ゲート 魔導自衛官 彼の地にて斯く戦えり   作:庵パン

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ドーモ、庵パンです。
久々の魔導更新です。
昨日投稿予定でしたが、今日にずれ込んでしまいました。
悲しいことに、さお先生が体調不良で今月の漫画版更新はお休みですが、
庵パンは投稿してしまうのですよ。
前回からサブタイに使う作文能力を動員してニリニリ頑張ってしまうのですよ。
でも今回、前回より内容少ないです。


第二十五話 降り積もる雪

マリエスとアルヌスを繋ぐ門は、案の定というか予想通り閉じていた。

ところがである、サリメルは至極簡単に再開通させてしまったのだ。

一度通った道は忘れないという、タクシー運転手のようなスキルでも持っているのだろうか? それとも目印がマリエスにいるのだろうか? 火威始め、山脈での任務がある自衛官には疑問が浮かぶ。

予想通りの事も起きたが、予想外に嬉しい事も起きた。

レレイが家を改造する前に、レレイの時間が有る時や手の空いた第三・第四戦闘団の自衛官が坂の下の忍者屋敷から、調度品や家具など、家の中にある物すべてを生活協同組合の倉庫に移しておいてくれたことだ。

期せずして……いや、予想通りに恥ることもある。大量のゴム製避妊具が倉庫の中に置かれていたことである。特地に派遣された自衛官は基本的に心根が優しいので、ご丁寧に見えないようシートを被されていたのを見た時、火威は苦笑するしかなかった。

「ハンゾウ、これをどんな時に誰と使うんじゃ?」

とエロフに訊ねられた時は「日本被れも大概にしろ」と不愉快な気分になったりもした。使い方は日本から輸入された青年誌でも読んだか、似非ニホンに行った時に知ったのだろう。

こんな時に便利なのが「用心しよう」というコトダマである。某ヘッズのサリメルに こうかは ばつぐんだ。

使う予定はないが「用心して用意」しているのである。ならば深く聞くこともないのだ。取り敢えず、火威としては栗林と“する時”に使いたいという希望はあるのだけれども。

 

 

*  *                            *  *

 

 

再びマリエスに戻ったサリメルやリーリエ、そして自衛官らはサガルマタを攻略する準備に取り掛かる。

と言ってもサリメルにはノスリ連中との約束もあるし、サガルマタに向かうのは明日からだ。

アルヌスは既に晩秋のような気候だったので早くロゼナ・クランツを制圧したい火威であるが、ノスリ連中の厄介さを知るのも火威である。

サリメルとノスリのスケベ行為はシュテルン邸の一室を借りて、そこで行われるようだがノスリも一応は精霊的な要素を持つ種族である。

大祭典の前、ジゼルは精霊魔法を含む魔導を使える火威と“し過ぎる”と子供が出来る……というようなことを言っていた記憶がある。

「サリさん、エルフとは言えノスリの連中とし過ぎると子供ができちゃうんじゃないっすか? まさかサリさんも避妊具を持っているとか?」

「む、ハンゾウ。知らぬのか? 亜神の魄は常に一定。死なぬし子を宿すこともできぬのじゃよ」

ミリッタの使徒なのだから、子を産むことに関しては例外にしてくれて良いのにとサリメルは笑う。そんな二人が気付かぬところで、近くにいたジゼルはそそくさと退散しようとしていた。

「精霊を使役できるヤツとすると“出来る”って聞いたんすが……」

「使徒の身は何があっても、どんなことでも絶対に常に一定なのじゃけど」

「……えっ?」

「えっ?」

「あっ」

こうしてジゼルの気遣いは脆くも崩れ去った。

だが火威はジゼルに感謝こそすれ、恨むことはない。何せ特地に来て帝都の悪所事務所に出入りするようになって以来、思い続けて来た女と婚約まで出来たのである。

火威に()いた嘘が発覚して、心なしか萎れた感じにうな垂れるジゼル。

そんな女神に火威は言う。

「我が国では嘘も方便と言いますし、猊下には本当に感謝しております」

それが真意である。萎れた姿も可愛らしい400歳を恨む気持ちなど有る訳が無い。

「んじゃハンゾウ、愛人にしてくれ」

「なんでサリさんが言うのさ」

「いや妾は猊下の代弁をな」

「言わねーよ!?」

慌てるジゼルに、ニヤつき顔のサリメル。このエロフ、こんなに意地悪だったっけか? と火威が思案した時だ。

「そ、そりゃ…出来るなら、そういうことも……」

そこまで言ってジゼルは言い淀む。その恥じらいがサリメルに存在したら脅威であるが、今のところ脅威が迫る気配はない。

ともあれ、火威は返す言葉に困るので呻いて目を伏せることしか出来ないのだ。ジゼルには感謝してはいるが、籍を入れる前から不倫などできない。

「そりぁ……ちょっと、いや、だいぶ難しいっすな」

「え~、三人で結婚すれば良いではないかー」

ここでサリメルが頑張る意味が解らない。先々のカカア天下を予想する火威としては「栗林が許可してくれたらですねぇ」と言うしかなかった。

「ところでお前……」

ジゼルが火威に何か言おうとした時だ。急にサリメルが身体をビク付かせて震えだす。

「んや、サリさんどうしました?」

「い、いや、何もない。“妾は”何もないぞ」

ジゼルもサリメルの様子を気にするようではあったが、この神がおかしいのは何時ものことなので余り気にしていない。

「それでよ、ハンゾウ」

ジゼルが口にしたのは火威の名前の方だ。心理的な距離を示すバロメーターとしては実に解りやすい。

「クリバヤシはどうしたよ?」

些か強引に話しを変えるが、今までの話題は火威にとっても易いものではない。火威は進んでジゼルが示した道に乗っかった。

「明日からサガルマタ攻略なんで、それを控えてリーリエさんが身を清めてるので、栗林はその護衛です」

「ピ、ピ…‥ピドやテクシスのところに行っておるンか?」

「ちゃいますよ、そんな遠くまで行きません」

ピドは初めて聞く名だが、恐らくエティなのだろう。それはさて置き、温泉を掘った主犯がサリメルだということが判明したのである。それはそうとこのエロフ、自身に異常事態が発生しているらしいが良く頑張る。

 

 

*  *                            *  *

 

 

氷雪山脈のシュテルン家にとって、遠征前の沐浴、或は湯あみ……入浴そのものだが、リーリエはこの沐浴を殊更(ことさら)好んでいた。

年中寒い山脈で、気を緩める事ができる唯一の瞬間であった。

しかしリーリエがこれから行うのは、一般的な沐浴ではない。それどころか湯あみですらない。

彼女は足を入れる水面からは、大気と温度が異なるせいで霧が発生している。所謂(いわゆる)「毛嵐」というものである。

山脈に住んでいた者達は、今は安全なアルヌスに避難しているが、あの中の者達にはリーリエより苦労し、多くを失った者もいるはずだ。

更には帝都から派遣された兵団や騎士団にも苦労を掛け続けている。そんな中で、温かい湯に着かれるような神経でいられる訳が無い。先の内戦でも行っていたように氷の張る冷水に浸かって成した神事は、明日から行われるロゼナ・クランツの攻略を祈願も兼ねているのである。

日本人が見れば、それを「水垢離」と言えよう。水垢離を取って自ら死に近付き、霊体の神や精霊に祈願するという荒行が、遥か太古に東方の彼方からファルマートに来たエルフを始祖に持つシュテルン家では脈々と伝わっている。

特段、リーリエが(ゲン)を担ぐ性格だという訳ではない。

ないのだが、今は皆が懸命にマリエスを掬い敵を討つ為に動いている。

傍に控え、リーリエを護衛する女のジエイタイには、今現在迷惑を掛けていることを申し訳無く思っているし、更なる迷惑を掛けることにもなるかも知れない。そうならない為にもリーリエは意識を手放さないよう、下腹に力を入れて身を引き締めて精神を扱くが如く統一させた。

水を掬う桶から、リーリエは自身に向けて冷水を打ち付ける。その度に彼女の体温は奪われ、感覚というものは無くすのも直ぐだった。

 

*  *                            *  *

 

 

「サリさん、もう大丈夫スか?」

「いや、ハンゾウが体温で温めてくれなかったから死ぬやも知れぬ」

ほざくサリメルに使い捨てカイロを叩き付け、華麗に聞き流す。

「ノスリの連中に変な病気を移されても、サリさんは亜神だから影響ないでよね」

「昇神してからそう経ってないからなぁ。この百年で解ったことと言えば腹を喰われても大丈夫な事と龍に焼かれたり喰われても大丈夫なことじゃな」

一体いつ昇神したの? と、疑問が湧くところだが、サリメルに個人的な事を聞いても建設的な話はこの女から聞ける気がしないので、これ以上の質問はしなかった。

腸を腹ごと喰われて大丈夫なら、ちょっとした病気なぞ台所の悪魔を見て精神衛生を損なう程度なのだろう。

「火威三尉。サリメルさん」

階下から来たのは栗林だ。

「あ、ご苦労さんー。リーリエさんは?」

「もうこちらに来てますよ。三尉、会わなかったんですか?」

「サリさんが寒がって仕方ないから別の場所で精霊魔法ってた」

精霊を使役するのを無理やり動詞にしている火威とサリメルは、今同時にこの場に来たのである。

その日の夜、火威ら氷雪山脈外から来た者の夕食は、以前にリーリエと初めて会った日のような屋敷内の食堂だった。

簡易ながらも会食という体で開かれたのだが、企画し主催したのはリーリエの弟、アロン・フレ・シュテルンである。

企画し主催……というと豪勢な晩餐をイメージしそうだが、サリメルのニンジャオンセン郷から補給があったとはいえマリエスの糧食が乏しいことには変わらない。

今朝まで雪肝だけだったのが、野菜と汁物が付いた程度である。

 

「精神精霊の影響があったとはいえ、本当に申し訳ない!」

廃人状態の時には多くの者に迷惑を掛け、中でもヒオドシと姉のリーリエとハリマには赦されないことをした…と言うアロンは見るからに健康体と言える。

火威が知る限り、以前は目の下に隈を作って眼光も鋭く目自体の輝きも無かった。

不健康厨二を地で行くアロンだったが、ミリッタの神官であり医術者でもあるサリメルが治療したのである。

ベン・ゾシアを掛けられて人格が変わり、リーリエが瀕死の重傷を負った責任を火威に求めて背後から刺し、過重な精神精霊の反動として精神を踏み荒らされて心の動静を失った。

「全てが終わったら是非ともヒオドシ殿には謝恩と償いの印を受けて貰いたい」

サリメルの治療で再起したアロンが言う言葉に、火威は返事に困る。

度々、火威は言っているのだが、内戦の結果に国力を低下させた帝国が倒れたら戦国乱戦到来である。

そうなると自衛隊も大いに困るのだ。

結果、その事を再度言葉にしなくてはならないのだが、火威は別の事も考える。

「アロンって良い奴だったんだな」

と。

それとは関係は無いが、アロンが迷惑を掛けたという相手に疑問が浮かんでいた。

ハリマはシュテルン邸の使用人であるが、戦斗メイドなので屋敷内のことよりも屋敷外からの敵の侵入、それに対する警備が主な仕事だ。もちろんメイドなので屋敷の使用人としての仕事もあるのだが、シュテルンの姉弟二人の世話掛かりはミューやその他のメイドの方が係わる割合が大きい。

屋敷内全体の使用人に対する謝罪としても、ハリマ名指しで謝罪というのは可笑しいのだ。ならば、ハリマ個人に、何かをしたのだろうか?

 

ロゼナ・クランツ攻略を控えたマリエスは、その夜も深い雪に包まれていった。




栗林のターンですが、猊下のターンで猊下が短かったので猊下に再び頑張って頂きたいところです。
にも関わらずオリ亜神が目立ちやがります。
キャラが濃い上にドラえもん並みの便利キャラにしてしまったのが原因か……。

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