ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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残念な描写、という警告タグが欲しい今日この頃。
ドーモ、庵パンです。なにやら期間が空いてしまった気がしますが、再投稿です。
残念な描写は、まぁ庵パンの書く物は大抵どこかで残念なので、そのつもりで読んで頂けると幸いです。


第二十三話 穿門法

ツスカの時、サリメルの方はコレっぱかしも見る気は無かったのだが、精霊が見える火威には暫し感動的……というか心揺り動かされる光景が繰り広げられたのである。

風の精霊や光の精霊、或は見た事も無い精霊が天幕の中に舞い降りてサリメルと交歓していたのだ。

あの神秘的な光景の中、ベリーダンスのような踊りを踊るサリメルを火威は美しいと思ってしまった。色気というより、美麗さを感じたものである。

エティ程では無いにせよ、一部が精霊のノスリにも精霊は見えたようで全員が黙って見ていたので、特戦や栗林が手を煩わせることは無かった。

そして、火威は気付いたのだが、サリメルのツスカをリーリエが熱心に見ていたのである。

精霊種エルフやセイレーンのような特定の種族以外で、火威のように精霊が見え、使役できる人間は限られている。

リーリエがその名前の通りの薔薇に対を成す趣味があるとすれば、いよいよ残念な美人である。

さておき、ツスカの結果は

「古き都より北西。竜の足で一跨ぎして凍る貉の巣あり。なれど七つの柱と強固な柱有り」

との事だった。

「暗号にしてもハッキリしてますね」

「地理的なこととは限らない。もう少し視点を広くして見よう」

アルガナ以外でも征圧された都市は複数あるのだろうが、「古き都」が古い都市をそのまま意味するのかも不明だ。

当然ながら、そのままの意味の可能性もあるのでマリエス内の長命種や、多くの年寄りにも聞いてみる前に、疑問は簡単に解決した。

ツスカは占術というが、その有様を見るに完全な精霊魔法だ。

火威が今までに賢者から聞いたり、本などの資料から仕入れた知識では大きく体力を消耗するという。

しかし使徒のサリメルはその限りに無い。ツスカを終えたその足でノスリのエロショタ共と離れた家屋に行ってしまってたのである。

そのサリメルが大天幕に戻ってきたのだ。サリメルは言う。

「“古き都”はそのままの意味で良いと思うぞ。昔は“サガルマタ”というのが山脈では主だった都市じゃった」

サリメルはジオとリスケと手を繋いだ状態で、火威達にアドバイスした。サービス業の真っ最中なので、その点には触れずに助言だけを有り難く頂戴する。

サリメルはミリッタの使徒だが、神官だから娼婦という役割や仕事内容は火威も知っているし、特段意見も無い。

客には愛想良くした方が良いだろう。ただ一つ、客の懐が心配ではある。

「サリさん、仕事したならちゃんと料金貰わないとダメですよ」

「あぁ、大丈夫だそうじゃ。こやつらの懐に心配は無いそうじゃからな」

経済の「ケ」の字も知らなそうなノスリが、意外な話である。

材木や雪肝でも売って金を稼いでいるのか、或はテクシスが棲む森のように温泉が湧き出ているのを観光収入にしているのか……。

そう考える火威の前にジオの片手が差し出された。

「お金貸してくれなぁ~ん」

何を言うかと思えば、借金の申し込みである。

「返す当てがあるのかよ」

「リーリエさんから給金もらったら返せるなぁ~ん」

経済活動が止まってると言ってよい氷雪山脈で、民兵への給料が払えるのか疑問である。

「そういう空手形は通じんぞ」

火威としては当然の反応である。集落に帰っても経済活動をする保証の無い種族に、渡せるような余計な金は持っていないのである。

しかし……。

「にょほほぅ、エロフさんのマッパ踊りを一番間近でガン見できても、僕達にお金は貸せないなぁ~んね?」

「なッ!?」

火威はノスリの知能を完全に侮っていた。まさかこれ程まで、陰に満ちた手段を執って来ようとは、夢にも思わなかったのである。

「ちょっ…ちょと待て!俺が見てたのは精霊だよ!お前らにだって見えただろうが!」

「何のことやら~ん」

こ い つ ら !! 今すぐ戦闘型のエティに変えて即戦力にしてやろうかァァ!!! なぞと考えた火威の肩を、強く叩く人物がいる。

「そうだぞ火威。お前は栗林と交際している癖に“ああいうの”が良いのか」

思いっきり剣崎に諭された。

更には

「ようやく“オツキアイ」で勝ったってのに浮気すんのかよ!?」

ジゼルにまで勘違いされた。どうやら神様でも精霊が見える神と見えない神がいるらしい。

 

 

*  *                            *  *

 

 

天幕内にいたグランハムが執り成したことで、火威への誤解の嵐は止んだが、その時にはジオに金を貸した後であった。

それでも助かるのである。

栗林が沈黙したまま獲物を見る肉食獣の眼で火威を見ていたのだから。

「“七本の柱”ってのは何ですかねぇ」と火威。

「馬鹿デカい建造物でもあるのかも知れんぞ」と推察したのは鉾田だ。

「あぁ、あれはな、敵のスノゴや要塞。或は古代龍程度の魔導生物のことじゃよ」

横から口を出したのはサリメルだ。翼竜ベースの魔導生物が襲撃してくる前に、火威に相談しようとしたことも、敵の拠点や戦略兵器の有無を調べるかということを聞く為だった。

相談無しに調べたのは、二度手間を嫌う火威の性格を考えたからだということは、サリメル以外で知る者はいない。

「ありがとう御座います、サリメルさん。やっぱ精霊種だけあって精霊とはツーカーなんですね」

「妾に掛かればこの程度」

火威がサリメルの名を略さずに呼ぶのは何時以来だろうか。それでいてサリメルも調子に乗ったようなことをしないし、言う事もない。

先程、ジオに貸した金が考えていたより安く済んだのも、サリメルがノスリの懐事情を(おもんばか)ったからである。(一銭も持って無い上に全員が一度に楽しむとは思わなかったそうだが)

未だに言動が変態めいたところが時折あるが、エルベ藩国の時のような全面的な変態ではない……ような気がしている火威である。

まぁ遅延性の毒のように毒されきた可能性も否定出来ないが……。

しかし、ある意味で火威には好ましい事では無い。

グランハムの執り成しがあったとは言え『真っ裸のサリメル凝視騒動』があった直後である。当然栗林の印象は良くないし、サリメルへの警戒心が薄れる火威が目指す『栗林との同棲』に良い影響が出るはずがないのである。

 

その後、サリメルに聞いたところ、火威が初めてみた精霊は「プロトン」と呼ばれる筋肉の精霊だった。サリメルは簡単に「ケツアゴ」と呼んでいるようだが、多分成分は一酸化窒素とか、そういうのだと火威は推測する。

「ナサギは勿論じゃが、プロトンはシノも好いておるな」

ケツアゴではなく正式名称なのは、栗林に「ケツアゴ」という精霊が懸想したようなことを言うのを忌避したのだろうか。その気遣いが火威には何となく悲しい。情けなさを感じる。もっと筋肉を付けなければ。

そんな筋肉バカフラグが立ちつつある火威が、特戦やマリエスを預かるリーリエ、そして神々との相談で最初に打ち出された任務を言い渡された。

「ゴムの鉄柱ってバラバラになってても良いんですか?」

「なにを言う。ヌシが最初に持って来た鉄柱こそ粉微塵になりつつあったぞ」

朝の内に特戦群がマリエスに来る途中、排除したスノーゴーレムの残骸の回収が火威に言い渡された任務だった。破壊しても、魔導兵器に使える材料は加工せずに再利用可能らしい。

火威はすぐに兜跋を装備してマリエスを出た。もう八つ時(15時ごろ)を過ぎている。冬が近い氷雪山脈では、陽が陰って来ているのだ。早く行って帰って来なければ、また戦闘に巻き込まれる。

魔法を使えば消費する弾薬も無いのだが、はっきり言って面倒くさい。ここ数日の間の敵は特に面倒になった。

とか考えていたら、火威の目の前にスノゴが立ちはだかった。

「えぇい、メンドくせぇ! さっさと溶けろや!」

火の精霊(サラマンダー)を最大火力で召喚すると、スノゴは周囲の雪を巻き込んで、あっさりと水に還った。

何という手応えの無さ。もはや素材キャリア―……と、しか思えないような敵である。

 

横スクロールシューティングゲームの敵のような、今し方斃したスノゴの鉄柱を回収しようとすると体内には何も入っていなかった。

周辺の雪を溶かしてみても、落ちてる物は見当たらなかったのである。

スノーゴーレムの強さは素材の鉄柱にしか見えない魔法具に依るらしい。火威は魔導士としての経験を一つ重ねることが出来た。

マリエスに戻ると、その日の内にゴムの二号機は完成したが、火威を驚かせたのは小型のゴムが六体出来ていたことだ。

「サリさん、素材無しだとこいつら目茶苦茶弱いですよ」

サリメルほどもも生きて来て導師号を得た魔導士が知らないとは考えられないのではあるが、火威は念には念を入れて注進する。

だが「地を這う者相手には十分な筈なんじゃがなぁ」と返す使徒の賢者である。

生ける屍や通常の怪異程度なら、一体で十分に押さえることが出来るという。

火威が相手した先のスノゴは、何かする前に火威が倒してしまったので導士号を持つ賢者の意見は火威の意見より重く見られる。

恥女とは言っても1500年以上生きる賢者だし、一応神様だ。

 

 

*  *                             *  *

 

 

血縁上では他人であったが、龍人と人の間に産まれたハリョであるミューの子はサリメルにとってみれば玄孫であった。

両親を失ったミューを養子にしたのが、現在はロマの森に住むミリエムとジョバンニである。そうなると、ミューの子供はサリメルにとっても身内になるのだ。

ファルマートの亜神としては珍しいが、人間の中に多くの身内がいる神がサリメルである。

そしてサリメルは、唯一の玄孫のフィーがこの動乱の最中に命を落とした事を、栗林や火威と共に帰って来たミューから直接聞いたのである。

サリメルは今までに、人間好きが幸いして百人以上の子供を養子として育て、一人でも生活出来るようになるまで世話してきたが、サリメル自身が腹を痛めて産んできた子供は十人にも満たない。

その内の一人であり、最初で最後の同種族の男の間に出来た子供がミリエルだ。そしてそのミリエルの子供は、サリメルから見れば直系のに当たる。

サリメルは、ツスカや複数のスノーゴーレムの製作を終え、人間ならば疲れで一歩も動けないような作業量を経ているのに、神が故に手を休める必要がなかった。

神が直系の人間の子供の仇を討つということは、ファルマート始まって以来無いことだしサリメル自身そんな気概を意識したことも無い。動乱を起こした首謀者への殺意も無かった。

ミューの一子、フィーの魂はすでに冥府に赴き、一度はハーディの元に行ってはいるが世界に還りつつある。その魂を持った人間には、再び出会える可能性もあるのだ。

だが数々の禁忌を破り、自らの身内を含む多くの人間を死に追いやった不逞な輩を討つことへの士気は、この上なく高まっている。

 

「クリバヤシ」

神でありながら、巨大な鍋で煮込み鍋を茹でるジゼルの横で料理の手を見ているグランハムが栗林に声を掛けた。

本来なら屋敷の料理人なり使用人が作るべき夕食であるが、ツスカで駆り出されたメイドの他にも、使用人の多くは城壁の上から雪竜釣りをしなければならない程に食料が逼迫(ひっぱく)している。

「サリメルは知らないかい?」

「さっき、火威三尉と西側の城壁にいましたよ。三尉が作った武器の使い方の説明を聞いてますよ」

「ふむ、それでは仕方ないね」

グランハムとしては同じ物ばかりを食べると栄養が偏るので、本業並の料理の腕前を持つサリメルの意見を仰ぎたいところだ。

この場に居る三柱の神はともかく、マリエスにいる戦闘員の殆どが人間ないし半人間である。

一部、ジゼルが連れてきた竜や龍は肉食という現在のマリエスでも不自由しない食性の者は居るが、それより遥かに人数が多いのが人間だ。

いざという時、栄養の偏った糧食で栄養失調を起こすと目も当てられない。

地味ではあるが、重大な問題であった。

「急ぎの御用でしたら呼んで来ますよ」

先のツスカで火威がサリメルを凝視してたことは、栗林にとっては裏切りそのものだった。

ジオとか言う亜人が金を借りるついでに追及があった直後は、鉄拳離別を突き付けてやろうかと思ったほどだ。

否、グランハムの説明が無ければ精霊が見えない栗林は、任務の後にでも火威をブン殴って別れていただろう。

「あぁ、それじゃ獣肉以外で摂れる栄養素の摂る方法を聞いて来てくれないか?」

精霊が見える彼氏というのは、考えようによっては物凄くファンシーだしレアどころでは無い人材である。恐らく、日本に帰還したら隊内どころか世界を捜しても見つけられない人材だろう。

ハゲで目の上に傷があり、ヤクザも怯む顔面を持つ火威には全く似合わない特殊技能だが。

そんなレアで近い将来に旦那となる男だ。ただでさえレアなエルフの中で、レアなエロフには余り会わせて良いものではない。

高校時代は男女から人気があり、偶発的にキモオタすら引きよせてしまった栗林だから、自ら男に好かれようと行動しようと思ったことも無いし、そのように行動したことは無い。

一方で、エルベ藩国のシュワルツの森に住んでいたテュカの同族と思われる変わったエルフは、信奉する神からして男扱いが巧いであろう。

悔しいが、男から見るセックスアピールというヤツは向こうが格段に上……と、栗林は考えている。

そう思考しながら火威とサリメルの居るであろう場所に向かうと、耳を(つんざ)く轟音がマリエスに響き渡った。アルヌスとは大気の質が違うが、空気を震わせ皮膚に伝わるこの感覚は以前にもアルヌスでも感じたものと同じだ。

「どうじゃ~。“ろーれんつりょく”なんてものは適当に良い按配を探せば良いんじゃよ」

「それ、俺がさっき言ったことですよね」

どうやらサリメルが火威が造った「超電磁砲」を使えるようになるまで訓練していたらしい。

「じゃあ次は実弾での訓練じゃな」

「三発しかないので空撃ちだけです。そんで必要なローレンツ力を確実に把握してくださいよ」

「えー」

サリメルはブーたれて明からさまに不満な態度を見せるが、他人の(暫定で)旦那に手を出すようなことはしていないようだ。

しかし栗林は直ぐに姿は見せない。品の良いものではないが、暫し二人の会話を盗み聞く為に近くまで向かう。

「それじゃ代わりにハンゾウ。ちょっと揉んでよ」

前言撤回、酷い神だ。

「駄目です。栗林と結婚するって言ったでしょ。他の女は綺麗でも神様でも駄目なもんは駄目です。ジゼル猊下……や、ロゥリィ聖下の御協力あって漸く手に入れた縁です。ホントに絶対駄目です」

「おぉ、それでこそ我が眷属……というかロゥリィ聖下とジゼル猊下がか?」

サリメルが感心する点が今一解らない。さておき、大祭典以前、課業後に火威がロゥリィに猛特訓を受けているという話は噂程度に聞いたことがある。

仲人的な立場になった亜神が二柱もいるのだ。きっと祝福された結婚になるだろう。そして今し方火威が言った言葉も、栗林を十分満足させるものだった。

「それでは妾はシノに懸想することにして……」

なぜそういう結論になるのか。エルフの価値観はホントに日本人には良く解らない。

テュカと同種族らしいが、神であるから価値観は似ているけど違うのであろう。

 

この後、サリメルはエルベ藩国のシュワルツの森の脇のロマの森への「門」を開いた。栄養素不足という話をしたら、サリメル自身の子であるミリエムの魂を目印に近くにゲートを開いたのだ。

シーミストでレレイがシーミストの兵を杖で殴り倒すのに使っていた魔法と同種のものだが、こちらは遠く離れたエルベ藩国内である。相変わらず、この世界の魔法というものには舌を巻く。

 




ジゼル猊下が余り目立ちませんが、当小説のヒロインの中で一番残念じゃないのがジゼル猊下なのです。
相変わらず嫁力の高さはトップクラスなのです。

そんなワケでご質問、ご感想などありましたら忌憚なくどうぞー。

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