ラブライブ! ~少年とμ'sが出会えた奇跡~ 作:ハイドレンジア
それではどうぞ
「あれほど言う事でもねーのに、何であんなに怒るのさ!最近の若者は……」
「まぁまぁ落ち着いて、ね?」
「分かってますよ……」
俺はあの言い合いの後、ことりさんと意味もなく校内を歩き回っていた。
俺は別に歩き回る気はなかったのだが、ことりさんに「一緒に校内、見て回ろうよ」と言われた為、その事に付き合っているのだ。
ー何でだろうな……
なぜあそこまでアイドルはやらないと言ったのだろうか?やりたくないからか、それともただ恥ずかしいからか……。
いや、前者と後者もどちらもあてはまらない。恐らく海未には彼女なりの理由があるのだ、無理矢理やらせ、もし成功したとしても、無理にやらせた俺だけではなく高坂さんもことりさんも海未も嬉しいと思うだろうか?俺は思わないと思う、なぜなら成功と言う物は、グループなら全員の気持ちが同じで、尚かつ同じ目標を持っていないと、出来たとしても達成感を味わうことなど出来ない。成功は全員のやりたいという気持ち、即(すなわ)ち、全員の思いが一つになり、目標に辿り着いてこそ成功は意味を発揮する。ことりさんとともに考えているのだが、何にも頭に浮かばず、とうとう俺の口から言葉が漏れる。
「海未がやらないとなると……あぁ!どーすりゃいいんだッ!」
「うーん……海未ちゃんがあんなに言っちゃったし……」
「思い、つかねぇ……」
あーっ、とガシガシ頭を掻いた俺にことりさんがコメントしてくれて、再び俺は冷静を取り戻す。俺はうーん、と腕を組み、昔の出来事と言った色々な事を思い出すため、途轍もなくにが~い思い出やとても嬉しかった事などを頭の中で再生していく。
一人の少年と二人の少女……これは約十年前の俺と花陽、凛だ。俺達はある公園で出会い、こちらの方からそのときはすごく引っ込み自案だった花陽に手を差し伸べ、友達になった。凛とは俺が一人で公園に居たところ、向こうから俺に話しかけてきて、一緒に遊んでいたら仲が良くなった。
これは実に良い思い出だ、記憶力が絶望的なまで低い俺でさえ、鮮明に覚えている。まるでこの記憶自体が俺に忘れるなと言っているような感じだ。ほかにも色々と頭の中に記憶が再生されていく。弓道全国ベスト3になった時の記憶や、中学時代の俺やその仲間達との暴走記など、良い記憶や、悪い記憶、中には俺の黒歴史が再生されていった。ここである一つの記憶がページめくりのように記憶を再生していた俺を止める。
この記憶は、高坂さん、ことりさん、海未と遊んだときの記憶だ。
そこは、俺と花陽が初めて会った公園だ。そこには大きな木が立っており、夏になれば蝉がよく採れたものだ。あの頃の俺ーそのときは僕だったーは夏だろうと冬だろうと、日が暮れるまで泥んこになりながら遊び回り、親に怒られることもよくあった。
ある日の事だ、俺達は日が暮れる前まで遊び、もう帰ろうとしていた。だが、突然高坂さんが木の前に立ち、こう言い出した。
ーのぼってみようよ!
俺はこれを聞き、誰よりも真っ先に驚いた。えぇっ!帰ろうよ!と反応したのに対して、やーだ!これ登るまで帰らない!、と言い返され、泣き虫だった俺はうえ~ん、と泣き出した。俺を含めた三人は様々な反応をする。海未は無理です!と目を潤ませ、ことりさんはえぇー!と今にも帰ってしまいそうだった。
結局木には登ったのだが、四人の体重に耐えられなかったのか、俺達の乗っていた木の枝がポキリと折れ、俺は一瞬体が宙に浮くのを感じながら滅茶苦茶に腕を振り回し、近い枝をつかんで、自由落下は回避した。
そして、それぞれの方法で落下を回避した俺達は、見たのだ。
遙か遠くの地平線へと沈む、オレンジ色の太陽を……。
「おーい、海渡くーん」
「……うぉ!?……また何か見てました?」
昔の記憶を蘇らせ、深いトランス状態になっていた俺にいきなり声を掛けられ、大いに驚く。
これは俺の悪いクセだ。俺はいつも物事を深く考える事が度々(たびたび)あり、その都度花陽や海未といったちゃんとしている人に考えを中断させられ、今のように声を上げてしまうのだ。
「そろそろチャイムが鳴る頃だから、教室に戻った方が良いよ?……次は確か数学だったかな?」
「えぇ、数学かよ……。じゃあことりさん、また後で~」
「また後でね~」
そう言い残し、俺は内心かなり焦りながら教室へと猛ダッシュで向かっていった。
それにしても、何でことりさんは一年生の四時間目を知ってるんだろうな……。
時間は飛び、放課後となった。
俺は今弓道場に来ている。ここの弓道場はかなり昔からあるらしく、歴史も深い。海未によるとここは母さんが高校生だった時からあったらしい。古くから在るため歴史がある、こんなに良い学校を廃校にするのは実に認められない。UTXと音乃木坂どっちが良いと聞かれたら百人中六十七人が音乃木坂が良いと言うに決まっている。そうだと信じたい。
ザクッ
「あっ外した。珍しいな、千年に一度起こるか起こらないかの確率なのに、今年は言い事がありそうな予感がするぞ!」
「うるさいです!静かにしてください!………いけません、余計な事を考えては……」
ザクッ
「おやおや?また外したぞ?」
「あぁ!いけません!変なことを考えては!!」
「大丈夫か?ほら」
二度目のいけません!を言い、床へと座り込んでしまった海未に手を差し出し立たせてやる。次に天然水の入ったボトルを海未に渡し、気持ちを落ち着かせる。
「何だよ、アイドルが気になるのか?」
ボトルを渡し、疲れた体にピッタリの物を渡してやったのだが海未の表情は冴えておらず、つい気になってしまい声を掛けた。
昼、散々アイドルの事について怒っていたはずなのだが、やはり大和撫子でも気になる物は気になるのだろう。それこそ、人間の本質と言うものだ。俺だって気になる物には片っ端から挑戦している。
「穂乃果のせいです……。いきなりアイドルとか言い出すから……そのせいで全く練習に身が入りません……」
「と言うよりさ、元々練習に身を入れる気がないんじゃ……」
「海渡?何ですって~?」
「嘘です、かなりマジメな海未さんがそんな事するハズがありません。許して下さい」
勿論、こんなので許して貰える訳がない。後で俺はかなり痛い鉄拳制裁を受けるのだろう。
海未がアイドルの事が気になっている気持ちも分からなくない、もし高坂さんが一人でもやると言い出したら、俺は海未がジッとしていられるとは思わない。大事な幼馴染みが一人でやると言って、何も手助けもせずただ見ているだけの関係を幼馴染みと言えるだろうか?俺は認めたくない……そんな関係は絶対に……。
人は一人で何もかも出来るようには出来ていない。人は数人いてこそ真価を発揮するものなのだ、一人目の足りないところを二人目が支え、それでも支えきれない場合は三人目も一緒に支えてやる事により、俺達人類は存在してきたのだ。
「なぁ海未、その……変なこと言うようだけどさ……」
「海渡?どうかしましたか?」
今更だとは思うが、ここで昼のことを謝っておいた方がこの先良いのかもしれない。むしろ謝らないと俺の心のモヤモヤが治まらず、弓道などいつもなら普通に出来る物が出来なくなる。それは幾ら何でも寿命を何年減らしてもイヤだ(?)。
俺はあまり海未の逆鱗に触れないような言葉を一言葉ずつ頭の中ではじき出し、一つずつ組み立てられていった言葉を口にしたー時だった。
「もしかして、今日の昼の事ですか?」
「ウッ……」
なぜ俺の考えている事を当てて来るのだろうか?怖いとしか思えない。
「うっそぅ……どうして俺の考えている事が分かるんだ?……もしかすると、ホントにエスパーなのか……?」
「これは昔からなのですが、海渡はいつも単純なんですよ?物事を隠し通すのも下手ですし、思ったことをすぐに口にしてしまいますから」
「………結構昔に勝手にアイドルのライブに行ってたのは気づいてないか……ふぅ、良かった」
「ライブ……?一体何の事ですか?」
「いや?何でもないよ?ただ偶然通りかかっただけだよ?」
いかにも嘘くさいこの喋り方はもう海未には効かないはずだが、今日は見逃してくれた。感謝だ感謝……。
「海未ちゃーん海渡くーん、ちょっと来てー」
名前を呼ばれ、声がした方を向くと、昼休み以来の再会となることりさんが俺達の方に手を振っていた。
「ことり?……海渡、また何かやらかしましたね?」
「いやいやいやいや、何でそうなんだよ!……午後の授業は受けたぞ?良い夢見たけどな~」
「へぇー、よく寝れたみたいですねー、私は昨日弟と授業中は寝ないと約束したはずなんですけどねー」
海未は笑顔を浮かべながらこちらへとドシドシ歩いてきた。この笑顔が黒い笑顔だと言うことはもう理解している、よって俺のライフポイントはもう殆ど残っていない。
「うきゃあああああぁぁぁぁぁー!!」
俺の情けない悲鳴は校内だけでなく、全国に響いただろう。あるところでは人が倒れ、またあるところでは地震が起きる。俺がくすぐられれば、このような事は普通に起こる。
この後ことりさんが俺をくすぐる海未を必死に止めてくれ、何とか一命は取り留めるのだった。
「うぅ……厳しいぃー……」
「海未ちゃん、海渡くんがかわいそうだよ?」
「仕方ありません!海渡が授業中に寝てたと言うのですよ?ことりはともかく私が黙っているはずがありません!」
うぁー!海未の鬼ー!、と泣き出したいところだが、ここで泣けば俺のプライドが崩れてしまう。ここは黙っておくことにし、俺は歩きだした海未とことりさんの後を追うように歩き出す。
「ねぇ海未ちゃん、いきなりだけどさ……ことりね、アイドルをやることにしたの」
俺はことりさんが言った言葉に対し、自分の耳を疑った。だが、彼女の目にはしっかりとした意志が宿っていた。今の発言が決して嘘なんかじゃない事を悟った。
「ことりさん……マジですか?」
今のは決してふざけて言った訳じゃない、俺が思ったことを素直に言っただけだ。
「マジ、だよ?……海渡くんも、やりたいんだよね?」
ことりさんが俺に話しかけたタイミングはまさにその事について考えていた時だった。もしアイドルをやるなら支えていきたいと思ったばかりだったのだ。
「……ジャストタイミング、ですね。……勿論、やりますよ、だって昼飯の時間に高坂さんと約束したんです、支えていくって……」
俺は胸に手を置き、何かに優しく語りかけるように話す。
俺は昔、いつも自分で何かやりたいことを見つけるのが下手な子供だった。何かを始めるにしてもすぐに飽き、また始めてもまた飽きる、弓道を高坂さんのすすめで始めるまで、俺はこんな事を繰り返していた。今となっては元から弓道を始めていれば良かった、なんて思っている。だが、あの時は自分の事が嫌いだったため、自分の事について自信を持つ事も出来なかった。
何をやってもどうせ出来ない、そんなことをいつも考えていた。もしあの時俺の前に高坂さんが出てこなければ、今の俺は居ないだろう。花陽と知り合う前、あの時家にこもっていた俺に手を差し出してくれたのは高坂さんだった。
ー君、海未ちゃんの弟君だよね?私、高坂穂乃果!よろしくね!
初めて会った時の高坂さんは、俺から見たら太陽だった。
日光が足りず、力無くしおれてしまった一輪の花に一筋の光が差し込んだような感覚に俺の体は包まれた。
その後、俺は彼女に手を引かれ、初めて友達と呼べる存在が出来たのだ。
昔のことを深く思い出し、俺はそのときに感じた嬉しい気持ちの余韻に浸りながら、記憶を再び再生していった。
「いつも、こういう事って穂乃果ちゃんが始めてたよね」
「確かに、いつもそうでしたね……」
「でも、殆ど何もなかったじゃありませんか、怖い目に何回会ったことか……」
海未も俺と同じく、記憶を蘇らせていたようだったが、イヤな記憶しか浮かばなかったのか、あの時は怖かったと誰でもわかる口調で話す。
「何言ってんだ、海未。俺も高坂さんに連れられて怖い目に何回もあった、何度泣いたかなんて分かんないくらいある、でもな……俺は、後悔した事なんて、ほんの一回も無いぞ?」
「うん……穂乃果ちゃんの始めたことをやって、ことりも後悔した事なんて一回も無いよ……。海未ちゃんは?」
海未はどこかを見たまま、硬直していた。いや、正確に言えば、昔俺たちで遊んだ時の記憶が自動再生され、恐らく、俺がさっき見ていた記憶と同じ物を見ているのだろう。
ここで、ことりさんが校舎の裏側に来た俺と海未にあれを見て、と指を指す。
「あっ……高坂さん「穂乃果……」……」
俺と海未が口を開いたのはほぼ同時だった。
校舎の裏では高坂さんが一人でまだおぼつかないステップを練習していた。俺は彼女が一人で頑張っている姿に終始見入る。しかし、ここで足をもつれさせ、尻餅をつく。
「海未、行ってやれ……今の高坂さんにはお前が必要だ」
俺は反射的にそう言っていた。この事に対して海未は海渡……としか言わなかった。
俺の問いかけに応じてくれた海未は少しだけ俺の手を持ち、ありがとうございます、と囁いた。俺はお返しにと、にっこりと笑って、笑顔を返した。
「穂乃果……一人で練習しても意味はありません、やるなら……四人で、みんなでやりましょう……」
高坂さんは、差し出された海未の手を少し驚いたような表情で見つめ、やがて手を取り立ち上がると同時に、俺たちの名前を一人ずつ言っていく。
「海未ちゃん……ことりちゃん……海渡くん……本当に、一緒にやってくれるの……?」
「あたりまえですよ!昼飯の時間に支えるって言いましたから」
俺は自分の胸をとん、と叩き、自信満々に言う。
俺の言葉を聞いた瞬間、今まで浮かない表情をしていた高坂さんは笑顔を取り戻し、海未の手を持ったままジャンプし、そのまま海未へと抱きつく。
俺は今、改めて思った。今結成したばかりの小さなスクールアイドルを本気で支えて行きたいと……。
これは俺の思いこみかもしれないが、彼女たちなら廃校問題など、解決してしまうかもしれない。それどころか、全国にまで出て、もしかしたら世界に飛び立ってしまうかもしれない。
俺はそんな思いを胸に、アイドルのマネージャーになる事を決めたのだった。
やっとアニメ版の一話が終了か……
このままじゃ一期終了が五十六話になりそう……。
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