捕らえられていたが、アレはアレで……。」

ユエルとグランハムが、エルベの森の宿泊施設の亭主だったサリメルが氷雪山脈で30年ばかり幽閉されていたことを知った瞬間だった。獣に腸を食われ続けている亜神がいることを以前に聞いていたが、それがまんざらでも無いように語るサリメルの神経は誰一人理解できなかった。

後にサリメルから聞いた話だと、油ギッシュな獣人連中に助けられたんだとか。

「ロゼナ・クランツの連中は勝機ある今ここで叩き潰す必要があるのじゃよ」

異世界の戦士が協力し、神々が集まって自身も賢者となったうえに神となり、多くの知識を得た今でなければ、ロゼナ・クランツを葬るのは難しいとサリメルは言う。

「その為にも、アロンを正気に戻さんとな」

敵の本拠地を攻める時は協力してくれと頼むサリメルに、ユエルは力強く答える。

その後、サリメルは霊格篭めてた拳で殴られたベン・ソジアを召喚。強めの反動をお願い、もとい力づくで要求してアロンに使い。萎れた草木のようになってしまった彼の精神を高揚させる。

萎れた精神を回復させるのには、快楽という薬が効くのだとサリメルは長年の経験で良く解っている。アロンも貴族なので、それだけの人間になってしまうと困るのだが、快楽を与えた後に彼の仕事を知る臣下に任せれば大丈夫なんじゃぁないかなぁー……という(雑な)計画である。

そのサリメルは次の日の明け方に呻く。

「やっぱ初物は良いのぅ……」

なぞということを。

 

*  *                            *  *

 

 

氷雪山脈の洞窟内で、女が怒っている声が聞こえた。

「二次被害が起こったらどうするんですか! 雪山での注意点を私にしてくれたのは半蔵さんですよ! 何かあったらどうするんですか!」

火威 半蔵。まさか開口一番で怒られるとは夢にも思わない。

「いや、うん。スマン。ミューやリシュが心配だし、実際、志乃も心配だったし……」

だが腹を(さば)かれて内臓を取りだされた複数の雪竜の死体を見ると、心配のし過ぎだったようだ。スノーゴーレムは3人が洞窟に逃げ込んだ後に活動し始めたらしい。

いや、ゴーレムとしては不細工な造りだったから、或は栗林がダメージを与えたのかも知れない。

「今後は善処し志乃さんの能力()を過小評価しないよう注意します。……つかぬ事を伺いますが志乃さん。ここに来る時に動く雪人形に遭遇しました?」 

「なんですソレ?」

考え過ぎだったらしい。確かに栗林が携行する装備だと、あのスノーゴーレムを討伐するのは難しい。その存在すら知らなかったようだ。ならばそれはそれで良い。

気になるのは確実に重傷という傷を負って、いつ死ぬかという床にあった火威が猛吹雪をくぐり抜けて来たというのに、この反応はノスリ並である。

「それはそうと半蔵さん」

「アッハイ」

結婚したら、多分まぁ確実にかかあ天下になるであろう事を予想しながら、栗林に応える。

「本当に無事で良かった……!」

抱擁してくる栗林を抱き留めると、ギリギリと逞しい腕に締め付けられた。背骨と肋骨が悲鳴を上げているのを火威は理解した。デレのように見えて、ほぼアウト。確実に折檻(せっかん)である。

きっと今頃、エロフが正体不明の痛みと息苦しさとに戸惑っているだろう。

しかし負けじと火威も栗林の背に腕を回して抱きしめる。最後の抵抗などではない。豊満な二つの脂肪の塊が火威の腹部に強く押し付けられることを狙ったのだ。

アルヌスの忍者屋敷だったら、このまま事に及びそうだ。同棲の話をするなら今夜中が良いかも知れない。が、近くにミューとリシュがいる。

「あぁ、そういやサリさんが来たよ。あの人、神様だったんだよ」

「サリサン?ヒトじゃなくてエルフじゃないですか?」

「あ、うん。そう。サリメルさん」

その火威の発言を聞いて、強く反応したのはミューだった。

「お婆様が、エルベ藩国からいらしてらっしゃるのですか!?」

予想をしていなかったミューの言葉に、火威も栗林も「世間って狭いな」と思わずにはいられなかった。

猛吹雪が吹き込まない洞窟の中とはいえ相応に寒い。氷雪山脈に来てからは、良く世話になっている穏やかな温風を風の精霊として滞留させ、火威達は一夜を過ごす。

 

同じように温風を滞留させているのは、96式装輪装甲車の人身事故によって雪の柱に埋められた鹿男がいる場所だ。鹿男は目を覚まし、彼に追従してきた鹿を一頭残らず温風の中で見つけ、パラパンの加護と勘違いして感謝していた。

 

次の朝のことである。

火威達には新たな……というか驚きの出会いが待っていた。

「ふぁ~~っ。それじゃ、帰るか」

ちなみに雪肝は生で食べると中毒症状を起こす。それをサリメルから借りた仮面と召喚して使役する火の精霊(サラマンダー)で調理し、食べ放題だった四人は洞窟から出たとき、思いも寄らぬ存在を目にした。

吹雪は収まり、山脈の平原は何処までも銀色に輝いて遠くに城塞や高い山が見える。一見する限りは平和な風景だ。

洞窟を避けて背後を見ると、枝や葉に大量の雪を纏った森がある。そこに見たのは木の蔭からこちらを伺う人影だ。

「む、ジョバンニ?」

サリメルの研究小屋があるロマの森で見た巨躯の亜人が、近くの木陰からこちらを観察するように見ていたのだ。

エティと呼ばれる彼等は、口を持っているのに一言も喋らないことを火威と栗林は知っている。サリメルの元にいたジョバンニは無口ながらも中々ノリの良い男(?)だった。

しかしである……。

「お前ら、なに者だ!?」

無口かと思われた種族が、声を大にして火威達4人に誰何したのである。

火威と栗林が口を開いたのは、答えるためではなかった。

「しゃ……!?」

喋ったアァァァァァ――――――!!!!!?

と、いう率直な感想が、山脈に木魂したのである。




まぁ、要は栗林最強ってことです。
人間の中で魔法を使わなければ確実に栗ボ―最強なのです。
亜神以外で最強なのが栗ボ―なのは、原作通りです。(?)

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