Nanoha×Fate/Grand Order = The Another Story = 作:No.20_Blaz
原作:Fate/Grand Order
タグ:アンチ・ヘイト 魔法少女リリカルなのは Fate/Grand Order 人選は作者の思いつき
そこで起こった一つの事件。
突如「時空管理局」を名乗る勢力により願望器「聖杯」が奪い去られ、管理を宣言させてしまう。
聖杯の力を知らない彼らが使えば、ふたたび歴史の改変。時代の崩壊が起こってしまう。
奪われた二つの聖杯を奪還するため、マスターである二人の青年と少女は彼らの本拠へと向かう。
望まぬ戦い、それが幼き少女に容赦なく伸し掛かってくると知らず…
性懲りもなくまた短編を作りました。
連載はしないと思うな(泣
主人公の青年についてはその場の思いつきです。
え、でもなんであんな名前かって?
…BLAZBLUE好きだからですよ、恥ずかしい
では。短編スタートです。
時折、夢を見る。
辛い夢。辛かった過去だ。
冷たい雪風に吹かれた中でたった一人。
小さな友と共に歩き続けた日々。
何日も何日も、歩き疲れたことも解らないぐらい歩いた。
やがて体力が尽き、死を覚悟した時
少女は
◇
暖炉で燃える薪が割れる音が響く。
暖かな温もりが漏れ出し、少女に適度な熱気を伝わらせる。
しかし本人はそれに気づかず温もりに釣られて眠りについており、規則正しい寝息を立てていた。
小さく、しかし確かな呼吸は見ているだけで安堵するものだ。年端も行かぬ彼女が少しまえまではこうした当たり前のことが出来るような状態ではなかったのだ。
呼吸は辛く、冷たい極寒の世界を歩き続けた日々。脳裏にはその過去が鮮明に思い出されていたようで、時折苦しむような声が漏れて不安にさせる。
だが。それもそろそろ終わりだろう。
寝息を立てていた少女は静かに目を開いた。
「ん……」
肌に暖かさを感じた少女、キャロ・ル・ルシエは眠りから覚めると枕代わりにしていたテーブルから顔を上げて周囲を見渡す。
今何時で、ココは何処で、何をしていたのか。あらゆる情報が彼女の頭の中と視界から入り状況を再認識させる。
「…寝ちゃってたんだ」
そして自分が寝ていたテーブルの上に広げられていた物を見て疲れて眠ってしまったのだと認識。自分が寝落ちしたことに恥ずかしさを感じながら、キャロは周りに物を落としていないかと確かめる。
幸いそれはなかったようで、それを確認して一息つくと自身の真横でバケットの中に眠る相棒の姿を捉え寝ぼけながらも小さく笑みを見せる。相棒であるドラゴンのフリードは先ほどの彼女同様に眠っており、寝息を立てていた。
「二人揃って寝ちゃったね…やれやれ…」
自分にあきれ返るキャロは苦笑しながらテーブルの上に散乱した物を片付ける。
古い紙や書物、自作のノート。そして宝石などが散らばっており紙や書物に書かれている文字は彼女が知る一般的な文字ではない。
宝石もただ観賞や売り物として置いているわけではない。
これら全ては彼女が勉学の為に使う大切な道具なのだ。
「む。起きたのか、マスター」
「あ、ライダーさん」
木製のドアが開き、そこから一人の男性が部屋に入ってくる。
キャロの事をマスターと呼び、彼女がライダーと呼ぶ彼はサーヴァントと呼ばれる使い魔の一種でその最上位に当たる。英雄が霊体となって限界、使役させる者達である世界の魔術師たちは彼らを「英霊」と呼ぶ。
ライダーもその一人で七つあるクラスの中で名の通り
しかし真名は知られてしまえば欠点になるので基本はこうしてクラスで呼ばれる。
「随分と寝ていたようだな。あまり寝ていないのか?」
「いや、ただちょっと夢中になっちゃって…」
「勉学に夢中になるのはいいが、身体は大事にするのだぞ。君はまだ幼いのだ」
「…はい、すみません」
少し子供と言われて不満もあったが、彼がそれだけ気に掛けてくれているのだと理解していたキャロは俯いて彼に謝罪する。実際はしっかりと寝ているほうではあるが自身にも非はあるとして素直に受け入れたのだ。
「しかし、それほどまで熱心になっているとは、なにを学んでいた?」
「色々と…強化とか転換。それを応用した宝石魔術。あとはルーンを少し…」
「ふむ…色々と手を伸ばすのはいいが一度に多くの物は学びにくいものだ。一つずつ確実にすることを薦めるぞ」
「はぁい…けどとり合えず強化はわかったので後はルーンですかね」
「ルーン魔術か。一体なにに?」
ライダーの問いにキャロは一冊の書物に目を通しつつ答える。
「調べていたら探索とか遠見とかがあったのであれば便利かなって…」
「なら専門のキャスターが居るだろう。アイツに聞けばいいではないか?」
「それなんですが…」
確かにライダーの言うとおりルーン魔術に深い知識を持つ
だが、その英霊には少し問題があり性格からしても教えられるようなものではないし、何よりも本人が「まだ早い」の一点張りで教えようとしないのだ。
「…て理由で、自分で一から学ぶ事にしたんです……」
「やれやれ、言いたい事も分かるが、おそらくは…」
自分から教えると言う事が向いていないと分かっているからこそ、そして単純に面倒であるということなのだろう。彼らの言うキャスターのサーヴァントはいわばその部類の人物なのだ。
「それより、他のみんなは?」
「ん。ああ…アーチャーとバーサーカーはまだだ。キャスターとアサシンは…」
「――呼んだか?」
ライダーの後ろから声がすると思い二人が振り返ると、そこには黒い外套を身に付ける青年が立っており、ただ一言そういうと室内へと入って行く。
キャロたちがアサシンと呼ぶサーヴァント。断頭台「ギロチン」を発明した人物シャルル=アンリ・サンソンだ。
「アサシンさん。ずっとココに?」
「まぁな。外はあまり出る気にはなれない。特に今は、な」
部屋に入ったアサシンは音を立てながら中を歩いて行くと、たった一つだけしかない安っぽい窓のほうへと向かっていく。外は暗く、すっかり夜になっているのが分かり彼は冷たくなった窓にそっと手を置く。
「
皮肉のような言い方で窓の外を眺める彼は『魔導師』と呼ばれる者達に嫌気があったのか溜息を吐き、本当は外を出歩きたいという本音を二人の前に曝け出した。
まるでキャロたちに言っているかのような台詞であったので真に受けた彼女は申し訳なさそうな表情でアサシンへと謝罪する。
「…ごめんなさい、アサシンさん。私が…」
「――君の気にすることじゃない。ことの発端は、寧ろ
「…そうだな。仮に切っ掛けが君としても、罪はないのは事実だ」
アサシンは彼女に悪気は無いと言い、ライダーもそれを補足するように言葉を付け加える。
しかし彼女は自身に責任を背負わせやすいタイプなのだろう、でもと台詞を付け加え自分にも責任があると言わんばかりの顔で俯いてしまう。
これには二人も手上げのようでライダーは頭を掻き、アサシンも「あのな…」と小声で呟いた。
が。彼らが言葉をかけようとした時。不運にもそれを途中から聞いた人物が姿を表す。
「あら。男二人が揃いも揃って少女を苛めてでもいるのかしら?」
「………。」
「キャスター…」
黒いローブを着たキャスターのサーヴァント。
先ほどキャロとライダーとの会話に出てきた人物とは別人で、彼女の
冷たい台詞と態度。しかし本心は心優しいというのがキャロの印象だ。
彼女にとっては他のサーヴァントとは関係の少し違う人物。
真名、神代の魔術師メディアその人だ。
「情けない。聖人と人情好きが聞いて厭きれるわね」
「いや、別にそういうわけでは…」
「僕はただ魔導師について愚痴を言っていただけで…」
「結構。女一人を男二人が囲って苛めてただけでも重罪よ」
「「………。」」
いやそういう訳ではないのだが、と言い訳したい二人だが、相手はキャスターのサーヴァントの中で最強と謳われる魔術師。しかも今この場で言えば確実に消されるのでそれ以上の事をとてもではないが言えなかった。
そんな事を言えるとしたら、それだけ自信があるのか優位な状況な場合くらいだ。
「あはははは…」
「…で。貴方は貴方で…ああ…ルーンと宝石魔術…」
一方で苦笑するキャロの近くに目を落とし、キャスターは彼女がさっきまで何をしていたのかと察し付く。本当は先ほどまで睡眠をとっていたのだが、その前に行っていたのがそのままだったのでキャスターにはそれを今まで行っていたのだと思わせてしまったのだ。
「…ま。別に問題は無いでしょうけど。宝石なんて無駄遣いになるだけだから余りお勧めはしないわよ。安物でも」
「う…」
「まぁ宝石だからな」
「値は馬鹿にならんということか」
キャロの学んでいる宝石魔術は宝石に魔力を込めることで使う魔術で、それを使い攻撃や牽制。異常状態の発生。回復など多岐に渡るが、デメリットとして宝石は使い捨てであり当然ながらコストは馬鹿にならない。安くても宝石。高ければ当然宝石だ。
そのため、基本キャロの扱う宝石は形状がバラバラであり殆どが自分たちが見つけたものなどを扱っている。また、ある所で商品として使えない宝石を安く譲り受けたものもあるが。
「前に宝石魔術を使う子もいたけれど、一番まずいのは弾切れよ。仮に使うとしても気休めか使うことを控えなさい。そんなので資金難になるなんて愚の骨頂よ」
「はーい…」
「知っているかのような言い方だなキャスター」
「実際、お金に困って守銭奴になったって話があるだけよ」
そう。どこかの世界に居る「あかいあくま」が、実際それで大騒ぎになったというのはザラだったらしい。
「確かに宝石は魔力を浸透させやすいし威力もあるわ。でも上位の魔術師であれば効果は薄れていく。強ければ強いほどね」
「………。」
冷静に正論を言うキャスターは少し誇らしげに言うが、ちらりと目を開けて見ると唇を強く締めて耐えている少女の姿が目に映り、思わず誇らしげに言っていた自分が恥ずかしくなった。
「…まぁ自衛程度なら過度の使用は控えなさい。あと、攻撃ではなく状態異常などのものが適しているわ」
「………!」
(返したな)
(うむ。やはり子供を虐めるのには気が進まないらしい)
(母親だな)
(ああ母親だ)
「そこの野郎二人。今すぐ消し炭になりたいのかしら」
そこに。
「おーマスター!!食料を調達してきたぞ!!」
「―――――!!」
突然窓が開き、そこから冷たい冷気と一緒に二人のサーヴァントが姿を現す。
一人はアーチャーのサーヴァントで大英雄と呼ばれた男、アーラシュ。
もう一人は巨体に髑髏の仮面をかぶる半裸姿のバーサーカー。ミノタウロスという別名を持つアステリオスだ。
しかも二人は気前よく食料の袋を持っておりをそれを見せびらかすようにしている。
後ろから冷たい冷気を容赦なく入れながら。
「ちょっと!そこの馬鹿二人!!食べ物はいいから普通に入ってきなさい!!寒いでしょうが!!!」
(サーヴァントに寒いとかあったか…?)
「お。すまんすまん。今日は大量だったんでな。思わずはしゃいでしまった」
「だからって窓から入るなって言ってるのよ!!!」
「――――?」
「ちょっとそこの牛。首傾げないで。牛鍋にするわよ」
「―――!?」
「い、一応人ですから!!」
キレるキャスターに頭を掻くアーチャー。そして鍋にされると怯えるバーサーカー。
それにため息をつくライダーと、気にせず窓を閉めるアサシン。
これが。彼らが、キャロの使役するサーヴァントたち。
彼女を守護し、共に戦う事を決めた英霊たちだ。
クセのある者たちが大多数を占めるが、それでも他の英霊には引けを取らない者ばかりで、特に彼女と個人的交友のあるキャスターは神代の魔術師というだけあってキャスタークラスの中でもトップクラスに位置する。
その所為あってか、今ではほぼ全員が彼女に敷かれる状態となっている。無論、マスターであるキャロも例外なく。
アーチャーはバーサーカーと共に獲って来た食料を置くと、何かを思い出し唐突に話題を切り替える。
「…そういえば、一つ思い出したぞ。マスターへの言伝を預かっているんだった」
「言伝…ですか?」
「………。」
「ああ。先ほど、
―――「道を見つけたのでこれから調査を行う。もし付いて来るなら、サーヴァントに伝えた場所に来るように」…だそうだ」
刹那。アーチャーの言葉に目を見張ったキャロは目の色と共に顔色も変える。
優しげに苦笑していた顔は真剣な眼差しになり、唇を強く引き締めて彼の言葉を受け止めた。
「…行くの?」
「………はい」
キャスターの問いに小さく頷くが、一瞬キャスターの纏う雰囲気が冷たいものになり、彼女の肌に細い針のように刺さっていく感覚を感じた。
本人は否定的なのだろうが、キャロにとってはどうしても退けない理由というのがあり、それが彼女を辛うじてその顔と精神を保たせていた。歳にもない強いまなざしは一直線に向き合い、逸れる事は決してない。
頑固というべきか、それとも我が儘か。
しばらくして、ひとつため息をつくとキャスターは一つだけと忠告のように告げた。
「ハッキリ言って。今の貴方の実力では到底敵わない相手はゴマンと居るわ。死にたくなければその線は見極めることね」
「――――はいッ!」
(………。)
「…何見てるの」
「いや…」
「別に…」
ほどなくしてこの会話を最後にキャロの陣営は移動を開始。
キャロは冷たい夜風の吹く中、少し暖かめの服装に着替え相棒を抱えて飛翔する。
夜の空に魔術師に抱えられた彼女は、認識を遮断する魔術によって反応はあるものの姿かたちまでは捉えられることはなく、難なく目的地へと向かっていく。
誰かが見つける。見つかるだろうと思いつつも、絶対に捕まりはしないという根拠もある。
興奮に近い感情に身を震わせながら、結局誤認か見つからなかったというお粗末な結果になったんだろうと、相手側のあとの事を考えながら言伝で言われた場所に向かうため先導するアーチャーに二人は付いて行く。
「そっか…もう冬なんですね」
今更と思う事を口にし、少女は強く吹き荒れた風に目を細めた。
◇
管理組織というのはどんな世界にも存在する。
とある世界では魔術に関する管理組織。そして神秘と呼ばれるものを管理しようとする組織。
例題として挙げられているそのような組織は大抵は理念が形骸化しているのがほとんどだ。
ただ宗教的なものであれば形骸化は少なく、本来の理念に近しい形は保てている。
この世界にも管理組織は存在するが、これを形骸化した組織か、そうでない組織かと言われれば誰もが迷わず後者であると答える。
時空管理局。
表向きは異世界として点在する次元世界の管理と統治、自治などを目的とした組織であるが実際それは名ばかりな事が多く、いざこざやきな臭い噂は後を絶たない。
一部の者たちが善意で行っていることも、対極にいる悪意を持つ者によってそれが打ち払われる。±ゼロだ。
しかし、現在ではそのマイナスが段々とプラスへと影響を及ぼし始め、善意を悪意に変化させている。
その一つとして掲げられているのが「各次元世界に点在するロストロギアの回収」。
聖遺物も例外ではない。
「暗い…はずなのに、月明りが」
「光が差し込む場があるな。地下と言っても間が小さいのか何かで抉れたかだろう」
指定された場として言われたのは古い地下道で、キャロたちが降り立った場所には僅かな月明りによって支える柱が見えている状態だった。
いくつかのレールが残っていることから元は列車か何かが通る場所だったのだろう。
「………くきゅ」
「あ。フリード、起きた?」
「きゅう…♪」
「…アーチャー。合流場所はここか?」
「いや。ここから少し歩いた先だ。すでに陣地を作って待っていると言っていた」
アサシンの問いにまだ歩くと答えたアーチャー。すると、ここが目的地だと思っていたのかキャスターが露骨に嫌そうな顔でぼやき始めた。
「あなた、ココじゃないのならなんで止まったのよ…」
「ん?ついてから鎧をまとうのは時間がかかるし焦ってしまう。ならば安全な場で態勢を整えるのが定石だと思うが」
「………。」
「まぁそんな顔をするなキャスター。本当に歩いてすぐなんだ。それくらいは歩けるだろ」
「…いいでしょう。ただし違ってたら覚悟なさい」
(なんでそんな事で蒸発されにゃならん…)
内心でキャスターの冗談に聞こえない言葉に汗を滲ませるアーチャーは得物である弓を持つと向かう方向を指さし移動しようと告げる。
ライダーはそれに合わせキャロを気遣い、彼女が手持ちの物を確認して遅れないようにと立ち止まっていた。
「マスター。疲れてないか?」
「はい。キャスターさんにつかまってたので特には」
「なら、あとは歩きで移動するぞ」
はい、と明るく答えたキャロはアーチャーとバーサーカーを先頭に合流ポイントへと向かい歩き始める。
だが数歩ほど歩いた途端、アーチャーは足を止めて薄暗い先を見つめた。
「………。」
「…アーチャーさん?」
「…心配するな。マスター、敵ではない」
アサシンたちも気付いたのだろう。
敵意はないと近づいて答えると、自分たちが向かおうとしていた方から現れた一人のサーヴァントに軽い話し方で切り出す。
「申し訳程度にでも来たのかしら?それとも笑いに?」
「ハッ、さてな。俺もマスターの指示受けて来ただけだ。笑うのはテメェがドジ踏んだ時ぐらいだよキャスター」
「…なら。私はあなたがバカをやった時に笑ってあげるわ
青い髪と水色のローブを纏い、ルーンの刻まれた杖を持つ男はメディアと同じくキャスターのクラスとして現界したサーヴァントで、真名はケルトの大英雄、クランの猛犬ことクー・フーリンだ。
キャロたちとは別の陣営のサーヴァントであるが、一応は同盟関係であり切れない理由もある彼らはこうして警戒心はあるものの敵意を向けないでいる。
「――ハッ。俺がバカやったのはキャスターとして現界したくらいだ。マスターに落ち度はねぇよ」
「随分と買ってるみたいね、彼を」
「おうよ。べっぴんなねーちゃんたちも居るし、気に食わねえ奴が居ないっていや嘘になるが、それでも文句はねぇさ」
楽しげに話すクー・フーリンに、同意するサーヴァントたちとマスター。
特にキャロは彼のマスターに恩もあるため、嫌いになる理由は彼女の中にはなく、むしろよく懐いている。
彼女がマスターとしていられるのも、実は彼のマスターのお陰。
更に言えば彼女の陣営のサーヴァントは元を辿れば向こうのマスターが召喚したサーヴァントたちを譲り受けた者たち。当然サーヴァントも同意の上でだ。
「―――で、あの人は…?」
「お。そうだった。ついて来な、ウチのマスターはこの先に陣を敷いてる」
「“陣地作成”か?」
「いや。簡易的な中継地点だよ」
ライダーの問いに答えると、彼は槍のように杖を両肩に乗せると元来た道を歩き始めた。
キャスターのクラススキル「陣地作成」は文字通り自分の「工房」をその地に作るスキルで、他のサーヴァントと違い防衛戦に特化したキャスターにとっては重要なものの一つだ。
当然、キャロのキャスターであるメディアもコレを所持し、彼女の場合は「工房」の上位である「神殿」を形成可能とし、本来の力以上を発揮できる。
今回、キャスターの陣地作成は行わず、彼曰くマスターたちが作った簡易的な結界だけの陣地という事で、そこがアーチャーの言った合流地点であるのには間違いないらしい。
「こっから”連中”の本拠地に殴りこむための下調べを始める算段だ。もう既にここ等の探知は始めてっけどな」
「随分と古いが、繋がっているのか」
「らしいぜ。昔、ココは交通の要所だったって話だ」
「なら、相手の本拠地に繋がるというのは確かだが…逆に相手にも考えられてないか?」
「考えてるだろうよ。だからさ。アイツらにとっては知っていても俺たちにとっては知らない場所だ。知る必要はある」
「それ、もしかして知ったら知ったで正面突破なんじゃ…」
「…まぁ、それも面白いわな」
ワリと本気で考えていたのだろうか。
一瞬キャスターの言葉が途切れたことに不安さを感じたキャロとアサシンはアイコンタクトで「大丈夫なのか」と互いに問いあっていた。
どちらもそれが分からないと見ると小さくため息を吐き、この先の事に一抹の不安を抱えたのだった。
十分と経たず、キャスターを先頭にキャロたちは目的地である合流ポイントに到着する。
そこは今までと同じく古い地下道であることには変わりないが、キャロは先ほどキャスターと出会った場所とは空気が違うことに気付き、周囲を見回した。
「…気配遮断の結界ですか?」
「範囲は狭いがな。お陰でウチはぎゅう詰めだ」
月明りが行く先を照らし、そこに立つ数人の人影に色を付ける。
黒いアーマーを着た、盾を持つ少女。
赤い外套をまとい、浅黒い肌と白髪が特徴の男。
烏帽子をかぶり、今はまだ非戦闘態勢だからか袴を着る少女。
紺色の陣羽織に一本の長刀を背に刺す男。
白拍子に緑の髪を伸ばし、白い龍の角を生やす少女。
そして、そんな中のんびりと猫のように睡眠を取ろうとしている猫耳メイド服の少女(?)
「人数オーバー…」
「言うな。今回は大盤振る舞いだ」
「あ、皆さん来てくださったんですね」
彼女たちの気配に気づいた盾を持った少女は白い髪を横に振るうとまだ幼げな色を残す笑顔で出迎える。七つある内のクラスのいずれにも属さないエクストラクラスのサーヴァント、「シールダー」のマシュだ。
「おう。そっちはどうだ、嬢ちゃん」
「今しがた、キャスターさんが放ってくれたルーンによる地形探索が終了し、ドクターが現在処理を行っています」
「なら、丁度よかったわけだ」
「かなり広いのか」
「はい。探知だけで十数分は」
「一応、確認はしているのですが中には崩落した場もあるようですね」
白い袴と黒い烏帽子をかぶった少女は高下駄を鳴らしながらも冷静に探知で判明したことをライダーたちに伝える。
彼女も同じくライダーのクラスで真名は牛若丸。平安の天才武将その人だ。
「そこまでは調べることはできなかったの?」
「…まぁ貴方ほどの術師ならあるいは…ですが、向こうにも気付かれる可能性もあるので迂闊に魔術を行使するのもどうかと思い、今回は止めた次第です」
「向こうも魔術の類を使う相手です。探知されるとこちらも動きを制限されると思ったので、あとは移動で埋めていくことにしました」
「…回りくどいわね」
「そう言うな、キャスター。お前ほどなら造作ないが、我らには限界はある」
「…オイ。それって俺がヘボっちぃってことか!?」
「め、メディアさんがオーバースペックなだけです、キャスターさん!!」
クラスの被るサーヴァントが多い彼らは、普段同一がなければクラスで呼び合うが同一クラスが居る場合はよく真名で呼び合う事が多く、またあだ名のようなもので呼ばれることもある。
キャロやマシュ達はメディアとクー・フーリンをそれぞれ真名とクラスで呼び合ったりして使い分けているのがその例だ。
「そう言うなクランの猛犬。そこの女狐めが規格外なのは仕方のない事よ」
「………貴方が私の配下なら、また前のようにアバラを抉ってたのだけど…次言ったらただでは済まさないわ」
「それは残念だ」
長髪を揺らし笑みを見せるアサシンこと佐々木小次郎は以前メディアの下に居たということで、彼女がキャロの陣営に入ったのに清々したようで時折いやがらせのように余計な事を言う。
しかし、結果として後で魔力弾だったり弾幕だったりホーミングだったりを食らうのはお約束になっていたりする。
「…やれやれ。相変わらず、個性豊かだな」
「そりゃあ、元は皆人間なんだし…ね?」
「―――
「うむ。それは君が恐ろしく「アーラシュさん、燃やしますよ?」………。」
浅黒い肌のサーヴァント、アーチャーはため息交じりに彼らが騒ぐ方を見つめ、隣で作戦の説明と確認を行っていたマスターに話を振る。
彼の隣に居る黒い髪に先が少しだけ白くなった青年、
そんな彼こそ、マシュやクー・フーリン、牛若丸たちのマスターであり白拍子を着たサーヴァントである清姫のマスターでもあった。
ちなみに清姫もアステリオスと同じくバーサーカーのクラスだ。
「蒼夜さん。声をかけて下さって、ありがとう御座います」
「ああ。ゴメンなキャロ。こんな時間に呼び出して…」
「いいんですよ。私もカルデアの皆さんには助けて下さった恩もありますし…」
「………。」
「素直に受け取りたまえ。彼女は純粋なんだ」
「………ああ」
「………まだ引きずってるのか。キャロをマスターにしたことに」
「――のようです。時折、あの人は一人でお泣きになったりしますから」
シャルルと清姫が彼らが丁度聞こえない距離でささやく声で蒼夜の様子を聞き、清姫は心配そうに答える。
キャロをマスターに推薦したのは他でもない彼だが、それが今、彼の背負っている自責でもあった。
幼い子をマスターに仕立て上げた。それだけで、真面目な彼にとっては罪となりえるもので、彼女が気にしていないと言えば、それが逆に彼を締め付けるものになる。
人類継続保障機関「カルデア」
メソポタミアに実在する地域と同名の名を持つこの機関は文字通り人類の継続を主な任務とした組織であり、秘匿義務の強い魔術師たちの中では例外に近い国連にその存在が知られており、更に承諾なども受けている。
その任務、「人類の継続」は今も続いているが現在は同時並行という形で執り行われており、彼らはそれよりも優先してもう一つの任務に総力を挙げていた。
「時空管理局によって奪われた聖杯の奪還」
これが彼らが今置かれている状況であり任務だ。
ロストロギアとして強制認定され強奪された願望器「聖杯」の奪還。
既に開放された小型聖杯四つの内、半分が彼ら管理局に強奪され、残る半分は辛うじてマスターである蒼夜率いるサーヴァントたちによって守られ現在もカルデアに残っている。
万能の願望器である聖杯の能力を知ってか否か。もし悪用されればそれこそ人類継続の危機に瀕する。
聖杯によって起こった歴史改変。そしてそれによって巻き起こった「聖杯戦争」。
もし彼らがそれ以上の事に利用すれば二次災害だけでなく三次四次と連鎖的に起こる可能性だってある。
万能であるが故に、人はそれを手に入れようと争うのだ。
(…そう。そして、こんな事に…聖杯戦争になってしまったのは…)
偶然の出来事だった。
かつて共に暮らしていた部族から追われたキャロは一人吹雪の中を放浪し、その生命を絶たれようとしていた。
しかし、彼女が逃げ込んだ洞穴に魔法陣があったことからキャロはそれによって転移され、蒼夜たちのいるカルデアに跳ばされた。
彼らのお陰で助かった命。
人とのぬくもり。親しき人たち。
付いて来てくれるサーヴァントたち。
しかしこれがその代価だったのかもしれない。
彼らが歴史の修正を行う切っ掛けとなった大事件。それによって多くの人員が命を落としカルデアもスタッフは数えるほどになっていた。
そこにキャロの知る世界から突如管理局が来襲。更に強引に聖杯を回収すると言い出し、強奪を行い始めた。
奇襲ともいえる事態にカルデア側は対応が出遅れてしまい四つある聖杯の半分が彼らの手に。残りを死守し最悪のケースは免れた。
だが聖杯はあらゆる人の願望を叶えることができる夢の結晶。
使うものには必ずと言っていいほど私欲などに悪用するものもいるだろう。
そんな事が起きる前に、彼らは聖杯を奪還しなければならない。
「………。」
「今のところ反応はなし。順調ですね」
「わからんぞ。向こうも気配を隠している可能性もあるからな」
「相手は魔導師を名乗っている。気は引き締めろ」
地下道の中を移動する彼らはルーンで調べた道を迷わずに選び、確実に管理局の本拠へと歩を進めていた。
先頭はシールダ―であるマシュとアーチャー。そしてアステリオスの三人。その後方をバックアップにライダー二人とクー・フーリンことキャスター。アサシン二人も同列を歩いている。
そして後方にマスターである蒼夜とキャロ、清姫とメディアとアーラシュが居る。
「…マスター。腹でも減ったか?」
「えっ!?あ、いや別に…」
「きゅう…?」
「あ…」
アーラシュの問いに慌てて答えるキャロは本音と嘘が混じった頭の中で本当は少し減っているのにと思いつつ彼に言葉を返すが、今までそんな感じではなかった事がバレてしまったのか抱きかかえるフリードが「本当に?」と問うかのように頭を上げていた。
鎌をかけられたキャロは自分の先ほどまでの状態にようやく理解し、申し訳ないように俯くとアーラシュから目を離した。
「……ごめんなさい」
「そう気負いするな。どの道、いずれは起きたかもしれない事なんだ。それが今になっただけ。過去の出来事は変えられんからな」
「…でも、その所為で」
「いつまでもネチネチと過去をぶり返さないで。みっともないわよ」
「………。」
「し、辛辣だなメディアさん…」
「前向きなお方ですからね」
「すみません…」
「起こってしまったのなら、それをどう対処するかを考えなさい。何時までも過去の事を気にするのは情けなくて見てられないわ」
「………。」
(…アーラシュさん)
(うん?)
(何時もメディアさんはああして厳しく接しているのですか?)
(…まぁ、一人でいる時以外はな)
メディアが普段一人で居ることは極めて少ない。
キャロの立場のこともあれば周囲の人間関係もその一つだ。
特にキャロに対しては初見以来ずっと冷たい態度を取り続けており、キャロも彼女の前では気が気でないほど背筋を伸ばしている。
仲間内であっても気が休めない、キャスターことメディアはそうして今までキャロと接していたのだ。
(しかし、あれはまるで…)
清姫が思い更けて内心で呟こうとした時、先頭を歩いていたアーチャーたちが歩を止め、連鎖的に後ろのマスターたちも歩みを止める。
「ッ………アーチャー?」
「………。」
「ど、どうかしたんですか?」
「ん…これは…」
「マスター。下がっていろ―――――――――敵だ」
刹那。アーチャーの警告に蒼夜とキャロは反応し、それぞれ応戦の構えを取る。
魔術回路を起動。直接的な戦闘はできなくても、蒼夜は自身の体に強化を施し格闘戦は辛うじて行える程度に。
キャロはルーンはまだ未熟なため、宝石と相棒のフリードとの連携。更にはサーヴァントたちに用いる能力強化を自身に付与することができる。彼女の場合は対魔力と物理防御だ。
他のサーヴァントたちも同じく臨戦態勢に入り、先頭にたつマシュは自身の武器であるシールドを構え、アステリオスは二本の巨大な斧を持つ。
牛若丸は袴から白装束のような姿になり、アーチャーは投影魔術を使い自身の得物である夫婦剣を投影する。
直ぐにでも応戦が可能になる彼らは、未だ見えない相手に目を利かせてどこに居るのかと周囲を見渡す。
暗い個所が多々あるので英霊でも見えにくい場所は存在する。
そんなところを特に警戒しつつ、彼らはどこから来るかわからない敵に強く警戒していた。
「………。」
「………。」
「きゅう…」
「フォウ…」
「―――フォウさんは下がっててください。巻き込まれたら危険です」
「ンキュ…」
「―――――――――――来る」
刹那。彼らの眼前は桃色の輝きに包まれる。
「ッ!!!」
「先輩ッ!!!」
「ちいっ!!」
「総員散開ッ!!!」
彼らのいた場所へと降り注いだ輝きは爆発と共に辺りに濃い魔力を散布する。
魔力の塊、集束体による攻撃だ。
しかし、その攻撃はそれぞれ回避と防御により難なく防がれキャロたちの陣営が受けたダメージはなく、全員が無傷だった。
「今の攻撃は…!」
「やれやれ。挨拶にしてはちと激しいな」
柱の陰に隠れるシャルルと小次郎は次の攻撃が来ると想定し直ぐに応戦と回避を頭の中で組み上げる。その場の思いつきで動けば確実に負ける相手だと彼らは
「主殿、怪我は?」
「ない。マシュが守ってくれた」
「ついでに私も」
「…なんで清姫さんが後ろに居たかは聞きませんが…応戦します!」
マシュの盾に守られた二人は直ぐに散開。清姫とマシュを連れて蒼夜は迂回しつつ前に。牛若丸は軽快な動きで柱を蹴って攪乱する。
一方で微動もしなかったメディアは魔力の盾を使いキャロと自分たちの身を完全に守り切ると、思い当たる人物が居るのか、ため息を吐いて独り言を言い始めた。
その隣にはキャロがフリードと共にしゃがんで防御姿勢を取っていたがメディアの防御に気付くと彼女に礼を言う。
「全く…相変わらずコレしか能がないのね。いい加減力押しで勝てる相手とは思わないでほしいわ」
「あ、ありがとう御座いますキャスターさん…」
「礼なら後よ。今はそこに寝てるあなたの龍を起こしなさい」
「え?あ、フリード!?」
「きゅう…」
「フォウ…」
「にしても…今回は随分な自信ね」
「まったくだ…今回は
続き、今度は黄色の魔力弾が複数。
それぞれホーミングされて来ると、今度はメディアよりも先にキャロが動きを起こす。
手に持つ宝石とそれを用いる魔術を使う時だ。
「行けッ!!」
ランダムに選んだ宝石三つを上へと投げる。
既に魔力は籠められ、何に使うかは決まっている。
ホーミングする魔力弾。その前に置くように投げると宝石は音と共に弾けた。
魔力によって生成されたホーミング弾は術者が直接誘導させるタイプと熱源や魔力を正確に追い続けるタイプの二つがある。
術者自身が行えば相手に被弾する確率は高くなるが、反面本人の意識がそちらに向いてしまうため無防備になってしまう。
逆に自動タイプは予め何を、どれだけ。どこに狙うかなどをセットして使うとあとはスフィアの方が自動的に相手を追撃する。しかしこちらは直接操作しないため、障害に阻まれるとそこで終わってしまう。
今回放たれたのは自動タイプ。
なれば対応は極めて容易だ。
相手を見る目がなく、魔力だけを頼りに追うのなら、それを作って囮にするだけ。
「ッ…!」
「フレアタイプの…!」
「ほう。宝石魔術でか」
宝石がフレアの代わりになり、ホーミングするスフィアを集める。
魔力を頼りに追うスフィアはそちらに向かって追撃してしまい、次々と自壊。または追突し自爆してしまう。
サーヴァントたちを狙うはずだったスフィアはたった三つの宝石によって全て破壊された。
「見事だけど、あれなら一つか二つで十分よ。次からは調節しなさい」
「は、はい…!」
互いに無傷で終わった前哨戦に、そろそろ良いだろうとアーチャーと蒼夜。そしてマシュと清姫が前に出る。
近くにはアステリオスやゲオルギウス、牛若丸そして佐々木小次郎も居た。
「………さて。無駄な射撃戦はここまでにして、そろそろ姿を見せたらどうだ?互いに知らないわけでもあるまい」
アーチャーは攻撃が行われた闇の先に言い放ち、余裕な表情で返事を待つ。
隣に立つマシュは警戒して盾を構えており、彼とは対照的な様子で身構えていた。
それ以上にキャスターであるからか、クー・フーリンは杖を肩に乗せてのんびりと柱に背を預けている。
強者の余裕なのか、それとも。
ただ待っていただけだろう。
彼の声に対する返事としてか、帰って来たのは二つの足音だった。
「ようやく、だな」
「ああ。一体何の策があるのかは分からんが…」
―――考えなしに来る相手でもあるまい。
無知である理由でもなく、博識であるわけでもない。
人並みの知識を持ち、人並みの感情を持つ。
ただ少し、「人」というものが抜け落ちてしまっているだけだ。
「以前は堂々奇襲でしたのに、今度は随分と大胆ですね」
「………。」
(さて。進歩なしか、それともな…)
「ふむ。力の差は歴然。なのに仕掛けてくるには…意味があるか」
「…だろうな。僕たちを相手にとなると」
「………。」
「腹を決めなさい。でなければ…」
「…分かっています」
二人の女性。
しかしその顔だちは幼く、彼女たちが所謂「歴戦の魔導師」であるとは到底思えない。
ただ優しい、人に対する思いやりを知っているという哀れみの表情だけが月明りに照らされている。
栗色の髪の方は覚悟はあると言いながらもその顔は怯える動物。
そして、もう一人のブロンドの髪を靡かせる方は悲しい顔でただ一人の少女を見つめていた。
神代の魔術師の隣に立つ一人の少女、キャロに対し彼女は独り言のようにつぶやいた。
「……キャロ……」
「……フェイトさん……」
彼らよりも先に、自分の事を助けてくれる。そう約束した筈の人。
なのに、今はこうして、敵として、対峙しているのは何故だろう。
これが運命の悪戯とでも言うのだろうか。
「………。」
「………。」
互いに言葉を詰まらせ、どちらが先に口を開くかと待ち望む。
だがそうしていれば延々とこの沈黙が続いてしまう。
どちらかが切り口を入れなければ、話は切り出されない。
私が言うべきだ。私が後であるべきだ。
そうした二人の優しさが、喉の奥まで差し掛かっている言葉をせき止めてしまう。
沈黙の中、我慢が途切れたのか女性のほうから口を開き、勇気を振り絞り声を絞り出す。
「―――お願い…キャロ。こっちに来て…」
「ッ…」
天使の誘惑かと思える一言がフェイトと呼ばれた女性の口から放たれる。
彼女に裏の目的はなく、ただ純粋にキャロの事を憂い思っての一言。それは、彼女の表情と言葉から容易に分かってしまう。
彼女はキャロとの戦いを望んでいない。できる事なら互いに無傷でありたい。
願っていた事は彼女への安堵と自責による償い。そして助けたいという思いだった。
しかし。
―――そんなことは分かっている。
キャロも戦いを望まないし、できる事なら彼女とは戦いたくないと思っている。
だが彼女にも恩に報いるという気はあり、その為に敵対しなければいけないという覚悟もある。
なにより。聖杯を野放しにしてはいけないと、強迫観念のような使命感が彼女の背を押す。
優しさと覚悟。
約束と決意。
交差する二つの意志が、キャロに迫り答えを決めろと脅すように急かせる。
「私が悪かった…ただそれだけ…なのに、どうして…貴方が敵にならなくちゃいけないの」
「それ、は…」
「脅されてないっていうのは分かる。けど、貴方が前に立つ必要なんて…!」
「―――。」
居る必要なんてない。
そうとは言わせない。
言葉を止める一本の矢が、フェイトの前に突き刺さる。
奇襲にも近い攻撃に驚いたのか、見開いた目で数歩後ろに下がると誰が打ったのかと辺りを見回す。
矢での攻撃ができる人間など彼らの中にはそうはいない。
自分でそう言い表すかのように、アーチャーは小さな音を立てて和弓を下した。
「ッ…!?」
「アーチャーさん…!?」
「………。」
「…私も、本当はこんなことをしたくはいなのだがね。だが、それでは彼が何も言えなくなってしまう。彼女のためにも、そして君のためにも」
「――どういう意味ですか」
「………。」
静かに目を閉じ、二歩ほと後ろに下がると今度はマシュと清姫と共に蒼夜が前に立つ。
白い制服を着た青年。以前フェイトも顔を見たことがあり、彼がマスターであると知ったときは驚きを隠せなかった。
しかし今そんなことは関係ない。
何故、話に割って入ったのか。彼女はそれが聞きたかったのだ。
「――貴方は、キャロの覚悟を否定するのですか」
「………。」
「誰よりも苦しい彼女が、必死になって見つけた覚悟を。その決意を貴方は否定するんですか」
「それは…違う、私はただ――」
「子供が前に立つべきではない?それなら貴方たちはどうなんですか」
「ッ………」
とある老人から聞いた話だ。
かつて彼女たちは幼いながらも二つの大事件を解決し、それによって今の地位と居場所を手に入れている。
歳は差ほど変わらないはずだ。
「自分も子供だからといって前に立って戦ってはいけない。では貴方たちは?
それを実際に行った貴方たちが前に出てはいけないと否定するんですか」
「――それは…」
言葉を詰まらせるフェイトは目をそらし、必死に自分の言い分と言い訳をまとめて彼に言い返そうとする。だが、場の空気か思うように纏まらず彼女の頭の中は白紙に近いものになっていた。
ただ、隣に立つ女性はそうではないようだ。
「言いたい事は分かるよ。君の言いたい事が、キャロの思いを否定しちゃうことだって」
「………。」
「エース様か」
「名は…高町、だったか」
「あの砲撃の娘か」
クー・フーリンが動き出した彼女に興味を示し、シャルルは手を顎に当てて彼女の名を思い出す。ゲオルギウスは覚えていたようで、ほかの面々にも聞こえる音量で彼女の名を口にした。
エース・オブ・エース。空戦魔導師のトップのひとり。高町なのは。
その彼女も、ようやく沈黙を破り口を開いた。
「―――本音言うとさ。私だってキャロが前に立つのは気が引けるよ。
けどね。私は否定しない。それが彼女の決心だって言うなら…私はキャロの考えを尊重する」
「なのは…!?」
「なら…!」
「でも。フェイトちゃんが言いたいのは、多分「彼女自身に戦う力がない」って事だと思う」
断言して言う自分の思い。彼女への考え。
なのはの言葉にマシュもそれは正論であると受け入れてしまう。
彼女自身が持つ戦闘能力は事実限りなく低い。
それを宝石魔術とルーン、そして元より持ち合わせていた魔法で補っているだけで身体的には一般の子供とさほど変化はないはずだ。
「戦う力の無い子が前に立つ。それが…彼女には引っかかってただけだって…」
「なら、あなたはどうなの?」
メディアは返す。
なら身体的に能力が並みかそれ以下の自分たちはどうなのかと。
恐らくなのはの言いたい事は身体的な話で、それはキャロだけではない。物理的な戦闘能力が低いメディアや清姫。そしてなのは自身にとっても言える事ではないかと。
「…それは…」
「他人の事を非難するなら、自分にも飛び火しない事を言いなさい。それでは…「私は弱いです」と言っているようなものよ?」
「ッ―――」
「マスター…いえ、キャロ。これ以上は時間の無駄よ」
「え、でもキャスターさ―――」
「貴方はあっちに付きたいの?」
「……オイオイそりゃ…」
「言い過ぎだぞ、キャスター…」
「――どうかしらね」
「言うにしても言葉を選ぶがいい女狐。主なりにも苦労はしているのだ。だが…」
「話すだけ無駄ってのは同意だな」
言い過ぎではないかと言う彼らも、話は時間の無駄であると断言する。
フェイトの言葉が嘘であると思っているからではない。その純真さを利用して誰かが何かを行うかもしれない。
そして、蒼夜の言葉通り話していてもキャロの決意は揺らがないはず。
杖を振るい、ルーンを手に出現させるクー・フーリン。
静かに長刀を抜き、地面すれすれに構える佐々木小次郎。
彼女たちの説得を打ち切らせたメディアは複数の魔法陣を周囲に展開し攻撃の用意をする。
これ以上の説得は不可能となった。
「決意も覚悟も足りん…そんなことでは、君たちは生き抜けはしない」
「………それでも…!」
「…行くぞ。”正義の味方”」
「久しぶりの…魔術戦と行きましょうか」
「ッ…!!」
全ては一人の少女から始まった。
聖杯を探索する。
時代の修正、歴史をあるべき姿に戻す戦い。
それは今は叶わぬ事。
聖杯は奪われ、それが新たな火種となる。
時代の英雄たち。現在の英雄と呼ばれた者たちによる戦い。
――――さぁ。聖杯戦争を始めよう。
「シールダ―、マシュ・キリエライト……行きますッ!」
「高町なのは…行きますッ!」
後書きという名のおまけ。
各陣営と主人公(男)、キャロとかを紹介。
ちなみに括弧の中が真名です。
蒼夜
Fate/GOでの男主人公。
設定等は基本ゲーム通りだが変更点として髪の先端が少し白く、これは魔術の無理な使用と魔術回路の無理矢理な開放が原因。だがこれによって「強化」と「投影」の二つを可能としており、牽制程度だが一応戦う事はできる。
ただ投影に至ってはまだ形すらままならないようでアーチャーから止められている。
相棒は基本マシュだが、清姫も居るためダブルに…
蒼夜陣営所属のサーヴァント
シールダ―(マシュ)
陣営の中では古参(そんなに経ってないけど)。
守りの要で蒼夜と行動を共にする。
またマスターである彼が無防備なため彼の防御も担当。
アーチャー(エミヤ)
最近入って来た人。オカン。
だがミッドに入ってからは妙に冷たく現実主義を強くしている。
赤い外套は目印程度で一応再臨は一回目。烈火の将とは変な関係…
キャスター(クー・フーリン)
冬木の聖杯戦争後に加わった兄貴。
最近では出番がないので詰まんなさそうにしていたが漸くの出陣として喜んでる。
時折釣り出かけて六課のメンバーとばったり遭遇したり…
ライダー(牛若丸)
冬木の聖杯戦争時に召喚されたサーヴァント。
マシュとは仲が良い。普段着はオリジナルで白い袴を着用。
ちなみに化粧を取れば普通に可愛いらしい(マシュ談)
バーサーカー(清姫)
ご存じ日本最古のヤンデレ。
だが蒼夜に好意を持っているのは本当で彼も素直にそれを受け入れている。
基本彼と共に行動する。マシュたちとはそこそこ仲がいい。
アサシン(佐々木小次郎)
我らがドラゴンスレイヤー。
セプテムでレジェンド刻むわオルレアンで無双するわ、オケアノスでハンティングするわ…ちなみに霊器再臨が三回目な為はだけて色々と弾けた。
バーサーカー(タマモキャット)
寝てただけだが一応重要戦力。
一応家事とかは得意だが意思疎通には相当苦労する。
ちなみに戦闘ではやたらと暴れまわり味方陣営にも被害が及ぶ(特に兄貴とオカンに)
キャロ・ル・ルシエ
作品でのキーキャラ。
基本原作と同じだが、自主学習で魔術の心得を習得中。違いとして左手に甲の所に宝石がついた指ぬきグローブを付けている。製作者はメディアさん。
使える魔術はルーンと宝石魔術。ただしルーンは探索や遠見などだけで宝石魔術も数は限られている。強化魔術も可能で応用してフリードとのコンビアタックを行う。
一応Strikers編が始まっている時なので六課には所属せずカルデアの嘱託魔術師として登録されている。
令呪は竜の頭に似たデザインで角、目、骨格の順で消費される。
キャロ陣営所属のサーヴァント
キャスター(メディア)
ご存じ神代の若奥様。宗一郎の事は覚えているらしく、時折思いに耽ったり…
形式上キャロの魔術の先生だが本人はその気なし。ただこれには理由がある模様。
また彼女には何かと厳しく接しており、小次郎やアーチャーは影で微笑ましく…おや、どうしたんですか奥様。そんなキレた顔で…あ、二人が吹っ飛ばされた。
ライダー(ゲオルギウス)
ダンd…ではなく聖ジョージこと聖人さま。
キャロの事を気にかけており、アーラシュからは「親のよう」と言われている。
文武両道な為、宝具なしでも結構六課と張り合う人。まぁ硬いですから。
アサシン(シャルル・アンリ・サンソン)
思春期ギロチン野郎(奥様談)。
ただ、それでも医療スキルを持っているので貴重な治療回復担当。
医学にも精通しているため何かと重宝されているので前線には滅多に出ない。
アーチャー(アーラシュ)
自爆担当とか言われているため、キャロに令呪で宝具使用禁止を言い渡されている。
それでも援護、狙撃に特化しているのでそれに従事する。
ちなみに普段はアステリオスと狩りに行ったりしている。
バーサーカー(アステリオス)
辛うじて意思疎通が可能な子。ミノタウロスその人でレッテルの所為か牛型の仮面をつけており、外すのは睡眠か日常のみ。
戦闘や陣営での移動時はキャロを運んでいるため仲が良い。
作中経歴。
キャロ、集落から追い出される→
フェイトと邂逅。この時に引き取ると約束する→
雪の中を遭難して避難した洞穴の中にあった魔法陣によってカルデアに転移される。理由は不明→
その後しばらくはカルデアで過ごす(魔術の勉強などはこの時から)また仮ではあったが今の陣営を選んだ(※この時にハロウィンイベント発生)→
数週間経過。突如、管理局が急襲し聖杯を強奪。カルデア側はサーヴァントをメインに迎撃。キャロがフェイトと再会する→
カルデア、聖杯奪還を開始。キャロの協力でミッドチルダに転移される→
カルデアと管理局による聖杯争奪戦「聖杯戦争」が開戦する。←現在。